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東方 朧雪華  作者: めーりん
過去とこれから×過去との決着
40/44

紅魔館の意思×無月と咲夜×無月の願い×全面戦争

‡‡‡


紅魔館のとある一室。主たるレミリア・スカーレットの執務室で、妖怪の賢者“八雲 紫”は息を止め、目の前の自分より幼いはずの吸血鬼を見つめる。


「・・・・正気?」


「当然だとも。それとも耳が遠くなったのか?ならもう一度言ってやろうか。無月を戦場に立たせたいなら、私の参戦も認めろって言ったんだ」


普段の丁寧な口調が崩れ、思わず、という形で出た問い。それにレミリアは確固たる意志を持ってもう一度自分の要求を突き付ける。その内容には少なからず無月も驚いていた。


「お嬢さま・・・・」


「無月。私は"今"、"この瞬間"からお前を"従者"ではなく"友人(とも)"として扱う。だから私の事は出来ればパチェみたいに"レミィ"と呼んでほしいね。ま、無理強いはしないけど」


思わず、という風に無月が声をかけるが、それに対してレミリアは余裕を持って話しかける。無月はレミリアの眼を見て、その決意が非常に固い事を悟る。


「それに私も曲りなりには幻想郷(こ こ)に来るまでは"外"で過ごしてたんだ。銃火器の知識はあるし、咲夜から無月の背に埋まってた弾丸の事も聞いた。それを踏まえて言ったのだよ」


「・・・・」


「無論、無月の世界の事情に首を突っ込む気はなかったんだがね・・・・・でも、気が変わったんだ。その決定打になったのは貴様だよ、八雲紫」


椅子の背に体重を預けながらカラカラと笑みを浮かべるレミリア。紫もそんなレミリアを見るのは初めてであったため、何も言えずにいる。


「少なくとも、そいつらは幻想郷(こ こ)に喧嘩を売りに来てるんだろう?なら幻想郷(こ こ)に住まう私たちがその喧嘩を買っても文句はないはずだ。怪我したり死んだりする覚悟があれば、の話だがね。私は決意を固めたからこうして参戦の意思を示したのさ」


レミリアは真正面から紫ではなく無月の顔を見据える。無月も、レミリアの意思が固い事を察すると、少々呆れ気味に口を開く。


「能力は一切使えないかもしれませんよ?」


「問題ないよ。その場合は"外"に居た時と変わらん」


「弾丸を受ければ死ぬ可能性もあります」


「戦場だろう?その覚悟はあるさ」


無月の確認するような問いかけに、レミリアは目をそらさずに答えていく。


そこにまた、乱入者が現れる。


「なら、私"達"が参戦しても問題はありませんよね?」



「美鈴・・・・」


そう、乱入者は紅 美鈴であった。さらにその後ろからはパチュリー・ノーレッジと小悪魔二人(こぁとリトル)も一緒に入ってくる。


「私の場合、能力にはあまり頼っていませんし、支援がある状態で敵の懐に飛び込むことさえできれば、敵は銃を迂闊には撃てないでしょう?敵に無月みたいなのが何人も居るはずないですし」


「私はレミィと行動してた時は指揮を担当してたわ。こぁは銃火器の扱いも出来るから、手助けできるわよ」


唖然とする無月に、なんてことはないように話しかける二人。そして無月の方に手が置かれ、無月がそちらを向くと、いつの間にか現れた咲夜も軽く笑みを浮かべながら参戦を告げる。


「当然私も参戦するわ。お嬢様が参戦するのだもの・・・・私も手助けするわ」


「・・・・何故・・・?」


思わず無月は聞き返してしまう。すると参戦の意を示した三人は一瞬顔を見合わせると、苦笑しながら無月の手を取る。


「何故、だなんて・・・・愚問というものよ」


「無月はこの紅魔館の住人じゃないですか」


「友人を助けるのに、理由は必要?」


咲夜が無月の手を取ると、そこに美鈴とパチュリーが手を添える。更にはレミリアもそこに加わると、彼女は笑みを浮かべながら紫に話しかける。



「これが"我々"紅魔館の意思だ。無月を戦場に立たせるなら、私達の参戦も認めろ。さもなくば、私達は全力で抵抗するぞ?時間を掛けるのはそちらも本意ではないと思うんだが」


「・・・・私の負けですわ。・・・どうせ桜花達の準備もまだでしょうし、しばらく待っていてください」


レミリアの言葉に、紫は深く息を吐き出してからスキマを開く。そしてそこに身を投じると、その場には紅魔館の参戦者のみが残された。


「さて・・・・パチェ、まだ武器は残ってる?」


「ある程度はね。あの隙間妖怪も私達の希望するモノ位は予想してるでしょうし、大丈夫じゃない?」


まだ少し頭が状況を把握できていないらしい無月を余所に、素早く準備を開始するレミリアとパチュリー。いつの間にか美鈴やこぁ、リトルも姿を消しており、それぞれが準備に入ったのか、とまだ上手く状況が完璧に把握できていない頭で無月は考える。


