子供の理論×決着×最後の足掻き×朧げな雪のごとき華の技
お待たせしました。四話連続投稿になります。
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人質となっていた筈の人々の一人に無月が刺されたように見えた瞬間、紫は襲撃直前に無月に頼まれた事を忘れてその場にスキマを開こうとし、その式である藍も突撃しようと身に力を込めた。
「来るな!」
『ッ・・・・!』
その紫と藍をギリギリで留まらせたのは刺された筈の無月の声だった。その彼は自身を刺した男を蹴り飛ばし(他の人々は顔を青くしながら四方に逃げた)、藍の隣まで下がる。
「大丈夫なのか?」
「ああ。用心して張っておいた防御術式で、なんとかな」
藍が刺された跡がはっきり分かる服を見て心配そうに問う。応えた無月もかなりギリギリだったのか表情は厳しい。
「化け物が小賢しいな」
「やはり影武者だったのか」
「化け物・・・・ね。どこでその線引きをするかは個の裁量次第だろうに」
ここて蹴り飛ばされた男が起き上がる。その側には粉砕された皇帝(というかその影武者の残骸)があり無月も藍も苦々しい表情になる。
「余にとっては人間を越す身体能力や訳の分からない技術を持つ貴様等は十分化け物だ」
「だから滅ぼすか?共存の道を模索しない時点でお前は逃げただけだろう」
『そうね。逃げただけじゃなくて私たちの世界に来てまで人間以外を滅ぼそうとするなんて迷惑以外の何物でもありませんわ』
男の言い分に藍と紫が反論する。その反論は十分常識的であり、特に紫の反論は正論すぎて言い返す言葉があるとは思えないモノだった。
「私はあの時誓ったのだ・・・・化け物を全て滅ぼすとなぁ!!!」
いつの間にか傍らにあった皇帝の遺体(というか残骸)が消え、男の姿も皇帝に似た姿に変化していた。その男は手にロングソードを出現させると藍に向かって突撃を刊行する。
「貴様も貴様の理論で言えば十分化け物の分類に分けられるのだがな・・・・」
"初撃「強襲衝撃」"
「ガッ!?」
呆れたように藍が呟くと同時に、隣に居たはずの無月の姿が消え、驚愕の表情と共に男が吹き飛ばされる。
『屈辱だわ・・・・こんな自分勝手で子供じみた理論を語る馬鹿に焦らされてたなんてね』
「全くです・・・・」
吹き飛んだ男に興味を失ったように紫と藍は他の人々をゲートに送り返し、平行して封印術式を構築する。
"連撃「強襲連技」"
その背後では男・・・・皇帝が無月の乱打によって縦横無尽に吹き飛ばされていた。
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『満足した?』
「完全に瀕死だなこれ・・・・」
10分後、ゲートを閉じた二人の元に無月が皇帝を引きずりながら戻ってきた。皇帝の顔は原型を完全に留めておらず、両腕両足はあらぬ方向に曲げられているなど、無月が如何に容赦なく攻撃を叩き込んだのかが分かった。
『ま、念には念をと云うことで頼むわね、黙、桜花』
「分かりました」
「あいよ」
紫のスキマが開かれ、そこから二人の男性が現れる。二人は瀕死の男には目もくれずに封印の術式の残りを構築してゆく。その様子を見た無月はぼんやりとこれからどうするか(というか紅魔館のメンバーになんて言い訳しようか)を考えていた。
「これからどうするのかはこれから決めるといいと思うぞ?」
そんな無月に藍が声をかける。声をかけられた無月は少し油断しすぎたかと気を引き締める。瀕死とはいえ化け物じみた男がまだその場にいるという事実は変わらないと自分に言い聞かせる。
「やっとこのバカ騒ぎも終わりですわね。今、向こうの住人の最後を送り返し終わりましたわ。残るのはあの皇帝と側近の封印だけですわ」
「ごくろーさん。こっちは準備完了だぜ」
「お疲れ様です。これで最後ですね」
作業をしていた桜花、黙の傍に開かれたスキマから紫が顔をのぞかせる。その時無月の視界の隅で側近の一人が懐に手を入れたのが見えた。その瞬間、無月は大地を蹴り、その男の顔面に膝を叩き込む。
「無月!?」
「遅かったか・・・・!」
「ふははは!!王がこの程度で死ぬわけがなかろう!!王は今一度復活するのだ!!」
驚いた様子の紫と歯噛みする無月。蹴り飛ばされた側近をサポートしていた残りが笑いを上げる。
