1話異世界からの来訪者
キーンコーンカーンコーン・・・
大都会にひしめく極普通の学校の、極ありふれた校内に放課後の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。 それを機に皆がそれぞれの行動を開始する。
「さー、部活部活・・今日はいよいよ異世界から召喚獣を召喚する実験だな。ワクワクするぜ。」
170位という現代高校生にしては一般的な身長に整った顔立ちの少年の好奇心を隠せない様な笑みは見る者を魅了する不思議な色香を纏っていた。
しかしその少年、小倉渉が今日の実験の事を考えて居ると、その言葉を聞いたもう一人の少年、友人の一つ上の2年生で森羅護が、口を挟んできた。
あからさまに子供だと言った注意を促してくるようだ。
「おいおい、いい歳こいて未だ怪しい儀式をやってんのか、渉?そろそろ自分家の会社の経営の事を考えろよ。親父さんも美弥ちゃんだけが頼りだって言ってんだろ?見返そうとか思わんのか?」
渉少年程ではないが、そこそこに整った顔に少し大人びた容姿は、たった一つ上と言った年齢で本当に合っているのかどうかも怪しいのだが・・・
更にその先輩である護の妹で同級生の森羅衛実までも加わる。
「そうだよ、渉君。それより今日の実験が失敗したら本当に私の科学部の実験に付き合ってよ?渉君のマジックアートの技術が有って初めて上手く行くんだから・・、協力してくれないと私の部活が廃部になっちゃうんだから・・・。」
少女がその活発的な美人系の、しかし幼さの残る顔を膨らませて渉に再度のお願いをする。
「分かってるよ、衛実ちゃん。俺も今回の儀式が上手く行かなかったら秀美ちゃんとの甘~い生活は諦めるさ。しかし、成功したら・・・分かってるよね?衛実ちゃん?」
その渉の怪しい笑顔と言葉に「う・・」と、少し言いよどむ衛実だが、覚悟を決めたのか頷くと。
「・・もう・・分かってるよ。もし、成功したら渉君の・・ていうか、オカルト研究部に臨時でいいから入るって事でしょ?そして、秀美ちゃんとの仲を取り持つと・・(ったく・・なんでライバル増やさないといけないのよ・・只でさえ競争率高いってのに・・)」
「ん?何か言った?」
衛実のブツブツと言った言葉をハッキリ聞き取れなかった渉は訝しげに聞いてきたが、直ぐに衛実は
「う、ううん?何でもない。・・それより早く行こう?どうせまた失敗するんだから、早く終わらせて私の実験に協力して貰わないと。」
「何か聞き捨てならない事を言った気がしたんだが?まあいいか。じゃ、護さんと衛実ちゃんは先に部室に行ってて?俺はベルン先輩に連絡して来るから。」
「はい、分かりました」
「おう、じゃあ先行っとくわ」
☆
渉の指示で森羅兄妹が一年の学年棟の廊下から部室棟に移動する際に、背後で空間が歪んだようなのだが、オカルト関係の事には詳しくない二人は当然気付く事が無く、その場を後にし、少し離れた部室棟に向かった。
そうして、護と衛実がオカルト研究部に行くと、既に待っていた永倉秀美、塩見健太、新見鏡花の三人が渉の召喚の儀式に必要な小道具を準備している所だった。
そして、護たちに気付いた秀美に向かって秀美の友人である衛実が苦笑しながら話をする。
「あ、秀美ちゃん。待った?ごめんだけど、今日の儀式が成功したら渉君との事考えてよね?」
「僕は良いけど・・衛実ちゃんは良いの?・・・好きなんでしょ?渉君の事。こんな事で仲が悪なったら僕としてはすっごく嫌なんだけど?」
