第二十一章 五百年越の姉妹喧嘩勃発×奔走する従者達×起死回生の一手とその対価
ついに勃発 スカーレット姉妹の大喧嘩
‡‡‡
永遠亭正面門
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・拙いな」
「・・・・ええ」
「えと・・・・」
いつの間にかお互いに武器を手に、にらみ合っているスカーレット姉妹。その表情はお互いに怒りしか浮かんでおらず、それを見た無月と咲夜は表情を強張らせる。その表情から状況を察した妖夢は二人の顔を見る。
「・・・・これ、殺し合いに発展する光景しか浮かばないんだが・・・」
「お互いに頭に血が上っているみたいね・・・・残念だけど私も同意見よ」
「え・・・・ええ!?」
無月と咲夜はお互いに予想した未来図を話し合う。その内容に、妖夢はレミリアとフランを刺激しない程度の声量で目を見開く。実を言うと妖夢は50年近く生きていながら、人を殺めたことはなかった。春雪異変の時に無月と壮絶な斬りあいを演じていたが、異変解決後に何度も夜中にうなされる等"血"を見ることに慣れていなかったのである。しかしそれは幻想郷のルールの性質上仕方のない事だともいえる。スペルカードルールには大きく分けて二つの役目がある。一つ目は人的損失を出すことなく人に妖怪の恐ろしさを定期的に知らせる為の手段である事。二つ目に力の劣る人間と妖怪のパワーバランスを調整するためである。そのため、妖夢は血を見ることなく鍛錬を積んできたのだった。
「仕方ない・・・・お嬢様やフランが動いたら俺達で止めに入ろう。紅魔館も幻想郷のパワーバランスの一角らしいし・・・・その主と妹が再起不能になったら一大事だ」
「・・・・覚悟を決めるしかないわね」
「私たちも手伝ったほうがいいのかしら?」
改めてソール、マーニに魔力を込めると、レミリア達の様子を伺う無月。咲夜も弾幕勝負では使わない大振りナイフを取り出し、無月の隣に並ぶ。幽々子はそんな二人に若干真剣な表情で問いかける。
「いえ・・・・これは俺達紅魔の問題・・・・強いて言うなら周囲に被害が出ないようにして頂ければ幸いです」
「私達従者が止めるので、あなた方は周りに被害が出ないようにしてください」
「・・・・ッ・・・(雰囲気がガラリと変化した?・・・・・怖い・・・・怖すぎる・・・・人を殺めることに躊躇いを持たないような雰囲気だ・・・!!)」
口調も雰囲気もガラリと変化した無月、咲夜。その変わりように、妖夢はある種の恐怖を覚えた。そんなことすら意に掛ける事無く上空の姉妹の口げんかは益々ヒートアップしてゆく。最早内容も今夜のことではなく、いつの間にか二人が幼かった頃の事で言い合っている。
「・・・些細な出来事をきっかけに爆発するな」
「・・・・ええ」
張り詰める濃厚な殺気を前にやや緊張気味に話し合う無月と咲夜。幽々子と妖夢の両名が離れて待機する中、一人の少女が門を潜ってくる。
「ちょっと鈴仙・・・!!いきなり幻覚を解くなんて・・・・!?」
「ちっ・・・・!!」
「奇術「エターナルミーク」!!」
「フラァァァァァァン!!!」
「レミリアァァァァァァァァ!!」
タレ耳兎の少女"因幡てゐ"が若干ズタボロの状態で門を潜り、鈴仙に文句を言い始める。その瞬間レミリアとフランの間で張り詰めていた緊張の箍が外れ、両名は文字通り相手を殺す気で弾幕を形成。全周囲に開放する。てゐがいきなり弾けた殺気に当てられ、竦んだ所に降り注ぐ吸血鬼の本気の妖力弾。目を見開くてゐを一気に加速した無月が間一髪の所で救出、咲夜が援護のためにスペルを発動し、残りの弾幕を辛うじて逸らす。
「禁弾「過去を刻む時計」!!」
「呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」!!」
「ッ・・・!!制圧「軽支援火器」!!」
「これは拙いわね・・・・!!メイド秘技「操りドール」!!」
レミリアとフランの宣言した殺意満点のスペルが両者の中間点で激突する。その流れ弾が霊夢と魔理沙が突入した建物に向かうのを見て無月と咲夜が慌ててスペルを宣言し、建物を守る。
