初めの遊び
ここはとある山の中。背の高い木が空を遮り、ジメジメとした空気が嫌悪感を感じさせる。
熱帯に似た気候のここは、グンマー(元群馬)と呼ばれる地域の旧演習場である。
かつて気象兵器を開発しようとし、機械の暴走によってグンマー一体が亜熱帯と化してしまった。
そんな人が近づかない場所を、彼らは拠点として活動していた。
「あう……暑いですねぇ…。」
「ほんとだねぇ…。あ、水あるけど飲む?」
「おお…いただきます。」
若干切れ気味に暑さに耐えながら歩くパピア・リスーシと、その隣で小柄な馬を数頭
率いる水無月聖桜である。
二人は互いに敵対しあう白軍と黒軍に所属していたが、それ以前に小さいころから同じ長屋に住む幼馴染であった。自ら所属軍を抜け、各軍から雄志を募り新たな勢力を建てようと計画している。
そのはじめの活動として新たなメンバーを各軍から極秘に勧誘するために、ここで待ち合わせというわけである。
「あ…あれかな」
聖桜が指差した先には白い煙が上がっていた。しかしそれは上空までではなく5メートルほど上がったところで壁に当たったように広がっていた。
「やっと見つけましたか!もうクタクタですよ…。」
白い煙と一緒に美味しそうな匂いが漂ってくる。これは…肉を焼いている匂いだろう。
煙の元が見えると、学生と思われる二人が鳥のような動物を串に刺して焼いていた。
一人は白を基調としたブレザーを着た女性。もう一人は民族風の衣装に赤いバンダナの男性。
彼らは今回勧誘するために呼んだ各軍のメンバーである。
「お!どうもどうも!!あなた達が呼んでくれた人達だね!私はペルー・ラケイルだよ、よろしく!」
「…こんちわっす、沢田です」
「初めまして、パピアって言います。えっと、とりあえず移動しませんか?ここすごく暑いですし…」
「んーそうだね、じゃあ近くの村にでも行こうか」
軽い挨拶を交わしてから、沢田は砂で火を消した。すると周りに広がっていた煙がすっと消えていった。
沢田が使っていたのはグンマーを亜熱帯に変えた気象兵器の携帯版のもので、気流を作り風の流れなどを制御できる代物である。それに反応したのか、聖桜の馬が反応して暴れだした。
「うわっ!?どうした!おちつけお前ら!!」
「わ、悪い…これのせいだ、今止める。」
機械を止めると馬たちも落ち着きを取り戻した。
と、その時―――聖桜の馬の首に一本、赤い矢が刺さっていた。
「ヒヒィィンンルブルゥ!!!」
「くそ!立て続けになんだってんだよ!!」
「いいから!早く走るよ!逃げ切らなくちゃ!!」
ペルーと沢田はその場を離れる体制をとった。するとパピアが左腕につけた腕輪に右手を添えて構え、攻撃態勢をとっていた。
「こんな暑いのに走るとか…やってられませんよぉ!!!」
パピアが右手を振りぬくと、その手には一振りの刀が握られていた。
鍔には何重にも重なったリングがついており、刀身は銀色。それは光を返すことなく重く佇んでいる。
「ぬぅぅん!!」
パピアは刀を地面に突き刺し、腕輪を構えて静止した。
次の瞬間、腕輪から太い光の光線が発射される。
周りの木々がすべて焼き尽くされ、ほとんどが消飛んだ。それに加えて、襲撃してきた敵も消飛んだらしく、少し先に弓矢と数本の武器が転がっていた。
「これで…いいですね。」
すっきりしたように言い放つと、ゆっくり村の方へ向って歩き始めた。
今の出来事に唖然としていた3人は、慌てて彼女についていく。
数日後、黒軍の兵士が数名行方不明になったニュースが流れ、一触即発の戦線状態から戦争の火蓋が切って落とされたことは、村についてから知ることになる。
彼らが建てた勢力は「遊劇軍」として、歴史に刻まれている。
その記録をまとめた物が、これである。