衛実に説得された形には成るが、秀美自体も以前の一件以来渉に惚れてしまっているので良いが、秀美は衛実が渉の事を想っているのに自分に渡すことになるのをそれでいいのか考えて居るのだ。
本来は最初に知り合い、好きになった衛実の方が一緒になる権利が有る筈なのだから。それを衛実に言ったのだが・・
「仕方ないよ、私は傍に居られたらそれで良いんだし。それに、万が一でも今回の召喚の儀式で本当に異世界の扉が開いたら、三人で異世界に乗り込めばいいんだし。向こうででも渉君なら何とでもしそうだしね?」
「それは同感~?って言うか、渉君ってなんであんなに魔方陣系の事が詳しいんだろ?お爺さんが代々のマジックアーティストの家系ってのは聞いてるけど・・・でも、両親に魔術の才能は無いんでしょ?それなのに不思議だよね?・・まあ、私の時も「これは誰にもできない凄い魔法だ!」って言われても思わず納得するした位の魔術を使って助けてくれたし・・・って来たね。さあ、いよいよだね。どうなるか、不謹慎だけど、楽しみだよ。」
「渉君も罪な人だね、こんなに美人な【伏見学園のアイドル】って言われる衛実ちゃんや、【ミス伏見】と言われるくらいの一年生アイドルが争ってるのに気づきもしないなんて・・。」
「全くだ!しかも片方はこの俺の妹だぞ?けしからんやつだ!」
しみじみと護と共に感想を述べる男子は塩見健太。彼は渉と同じく魔術師関係の家系であり、彼自身もマジックダンスと言われる魔術を使って踊りを華麗に見せるエンターテインメントの国家資格2級を渉と同じ歳で既に取っているマジシャンだ。故に渉のストッパー的存在なのだが・・今回は如何にも抑えられてないようだが。
そして、健太の幼馴染であり、さっきから無言の新見鏡花もまた、二人と同じような家系で、此方は双方の良い部分を取って、オリジナルのマジックエンターテインメントを確立しようと目論んでいる、謂わば同じ穴のムジナだ。勿論、幼馴染の健太がマジックダンスの練習に誘うので、其方の方が今は主に成っているが・・
そんな一同の会話が渉の入室と共に終わりを告げ、いよいよ召喚獣召喚の時が来た。
「では、はじめるぞ?ベルン先輩、良いですね?」
「ええ、良いわよ?霊力も場の空気も魔なる物が集まり易い空気になって来たし、これは想像以上に良い条件ね。・・・始めなさい?」
「はい!」
そうして、渉は魔術を行使する。
使うは異世界と地球を繋ぐ魔法陣の形をした扉。物は生物。そして、来る者は召喚者にとって幸運をもたらす者。
そうした条件を魔方陣に付けていく渉。
そうして、出来た魔法陣に、渉自身の内なる力。魔力でも気でもない特別な力を注ぎこむ。
すると・・・魔方陣が突然輝きだし、中から一人の金髪碧眼の楚々としたスレンダー美少女が出てきた。
流石にこの状況で、この結果は予想してなかった一同は・・しかし次の少女の発言で一同に緊張が走る。
「ココは!!?・・ダメ、未だ追って来てる。・・・!!?そのオーラ!貴方は・・お願いです、ユラハム様助けてください!」
イキナリの少女の発言と、渉を見た瞬間に発した言葉でその視線の先にいる渉を交互に見つめる一同。
しかし、この状況で只一人冷静だったベルンが渉に結界の展開を促す。
「渉君、何やら不穏な空気ね。取りあえず結界で周りの被害を最小限で押さえて。・・・私は儀式用のだけど、皆に合った武器を持ってくるから。お嬢ちゃんはユラハム?に付いて居なさい。良いわね?」
「・・・はい、貴女が何者かは存じませんが、ユラハム様の関係者なら信ずるに値します。どうか、助けてください。」
そう言いながら頭を下げる少女。
ベルンはそのまま隣の部屋に道具を取りに行った。
