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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 六章 演目【九月一日】 (前編)
42/78

1.6.4

 ◇   ◇   ◇


 俺が『持ってない』人間なんて分かっていた事だ。あぁ、最初から分かっていたじゃないか。

 演劇をやってた頃からずっとそうだ。主演を演じる奴らと俺とでは明らかに何かが違う。超えられない壁があるって。

 俺は、舞台袖からステージ上で輝く奴らを見てるのがせいぜいで……そう、脇役なんだ。

 そんな自分が惨めに思えて、情けなくて、嫌いで――だから、俺は何にもなれないままなんだ。

 なのに何で俺はこんな……寿命残り一日しかない不死の身体になんてなってるんだ。

 ……どうしてこうなった? こんな筈じゃなかったのに……。

 グロースの追手から逃げて、なんとか振り切ったはいいが、俺に行く宛なんてなかった。

 連中の会話が本当なら、俺の寿命は多分あと半日もない。島から出ても意味がなくなったんだ。

 とにかく目に見える道を走るしかなかったが……自分が今何処にいるのかも分かっていない。

 今は人気の全くない通りを歩いている。目先に見えた電柱にもたれ掛かり、ふと空を見上げた。

 見上げた空は見事なまでに綺麗な青空だった。

 憎たらしい程に綺麗で……なんだろうな、なんか自分が馬鹿にされているような気がした。

 俺なんかちっぽけで、居ても居なくても変わらない。

 世界はただ回り続けるだけだと言われているような。

 いや、何もおかしくない。当たり前の事だ。俺なんて居なくても世界は回り続ける。その通りだ。

 でも――俺は、こんな青空の日に死ぬのか? 何も出来ずに……本当にそれでいいのか……? 


「…………ダメだ。もうなんか……疲れた」


 頭が上手く回らない。腹も減ったし、午前中からずっと逃げていたから、疲労もピークだった。

 とにかくどこかで一度ゆっくり休みたい。もう色んな事がどうでも良くなってきて、半ば投げやりな気持ちで、俺はこの周辺の散策を始めた。

 人通りが少ないから大体察していたが、飯屋自体がこの辺りにはなさそうな雰囲気だった。

 そうして絶望しかけていた時、通りの角を曲がった先でのれんが掛っている飲食店を見つけた。

 良かった! もう何でもいい! 俺はもう何も考えず、真っ直ぐにその店まで走った。


「へい、らっしゃい! 好きな席へどうぞ」


 どうやら個人経営の店らしく、店員は屈強なガタイの男と、その手伝いの子供の二人だけだった。

 立地の問題なのか、昼時なのに店内の客は俺を除いて一人しか居らず、青い半纏を着た男が、カウンター席に座っていた。

 俺はその三つ隣のカウンター席に座り、店の壁に貼ってあるメニュー表を確認する。


 何屋なのか全く見ずに入ったが――どうやら此処はお好み焼きの店のようだった。


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