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東方 朧雪華  作者: めーりん
永夜異変
26/44

第二十二章 異変後の後始末×月の頭脳が開く真実の門

独自の解釈が含まれます。ご注意ください

‡‡‡


不死の姫と薬師の起こした異変は、楽園の素敵な巫女と境界の妖怪、普通の黒魔術師と七色の人形遣いの二組の手によって解決された。しかしその影ではとある青年の命が危険な領域に陥っていた


2004年9月27日 永遠亭




永遠亭のとある一室。そこで月の頭脳とまで言われた女性"八意永琳"は滅多に見せない表情で必死に治療を施し、弟子でもある狂気の月の兎"鈴仙・優曇華院・イナバ"も顔を歪めながら必死に一人の青年の命を助けようと手を動かしていた。


「・・・・無月」


部屋の外でそんな声を聞きながら、紅魔館のメイド"十六夜咲夜"は血で真紅に染まったままの格好で椅子に腰掛けていた。そんな彼女に人物が歩み寄る。


「見てらんないねこりゃ・・・・ほら、とりあえず風呂入ってきなよ。この様子だとまだ時間かかりそうだよ」


「・・・・でも・・・」


「何かあれば私が知らせる。酷い顔だよ・・・・彼のことも大切だろうけど、心の整理してきな」


顔を真っ青にしていた咲夜に話しかけた人物"地上の兎"こと"因幡てゐ"が腰に手を当てながら進言する。咲夜は青ざめた顔のまま何か言いかけるが、てゐの言葉に力なく頷くと小柄な妖怪兎の案内の元、姿を消す。


‡‡‡


30分余りが経過した廊下に立ちすくむてゐ。


「・・・・自分の本心に気づきなよ・・・・人間の生ってのはあっという間なんだからさ・・・・」


「・・・・てゐ。彼女は?」


「心の整理をさせる為にも風呂行かせた。今頃心の整理でもしてるんじゃないかな。・・・・・で?どうなのさ」


「・・・・今夜から翌日辺りが多分、峠ね・・・」


咲夜が妖怪兎の案内の元、去っていった先に顔を向けながらポツリと呟くてゐ。そんな彼女の隣に、いつの間にか血を拭った永琳が隣に立つ。てゐはそんな永琳に問いかけると目を伏せる。


「私が幸運を与えても無理なのかい?」


「こればかりは・・・・ね・・・」


てゐの問いに首を振る永琳。あの後、スカーレット姉妹の混乱した頭では役に立たないと判断した八雲紫は姉妹を強制的にスキマで紅魔館に移動させた。狂気の波長に当てられた魂魄妖夢の事もあるため、西行寺幽々子も妖夢を伴って白玉楼に帰還、何も出来ない霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイドの両名は何か手伝えることがあれば伝えてほしいと言伝を残して帰還。八雲紫は永遠亭に残り、博麗霊夢は姉妹に説教を行うために紅魔館に共に移動した。


「あの娘は一度帰したほうがいいわね・・・・このままじゃ心が壊れてしまうわ」


「そうだね。鈴仙は?」


「彼の様子を見ている。何かあれば知らせるでしょう」


長い廊下を歩きながら永琳とてゐは話し合う。そんな中、二人がたどり着いた部屋には、代えのメイド服(どうやら紫が持ってきたらしい)に着替えた十六夜咲夜、八雲紫の二人が待っていた。


「待たせてしまったかしら?」


「いいえ。彼女に今後の紅魔館に対しての罰則を伝えていたので大丈夫ですわ」


「・・・・私は一度情報の整理や・・・今しがた伝えられた決定を主に伝えなければならないので失礼します」


永琳の問いかけに扇で口元を隠しながら紫が答える。咲夜はまだ暗い表情でお辞儀をすると、その場を去ろうとする。


「彼は必ず助けて見せます。だから安心してください」


「・・・・・分かりました」


すれ違い様に永琳が咲夜に確固たる決意を込め、宣言する。咲夜は暗い表情のまま頷くと、消えるように去ってゆく。それを見送った永琳は紫に向き直る。


「此度の異変、私が愛する幻想郷の根源を揺るがす大異変といっても過言ではありません。故に罰則は厳しいものになるとお思いになってください」


「・・・・それは承知しているわ。で?私に何を望むのかしら」


「まず一つ目は宴会場所の提供とそれに伴う食材などの提供ですね。もう一つは彼の治療です。他にも望むことはありますが、それは後日纏めて式に伝えさせます。私も今回ばかりは忙しくなるので、宴会は次の満月辺りが望ましいかと」