そして、少女と同じように、ではあるが違う場所から現れた魔法陣から外見ではタコの化け物の様な怪物が現れた。
渉はベルンに言われた様に、空中に自分の専用ペンで光の魔法陣を描いて、その魔方陣に己の力を篭める。すると周囲に虹色の膜の様なフィールドで出来た結界が現れた。
これで化け物はこちらに気付かないか?と思って油断していると、その化け物は現れてから周りをキョロキョロと見回し、やがて結界が何の効果も発揮していないと言わんばかりにその場にいる女性陣、少女、秀美、鏡花、衛実に目を向けると、その触手を凄い勢いで伸ばし宙に浮かせた。
「くっ!」と呻く少女
「わわ?!」と秀美が驚き
「・・・・?!」イキナリで此方もまた驚く鏡花
「いや、何これ。気持ち悪!?」何故か不思議に思う衛実
そんな風に女性陣が触手に囚われると、その触手がイキナリ変な液体を出して制服を溶かし始めた。
「・・・!服が・・・溶けてる?」鏡花がそう無表情に呟くと
「「渉君!!助けて!!」」衛実と秀美も助けを求める
「ユ・・ム・様…」其れだけを言い残し、少女は気を失った。
「仕方ない、俺は4人を拘束してる触手を霊弾で吹き飛ばす。護さんと健太はベルン先輩の行った部屋に武器を貰いに行ってくれ。」
「ああ、分かった。」と、護が従っていち早く向かいの部屋に行く。
「・・・無理はするなよ?見た感じあの液体は服を溶かすだけで溶けきったら恐らく体内の力を奪う物だ。だからまだ猶予は有ると思う。」
そう言うのは同じ魔術関連の事に関しての一定の知識を保有する健太だ。
「ああ、分かってる。・・・じゃあ、頼む。」
渉はそう言って護と健太に武器を任せると、自分の右手人差し指に内なる力を集中させて・・
「喰らえ・・そして、還りやがれ!!」
渉がそう言いながら指に貯めた力を解放する。
パシュッ!と言う何かが撃ちだされた音が辺りに響き、その瞬間
「・・・・・」
化け物の4人を拘束していた触手が音もなく消えていく。
そして、4人が地面にそのまま落ちると危険なので指に貯めた力と同じ様な力をクッションの様にして地面に落ちないようにした。
そうすると、そのクッションに4人が落ちた瞬間に「ぐにゅ~」と言う感じに空気が歪みそして、やがて収まる。
「4人とも大丈夫か?・・・ほれ、これを羽織ってろ。」
渉は近くにあった儀式用の魔法使いのマントを4人に放り投げる。
「「「ありがと・・」」」
「・・・・」
三人は礼を言ってくるが、少女は気を失っている様で返事が無い。
「おい、返事しろ!大丈夫か?」
流石に心配になった渉は、露わになった胸が見えるのはお構いなしに少女の頭を持ち上げ、呼吸を確認する。
「・・ㇲゥ~・・」
僅かではあるがキチンと息をしているので安心した渉だが、直ぐに皆の視線が気になって状況を確認すると・・・見事に少女の胸を揉んでいた。
「あ・・これはだな?起き上がらせた所に丁度いい感触の柔らかい物があったから・・そうなれば男として揉むのが礼儀だろ!!?」
「「何の礼儀だ(よ)!!」」健太と衛実
「・・エッチ?」と何故か疑問形の鏡花
「ははは、流石渉君。エッチの塊だね?♪」と、秀美だけは日ごろの渉の行動どうりと笑っていた。
「妹の裸を見たばかりか、初対面の女の子の胸を揉みしだくとはうらや・・・いやいや、許しがたい!!渉、お前が妹の相手に相応しいか決闘で見極めてやる!」
見事に戻ってきた直後の護にまで突っ込まれ、護には何故か決闘まで持ちかけられてしまった。
「護さんのシスコンは今に始まった事じゃないから良いとして、皆の武器は?」
「ココよ?渉君にはこの杖が使いやすいと思うわ。」