「あ、咲夜。無月と話したいことあるなら今のうちにね。死ぬ気はなくても、万が一ってこともあるし、後悔なんて残すんじゃないわよ?私はフランの説得があるから」


「・・・・ありがとうございます」


レミリアの言葉に、咲夜が礼を言うと同時に、無月と咲夜の姿はその場から消えるのだった。


「貴女も結構意地が悪いのね」


「そりゃあ、ね。ま、無月も咲夜もこれだけ言っておけばお互いに素直になるだろ?」


パチュリーの言葉にレミリアは肩をすくめながら答える。そして若干意地が悪い笑みを浮かべながら、彼女は友人に目配せする。


パチュリーも笑みを浮かべると、各々は行動を開始するのだった。


‡‡‡‡


レミリアの執務室から自身の能力(ちから)として幻想郷縁起にも記されている"時間を操る程度の能力"を用い、時間と密接に関わりのある空間を少し弄った咲夜は、無月と共に自身の私室に居た。


「咲夜?」


「ねえ、無月。私もこの世界の生まれじゃないって事、そして元の世界の事を全く覚えていないって事は以前話したわよね」


部屋に着くなりこちらに背を向けた咲夜は、やや困惑した無月に語りかける。その声音はなにか、決意を固めたように無月には感じた。


「ああ」


「あれ、半分嘘なの。元居た世界の事の大半の記憶を覚えていない"私"がはっきりと覚えている事。"私"が"私"として覚えている中でも一番古い記憶、それは黒い髪と、宝石みたいに綺麗な瞳を持つ男の子に、地獄のような場所から助けてもらった事。・・・・それを思い出したのは・・・・・つい最近見た"夢"が原因なのだけどね」


少し苦笑しながら振り向く咲夜。無月は無言でそんな咲夜から目を反らすことなく、聞き手に徹する。


「夢を見たから当時の感情と共に私がどう動いたのかは思い出すことができたわ。当時助けられた私は暫くしてその人物を探し始めた。"ただお礼を言いたい"・・・・ただそれだけの為に・・・・兵士であろうその人物を探すためだけに私は武器を取り、戦場に赴いたの」


無月の隻眼をハッキリと見据え、咲夜はどこか寂しそうに笑みを浮かべる。


「戦場を渡り歩いて二年、結局その人には会えなかった。ある時、偶然得た情報に私は絶望し、当時まだ幼い"私"は"過去"に遡る力を求めた」


そこまで言うと、咲夜はメイド服に引っかかっている懐中時計を手にする。


「この懐中時計はいつの間にか手にしていたの。手にした当時、私は本能的にこの懐中時計の使い方と、自身が身につけた世界の(ことわり)に喧嘩を売れる能力(ちから)を得たと理解した」


気が付けば無月は咲夜にベッドに押し倒されていた。事態の急展開に、若干頭が混乱している無月。そんな無月の眼帯を咲夜は外し、その傷痕を指で撫でる。


「ねえ、この傷痕は消さないの?」


「俺の未熟さが招いた結果だ・・・・戒めの意味を込めて消す気はない。というか何故俺は押し倒された?出来れば準備をしたいんだが・・・・ッ!?」


咲夜の問いに苦笑しながら答える無月。そして現在の状態に至る理由を問い、これからの事を考え、その準備をしたいと声を掛けるが、その声は唐突に途切れる。理由は至って単純で、無月に咲夜が抱き着いたからである。


「な・・・・あ・・・・??」


「ここまで言っても気付いてもらえないだなんてね・・・・。まあ"あの時"とは髪の色も瞳の色も変わっちゃったし、背も伸びたし、仕方ないかしら?」


唐突な出来事に混乱する無月を余所に、苦笑する咲夜。そして混乱しながらも問いかけようとした無月に再度抱きつき、言葉を封じる。


「・・・・まさか」


「そのまさか、よ。ようやく会えたわ・・・・!」


抱きつかれたという事態に混乱の坩堝にいた無月だったが、咲夜の言葉に、理解できてしまった事があり、思わず言葉がこぼれ落ちる。


その言葉に一度離れて顔を見せ、悪戯っぽく笑みを浮かべる咲夜。その瞳には涙が浮かんできており、咲夜は再び無月に抱きつくと、その胸に顔を押し付けて涙を流す。


「まさか"あの時"の女の子が咲夜だったのか・・・・」


「必死に探したのよ?怖い思いをして時を操る、だなんて機械を使ってまで、貴方にお礼を言いたかったのに・・・・!」


ポツリと呟いた無月の言葉に咲夜が涙声で答える。その言葉を聞き、無月は昔聞いた帝国での事件を思い出した。


それはまだ、無月が師である影光と行動を共にしていたとき、帝国の研究所が何者かに襲撃され、そこで開発されていた機械が破壊されたというものだった。


事態を知るために解放戦線の作戦参謀達の指示で無月達がその場に派遣され、そこで得られた情報こそが帝国が時を超えて様々な時代に侵攻するというふざけたモノだったのだ。


その情報を元に解放戦線は、帝国の脅威の排除と"初代"解放戦線の望みを叶えるため、皇帝の暗殺を決定。戦線のエースである無月と影光の支援の為に大規模な囮作戦を展開。しかし結果は作戦が漏えいしていたのか、逆に殲滅されそうになった為、囮部隊を守るために皇帝暗殺を強行した影光の死という、後味の悪いものになったのである。