「とにかく二人を止めないとな・・・・。・・・・土符「迎撃防御陣」・・・。これで暫く防げるといいが・・・・」
「そうね・・・・でもどうするの?お嬢様も妹様も完全に頭に血が上ってるわよ?」
「私の能力なら簡単にあの二人(の命)を止められるわよ~?」
「幽々子様、それは止める対象が違うじゃないですか」
無月がてゐを抱えて後退し、離れていた鈴仙達の前でスペルを宣言。無月の前に岩がせり出して壁を形成する。壁の内側に移動してきた咲夜が壁の向こうから聞こえる罵り合いと、撃ち合う弾幕音を聞きとりながら困ったよう問いかけ、幽々子が若干物騒な事を提案し、妖夢が主を諌める。
「・・・・あのー・・・私ならもしかしたら止められるかもしれないです」
「・・・・何?」
「・・・・え?」
そんな時若干控えめに鈴仙が手を上げる。無月と咲夜から同時に注目された鈴仙は、若干怯え気味になるが、てゐが鈴仙の肩に静かに手を置いた事で安心したのか、緊張気味に口を開く。
「えと、私ならあの二人の波長を弄って、本心を通わせる事ができるかもしれないです」
「・・・・・どういうことだ」
「詳しく聞きたいわね」
鈴仙の言葉に怪訝そうな表情になる無月達。鈴仙も言葉を選ぶように目を閉じ、言葉を纏めると再度目を開く。その時何かを感じ取ったのか、空を見上げた妖夢に、変化が起きる。
「うう・・・・何だか気分が悪くなってきた・・・・」
「え?師匠の秘術が解け・・・・拙い!!人間は今の月を見たら駄目!!」
「霊夢達の仕業か・・・・」
「久々の満月ね・・・・」
「嘘でしょ・・・?何であんた達(無月と咲夜)は狂わないのよ・・・・!?」
鈴仙が慌てて忠告しながら妖夢の視界を手で覆って。無月と咲夜は紅魔館で見慣れている月の姿を見上げ、突入した霊夢と魔理沙が異変を解決したことを確信する。そんな二人を見ててゐは信じられないという様な表情になる。偽りのない真の満月は人間を狂気に引き込み、妖怪に力を与えるとされている。そんな月を見て平然としている無月と咲夜。一方妖夢は半分とはいえ人間であるがゆえに、その狂気に当てられたらしい。
「・・・・待って。ねえ無月・・・・」
「言うな・・・・。最悪のパターンだな」
唖然とするてゐ、妖夢がこれ以上狂気に当てられないように簡易的な治療を行う鈴仙。そんな中無月と咲夜は、自分達の主の調子が最高の状態になっていることを考え、若干げんなりする。そんな二人に、妖夢の簡易的な治療を終えた鈴仙が話しかける。
「あなた達二人が何で狂気に当てられてないかとかは後回しにした方が良さそう。あの二人の波長が徐々に増大してるもの・・・・」
「・・・・で?何とかできるのか?」
「方法を聞きたいわね」
鈴仙に改めて問いかける従者達。鈴仙は未だ緊張した表情で、作戦を説明する。
‡‡狂気の月の兎説明(ついでに自己紹介)中‡‡
「・・・・つまり両名の目を同時に鈴仙が見れば良いわけか」
「難しいわね・・・・今、お嬢様達は殺す気で弾幕を撃ち合っている。霊夢や魔理沙がいれば止めるのも容易いけど・・・・いえ、無いものねだりしても仕方ないわね。私達で何とか動きを止めてみるわ。でも・・・・」
「チャンスは一度きりだろうな。二度目は無い。捨て身で止めることになるから、俺達は動けない可能性が高い」
「必ず・・・・必ず成功させて見せます。こんな大事を起こした一員である私が言うのもアレですけどね」
無月と咲夜が苦い表情で話し合う。鈴仙は覚悟を決めた表情で両者に頷きかける。
「覚悟を決めるか・・・・」
「ええ」
無月が腰に佩いたスルトルに手を掛け、咲夜が大型のナイフを手の中で一回転させる。そんな中妖夢が小さな声だが、無月に話しかける。
「私が勝つまで、真剣勝負では二度と負けないでください・・・・貴方は私の目標なのですから・・・・」
「・・・・・心に留めておこう」
「私が援護するわね。だから必ず成功させなさいな」
妖夢の宣言に、無月は苦笑しながらも頷く。幽々子は笑みを浮かべながらも自分の周囲に慎重に弾幕を展開する。