同じく武器を取って戻ってきたベルンから杖を投げ渡された渉はその杖を見て驚いた。
「・・この杖、先輩のお気に入りの品じゃないですか?良いんですか?」
「ええ、問題ないわ。ちゃんと返してくれたらね?」
「それは勿論です。お礼に後で胸のマッサージをして差し上げます。」
ベルンの胸を見ながらそう言った渉に、秀美と衛実がマントを羽織って下には何もない状態(触手の液により切れ端になったから捨てた。)で呆れた様に
「それは渉君の欲望でしょ~?」
と秀美に笑いながら突っ込まれ
「渉君?秀美ちゃんと付き合うんじゃなかったの?ベルン先輩とどっちを取る気?」
と自分の事を棚に上げて二人の事に対する責任を追及する衛実。
それに対して渉の、男としては当たり前の願望が顔を覗かせる。・・勿論冗談で。
「・・・両方?わわっ!冗談だよ、冗談。ベルン先輩の胸も捨てがたいけど、秀美ちゃんには何故か惹かれる何かを感じるんだよね~?って、化け物の触手が再生しやがった。」
大人しくしていたと思った化け物は、どうやら触手の再生に力を使っていたようだ。
そして、体が元に戻った事で再び一同に向き直る。更に、化け物が何処から出しているのか分からない様なくぐもった声で
「エナジーヲワタセ、ソウスレバイカシテオイテヤル。ソウデナケレバエナジーゴトワレニトリコンデクレル。・・・サア!」
「「「「・・・・」」」」
イキナリの化け物の行動に一同愕然というか呆然・・
それはそうだろう。何せ声帯が何処にあるかも定かではない目の間のタコの化け物が自分たちに話しかけてきた事もそうだが、明らかに自分たちと同じ言語で会話をしてきている。・・これが驚かずにいられようか?
しかも、微妙に男性陣を無視して女性陣の方にばかり触手の腕をチョロチョロと伸ばして来ている 。
明らかに女性のみを狙っている様子だ。
その事に気付いたベルンが化け物に通じるかはさて置き、対話を試みる
「ねえ、アナタ。名前は有るの?」
ベルンが一応個体の名称を聞いた。しかも、ご丁寧に化け物もそれに応じる。
「ワレハソコノコムスメノセカイノマジュウトヨバレルシュノイチゾクノオサダ。ナマエハシュゾクメイノミ。コルダトイウ。」
「ふ~ん。コルダね~?・・・で、なんでこの世界に迷い込んできたの?」
「…え?先輩・・何言ってんですか?」
イキナリのタコとベルンの会話に付いて行けない一同。
しかし、その渉の質問には応えずにタコに視線を向けたまま己の質問を続けるベルン。
「アナタが欲しがってるエナジーって言うのは何の事?」
「エナジートハ、魔なるチカラ。ワレラハソレヲミズカラノチカラニカエルスベヲモツ。」
「魔なる力ね~。魔力の事かしら?因みにそれが一番多いのはこの中の誰?」
「ちょ、っちょっと先輩?さっきから何の検証をしてるんですか?」
「何のって、折角未知の生物とコンタクトが取れるって言うのに、このチャンスを生かさないなんてオカルト研究部の恥でしょう?・・・で、誰?」
前半は渉の質問に応える感じで、後半はタコに質問をしたベルン。
他の面々は既に自分たちの常識の範疇の外の事で、理解自体を拒否しているようだ。
そして、タコがベルンの質問にこれまた律儀に応える。
「ワレガイチバンホッスルノハソコデキヲウシナッテオルコムスメノエナジーダ。・・ガ、スクナクテモモンダイハナイタメキサマラゼンインノエナジーヲイタダク。」
「それじゃー、次。エナジーは主にどういうエネルギーの事?」
「・・キサマラニワカルカドウカガナゾダガ、「ああ~、ストップ!」・・・ナンダ?」