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壊れたように笑う男たちを八つ当たり気味にぶっ放した魔力弾で吹き飛ばすと、無月は皇帝に魔力弾を乱射する。その表情から不味い状況になったと判断した紫、黙、桜花、藍も無月に続いて妖力弾や霊力弾、魔力弾を叩き込んでゆく。
「・・・・どうかしらね」
「多少なりともダメージは入ったと信じたいですね」
「だな。むしろ死んでない方が不思議な量叩き込んだんだけどなあ・・・・」
息継ぎも兼ねて一度手を休めた紫が桜花や黙に問いかける。無月も警戒しつつ紫たちの方に下がっており、その表情は険しい。
「我は貴様らを殺し!!残りの化け物も滅ぼすのだ!!」
「ダメっぽいな・・・・てか俺らの弾幕が吸収されでもしたのか?あるいは自分が認識したものを自分の都合のいい事象に置き換えてるってのか?」
「仮にそうだとしたら我々に打つ手はありませんよ?」
高笑いする皇帝の姿が見えるようになり、桜花と黙が呆れたように口を開く。紫も藍もどうやって動きを止めようか考えるが、どうしても策が浮かばない。そんな中、無月が何かに気が付いたのか振り向く。
"神槍「スピア・ザ・グングニル」"
振り向いた無月の鼻先を掠めるように通過した深紅の槍は今まさに高笑いしながら立ち上がろうとした皇帝のどてっ腹を貫通する。
「な・・・・・に・・・・?」
"気符「星脈弾」"
"日符「ロイアルフレア」"
紫達が無月の視線の先を辿り、皇帝が自身のどてっ腹に空いた大穴に唖然とする中、追撃とばかりに虹色の弾丸と太陽のごとき炎の大玉が皇帝に着弾する。
「さて、無月・・・・説教は後回しね」
「もう、私たちを大切に思ってるのは良いですが、ここまで信用されない・・・・いえ、まあ、私は無月がどうしてあんなことをしたのか予想できているんですが、それでも一言欲しかったですね」
驚いた表情の無月に真っ先に歩み寄ったのは紅魔館の門番"紅 美鈴"と地下図書館の主"パチュリー・ノーレッジ"の二名。
「でも、それってお兄様が私たちの事大切に思ってくれてるって事じゃないの?」
「フラン、それはそれ、これはこれ、よ?怒るときは怒らないと」
その後ろからは紅魔館の主"レミリア・スカーレット"とその妹"フランドール・スカーレット"が続く。
「無月、言いたいことは山ほどあるわ。覚悟して頂戴」
「・・・・咲夜・・・その、あのだな・・・これは・・・」
自分が眠らせたはずの紅魔館メンバーの登場に唖然としてると、無月の隣はいつの間にか咲夜の姿が。無月がどういえばいいのか分からずに混乱する中、事態は動いていく。
「まさか諦めたのか?スキマ妖怪。・・・・まあいい、私たちが足止めするから術式を発動しろ。そっちでの足止めと封印の両立は難しいんだろう?」
「ッ・・・お願いしますわ・・・」
一瞬とはいえ諦めの文字が脳裏にちらついたことを見透かしたようなレミリアの言葉に、紫は歯噛みしつつも頷き、桜花と黙の両名も術式を起動する。
「仕留めようだなんて考えなくていいわ。こぁとリトルは足止めを最優先。奴は理解したものを自分に都合のいい事象に変更しているみたいね。なら、理解できない術式を用いるだけよ」
小悪魔二人に指示を出しつつ協力して皇帝に向けて魔術を連発するパチュリー。
「とりあえず邪魔はさせません。眠っていてもらいます」
素早く接近し、驚愕していた側近達全員の上から小型の気弾を放って両手両足を撃ちぬく美鈴。
「みんな無月の事を思ったからここにいるの・・・・それを忘れないで」
「みんなお兄様のこと大好きだもん!!」
そんな様子を見ていた無月の手に自分の手を触れさせ、微笑む咲夜。背中に飛びつき、笑顔を見せるフラン。
「咲夜・・・・終わらせよう。俺"達"の戦争を」
「・・・・ええ・・・!!」
触れていた咲夜の手を握り、驚いた様子の彼女の目を見据えて無月は意思を固める。咲夜も彼の意思を感じとり、力強く頷く。
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「術式は完成しました。あとは陣の中心にあの男を移動させ、動けなくしなければなりません」
