1.3.1
【三章 裏?】
ほら、言ったでしょう? どんな物事にも裏はあると。
◇ ◇ ◇
九月一日 十二時 舞識島内某所
~エイジの呟き~
何をするにも脇役になる人生だった。
学力、運動、成績。得意な事、誇れる事なんて何もない。俺は『持ってない』人間だった。
そうだ。俺には何もない。俺には俺だけのモノがない。中学頃にそれを強く感じるようになって……時間が経つにつれてその感情は膨れていき、いつからか自分の事が嫌いになった。それが一番嫌だった。だから俺は、俺じゃない別の何かになりたかったんだ。
適当な地方街に生まれて、適当に生きて、こんな感じで終わっていくのかなぁなんて思ったりして毎日をただ過ごしていた。……でも、こんな俺でも一つだけ頑張ってきた事はあったんだ。
それが演劇だった。中学から大学までやってたな。始めた理由は、まぁ下らないものだった。小学生の時に人前でモノマネを披露する事が多くあって、中でも死んだフリとか、ゾンビの真似なんかの評判が何故か良かったのだ。それを褒められたのが嬉しかったからとか、そんな理由だった。
進学した中学に演劇部があったので勢いで入部して、それからはずっと演劇に携わっていた。
だが、俺が主演を演じた舞台はただの一度もない。そうだ、一度もなかった。別にうちの学校が強豪だったとか、そういう訳じゃない。ただ、主役に相応しい誰か……なんというかそういうオーラを持った奴が必ずそこにいて、いつも主演はそういう奴らが持っていくのだ。
……まぁな。別にそんな珍しい事でもない。俺みたいな奴は結構いる筈だ。
ただ分かったのは、俺には単純に才能がなくて、凡人で、持たざる者だったって事。
俺はこうして何も成せないまま終わっていく。ただの脇役Aなんだと思った。
……。………。
……あれ? いや違うな。なんか暗くなってるけど、今はこんな事考えてる場合じゃないな。
あーそうだ。俺は今舞識島にいて……路地裏にある廃材置き場の陰に隠れているのだ。
訳あってこの島に来ることになって、何故か追われる身になっているんだが……。
何でこうなってしまったのか、俺に何があったのか。そうだった、まずは状況を整理しなきゃいけない。そうだ振り返ろう。なんか過去に戻りすぎてしまったけど、仕切り直しだ。
スポットライトを浴びることのなかった脇役の……俺の話をしよう。
◇ ◇ ◇
大学まで続けた演劇だったが、辞めた後はこれといってやりたい事もなく、在学中に卒業後の進路も決まらなかったから、流れるようにフリーターになった。
今は東京で適当に一人暮らしをしていて、今年で三年が経とうとしている。
そして、そこからだった。事の始まりは……多分半年前。今年の三月の事だ。
三月の頭頃に、大学の友人から一本の電話が入った。その友人の名は竹中。友人と言っても、仲が良かったかと言われると正直微妙だったが。
大学時代に少人数の運び屋サークルを作って小遣い稼ぎしていた男で、俺も何度か誘われた事があり、暇な時には手伝っていた。ただそれだけの関係だ。
その竹中から、久しぶりに電話があった。
「よう、エイジ。お前今暇か?」
「久々に電話してきたと思ったら、失礼な奴だな……。……まあ、暇だけど」
「よっしゃ良かった。ちょっと良い話があるんだが、一口乗らないか?」
どうやら、竹中は大学卒業後も運び屋をやっているようだった。サークルとしてやってる訳じゃなく、何か別のグループに入っていて、今は下っ端の立ち場にいるらしかった。
「今大きな仕事があってな。上手くいけば大金が得られそうな仕事なんだが……。如何せん人数不足でな。だから大学の頃みたく手伝ってくれない? もちろん報酬はやるから」
話はこうだった。三月中頃に、舞識島に向けて『ある物資』を運ぶ仕事があり、人手不足だからその運搬に手を貸して欲しいということだ。
舞識島。俺は行ったことはなかったが、日本人なら誰だって知ってる有名な人工島だ。
昔馴染みの頼みだったこともあって、俺は竹中の頼みを二つ返事でOKした。
そして、仕事当日。都市近郊の廃倉庫に既に置いてあるという物資を取りに行って、その後貨物船に乗せるということで、俺と竹中を含めた十人はそこに向かったんだが……。
廃倉庫には俺たちが向かうよりも早く、一人の男がそこにいた。
多分――この時の出来事が、俺にとっての大きな分岐点だったのかもしれないと今でも思う。
「最近の漫画って凄いよなぁ。どれも超面白い!」
その男は俺たちの運ぼうとしていたコンテナの上に座って漫画雑誌を読んでいた。
キャップ帽を被る白髪の男だった。