タコがイキナリ会話に紛れ込んできた渉に訝しげな声で質問する。
「もうベルン先輩が興味深々だから最後まで付き合うが、その変な話し方はどうにかならんのか?聞き辛くて仕方ない。」
「何だ、そう言う事なら渉君の特殊結界内で話をすれば良いじゃない。君のあの結界は謂わば君だけの神聖な領域なんだから、例え天使や魔族でも易々とは思い通りに出来ない筈よ?」
「え?でも、それなら今もその結界の中に居るんですけど?」
ベルンの返答に一瞬キョトンとする渉だが、ベルンがその結界の中の模様を見て違いを言って来たのに驚く。
「でも、渉君。今のこの結界は貴方のお爺さん(・・)の一族の結界であって、貴方の特殊結界じゃないでしょ?私が言ったのは貴方の特殊結界の事よ。何だったら貴方の血の結界魔術をこのタコに直接施しても良いけど・・君の理性が抑えられるか分からないから薦めないわね。」
「・・・俺の魔術を何処まで把握してるのか気になりますけど、それはこの際置いときましょう。それじゃー取りあえず、オリジナルの結界魔術で囲ってみますよ。・・・」
渉は諦めてベルンの言う渉自身の特殊結界魔術を行使する。
この魔術は幼い時に祖父に禁じられた渉の禁術に近い物だ。
なにせ、この中ではほぼ渉の思ったように己や他の者の能力を設定できる。
しかし反動もそれなりにあって、これを使えばその後半日は魔術を行使する事はおろか、普通に行動する度に激痛が襲うので、緊急事態のみの使用を祖父に命じられたのだ。
しかし、今の状況ならベルンや健太も居るので、それほど危険は無いだろうと思って行使する事に決めた。
やり方は先ほどの場合と同じだが、篭める力が先ほどの数十倍の物に成る。
その効果は見た目にも表れ、虹色の膜の様だったフィールドが完全な虹色の空間に成り、その中の様子が外に漏れないようになった。
「くぅ~、やっぱりキツイな・・・。」
しかしながら、その反動は先ほど言ったように半端なく、施した際は自然と体の力が殆ど抜けるのだ・・が、初めてやった際は動けなかったのが、今は少しなら動ける状態の様だ。
「う~ん、少し辛い様ね・・・秀美ちゃん?渉君をこちらに向かせて膝枕して上げて?」
「・・え?僕がですか?」
「ええ、秀美ちゃんがした方が渉君も気持ちいいだろうし?何よりその特権を他の子に上げたくないでしょ?」
「///分かりました。渉君、少し横になってくださいね?」
ベルンに言われ、いち早く復帰した秀美が渉を横にさせてから膝枕するが、当たり前の如く秀美の顔は真っ赤だ。
しかも渉はこの機を逃すまいと秀美の太ももやお尻を何気に触っていた。
その際に、勿論マントしか羽織ってないので直にだから、当然感触はモロに伝わる訳で・・
ゴン!と秀美は渉の頭を殴った後に
「もう!悪戯は駄目だよ?!僕だって殴る時は殴るんだからね?」
「・・もう殴られてます・・・。」
悪ふざけで色々とやってたので回避に間に合わなかった為に思いっきり殴られてしまった・・・
勿論その際にも殴られた頭を摩るフリをして秀美の足の間に頭をグリグリと押しつけての悪戯をしている辺り懲りない性格の様だが・・・
そして、そんな漫才を楽しんでいる二人の傍で、魔物に向かってベルンは確認をする
「どう?コルダさん。私たちは変わりないけど、言ってみれば渉君にとっては、というよりここにいる全員にとって敵である貴方は如何いう状態になっているか分からないから、素直な感想を言ってね?」
「・・・問題ないな。逆に調子が元の世界に戻ったかのようだ。・・とても我を敵と認識しているとは思えん。・・どういうことだ?」
