1.2.6
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成瀬律は知っている。現実に『ヒーロー』など存在しないのだと。
その少女は、五年前まではどこにでもいる普通の少女だった。父と母との三人家族で、親の愛を一身に受けて育った舞識島生まれの少女。両親は共にグランミクスの技術者で、島の重要施設に勤めていると聞いていた。具体的に何をしている仕事なのかは話してくれなかったが、きっと自分には理解できない事だろうと、少女自身そう思っていた為、特に気にもしていなかった。そんな技術者気質の親の影響からか、少女は読書が趣味となり、一人でいるのを好んでいた。大人しい性格だった為、友達は多くなかった。だが、ある時親友と呼べる存在ができた。何がきっかけだったか、ひょんなことから仲良くなった二人の男の子。その二人に連れられて、少女は外で遊ぶ事が増えていった。家族以外の誰かと一緒にいる事、自分の世界を広げる事、その最初の一歩として本当意味での『友達』を知り、家の外に出て彼らと過ごす事がただ楽しかった。本当に楽しくて幸せな時間だった。今でも少女はそう思っている。だが、その時間は突如終わりを迎えた。五年前、三人のリーダー格だった少年が島の外へ引っ越してしまったのだ。島に残された少女ともう一人の少年は、彼が居なくなった後も特に関係が変わることはなかったが、徐々に遊ぶことは減っていった。
そうして、リーダーだった少年が島外に引っ越して暫く経った頃だった。少女の運命を大きく変える事件が起きる。少女にとっての終わりだったのか、それとも始まりだったのか。存在しない事にされた事件が。
五年前のある日。当時小学生だった少女が、学校から家に帰った夕方時の事だった。「ただいま」と、いつもと同じ調子で玄関を開ける。それまでは本当にいつも通りの毎日だった。
だが、そこで少女の目に映ったものは――床に広がる血。その上で倒れる両親の死体だった。




