1.5.4
「…………」「…………」
再び沈黙。今度はテツさんだけでなく悠介も黙り込む。
だが、誠一はそんな事は気にもせず、変わらずにヘラヘラと笑っていた。
「何かまた訳の分からんことを抜かしだしたぞコイツ……」
「いやいやぁ、エクスの仕事してる時に知り合ったんだけど、何度か会ってるうちに仲良くなったというか。結構面白い奴だよ。今度紹介しようか?」
「いや、待て。俺の理解が追いついてない。待て……」
「アイツいつも仮面付けててさ。まぁ雰囲気は怖ぇし、俺も素顔は見たことないんだけど、話してみると割と普通でね。最近は人生相談に乗ってあげてたんだけど……」
と、誠一が話をしている最中に、店内に携帯の着信音が鳴り響いた。
まるでタイミングを図ったかのような着信。しかし、着信音は五秒程鳴った後、直ぐに切れた。
それが、自分の携帯だと気付いた誠一はニヤりと笑う。
「っと、喋り過ぎたかな。呼び出しくらっちまったわ。相変わらずのタイミングだなアイツ」
携帯を見ていない誠一だったが、誰からの着信なのか確信している様子で小さく呟く。
楽しそうに笑う誠一の表情から、テツさんも大凡の見当がついていた。
「まさか……エクスか?」
テツさんの問いに誠一は頷いて答える。
すぐに着信が切れた事から、『店を出て電話に出ろ』という意味を読み取った誠一は、皿のお好み焼きを急いで平らげて席を立つ。その後会計を済ませ、お好み焼きを半額にして貰えたことを思い出した誠一は、その半額で浮いた三百五十円を悠介に差し出した。
「え、なにこれ? くれんの?」
「あぁ。今日の俺はちょっと機嫌がいいんだ。半額奢ってやるよ」
そして、キャップ帽を深く被り直し、準備が整った誠一は店の入り口に手を掛ける。
「んじゃ、俺はそろそろ行きますわ。今日という日を楽しんできます! あ、テツさん。そのランズマガジン店に寄付しとくから、次来るまでにはちゃんと読んどいてね!」
最後にカウンターテーブルに置きっぱなしにしているランズマガジンを指さして一方的に話すと、その有無を聞かず、鉄火を後にするのだった。
誠一が店を去ったあと、店内の悠介とテツさんが互いの顔を見合わせる。
「なぁ、テツさん。誠一のやつ、今日やけにテンション高くない?」
「お前もそう思うか」
誠一に何かあったのは間違いない。
その『何か』は分からないが、それらしいことを言おうとしていたのをテツさんは思い出した。
――確かアイツなんか言いかけてたよな。……昨晩、何かあったようだが……。
結局、それを知ることはなかったが、テツさんは間違いないと確信を抱いて、小さく呟いた。
「絶対、今日ロクな一日にならねぇぞ……」




