とある使い魔の残す記録×召還者の秘密
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うーん・・・・・パチュリー様に命じられ、こうしてペンを握った訳ですが、どこから手をつければよいのでしょうかね。
とりあえず記録者として自己紹介から記入した方が良いのでしょうか・・・?
種族は小悪魔、紅魔館の住人からは"こぁ"と私は呼ばれています。
これは私の召喚者である"パチュリー・ノーレッジ"様が人手(と対魔理紗さん相手に雀の涙程度の防衛戦力)として私と同じ種族の子(と云うか私の同族ですね)を召還したため(その子は現在"リトル"と呼ばれています)いつしかこう呼ばれるようになりました。
さて、普段は一介の司書(もしくは部下)でしかない私がこうして記録を残す役割を担うことになったかといえばまあ、簡単にいえばパチュリー様の持病が悪化し、自分では記録を残せないと判断されたからなんですよね。
"記録は忘れない内に残す"事を信条にするパチュリー様から命じられたこのお仕事は、聞いた話によれば"裏側"に分類される記録であるそうです。
幻想郷の住人の一人"稗田阿求"様が編纂を続けている"幻想郷縁起"等を"表側"の記録とするならば、我々妖怪が残す記録は"裏側(もしくは"影")"の記録であるそうです。
本来なら私のような"名もなき妖怪"がする作業ではないのですが、パチュリー様が書けないと分かると、"賢者"たる八雲紫様や魂魄桜花様に密かに頼まれてしまったため、(かなり恐れ多いですが)こうしてペンを持ったのです。
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まず幻想郷に攻め込んできた敵(無月さん曰わく"皇帝直下特務師団"と云うそうです)は、桜花様と黙様の手によって皇帝に付与された能力等を全て封印した上で"向こう側"(つまり無月さんの元居た世界ですね)に送り返しました。
彼らを良く知る無月さん曰わく、皇帝に付与された能力に頼り切っていた連中であるため、能力が使えず、皇帝さえ居なければ何もできないそうです。彼自身もう元居た世界では"死亡"扱いであるそうなので、後は向こう側の人々に任せるとのこと。
皇帝自身は紫様が厳重に封印を施した上で閻魔様に預けました(預けたというよりは任せたという方が適切でしょうか)。その時の閻魔様の表情は、一言で表すならば無表情でした。後々ですが時折パチュリー様の元に資料を持ってきてくださる魂魄桜花様のお話しですと、あの表情をした閻魔様は初めて見た、との事でした。
あ、これも記録しておくべきでしょうね。無月さんは結局桜花様や紫様の要請(なんでも幻想郷の"要"になる事だとか。詳しい事は私には分かりませんでした)を"仮"とはいえ受諾したそうです。"仮"なのはまだ自身の能力を完全に把握していないため、だそうです。
そのために彼はこれから暫く(大凡一年とのこと)先代の博麗の巫女(後々聞いたら実は初代博麗の巫女との事。かなり驚きました)の伝手を頼り、修行に行くそうです。
おそらく"表側"の記録である幻想郷縁起にはこれらの事は一切記録されないのでしょう。まあ、言い方はアレですが、力のない"人間"には混乱の元でしかないと云うことは私でも分かりますし、それを"妖怪"側が記録するのはきっと、正否はあれど幻想郷の歴史であるためだと、少なくとも私はそう思いました。
"この幻想郷はすべてを受け入れる。それはそれは残酷な話しですわね"
"しかし受け入れるのは明確な共存の意思を持つ者のみ。だからこそ美しくも残酷なのです"
皇帝達を封印する間際、八雲紫様はこう、呟いていました。私が仰せつかったのはこの異変の全ての記録。ですのでこの八雲紫様の言葉を以て、異変が終結したのだと判断します。
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ふー、と息を吐きだしながら今まで座っていたために凝り固まった体をほぐすように小悪魔は体を動かす。そこに自身の主であるパチュリー・ノーレッジが少し咳をしながらであるが歩み寄る。
「こぁ、出来たの?」
「あ、はい。・・・・・というか私ごときがすべて書いちゃってよろしかったのですか?」
「そう卑下するものではないわ。それに一度書き出した書物を他人が勝手に書き足したりするのもちょっとね」
少し不安そうにしていた小悪魔の頭を撫でながら微笑むパチュリー。そして小悪魔が書いていた本に魔法を付与すると、その本は独りでに本棚に向かって移動する。
「そのような便利な魔法があるのなら何故私のような司書を召喚したんですか?」
その様子を見ていた小悪魔が不思議そうに問いかける。それは自分の事をよく知るうえで出た疑問であった。
「私が貴女を召喚した理由は二つあるの。一つは私の補佐や護衛を任せられる人物が必要だったから。今やってもらってる司書もその一環。私は体が弱いからね。二つ目は・・・・そうね、内緒」
「えー・・・・そこまで引っ張っておいてそれですか?それはそれで気になりますよぅ・・・・」
悪戯っぽく笑みを浮かべるパチュリーに、ガックリとうなだれる小悪魔。そのうなだれている自身の使い魔を横目に、パチュリーは心の中でその"二つ目の理由"を話さなかった理由を浮かべる。
「(言えるわけないじゃない・・・・一人が寂しくて友人になれそうな子が欲しいって召喚条件にいれただなんて・・・・)」
机に突っ伏す小悪魔を横目に、パチュリーはちょっぴり笑みを浮かべるのだった。