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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 六章 演目【九月一日】 (前編)
45/79

1.6.7

 ◇   ◇   ◇

 十四時 A区画北 某通り


「いい? アキ、喜代さん。我が便利屋の総力をあげて探し出すのよ! そして、何か気付いたら直ぐに知らせて頂戴! いち早くメモを取って、次に描く漫画のネタに昇華して……」

「最後だけ余計だよ姉さん」


 A区画北側の通りを歩く便利屋『アサカ』の三人――春乃、光秋、喜代は、午前に引き続き依頼解決に向けて動いていた。しかし、すずのねを出てから一時間程になるが、未だ進展はなかった。


「まぁ、総力ではないけどな」


 春乃と光秋が話しているその横で、喜代が苛立った様子で呟く。

 彼女の鋭い眼光が、明らかに周囲を歩く人々に距離を取らせていた。


「喜代さん、落ち着いて。ね? 落ち着きましょうよ。目が怖いんで。ほら、一旦深呼吸しましょう。笑顔笑顔。心を平穏に。ね?」


 すかさずフォローを入れる光秋だが、彼女の気持ちも分からなくはなかった。

 便利屋の一人――桜井悠介。四人からなる便利屋が今三人しかいないのは、その男が単独行動をしているからに他ならない。連絡も繋がらず、一体どこで何をしているというのか。


「まぁ、悠介さんの事はほっといて、僕らはやる事やりましょう」

「……それもそうだな。いや、すまない。でも、この調子だと、今日中には見つけられないかもしれないな。その辺のことは依頼人に相談しなくていいの?」


 確かにこの状況が続くなら日を跨ぐ可能性はあり得る。が、光秋もその辺りは考えていた。


「それなんですけどね。依頼人の千条さんが言うには、どうやら今日一日で無理に解決しなくても良いらしく。急ぎの用でもないので、状況が変わり次第向こうから連絡を頂けるみたいです」


 本日午前に依頼を持ってきた千条千尋という女性。その彼女の話をまとめると――

 どうやら愛人との金銭トラブルがあったようで、その相手が二人の共通口座から現金を下ろして逃亡したのだそうだ。千条としては事を大きくしたくない想いがあり、警察には連絡してようなのだが、上手く解決出来ないかと色々調べていたところに、便利屋の存在を知ったとの事だった。

 手掛かりになる情報としては、千条から差し出された写真があり、そこにはアタッシュケースを握る男性が、舞識島に渡るフェリーに乗船する瞬間が映し出されていた。

 千条からこの説明があった後、便利屋は、その男とアタッシュケースを見つけるという依頼を引き受ける事になった。ただ、依頼をこなす上で、二人のトラブル自体には深く首を突っ込まない方が良いと考え、必要以上に気にせずにいたのだが――光秋には一つだけ引っ掛かる事があった。


「この写真、どうやって撮ったんだろうな……。それだけがずっと気になってるんですよね」


 千条から渡された写真をマジマジと見つめる光秋。その写真は、舞識島に渡るフェリーに乗船する姿を遠方から撮ったモノのようなのだが、何故この時に乗船する事が分かったのかが謎であった。

 気にしすぎだろうか。不安そうな顔している光秋の横で、春乃が得意げな表情で言う。


「もぉー、アキは昔っから心配性よね。もうちょっと思い切り良く、勢いに身を任せなさいよ! ほら大丈夫だって! 何だかんだ今まで何とかなってたじゃない!」

「姉さんがそんなんだから不安なんだよ……。それに何とかしてたのは大体僕じゃないか……」


 便利屋所長の肩書を持つ春乃だが、いつもこの調子の為、事実上便利屋の命運は光秋の腕に掛かっている。その無駄にのしかかってくるプレッシャーに加え、こんな姉と、怒りで爆発しそうな喜代の間を歩かされている現状は、光秋にとっては胃がはち切れそうな想いだった。


「誰かなんとかしてくれよこれ……」


 と、光秋が小さく呟いたその時、彼のポケットのスマホから着信音が鳴り、三人は足を止めた。


「ん、誰? 依頼主?」

「いえ、違いますね。えっと……あ、如月君からです」


 光秋がスマホの画面を確認すると、そこには昼にすずのねで一緒にいた少年の名があった。

 如月慎。その彼からビデオ通話で着信が来ており、光秋は通話ボタンを押した。


『あ、繋がった。お仕事お疲れ様です。光秋さん』

「やぁ、さっきぶりだね。どうかした? 柳君の姿が見えないけど」

『和馬とはついさっき別れて、今は家に帰ってる途中です。……それで、光秋さん達が探してるっていうアタッシュケースの事でお話がありまして』


 昼に一緒になった際に、慎には自分達の目的を伝えている。人手が足りないため協力をお願いしていたのだが、さっそく何か情報が入って来たのかと期待して、横から喜代が割って入る。


「お、なんだよ慎。何か目ぼしい情報でもあったか?」

『……えぇっと、はい。情報というか……現物らしきものが今ここにあるんですが』

「え?」

『これ、もしかして探してるやつじゃないです?』


 そう言うと慎は、ビデオ通話越しに小さいアタッシュケースを見せた。それはまさしく、写真に映っていた物と同じケースであった。それを見て、思わず光秋が声を上げる。


「ええぇぇぇぇぇ‼ え、何で⁉ いや、違う違う! どこでそれを?」


 手掛かりになる情報どころか、いきなりゴールに辿りついたのは流石に予想外だった。


『それが……ちょっと妙なコインロッカーがあって。興味本位で開けたらあったというか……』

「???」

『すみません。ちょっと説明しづらいので、一旦合流した方がいいですか?』

「そ、そうだね。……とりあえずそうしようか。えっと、場所は……」


 待ち合わせ場所を決めようと、光秋は慎の現在地を画面越しに確認するのだが――

 その時、慎の背後から、彼に向かって歩いてくる異様な集団が目に入った。その集団は十数名からなる大人の一団で、どこか一体感があるのだが、街の不良グループには見えなかった。その先頭に立つ男が慎のもとまでやってくる。


『おい、そこのガキ』

『え?』

『そのケースを寄越せ。抵抗したら殺すぞ』

『え、ちょっと何を……うわっ!』


 大人たちが、慎の腕を掴んでいる様子が少し見え、慎の悲鳴を最後に通話を切れてしまった。


「おい、慎どうした!」


 明らかにただ事じゃない状況だった。慎の身に何かが起きている。様子を見るに、あの集団もアタッシュケースを狙っているのは確かだろうが、一体何者なのか。


「考えるのは後よ。とにかく今は慎君のところに向かわないと」


 春乃も珍しく冷静な意見を口にし、喜代と光秋もそれに頷く。通話越しに見えた慎の背景から、その居場所は確認できている。光秋は足向きを変え、その目指すべき場所を口にした。


「うん、急ごう。……多分、場所は南のバス停広場だ」


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