第二十六章 博麗霊那×祖なる者
霊那の説明と人里の始まり
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無月と咲夜から無言の視線を受けた桜花が観念したように両手を挙げる
「とりあえず順序良く説明するよ。まあ結論から先に言えば、あの後幽々子さんは自害。仕方なく俺と霊那は術式を変更して・・・ふらりと現れた黙、紫の四人で西行妖を封印した。幽々子さんの遺体を要にして、な・・・・。」
少し後悔しているような表情になる桜花。彼としても幽々子を救えなかったことはとても悲しいことだったらしい。
「で、幽々子さんが亡霊になり、閻魔サマから亡霊の管理を任されたことで白玉楼を冥界に移す事になってな。長距離移動用の術式が使え、なおかつ封印術式にも詳しい俺が魂魄家に雇われる形で同行することになったのさ。まさかあの時斬りかかってきた青年がそんなことを提案するだなんて予想外だったがな」
クスクスと思い出し笑いをする桜花。彼にとって当時の思い出は色々な意味で忘れることが出来ないのであろう。
「俺が本来の名前を改名するときに"魂魄"の姓を預けられたのはその時さ。妖夢の祖父にあたる妖忌、彼は当時は"まだ"専属の庭師じゃなかったんだけどな、彼が根無し草だった俺を迎えてくれたのさ。それと同時に亡霊となったことで記憶の大半を失った幽々子さんは俺に"桜花"の名をくれた」
思い出すように、懐かしそうに語る桜花。霊那もその辺りは聞いたことがなかったのか、無月たちと同じように聞き入っていた。
「まあ俺に関しちゃこんな感じかな。まあ、君達が一番気になってるのは霊那のことだろう?まあ、早い話が霊那は初代博麗の巫女さ」
「補足すると、桜花さんは私の命の恩人であり、師でもあるんです」
気楽に語る桜花。霊那も桜花が言わなかった部分であり、自分にとってとても大切なことを語る。
「"幻想郷"の仕組みが誕生したのは1500年代の初頭でした。しかし1200年頃・・・・つまり幽々子様が自刃した頃より前、既に私の住んでいた土地の周辺には鬼を頂点とした山が存在し、ほかにも多数の妖怪が住んでいました。そのため多数の退魔師が村を作り、妖怪を監視していたのです・・・これが今の人里の原型です」
いつの間にか白玉が霊那に一枚の巻物を手渡す。相当年季の入ったであろう巻物を広げながら霊那は語ることを止めようとしない。
「私が桜花さんと出会ったのはまだ私が神社の巫女になって間もない時でした。両親は私を生んで間もない頃に病気で亡くなり、私の世話は退魔師の村の方々が見てくれました。しかし退魔師の方々が扱う術式はどういうことか私には扱えなかったんです。途方に暮れていたある日、私の神社に一体の妖怪が侵入しました・・・・撃退する術のなかった私は死を覚悟したのですが、その時桜花さんが私を助けてくれたんです」
あの時はとても格好よかったです、と微笑む霊那。桜花はかなり恥ずかしいのか、霊那の視線から逃げるように顔を逸らす。
「霊那の居た神社・・・まあ、今の博麗神社は地脈や霊脈といった様々な要素が集まる地だったのさ。萃香を含めた鬼連中をその近くの山に飛ばしたって言う前歴がある俺は定期的にその近辺の地を見回るようにしてたんだ。萃香達にはしっかりと決まりごとを守るように言いつけてたからな、退魔師連中が専ら気にしていたのは野良妖怪が悪事を働くことだったといっても過言じゃねーんだわ」
頭の後ろで手を組みながら桜花は天井を見上げる。
「元々霊那が居た土地ってのは竜神と縁がある土地って事もあってか非常に幻想が定着しやすいって特色があった。退魔師連中もその事に気がついていたからこそ不便を我慢して定住したんだろうしな。で、霊那は(当時の)俺が知る限り、極めて稀有な才の持ち主だったのさ・・・退魔師連中が扱う術式よりも扱いが難しい霊力を扱えるっていう、な。退魔師連中はどちらかってーと地脈から力を借りる術式が主だったからな、仕方ないっていえば仕方ないんだけど」
「私を助けてくれた桜花さんは一瞬でそのことに気がつき、私に身を守る術を教えてくれました。・・・・簡単に言えば桜花さんが博麗の術の開祖といっても過言じゃないんですよ?」
「開祖って大層な者じゃねーよ・・・俺はあくまでも助言役に過ぎん。実際に術式を改良したのは霊那だったし、陰陽玉の案だって霊那が言いだしっぺだ」
「それでも私からしたら桜花さんは博麗の恩人です。それだけは絶対に譲れません」
気楽に語っていた桜花だったが、少し嬉しそうな霊那の一言を少々慌てながら否定する。しかし霊那は頑なにそれを否定し、桜花も最早諦めているのか、ガックリとする。
「と、まあこれが霊那と俺の関係かな。まさか西行妖封印後に白玉楼での暮らしと両立して霊那と一緒に術式を改良したり構築してると時にあのスキマが訪れて幻想郷の基盤を作らせてほしいだなんて思いもしなかったけど」
「あの時の紫様の表情は面白かったですね。あそこまで慌てたのは後のも先にもあの時だけではないでしょうか」
クスクスと笑みを浮かべる霊那と桜花。そこで無月と咲夜は気になることができた。桜花はその雰囲気を察したのか、真面目な表情になると、二人に向き直る。