‡‡‡‡‡


「・・・・・恥ずかしい所見せたわね」


「あー・・・・まあ、気にするな」


暫くして抱きついていた咲夜が照れくさそうに身を離す。無月も咲夜の過去というインパクトと、抱きつかれたという恥ずかしさから、目を反らす。


無月が視線を逸らしている間に手元の懐中時計を確認する。レミリアの私室から出て十分あまりが経過しており、そろそろ時間であると咲夜は考える。


「無月、そろそろ時k・・・・」


そろそろ時間だろうと無月に教えようとする咲夜だったが、突如首元に衝撃を感じると、急速に意識が遠のいてゆく。


途切れる間際に咲夜の目に映ったのは、とても申し訳なさそうな表情の、自分が大切に想っている人物の顔。それを最後に咲夜の意識は完璧に途切れるのだった。


‡‡‡‡


「・・・・お前を・・・・お前だけは巻き込むわけにはいかなくなったんだ・・・・済まないな咲夜」


意識を失った咲夜をベッドに寝かせると、申し訳なさそうにしていた無月だったが、意を決したように彼女の首に自分の首元から外した装飾品を首に掛ける。


それは兵士にとって命と同義語である認識票(ドッグタグ)であり、本来なら死んだときにのみ片割れが外され、もう一方をもって戦死確認とされるプレート。


それを両方とも他人に預けるという事は、死ぬ気は一切無いという意思の現れだと彼は師である影光から教わっていた。そして無月は咲夜に一度目を向けると、静かに部屋を後にするのであった。


‡‡‡‡


紅魔館 正面ホール


「無月、咲夜はどうしたの?」


「少し遅れるそうです・・・・色々とありましたので」


紅魔館の正面ホールに到着した無月を出迎えたレミリアは、咲夜の姿がないことを訝しみ、彼に問いかける。


無月はそれに苦笑しながらも答える。レミリアもまさか無月が嘘を言っているとは思いもせず、小さく頷く。


「(さて・・・・・始めよう。この"戦争"にお嬢様達を巻き込むわけにはいかない)」


気取られないようにホールに集まった面々の位置を確認する無月。レミリアもパチュリーも、美鈴や小悪魔二人(こぁとリトル)も無月がそんな事を考えているとは思っていないのか、自分達の武器をチェックしたり戦術を話し合っていたりしている。


「みんな、話しがある」


「なに?」


「何かしら」


「・・・無月?」


無月はこれから自分が行う事に対する皆の心境と、もし生きて帰還した場合にどうなるのか覚悟した上で話しかける。レミリアやパチュリーは純粋に無月が敵についての情報を話すのだと思って振り返り、美鈴だけは無月の声音から何かを感じ取ったのか、若干訝しみながらも彼の目を見る


"魔術「ヒュプノスの誘い」"


「ッ!?・・・・無・・・月・・・・・?」


「な・・・・なに・・・・を・・・・?」


「くっ・・・・無月・・・・貴方まさか・・・!」


皆がこちらの目を見た瞬間、無月の魔法が炸裂する。それはスペルカードではなく、純粋に戦闘などに用いる魔法。レミリアもパチュリー(と小悪魔二人(こぁとリトル))も予想外の出来事に、何も抵抗できずに急速に訪れる睡魔に意識を奪われる。


美鈴はとっさに舌を噛むことで睡魔に抵抗するも、素早く近寄ってきた無月に首筋を叩かれ、彼が何故このような事をしたのか気付くも、意識を手放すことになった。


‡‡‡‡


「で、結局貴方だけが向かうのね」


「ああ。これは俺の"戦争"だ・・・・ケリは俺がつけるさ」


紅魔館から出てきた無月を見て、紫はため息と共に問いかける。無月は小さく笑みを浮かべると、紫がどこからか用意してきた武器を手に取る。


「一応、貴方やあのお嬢様達の扱い慣れていると思う"外"の国の武器よ。"外"からの入手は案外楽だったわ」


「助かる。・・・・お嬢様達が着たら通しても良い。それまでに片付ける」


武器を手に、色々と選んでいる無月に説明する紫。無月は装備を整えると、珍しく強い意志と共に決意を固め、紫の開いたスキマに身を投じるのであった。

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