「・・・・分かりました」


永琳と紫が(表面上は)穏やかに話し合う。しかし傍から見ているてゐには、紫の目は殺さんばかりの眼光で、背筋が凍るように感じた。


「では私はこの辺りで失礼しますわ。・・・・"彼"の治療、お任せします」


「・・・・・ええ。必ず」


紫が扇で口元を隠しつつスキマを開き、中に入ってゆく。スキマが閉じる瞬間に告げられた言葉に、永琳は珍しく決意を込めた目で答えるのだった。


‡‡‡


2004年9月28日 紅魔館


「・・・・ただいま帰還しました」


「・・・・・あら、遅かったわね」


「・・・・・」


「・・・・・」


日付が変わった頃、意気消沈した咲夜が紅魔館に帰還すると、そこには腰に手を当て、無表情で仁王立ちする霊夢と、全身に霊夢が扱う御札が突き刺さったままうつ伏せに倒れているスカーレット姉妹、そして大き目の羊皮紙を片手にため息をついているパチュリーが居た。


「あ、帰ってきたわね。レミィはご覧の有様だから、咲夜はこれ集めてきて。・・・・心の整理はできたのだろうけど、それでも気分転換も大切よ」


「・・・・・分かりました」


「ほら立ちなさい。まだ私の説教(物理)は終わってないわ。レミリア、あんたは強制よ。フランドールはもういいわ。門番、アフターケアよろしくね」


「うう・・・・鬼巫女め・・・・」


「分かりました・・・・程々にお願いしますね・・・?」


「善処はするわ」


パチュリーが気を利かせてなのか、咲夜に羊皮紙を手渡す。咲夜はパチュリーの気遣いに内心感謝しつつも羊皮紙を受け取り、姿を消す。一方霊夢は未だ怒りの形相で御札を構えると、レミリアを蹴り起こしつつ、美鈴に指示を出す。蹴られたレミリアの事を一応フォローしつつも美鈴はフランを抱え、その場を後にする。


無月(あいつ)に瀕死の大怪我負わせたこともあるし、妹の言い分を聞こうともしなかった、今回の説教(物理)はこれが理由。分かってる?」


「分かってるわよ・・・・・。癪だけどフランと和解もできたのよ?そこを貴女が・・・」


「言い訳無用。今回の件で無月(あいつ)が死んでたら、あんたを殺してたわ。私も無月(あいつ)のことは結構気に入ってんのよ」


腰に手を当てたまま霊夢は問いかける。レミリアも少し目を伏せながらも反撃しようとするが、霊夢の剣幕に押され、俯くしかない。


「とにかく!!あんた達姉妹は無月(あいつ)が戻ってきたらしばらく休暇を与えること。ああ、ついでに咲夜にも無月(あいつ)と同日分休暇だしてやんなさい」


「ちょ・・・・紅魔館(うち)の働き手を一気に休ませる気!?冗談じゃ・・・」


「今回起こした不祥事に関しての"博麗の巫女"として紅魔館に対して命じる罰よ。文句ある?」


「う・・・」


目を伏せていたレミリアに対し、霊夢が告げた内容。その内容に思わずレミリアは反論する。しかし霊夢の、博麗の巫女としての一言に言い返せずに頷くしかなかった。


その日の早朝、太陽が昇らない夜空を、まるで憂さ晴らしするかのように飛び回る咲夜の姿が天狗の新聞に取り上げられたことを余談として記しておく。


‡‡‡


2004年10月12日 迷いの竹林


永夜異変と名付けられた異変が解決して約2週間が経過した。一週間経過しても目を覚まさなかった無月だったが、異変解決から10日を経過した頃にようやく意識を取り戻した。その知らせを受け、紅魔館のメイド"十六夜咲夜"は主に許可を得て彼を迎えに、迷いの竹林にやってきたのだった。


「おや、来たのはあんただったのかい」


「ええ。お嬢様も妹様も、今はお休みになっていますから」


「しっかし、あんたちゃんと寝てるのかい?目の下に若干隈できてるよ?」


「無月の退院と同時に・・・・その、霊夢が許可を出すまで休暇を出されることになりまして、その間の引継ぎなどの下準備に忙しかったので、熟睡はできなったですわね」


竹林の入り口に立つ小柄な少女"因幡てゐ"が咲夜に気がつき、声をかける。咲夜の顔を見てやや心配そうにするてゐだったが、気持ちを切り替えて案内することにした。


「彼、正直"あの日"の夜辺りが峠だって師匠は言ってたんだけど、彼の意思が強かったんだね・・・少しずつリハビリってのをやってるよ」


「・・・・そう・・・・」


「ねえ、これは年上からのアドバイスってやつなんだけど、少しは正直になったらどうだい?彼と違ってあんたは人間。どう足掻いたってあんたの方が彼より先に死んじまうんだ・・・・後悔しないようにした方がいいよ」