自分の状態を確認したコルダは、ベルンが先ほど言った条件の中で、如何して自分の体調が良くなっているのか気になった。
そして、ベルンは今の渉の状態を見て、「あ~、なるほど・・」と呟いてから自分の想像を語る。
「これは私の予想だけど、恐らくは結果的にこの状況にしてくれた貴方に同族意識が芽生えてるんじゃない?エロ的な。何を隠そう、この渉君はこの黙っていればカッコイイ見た目に反してものすっっっごいエッチな子だから。しかも自分の家庭の環境の事もあって幼い頃から魔術に触れてきた事で結構色んなことが出来るしね?今だってこの結界に居る私達女生徒のスリーサイズ位ならその状態が手に取るように解かるはずだから。・・・普段は面白くないってやらないけどね?覗いた方が興奮するって馬鹿な理由でだけど。」
「ふむ、ではこの世界ではその魔術とやらは誰にでも出来ると言う訳ではないのか?」
「ええ、普通の家系の人は無理ね?この中では扱える人が多いけど、この学校全体で見るなら1割弱ってとこかな?」
「そうか・・」
ベルンに現状を言われて何かを考え込むコルダ。
そこで、コルダの様子が大丈夫だと思ってか、ベルンは先ほどの質問を再度する事にした様だ。
「んで、話は戻すけど貴方の言ってたエナジーってのは如何いうエネルギーの事?その気を失ってる子が何かに秀でている様な感じはしないけど?」
「ああ、それはそうだ。」
ベルンの質問にコルダも頷く。
一体どういう事だろうか?
「我がココに来て感じる限りエナジーはこの世界には余り存在しない特殊なエネルギーの事だ。丁度さっき小僧のやった障壁に似ているな。話に聞く限りを我の解釈で言えばこの世界には魔なる物が居て、その者からそのエネルギーを消費する事で力を借りる術・・・と言った解釈で良いのか?」
「・・・ええ」
「その解釈で言えば、そこの娘がその魔なるエネルギーは、この世界はおろか幾つも存在する世界の中でも希少なほどのエネルギーだ。」
「・・そんな大層な子には見えないけど?」
ベルンが女の子を見ながら呟く。
「普通ではそのエネルギーは見えん。我も感じるのみだ。先程秀でている様に見えんと貴様が言ったが、本来初めて見る相手の事をどれ程把握していると思う?目に見えんエネルギーなら尚更であろう?」
「・・確かにね。」
「目に見えんその魔なるエネルギーを摂取しなければならん我らは、その感覚が優れておる。何処に居ても追いかけて行ける程にな?」
「・・・・アンタって案外凄い種族なのね。」
「我以上にそこの娘が持つ魔なるエネルギーが莫大な所為なのだがな?そして、娘の次に多いのは貴様だ。」
「私?」
自分を指差して聞くベルン。何気に嬉しそうだ。
「ああ、貴様はそこの娘ほどでは無いが、凄まじい魔なる力・・・魔力と言おうか?その魔力を有しておる。貴様の場合は莫大というのもあるが、それよりも洗練された刃の様な、研ぎ狭された質の力だ。言うなれば何年も掛けて磨き上げてきた手足の様な感覚だな。」
「・・・そんな事まで分かるんだ・・」
驚いた表情のベルン。そして、コルダは続ける。
「その次に小僧の頭を持ち上げている蒼い髪の娘だな。こちらは量こそそこの娘より、質こそ貴様より劣っているが、それでも相当な凄さを感じる。莫大な力が体の中で暴れ回っている様な感じだ。」
「・・へ?僕?」
秀美が急に振られてキョドっている。渉もベルンも驚いた。
実際、この中ではベルンの次にそう言う力を秘めているのは渉か、若しくは鏡花位だと思っていたのだ。それが、今日渉の実験に付き合う形で偶々居合わせた秀美が実は魔術師の才能が有るというのだから世の中分からない。