「で、霊那がこうして留まってるのは早い話、幻想郷を覆う博麗大結界の要のためなのさ」
「とはいえ私が生きていた当時(1200年頃)はまだ計画段階だったんです。ですが紫様や桜花さんの言い分では私のような才を持つものは滅多にいないこと、また私自身が結界に適正を持っていたことから、私は桜花さんの術式で"人間"を止めたんです。・・・・・なにより私自身、桜花さんと離れたくなかった、というのもありますけど」
真面目な話しをする桜花と霊那。霊那の最後の一言に、桜花の顔がどんどん真っ赤になってゆくが、無月と咲夜はそれが自分たちにどう関わるのかがいまいち理解できていなかった。
「ったく、霊那は不意打ちに等しいタイミングでそういうこと言うんだから・・・・。まあいい。この話しを君達にした理由は一つ。霊那と共に博麗大結界の要になってほしいんだ」
「正確に言うならば、要になった後、博麗の巫女の手助けをする役割を任せたいんです」
「つまり助っ人のような役割を俺たちに求めると?」
真面目な顔で継げる桜花と霊那。無月の問いに、二人は頷く。
「・・・・少し考えさせてほしい」
「流石に私も即答はできませんわ」
「まあそうだとは思う。まあ今回の話しは説明と提案だと思ってくれ」
少し申し訳なさそうにする無月と咲夜。対して桜花は笑みを浮かべながら返す。
「二人はこれから予定は?」
「三日後にミスティアの屋台に顔を出そうかと思っているが」
桜花が笑みを浮かべたまま気楽に問いかける。無月はミスティアから受け取った紙を見せながら答える。すると桜花は少し考え込むと、とある提案をする。
「じゃあ休暇中、妖夢と手合わせしてやってくれないか?」
「仕事はいいのか?」
「かまわねぇよ。今は補佐役でいるとはいえ、妖忌が幽居するまでは魂魄家で仕事をしてたんだぜ?」
桜花の提案に無月が若干心配そうに問いかける。対して桜花はにやりと笑みを浮かべる。
「・・・・分かった」
「ありがとうな・・・妖夢にとっても君にとっても互いに切磋琢磨できる相手が居るってのはいい刺激になると思うからさ、頼んだぜ」
ため息をつきながら無月が頷く。桜花は人のよさそうな笑みを浮かべると、頭上にいつの間にか魔方陣を描き、姿を消す。先に幽々子に許可をもらいに言ったのだと無月は予想する。
「・・・何時までも自由気ままなんだから」
「あの男が博麗の術の基礎を組んだとはな・・・予想外にも程がある」
少し呆れ気味に霊那がため息をつく。無月も予想外の事が連続して発生したためか、珍しく疲れたように肩を落とす。
「そういえば先代博麗の巫女になったのは何故なの?確か博麗の巫女は"外"から現れると聞いたのだけど」
「それは本当です。正確に言えば、私を除いた歴代の博麗の巫女は皆孤児です・・・・何故かそういう女の子に博麗の力は宿るんですよ」
咲夜がふとした疑問を霊那に問う。その問いに対して霊那は大前提となる情報を述べる。
「その代の巫女の力が劣りだすと桜花や紫様にそれが分かるんです。で、紫様が"外"を探り、巫女としての素質を持つ幼い孤児の子を神隠しとして幻想郷に招き、それをその代の巫女が育てるかどうか決めます。今の巫女の二代前の時はその素質を持つ巫女がどういうことか現れませんでした。ですので私が臨時で巫女に就任し、異変を解決していたんです。」
霊那が語る内容に少し眉間にシワが寄る無月。すると霊那が困ったように口を開く。
「確かにやっている事はアレかもしれません。計画当初は私が仙人、もしくは神霊として巫女として活動する、なんて案もあったんですが、博麗の巫女に求められる在り方を突き詰めるには代を継いでゆく必要があったんです」
霊那の語る内容に首を傾げる無月。咲夜は予想がついたのか、やや躊躇いがちに問いかける。
「妖怪側の記憶…ですか?」
「はい。それなりに力を持つ妖怪は少なくとも60年以上は生きます。博麗の巫女の代が変わらない場合、抑止力として"働きすぎて"しまう可能性があるんです。それなりに長く生きる妖怪ならば不要な記憶を消すなどしますが、幻想郷で生きるならば博麗に関する必要最低限の記憶は残します」
「だが、博麗の巫女が不変では妖怪が自分の恐ろしさを伝えにくくなってしまう、か」
咲夜の問いかけに霊那が頷く。無月も合点がいったのか、腕を組むと納得したように息を吐き出す。
無月達の言葉に頷いた霊那。そして失っていない右肘をちゃぶ台に付くと、少しの間三人は談笑をする。そして紅魔館の日常についてあらかた話し終えた頃、霊那は無月達に顔を向ける。
「どうやら無月さんも咲夜さんも"彼女"とも面識があるようですし、"彼女"の事もお話ししておきますね。先ほど話した計画に"彼女"も協力してくれていますから」
唐突過ぎる霊那の言葉に首を傾げる二人。無月も咲夜もそんな人物に心当たりはなかったからである。
遅筆作者ことめーりんです
はい 霊夢を大人にした感じの巫女さんこと博麗霊那さんのお話です
この話は結構苦労しました。理由?年代を調べたりそれに合わせたお話にしたり 霊那が未だに居る理由を考えたり…
ぶっちゃけMUGENとかで見かける先代にしようか悩んだんですけどね、せっかくなので一から設定を考えました
感想やレビューお待ちしてまーす