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東方 朧雪華  作者: めーりん
紅霧異変
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第四章 試験前日×十六夜咲夜という人物像×それぞれの思惑

‡‡‡‡


試験前日


「・・・・・・来たわね」


「お久しぶりです。」


「・・・・・」


「三日間で私が教えられる事は出来るだけ教えました」


三日間の訓練を終え、久しぶりに図書館を訪れた無月を、ジト目で本を読むパチュリーと、ふよふよと浮かんで本の整理を行っていた小悪魔が出迎える。


パチュリーの視線から、美鈴が報告を行い、パチュリーは小さく頷くと図書館の奥に一度引っ込んでゆく。


「・・・・・?」


「無月、言葉にしないと意思は伝わらない…私はそう教えました。少しずつでいいんです。自分の意思を言葉で伝える努力をしてください」


パチュリーの行動に疑問を抱いた無月が美鈴の方を無言で向く。しかし美鈴は首を振ると、無月の頭を軽く撫でると、無月に言葉で意思を伝える努力をする様に促す。


「・・・・・・善処する」


「随分仲良くなったのね。それにしても無月・・・・・ね。良い響きじゃない」


小さく無月が頷くと、奥からパチュリーがふよふよと浮かんだ状態で近づいてくる。


「一時的な呼び方ですよ。ただ・・・・・えと、その・・・・・お嬢様のネーミングセンスが少々不安なので・・・・・」


「・・・・・・確かにそうね。レミィは怒るかもしれないけれど、まぁ・・・・その、うん・・・・事実だしね。いい判断だと思うわ」


「・・・・・・ネーミングセンス、悪いのか?」


あはは…。と苦笑する美鈴に少し咳をしながら頷くパチュリー。無月は隣に降りてきた小悪魔に問いかける。


「ノーコメント。ノーコメントでお願いします」


「で?彼の能力持ちなの?」


「残念ながら分かりませんでした。能力もちだとした場合、お嬢様と同じ様な特殊な型なのか、それとも条件があるのか・・・・・・」


苦笑しながら後ずさる小悪魔と、不思議そうな表情の無月を余所に、パチュリーと美鈴は話し合う。


「あ、とりあえず無月、これを貴方に渡しておくわ」


「・・・・これは?」


パチュリーは魔法で浮かせた一振りの刀を図書館の奥から無月の前に移動させる。漆黒と深紅の意匠が施された鞘に収められた刀を見て無月は問いかける。


「元はレミィの持ち物だったんだけどね・・・・。ある日突然"私には似合わない"なんて言って私に寄越したのよ。多分手に入れた理由は鞘に施された深紅の意匠が気に入ったから、私に寄越した理由は使えなかったのが原因だと予想してるわ」


「・・・・・」


やれやれ、と肩を竦めながらパチュリーはため息をつく。無月は無言で刀を見ている。


「何となく貴方に似合いそうだしあげるわ。扱えるかは貴方次第だけど」


「・・・・・ありがとう」


「あ、やっと表情に変化が出てきましたね」


軽く笑みを浮かべながらパチュリーは刀を無月の手元に移動させる。受け取った無月はお礼を言い、美鈴が嬉しそうに無月の表情を見つめる


「無月もやっと表情に変化が見られる様になったわね。美鈴ってばどんな魔法を使ったの?」


「三日間私が彼とやっていたのは訓練と見回りですよ?見回りの時にちょくちょく話しかけたくらいです」


「(・・・・・何だか温かいな・・・・・)」


柔らかい表情で美鈴に話しかけるパチュリーとそれを宙に浮いて楽しそうに見ている小悪魔。美鈴も自分の事の様に笑っている姿を見て無月は心が温かくなったと感じていた。


「無月、レミィからの正式に試験を行うと通達が何故か私に伝えられたわ。正直言って通常弾幕すら張れない貴方が咲夜と戦うのは無謀だと思うわ。でも今回ばかりはこう言わせてもらうわ。"死なずに私の前に来て、貴方の世界の事をもっと教えて"とね」


「パチュリー様ってば素直じゃ・・・・・・きゃー!」


「口は災いの元ね、こぁ。スペルカード・・・・・。日符「ロイアルフレア」!」


「「・・・・・」」


珍しく真面目な表情で無月に伝言を伝え、見つめるパチュリー。それを横にいた小悪魔が茶化すが、素早く本を広げ、いつの間にか手にしていたカードを掲げてパチュリーが唱えると、掌の近くに魔法陣が出現、即座に炎の弾丸が小悪魔目掛けて放たれる。慌てて逃げていく小悪魔。


それを呆然と美鈴と無月は見ているが、不意に美鈴が話しかける。


「あれがスペルカード戦の基本とも言える技だと思っていて良いですよ。カードを掲げなくても使えます」


「あれが・・・・・・」


初めて目の当たりにするスペルカードに茫然と呟く無月。そんな様子を美鈴は心配そうに見ている。


「とりあえず・・・・・無月。その武器知ってるの?私は魔法メインだから、せいぜい東洋の武器である、ということくらいしか知らないのよ」


「・・・・・あ、ああ・・・・・種別(カテゴリー)は刀。斬り裂く事に特化した武器だ」


顔をやや赤くしながらパチュリーが茫然としていた無月に話しかける。ハッと我に返った無月は鞘から刀を静かに抜きながら説明する。


「・・・・・・綺麗ね」


「そうですねぇ」


「漆黒の・・・・・何だ?この刃紋(ハモン)は・・・・見たことがない。かなりの業物か・・・・?」


抜き放たれた刀身に見惚れた様に呟くパチュリーと美鈴。見たことのない刃紋に戸惑いながらも業物だと予測する無月。


「刃紋とは何?」


「刃紋と言うのは刀身に現れる模様の事だ。影光がそういうのに詳しくて何度か話をしてくれたんだが・・・・この刀の刃紋は影光に聞いたことがある刃紋のどれとも一致しない」


