1.prologue.1
Act.1 START!
【プロローグ】
現在
~とある人物の語り~
こんにちは。
いや、初めましてと言った方が適切でしょうか。
まさか、貴方がここまで来るとは思っていなかったもので。
なので素直に驚いています。本当に期待以上です。
貴方は『何か』を知りたくてここまで来たのでしょう?
であれば、私も自分の役割を果たさなければなりませんね。
そう、役割です。
この島の人々は、皆等しく役者であり、誰もが役割を持っている。
そうですね。此処は舞台上のような場所ですよ。私にはそう見えるのです。
この島の人々と物語がどこへ向かうのか。
私はそんな舞台をずっと見てきた。見続けてきました。
だから、きっと私は観客で、あるいは端役のような存在なのかもしれませんね。
……おっと、話が脱線しました。すみません。
では、前置きはここまでにして……。少し長くなりますが、どうか聞いてください。
この島のことを。
『舞識島』と呼ばれる人工島。
そこで起きたとある事件。
錬金術と不老不死。
人類の進化と賢者の石に纏わる話。
島が抱える秘密。
この物語の始まりがいつだったのかを。
あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。
私のことは、エクスとお呼び下さい。
この島では都市伝説なんて呼ばれたりしていますが……。
はい、宜しくお願いしますね。
◇ ◇ ◇
現代からおよそ四百年前のこと。その時代、世の陰には錬金術師と呼ばれる存在がいた。
錬金術。それは古き時代に生まれた学問であり、技術の名。
その長い歴史の中で発見された様々な知識は、後世に生まれる化学や医学の発展に大きく影響を与えた。故に、錬金術はこれらの礎を築いたとも言われている。
錬金術を扱う者は錬金術師と呼ばれ、彼らは、その名の通り卑金属から貴金属を精製する試みをはじめ、『完全な物質』を創り出す手法を模索していた。
そうして『完全』を追い求めていくうちに、錬金術師達はある悲願を抱くようになった。
人間の肉体、魂をより完全な状態に到達させること――即ち、人類の進化である。
いつか人類に起こり得る進化。それは、種そのものの変革から始まり、脳が発達する事によって目覚めるという第七感の覚醒だった。五感や六感の先にある未知の感覚。そこに至った者はこの世の全てを知る事が出来るとされ、錬金術師はそれを信じていた。
そして、第七感へ至る進化――種の変革を起こすには、まず不老不死になる必要があり、その実現には、あらゆる不可能を可能にするという霊水と、それを生み出す賢者の石を獲得しなければならなかった。
これらの錬金術の教えや思想は西洋を中心に生まれ、それは薄く世界に拡がっていき、やがて東洋にまで伝わっていった。
ところが、東洋に伝播した錬金術は独自に発展していき、歪んだ思想を持つ者で溢れ――そして四百年前、その者らがある事件を引き起こした。
東洋の錬金術師が賢者の石を創り出す目的で結束し、とある場所に集ってありとあらゆる手法を試みた。その結果、なんと、本当に賢者の石を創り出すことに成功してしまったのだ。
だが、賢者の石を生み出した際に、巨大な爆発が発生し、その場一帯が吹き飛ばされ……。この爆発事故により、その場に居た錬金術師は他界。賢者の石の在処が誰にも分からなくなった。
この時期を境に錬金術は徐々に廃れていき、やがて世界からその存在も消えていった。
かくして、錬金術師達はその歴史の最期まで悲願を果たす事が出来なかったのだが、賢者の石を創りだす事には成功しており、それをこの世界のどこかに残していた。
しかし、それが一体どういう形をしていて、どこにあるのか。霊水とは何なのか。
その正体は誰にも分からないまま、四百年の時が流れた。
そして現代。
賢者の石の行方は……。




