1.6.4
◇ ◇ ◇
俺が『持ってない』人間なんて分かっていた事だ。あぁ、最初から分かっていたじゃないか。
演劇をやってた頃からずっとそうだ。主演を演じる奴らと俺とでは明らかに何かが違う。超えられない壁があるって。
俺は、舞台袖からステージ上で輝く奴らを見てるのがせいぜいで……そう、脇役なんだ。
そんな自分が惨めに思えて、情けなくて、嫌いで――だから、俺は何にもなれないままなんだ。
なのに何で俺はこんな……寿命残り一日しかない不死の身体になんてなってるんだ。
……どうしてこうなった? こんな筈じゃなかったのに……。
グロースの追手から逃げて、なんとか振り切ったはいいが、俺に行く宛なんてなかった。
連中の会話が本当なら、俺の寿命は多分あと半日もない。島から出ても意味がなくなったんだ。
とにかく目に見える道を走るしかなかったが……自分が今何処にいるのかも分かっていない。
今は人気の全くない通りを歩いている。目先に見えた電柱にもたれ掛かり、ふと空を見上げた。
見上げた空は見事なまでに綺麗な青空だった。
憎たらしい程に綺麗で……なんだろうな、なんか自分が馬鹿にされているような気がした。
俺なんかちっぽけで、居ても居なくても変わらない。
世界はただ回り続けるだけだと言われているような。
いや、何もおかしくない。当たり前の事だ。俺なんて居なくても世界は回り続ける。その通りだ。
でも――俺は、こんな青空の日に死ぬのか? 何も出来ずに……本当にそれでいいのか……?
「…………ダメだ。もうなんか……疲れた」
頭が上手く回らない。腹も減ったし、午前中からずっと逃げていたから、疲労もピークだった。
とにかくどこかで一度ゆっくり休みたい。もう色んな事がどうでも良くなってきて、半ば投げやりな気持ちで、俺はこの周辺の散策を始めた。
人通りが少ないから大体察していたが、飯屋自体がこの辺りにはなさそうな雰囲気だった。
そうして絶望しかけていた時、通りの角を曲がった先でのれんが掛っている飲食店を見つけた。
良かった! もう何でもいい! 俺はもう何も考えず、真っ直ぐにその店まで走った。
「へい、らっしゃい! 好きな席へどうぞ」
どうやら個人経営の店らしく、店員は屈強なガタイの男と、その手伝いの子供の二人だけだった。
立地の問題なのか、昼時なのに店内の客は俺を除いて一人しか居らず、青い半纏を着た男が、カウンター席に座っていた。
俺はその三つ隣のカウンター席に座り、店の壁に貼ってあるメニュー表を確認する。
何屋なのか全く見ずに入ったが――どうやら此処はお好み焼きの店のようだった。