好奇心から刀を見ている無月に質問するパチュリー。無月は刀を様々な角度から眺めながら答える。


「・・・・・・何より銘が見当たらない。不思議な刀・・・・・いや、魔を纏う刀とでも表現すべきか・・・・・?」


ブツブツと呟きながらも鞘に収める無月。その間にパチュリーは小悪魔に図書館の奥からある物を持ってこさせる。


「・・・・・これは?」


「一応、スペルカードよ。ただし"まだ"使えないわ。」


一枚の無地のカードを手渡すパチュリー。無月は再び様々な方向からカードを観察し、質問する。


「どんな能力にするかは貴方次第。一応一枚だけ渡しておくわ」


「・・・・・ありがとう」


真面目な顔で説明するパチュリー。無月も頷くと、腰のベルトに付いているポーチの中に大切に納める。


「さて・・・・・と。レミィの言う試験まで一日になった訳だけど・・・・・。正直咲夜は危険よ。私レミィが例の支度に入ってから咲夜がまともに口を開いたのを見たことないわ」


「私もです。無月に容赦なくナイフを刺した時だって無表情かつ冷徹な感じでした」


神妙な表情でため息をつくパチュリー。美鈴も心配そうに無月を見る。


「咲夜・・・・ってどんな人物なんだ?」


十六夜(イザヨイ) 咲夜(サクヤ)。一度レミィの命を狙ってきた元外来人。衣食住が整っているという理由でメイド長になった人物よ。いつの間にかレミィに心から忠誠を誓ったのよ」


「何より幼い身でレミリアお嬢様の元に単身で乗り込んできて一時的に対等に渡り合った実力者です。普段はちょっとだけ天然など感じがする人ですよ」


無月の質問に答えるパチュリーと美鈴。…やや美鈴の説明に関係ない事が入っていた事に無月は突っ込まない事にした。


「・・・・ま、何とかなるさ」


「・・・・・え?」


「絶望的な戦いには慣れている。だから・・・・・その、泣きそうな顔にならないでほしい」


小さく呟き、パチュリーに軽く笑みを向ける無月。パチュリーは言われて初めて自分が必死に涙を堪える様な表情になっていると気がつく。


「泣いてないわ。私はただ、稀少なケースを失いたくないだけ。・・・・・今日は此処に泊まりなさい」


「・・・・・分かった」


無月に背を向けてふよふよと奥に向かうパチュリー。無月も刀を鞘に収め、頷く。


「小悪魔。夕食は貴方が作りなさい。咲夜も多分・・・・・今は忙しいだろうから。簡単な物でも良いわ」


「・・・・あい」


一度空中で止まると少し服や体のアチコチから煙を立ち上らせる小悪魔に指示をだすパチュリー。小悪魔は小さく頷くと、ふよふよと図書館から出て行く。


「では私も失礼しますね。無月、気が早いとは思いますし、余計なお世話かもしれないですが無理はしないでください」


「・・・・・善処はする」


心配そうな表情で図書館から出て行く美鈴。無月は美鈴が出て行った後に小さく呟くと、近くのソファに腰を下ろす。


‡‡‡‡


同日 同時間 レミリア・スカーレットの部屋


「クスクス・・・・・。いよいよ明日ね。楽しみだわ」


「・・・・(何なのかしら・・・・。この感情は・・・・?)」


満月に程遠い夜空を見上げながらレミリア・スカーレットは楽しそうに笑みを浮かべる。


後ろに控えるメイド、十六夜咲夜はそんな主を見て、心の中で形容のしようがない感情を抱いており、表情に出さないが戸惑っていた。


「私も運命を全て見ることはできない。明日の事も・・・・そして次の満月に私が行おうとしている事の結末も・・・・」


「(あの男が来てからお嬢様は楽しそうな表情をするようになった。・・・私は・・・・・)」


本当に楽しそうに呟くレミリアを見て咲夜は心の奥底から湧き上がるどす黒い感情に内心、戸惑っていた。


「何よりもあのパチェが気に入っている…。それが外来人の、しかも半人半妖なら尚更。こんなに楽しみなのは何時(イツ)以来かしら。」


(ワタクシ)には存じかねます。(あの男しかお嬢様はみていない。このままでは例の異変にも支障をきたす可能性がある。不安要素は排除すべき・・・・・ソウスベキ・・・・・)」


ふふふ・・・・・。と笑みを浮かべながら後ろに控える咲夜に問いかけてみるレミリア。咲夜は内なる感情と決意を隠しながら当たり障りのない答えを口にする。


‡‡‡‡


それぞれの思惑を余所に時間は流れてゆく。


そしてついに・・・・・試験の日が訪れる

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