「・・・・・心に留めておくわ」


歩きながらてゐが咲夜に独り言のように話しかける。咲夜も何か思うことがあるのか、小さく頷くだけにとどまる。そんな会話を交わしながら歩く両名。すると二人の前に若干崩れ気味の永遠亭の門が見えてくる。


「あの吸血鬼のおかげでごらんの有様だよ・・・・彼やあんたが屋敷を守ってくれたのは本当に感謝してる」


「主の暴走を防げなかったのは事実ですから・・・・」


「あら、いらっしゃい」


門を見ため息をつくてゐ。咲夜もこれには申し訳なさそうな表情になるしかない。門を潜った二人を永琳が迎える。


「彼の回復力には目を見張るものがあるわ。今、ウドンゲが最終チェックを行っています。それが終われば晴れて退院ね」


「そうですか・・・・・」


永琳の言葉にホッとする咲夜。そんな彼女に永琳は少し考え込むような表情をすると、躊躇いがちに話しかける。


「・・・・彼のこと、貴女はどう思っているのですか?」


「・・・・・え・・・・?」


「正直に問います。彼のこと、大切に思っていますか?」


突然の永琳の問いかけ、それに咲夜は考え込む。彼の居なかったわずか二週間余りの日々をふと思い出した咲夜は顔を上げると正直に話すことにした。それは彼女の中で確固たる意志となり、それと同時にとある覚悟を決めることとなった。


「ええ・・・・とても大切な人ですわ。もし叶うのならずっと一緒に居たいと思うほど・・・」


「・・・・なら、話しておくべきですね。こちらにどうぞ。彼も待っていますから」


咲夜の言葉に永琳は小さく頷くと、咲夜をとある部屋に案内する。襖を開くと、そこには(おそらく紫が持ってきたのであろう)執事服を身にまとった無月と、若干緊張気味の鈴仙が座って待っていた。


「・・・・てゐ」


「もう持ってきてるよ。残りは今配下の兎が運んできてる」


てゐから何かを受け取る永琳。それに首を傾げながらも、咲夜は無月の隣に座る。


「さて・・・・まずは10日前の異変、大変申し訳ありませんでした」


「いえ・・・・こちらも(あるじ)が迷惑をかけたようですので、お気になさらないでください」


「・・・お気遣い、感謝します。ここからが本題なのです」


永琳がまずは異変の事について謝罪する。しかし咲夜も無月も自分たちの(あるじ)が迷惑をかけたことを理解しているため、気にすることはないと述べる。永琳は少し微笑むと、表情を元に戻し、てゐから手渡された物を二人の前に差し出す。


「・・・・・これは?」


「見たところ何の変哲もない銃弾に見えるが・・・」


永琳が二人の前に出したもの、それは一発の銃弾だった。しかし、二人の言葉に永琳は首を振る。


「これはただの銃弾ではありません。・・・・・嘗て我々月の民がまだ地上に暮らしていた頃に採用されていた、対妖怪用の弾丸なのです。これが無月さんの背中を中心として全身に多数埋まっていました。全部で・・・・破片合わせれば約138発分です」


「・・・・な・・・・!!」


「・・・・詳しく話してくれ」


永琳の言葉に絶句する二人。一足先に立ち直った無月が、続きを促す。


「もう何年前かも思い出せませんが、我々月の民が地上に生きていた頃、少数ながらこの地、今では"外"と呼ばれる地にも妖怪は存在していました。私たち月の民の技術は・・・っと、これは今は関係ないですね。とにかく、私たちは妖怪から身を守るために武器を開発し、妖怪の力を封じるのではなく、妖怪を抹殺するための技術を開発しました。この弾丸はその当時の技術が使用されています」


「・・・・つまり俺が居た世界はあんた達月の民が地上に残ることを選択した世界だと?」


「・・・・そう考えるのが妥当かと」


永琳の説明に、無月が問いかける。その問いに、永琳は力なく肯定するしかなかった。

どうも 作者のめーりんです


リアルが多忙に成りつつあるため、執筆が遅くなっております。ですが一人でも定期的に読んでくださる方が居るなら書き続けようと思っていますんで、応援よろしくです。



なお、レビューや感想があれば逆立ちして喜びます。



では次回予告を


月の頭脳が開いた真実の門。己の気持ちに正直になったメイドと、真実を知った執事に訪れるつかの間の休息。

妖怪の賢者が彼らに提供する地とはいったい?


次回「真実と休暇」お楽しみに

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