‡‡‡
華胥の亡霊が宣言する
「じゃあ、行くわよ。死符「ギャストリドリーム」!!」
狂気の力を無理やりねじ伏せた半人半霊が瞳を赤く染めながらも刀を振るう
「待宵反射衛星斬・・・・!!」
そして紅魔館のメイドと執事が同時に飛翔する
「・・・・咲夜」
「ええ・・・・!!」
土符「迎撃防御陣」が砕け、壁が崩れるように消えてゆく。上空ではスカーレット姉妹が双方ズタボロの状態で今まさに必殺の一撃を放とうとしていた所だった。そこに割り込むようにスペルが連続して飛翔し、若干遅れて斬撃が高速で飛翔する。放たれる弾幕の隙間を舞うように飛翔する二つの影。
「亡霊め・・・・!!邪魔を・・・!?」
「邪魔をしない・・・・!?」
放たれた弾幕の第一陣と、飛翔する斬撃を近づくようにして回避(そう回避するように計算して発動させた)したレミリアとフランが同時に怒りの形相で地上を睨み付ける。そんな両名の目に映った迫ってきている人影。頭に完全に血が上っており、真の満月の効力で調子も最高潮に達していたレミリアとフランは反射的に手に持っていた武器を突き出していた。
「・・・・・・・」
「無・・・月・・・・」
「お兄・・・・様・・・・?」
突き出されたレミリアのグングニルとフランドールのレヴァンテイン。その切っ先は、無月の腹部を貫通し、背中側から交差するように飛び出しており、その事実に姉妹は唖然とする。
突き刺さる瞬間、隣を飛んでいた無月の手によっていきなり突き飛ばされた紅魔館のメイド"十六夜咲夜"の顔は青ざめ、地上から結果を見守っていた華胥の亡霊"西行寺幽々子"と半人半霊"魂魄妖夢"は目を見開き、狂気の月の兎"鈴仙・優曇華院・イナバ"は大きく目を見開いていたスカーレット姉妹に自らの能力"者の波長を操る程度の能力"を用いて両者の本心をさらけ出させる。
「終わったわ・・・・よ・・・・?」
「おい嘘だろ・・・・!?」
「無月・・・・!?」
「これは・・・・拙いわね・・・・」
そんな中、建物から博麗霊夢、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイド、八雲紫の四名が現れ、上空から流れ落ちる無月の血を見て絶句する。
「無月・・・・!!」
お互いの本心が通じ合った事、そして目の前の事実に頭がついて行かなくなったため、放心したスカーレット姉妹の手から武器が消失し、無月の体が力なく落下する。十六夜咲夜は自分の体が血で真っ赤になることを厭わずに無月を抱きかかえ地上に降下、腹部の傷の時を停止させる。
「ウドンゲ!!私は緊急オペを行うわ。急いで!!」
「は・・・・はい!!」
霊夢達の後ろから現れた女性"八意永琳"が血相を変え、地上に着地した咲夜が抱える無月の様子を確認、慌てて建物に戻りながら指示を出す。滅多にない師の声に、咲夜と共に無月を建物の中に連れてゆく。
「紫、この姉妹への説教、私がやるわ。あんたはあの姫様へ説明とかよろしく」
「・・・・・分かったわ」
「おい霊・・・・」
「魔理沙。霊夢の右手見てみなさいよ」
感情を意図的に押し殺した霊夢がスカーレット姉妹に近寄ってゆき、紫はスキマを開いて姿を消す。霊夢の行動に異論を唱えようとした魔理沙だったが、アリスの指摘を受け、霊夢の右手を見る。霊夢の右手は真っ白になるまで握り締められており、しかも爪が手のひらに食い込んでいるのか、僅かに血が流れ出ていた。
こうして波乱の永夜異変は一先ずの解決となったのだった
どうも、作者のめーりんです
はい ついに勃発した喧嘩と和解です。そして毎回のごとく負傷する主人公(笑)
うちの主人公は怪我することがデフォになってるんでしょうか・・・・(汗)
さて・・・・では次回予告を
異変解決に伴い大怪我を追った無月。咲夜はこの事を切欠に自分の本心に気づき始める。
月の頭脳のおかげで一命を取り留めた無月と本心に気づいた咲夜、この二人に切り出される衝撃の事実。この事実は二人の関係にどんな影響を与えることになるのか?
次回「異変解決後のドタバタ劇(仮)」お楽しみに