「その次が未だボー然としておる、銀髪の小娘だな。まあ、ここらになるとどれも似たような物だから大差はないが。」
言ってコルダは鏡花を見る。まあ、渉では無かったのは驚くが、鏡花も魔術師の家系なので分からなくもない。
「我が気になるのは小僧の力だ。魔力でもない、しかし、他の我が知るどんな力よりも濃い何かを秘めておる。こんな力は初めてだ。この妙な結界の力といい、小僧の正体の方がよほど気になる。・・・教えてくれそうではないがな?」
「まあな。俺も今気持ちいい所だからジッとしていたいし・・・あ、秀美ちゃん。もう少し手前に頭引いてくれる?」
「??こうでいい?」
渉の指示で言う通り手前に頭を引く秀美。
そうなれば当然マントの間から何も着てない体が見える訳で・・・
(おおー、絶景絶景♪)
秀美の綺麗なシミ1つ無い白い肌にテニス部で適度に鍛えられた弛みのない肉体。そして、小ぶりながら形の良い双丘が望めるアングル。
その渉の視線を理解はしているが、ここで放り捨てたら流石に嫌われるだろうと(そんな事は決してないのだが)羞恥心を我慢して言われたとおりにしている秀美。
(うう~、やっぱりエッチだよ~。絶対モロに見てるよ~。)
今の状態的に下は見られることは無いが、それでも恥ずかしい事には変わりないので早くこの一件が終わるのを祈りながら待つ秀美であった。
「・・まあ、渉君の力は私にもよく解らないから仕方ないけど・・・、そうだ、衣服を溶かしたのは何の為?」
「?キサマラは食事の際、体毛をそのまま喰らうのか?」
「・・いや、ちゃんと処理するけど?」
「それと同じ事だ。我らは他種が作った衣服なる物を取りこむことは出来ん。魔力を取りこむ際に体を取りこむ前にどうしても衣服は邪魔になるのでな?・・・偶に丸呑みにする者もいるが、大体は衣服を溶かしてから体ごと魔力を取りこみ、魔力を絞り取って吐き出す。」
「吐き出すって・・殺す事が目的じゃ無いの?」
「?死ぬことも勿論あるが、運が良ければ助かる可能性は高いぞ?要はその力で構成されておる肉体なら奪い取れば死ぬが、もともとその力が無い者なら少し体がだるく感じるだけで済むはずだ。」
「なら、その力を奪われたら力自体はもう戻ってこないの?」
神妙な顔つきで聞くベルン。恐らくは多少疲れる程度なら自分の魔力を渡して未知の生物を手懐けようとしているのだろう。・・流石オカルト研究部の部長である。
「それは心配ない。植物が枝を捥がれて再生する様に、大抵の物なら時間が経てば元に戻る。要は我らの餌にしているだけなのだからな?初めに言ったであろう?渡せば命は助けてやると。あれはそう言う事だ。」
「・・なるほどね、辻褄は合うわね。・・摂取方法は?」
「ちょっ!ちょっと、先輩?」
「なに?」
渉が慌ててベルンを制止させる。このままでは恐らく皆の魔力を取りこませる事になるだろう。
「もしかして、ですけど。俺たちの魔力?をそいつにやって、後から来そうな仲間に対抗する手段を聞き出そうと言うんじゃないでしょうね?」
「あら、正解よ?分かってるじゃない。・・・まあ、取りこませ方にも依るけどね?死にそうなやり方なら悪いけど、コルダの方に死んでもらうわ。・・で?方法は?」
最初は渉に、最後はコルダへの再度の質問だ。
「本来なら丸呑みが好みなのだが・・・この際だ、小僧、我を液状の貴様らが入れる様な物に変えろ。」
「・・ああ、成るほど。お風呂の様な物に成れば皆怖くないし、衣服も当然脱いで入る訳だし、それは良いアイデアね。・・・渉君?準備をして?・・そこの皆も、一人ずつ入って貰うから部室の窓を全部締めなさい。これで上手く行けばオカルト研究部の新しい研究材料が手に入るんだから、拒否権は無いわよ?!」
