p.3 キャップ帽の男 02
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数時間前 東京都郊外 廃倉庫
それはフェリーが出航する二時間前。東京都郊外にある、とある廃倉庫内での出来事だった。
「最近の漫画って凄いよなぁ。どれも超面白い!」
都市近郊に位置するその周辺は、交通機関のアクセスが良いとはいえ、人通りは少ない。また、倉庫としての機能も既になく、人が立ち寄ることは殆どないのだが……。
清々しいほどに澄み切った青空の下。それとは打って変わり、陽の光が少しだけ差し込む薄暗い廃倉庫の中で、キャップ帽の男は漫画雑誌を手にして語っていた。
「やっぱランズマガジンにハズレないね。俺この雑誌一番好き。単行本買おうか悩むのが幾つかあってさ。あ、でも買っても置き場所ねぇな。仕方ない、今度漫画喫茶行って読んでくるか」
シャッターの開いた廃倉庫の奥。そこに位置するコンテナに座り、男は漫画雑誌を読んでいた。
彼の口にした『ランズマガジン』とは、若者に人気の週刊漫画雑誌であり、今まさに持っているのがソレだ。薄く陽が差す倉庫の中で男は雑誌のページを捲り、目を輝かせている。
「バトル漫画は特に好きでさ。ほら、このページの描写とか超カッコよくない? まず描き込みが凄い! 見てよこの迫力! 躍動感! この一コマに賭けた作者の熱量はしっかり受け止めさせてもらいましたって感じ。っつーわけで、アンタらも読もうぜ。俺なんてもう五周もしちゃったよ。今日買ったばっかなのにねー」
キャップ帽の男の前には、十名程の男女の集団が立っていた。服装は全員私服であり、年齢もバラバラ。組織としての統一感はなかったが、どこか団結している雰囲気がある。
その集団の先頭に立つリーダーと思しき男が前に出て、キャップ帽の男の問いに応えた。
「……何が言いたい?」
「え、五周もしたのに俺の熱量が伝わってない? ……こんなにプレゼンしてるのに」
「そうじゃない。いや、違わないんだが、そうじゃない」
明らかに苛立っている声色だった。言っている事の意味がまるで分からないのもそうだが、問題はそこではないのだ。
同じ事は他の面々も思っており、集団全体の意思を代弁するようにリーダーは、この場において最も重要な問いを投げた。
「そもそも――――お前誰だ?」