パチュリーと小悪魔二人の弾幕で迂闊に動けずにいる皇帝を見つつ紫が説明する。側近たちはすでに陣の中に縛られており、陣は淡く光を放っている。
「行くぞ・・・・」
「了解」
「初撃は任せてもらうわ。行くわよフラン!皆も続きなさい!」
「任せてお姉様!」
腰に差したスルトルに手を添える無月、大型のコンバットナイフを手の中で一回転させる咲夜。二人が構えた瞬間、それぞれの主がスペルを宣言する。宣言されたそれは、"名"こそスペルカード勝負に使われるモノだが、その威力は全く制限されておらず、その名に相応しい威力を内包している。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」
「禁忌「レーヴァテイン」!」
姉妹の手から放たれたスペルはパチュリーが構築した特殊な魔方陣を突き抜けると、一瞬だけ途切れた弾幕の隙間を突き抜け、驚愕に目を見開く皇帝を吹き飛ばす。
「後はお任せしますね!」
「こぁ、リトル。追撃準備」
「「はい」」
吹き飛んだ先にはいつの間にか回り込んだ美鈴が構えている。それを傍目にパチュリーも準備を開始する。
「行きます!三華「崩山彩極砲」!」
美鈴の体術が炸裂し、口から血を吐きながら皇帝が吹き飛ぶ。
「こぁ、リトル」
「「承知しました!」」
吹き飛んだ皇帝を空中に押しとどめるように小悪魔二人が弾幕を形成する。
「月符「サイレントセレナ」」
「補佐しますパチュリー様!光符「華光玉」!」
「ナイスよ美鈴。これで駄目押し・・・・!」
"火水木金土符「賢者の石」"
パチュリーの真上まで小悪魔たちが弾幕で吹き飛ばすと、パチュリーがスペルを宣言。足元の魔法陣から光弾を乱射し、更に美鈴がスペルで補佐する。
そしてその補佐によって得られた一瞬にパチュリーのもう一つのスペルが発動する。
「・・・これで最後」
「私達の因縁、ここで断ち切るわ・・・!」
パチュリーの弾幕で更に空中に跳ね上げられた皇帝に二人の従者が挟み込むように接近する。
"合同連撃「紅魔朧雪華」"
無月が胴体に右ストレートを撃ちこみ、さらにスルトルで舞うが如く連撃を繰り出してから真上に蹴り上げる、追従した咲夜が蹴り飛ばされた皇帝にナイフを投げてから接近し、さらに蹴り上げる。
吹き飛んだ皇帝の体に突き刺さったままのナイフを起点に無月が雷系列の魔法を放ち、咲夜が縦横無尽に手に持つコンバットナイフで皇帝を斬り刻むと、無月の方に吹き飛ばす。
吹き飛んできた皇帝に無月の右ストレートが炸裂し、咲夜の方に再度吹き飛ばす。
その連撃は見る者の目を引き、スペルカード勝負の特性上、決して見ることのできない幻の技。
「これで・・・・!」
「終わりよ・・・!」
無数の連撃を受け、完全に瀕死状態の皇帝を咲夜が蹴り飛ばすと、それを軽々追い越した無月が上から、咲夜が下から同時に突撃し、皇帝を真っ二つに斬り裂く。そして駄目押しとばかりに咲夜がナイフを射出、皇帝の全身にナイフが突き刺さると同時に無月があるスペルを起動する。
"血霞「赤杭砕牙」"
宣言と共に皇帝の体中から赤い杭が突き出てくる。それは無月が最初のスペルを放ったときに撃ち込んでおいた銀筒に込められた血であった。
宣言と共に銀筒を破壊した無月の"血"は、文字通り皇帝の血を制御下に置くと、内から食い尽くす牙となっていたのであった。
「凄まじいスペル・・・・いや、技ですね」
「スペルカード勝負には使えない殺しの技、ゆえにスペルカード勝負以上に美しいと思えるんだろうな」
地上からその様子を見ていた黙と桜花は彼の本質を漠然とだが感じ取っていた。
"赤羽無月は敵対者には容赦しない"
それは紫や黙、桜花が自身の立てた計画に決定的に欠けていると感じ取っていた"ルール違反者への罰執行者"に相応しいと考えるほどであった。
「今までは紫と藍の奴が兼任で担当してたけどさ、俺たちの策に協力してくれるなら、彼に任せたいよな」
「ええ。そうすれば紫さんの負担もきっと減るでしょうし」
桜花と黙が相談していると"ドスッ"と云う音と共に桜花達の描いた陣の中心に皇帝が自身から生える杭と共に突き刺さる。藍の式によって移動させられた高官達が皇帝に這いつくばりながら近寄るが、しぶとく命をつなぎとめることに成功したらしい皇帝の意識は朦朧としているらしく、意味不明な譫言を呟くだけで精一杯のようであった。