「・・はい・・・」×全
漸く現実に戻った皆も、もう諦めた感じで従っている。それに気づいたら7時だ。
これは全員入ってたら帰りが遅くなるぞと、この中では比較的真面な考え方の健太がベルンに注意を促す。
「先輩、もう正門が閉まりますよ?僕と鏡花ちゃんと渉は良いですけど、護さんと衛実ちゃんは家の門限が厳しかった筈ですし、秀美ちゃんは家庭教師がそろそろ来る時間帯ですから、帰らせないと。」
「・・・秀美ちゃんの家庭教師の教科はなに?」
「・・・英語です。」
「なら、秀美ちゃんの場合はココに来た場合は私が勉強を見て上げましょう。その方がテニスの方も練習の時間のロスが短縮できるでしょう。それに他の教科は中間テスト学年トップの渉君が居るしね?その代りここに来た時のみコルダ製のお風呂に入って貰うってのはどう?」
「・・・一寸きついんじゃないですか?」
「ああ、疲れたら渉君の結界でゆっくりしていけばいいのよ。秀美ちゃんなら渉君も大歓迎だろうし。・・・でしょ?未だに秀美ちゃんの膝枕で絶景を眺めている渉君?」
「イッエース。序に一緒に入っても良いよ?秀美ちゃーん。」
「それは恥ずかしいから遠慮しとくよ。・・まあ、いいです、少し待ってくださいね?今理由を言ってキャンセルしますから。」
そう言ってとうとう渉を膝から離して誰もいない所で家に電話を入れ始めた。
「う~ん、残念。」
そう言って感想を漏らした渉の服の裾を鏡花が引っ張る。そして、其方の方を向くと・・・
「・・・?」自分を指差して首を傾げている鏡花が居た。
「・・え?まさか、鏡花がしてくれるのか?嬉しいけど・・その・・見えるぞ?」
「見る?」
そう言って、少し口元を歪めて誘ってるようにしか見えない態度で挑発してきた。
しかも何気にマントのボタンに手を掛けている。なまじ鏡花も秀美たちとは違う部類の、小動物的な可愛いと言える容姿で、珍しい銀髪の緑眼で有る為ファンクラブまで出来る程の人気が有るから、反応に困る・・・普通は。
しかし、相手はエロ魔人の渉。
当然反応は・・
「みた・・」
「「見るな!!」」
ゴン!っと、電話を終えて帰って来た秀美と、近くにいた衛実に殴られて撃沈。
「・・ふふ・・」
そう微かに微笑んでトテテテテーと窓を閉める手伝いに行く鏡花。
「何がしたかったのかな?鏡花ちゃん。」
「さあ?それより、衛実ちゃんは良いの?門限。」
「うん、家に電話したらお兄ちゃんと一緒なら良いって。序に渉君に送って貰えって。・・ごめんね?内の両親は結構渉君のこと気に入ってるの。」
ごめんね?という感じの手を合わせたポーズではあるが、その表情は勝ち誇っている。
対して、秀美の方は両親に有った事すらない渉だ。幾ら渉が好意を寄せてくれているとしても分が悪い。・・・まあ、渉なら心配は要らないだろうが・・・
「よし、窓もドアも全部締めたし。渉君、秀美ちゃんに支えて貰って良いから、疲れるようなら極小サイズの結界を作ってコルダを変形させて頂戴。その後、順番に入ってコルダが満足したら私の提案を受けて貰う。・・・それでいい?」
「ああ、我としても餌が簡単に手に入るなら最善の協力はすると誓おう。」
「決まりね。じゃあ、順番を決めるわよ?・・あ、最初に女性陣から入るから、男性陣が入る時に違う場所で秀美ちゃんと私はお勉強をしましょうか?」
「はい、よろしくお願いします。」
「任せなさい♪」
という事で、渉達はベルンの指示で順番にコルダ風呂に入ることになった。