1.5.2
白渡誠一。二十三歳。自称フリーターだが、具体的に何をしているのかはよく分かっていない。
見た目の特徴は、白色の髪に、腰に付けているウェストポーチ、キャップ帽を被っている事が挙げられる。好きなものは漫画で、基本的にアクション系の創作物を好んでおり、漫画以外にもアニメも好んでいるが、実写作品は嫌っていた。
そして、そうした漫画好きの影響からなのか、『現実だと思ってる此処はきっと物語の中かもしれない。それなら俺を中心に世界が回ってたら嬉しい』という考えのもとに、自らを『主役』と称している……いや『主役』だと信じたがっている男――要するに、変人だった。
以上がテツさんの知る白渡誠一の情報になる。三月頃に本州から舞識島にやって来て、その時期からずっと鉄火の常連客になっているが、テツさんもこの男について多くを知るわけではなかった。
だが、どこか普通でない雰囲気を纏っているのを何となく感じていた。……堅気でないような雰囲気を。かくいうテツさん自身が、そういった世界に関わっていた過去があったからだ。相手の目を見ればそれがどういった人間なのかが大体分かるらしい。
今は足を洗っているが、そんな彼の目からも見ても、白渡誠一はどこか異質な存在だった。
だが、暫く付き合っているうちに誠一の人柄は大体把握しており、『まぁ、悪党ではあるだろうが、嫌いではない』という評価はしていた。
「俺さ、思うんだよね。俺がこうして漫画を読んでるのと同じように、この世界を物語として見ている誰かがいるんじゃないかって。だとしたら、そいつらから見た今の俺は、この漫画の表紙を飾るような『ザ・主役!』ってキャラに見えてるのかなぁって。この感じ解る?」
「知るか。ちっとも解らん。っつーかなんだ、今日のお前はやけにテンションが高いな……」
「え、そう? ……ふむ。んじゃ、今こそ俺とテツさんの絆が試される時だな。以心伝心なのを証明しようぜってわけで、ここは一つ俺の考えをテツさんがテレパシーでビビッと受信して……」
「いや、そういうとこだ。そういうとこ」
今日の誠一は、普段に比べて明らかにテンションが高かった。いつも五月蝿くはあるのだが。
誠一はお好み焼きを旨そうに頬張って箸を置くと、テツさんに応えた。
「まぁ、色々あったよ。多分そのせいだな。昨晩面白い事があってさ」
「あ? 昨晩」
「うん。具体的な事は言えないんだけどね。仕事関係なもんで」
「……。仕事って、そういやお前何してるんだっけか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
テツさんは、この半年間誠一が何をしていたのかを知らない。フリーターと言ってる事もあって、どうせありふれたバイトでもしてるのだろうと思い、特に興味もなかったのだが……。
単純に、この男を雇う仕事とは一体どんなものかとふと思った時、その予想が付かなかったのだ。
「俺、この島に着いたその日から、ある奴の下でパシリみたいなことやってるんすよ。アレやって~コレやって~って頼まれて、そんで俺が動くって感じでさ。この半年間はそれで稼いでるわけ」
「……やっぱりまともな仕事じゃなさそうだな……。で、その相手ってのは?」
誠一を手下にして、コキ使える存在。
この男を半年間も使いこなせている辺り、おそらくまともな相手ではないのだろう。
――何かの犯罪組織に手を貸してるとか……ありそうだなコイツの場合……。
そんな事を考えていたテツさんに、誠一は満面の笑みで自慢するように答えた。
「テツさん知ってるかなぁ。島の流行りとか疎そうだけど。……あのねぇ、エクスって名乗ってる奴なんだけど聞いたことあるかい?」




