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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 三章 裏?
28/79

1.3.8

 ◇   ◇   ◇

 九月一日 早朝 舞識島A区画 森林公園内


 俺は、昨晩の一件から行くあてもないまま舞識島を走り続けた。

 次第に体力にも限界がきて、とりあえず一休みしようと近場にあった公園に入り、人目に付かない茂みに座り込んで、俺はそのまま眠りについた。夜が明け、少しだけ冷静さを取り戻すと、近くのコンビニに寄って食料と、破けたシャツを着替える為に適当な服を調達した。

 それから再び公園に戻って噴水広場のベンチに座って、まず最初に深い溜め息を吐いた。

 正直、今の状況は謎だらけでまだ混乱しているが……とりあえず状況整理から始める。


 まず、自分の身に起きた事を整理する為、俺はポケットの中から空の小瓶を取り出した。

 それは、俺が半年前にあの倉庫から間違えて持ってきてしまった青い薬の入った小瓶だった。あの日から、目に見えないところに置くのが怖くて、それを肌身離さず持っていたのだ。

 青い薬は、赤い方の劣化版との事だが、不死薬としての効果は変わらないらしい。

 俺はそのことを咄嗟に思い出し、そこに一縷の望みに賭けて、瀕死の状態から青い薬を飲んだ。

 そして、結果はこの通りだ。薬を身体に取り込んだ直後、流血していた血が止まり、腹に出来ていた筈の傷が綺麗に塞がったのだ。信じられない事だが。


 これってアレだよな……つまり—―

 俺の身体が……不死身になってるってことか? 本当に?


 現実味はなかった。でもあの状況から生きている俺が何よりの証拠だ。もう信じるしかない。

 青い方にはデメリットがあると聞いている。それが何かは分からないが、特に身体の不調は感じないし、外見の変化も何もない。不死になったなんてまるで実感がなかった。

 俺は辺りを見渡した。公園には早朝のランニングをしている者、通勤しているサラリーマン、竹箒で掃除をしている女に、学校へ登校している学生など様々な人がいた。

 ……学生……。その単語で思い出す。ウツロに後ろから刺されて死んでしまったあの少年の事を。

 名も聞けなかったあの少年の死体を、俺は現場に残して逃げだしたのだ。

 そろそろニュースになってもおかしくないと思う。だが、街は何の騒ぎも起きていなかった。

 平和そのものだった。『平和であること』が異常だった。何でニュースになってないのか。

 俺はそれを不気味に感じたが、それよりも俺には他に疑問があった。


 グロースは今何してるんだ? あの少年は立会人として来ていた。その彼から何の連絡もない事に組織は不信に思うだろう。更に言うなら、俺も連絡をしていない。スマホの電源は切れているし、もう連絡しようとも思わないが、連中が何か行動を起こしていても不思議じゃなかった。

 それにもう一つ。俺には他に気になることがあった。ウツロの事だ。

 アイツは、何故俺たちを襲ってきたのか。これが本当に分からない。少年も予想外という反応だった。つまり、グロースにとっても想定外だったという事だ。そこで俺はある推察をした。

 ウツロは、もしかして裏切ってるんじゃないかと。

 昨晩何が起きたのか、九十九や千条は知ってるんだろうか? 


 ……とりあえずだ。これ以上グロースに関わるのはマズイ。一刻も早く舞識島を出るべきだ。

 朝食を済ませた俺は、舞識島を出るべく行動を起こそうとした。だが、その前に、コンビニで買ってきたタバコで一服することにした。長らく禁煙していたんだが……こんな状況だ。タバコでも吸わないとやっていられない。今日だけタバコを解禁する事にした。久しぶりに吸ったタバコは最高だった。

 それからタバコを地面に捨て、ベンチから立ち上がろうとした――その時だった。


「おい」


 ドスの効いた女の声が俺にかけられる。何事かと顔向けると、そこにはさっきから広場で掃除していた竹箒の女が立っていた。赤い頭巾とエプロン姿の、見るからに掃除人らしき女だった。

 その女がゴミを見るような目を俺に向けて、地面のタバコを指さした。


「それ」

「ん? あ、悪い悪い。気を付けるよ」


 俺は地面に捨てたタバコを拾って、ビニール袋に入れた。だが、女は尚も指をさし続ける。


「違う。まだある。そこに」

「え」


 女はそう言うが、その地面にはもう何もない。少なくとも俺が見る限りでは……。


「……その……何もないが……」

「何言ってる。あるだろ、ほらそこに。灰が」

「はい?」


 確かに、よく見るとタバコの灰が落ちている。だが、手で掴めない極小の粉末しかない。


「……いやその、これはもう……どうしようもなくねぇか?」

「…………」

「ごめんごめん、喫煙所で吸うべきだったな。まあ、次からは気を付けるってことで」


 次の瞬間、女は深い溜息を吐くと、目つきが変わり……。


「ふざけんじゃねェぞォ! ゴラァァァァ!」


 と、女が叫んで、それと共に振りかざされた竹箒のスイングを俺はダイレクトに食らった。


「グフォァッ!」


 数秒間、俺の身体が宙に浮いた気がした。いや、気のせいじゃない。三メートル近く飛んでいる。

 へ、何? 今、竹箒で殴られて……。……え? どういうこと? 何で竹箒……。というか、何だこの女。すげえ力だ……。良く分からないが……何かマズイぞ。何だこの状況。

 地面に倒れ込む俺を周りの通行人が見て見ぬふりをし、竹箒の女は無言のまま近づいてくる。


「……私がなァ……毎日毎日……一体どんだけ苦労して掃除してると……」

「いや、待て! 落ち着け! 分かった! 俺が悪かったから!」

「知るか、ぶっ殺す」

「やめろ、やめ……ああアァァァァァ!」


 その後、もう一撃スイングを食らった俺は、綺麗な弧を描いてまたもぶっ飛ばされた。

 それから俺は逃げるように公園を後にした。最悪だった。


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