第二十章 異変勃発×もう一組の紅魔×出会い(?)×喧嘩勃発
2004年 9月27日 21:00
紅魔館 屋根最天辺
「・・・・」
「・・・・」
紅魔館の屋根の上で無言で夜空を見上げる二つの影。特徴的な翼を持つ少女"フランドール・スカーレット"は隣に立つ青年"赤羽無月"の腕を数回引っ張る。振り向いた無月に無言で訴えかけるフラン。
「数分待ってください・・・・仕度してきますので」
「うん・・・・あいつは動いたみたいだけど、私も我慢できない・・・・あいつに任せるまでもないわ・・・・私達でこの異変、止めるよ」
やや乗り気がしないが、主の望む事に応えるために共に屋根から下りてゆく無月。本来なら動かない大図書館事パチュリー・ノーレッジの組んだ術式によって、赤い満月がある筈の空には白いやや欠けた偽りの月が浮かんでいた。吸血鬼は特に月の恩恵を受けやすい種族、偽りの満月のためにストレスが溜まっているフランは、珍しく苛立った声音で無月に宣言する。
「・・・・それにお兄様も少し調子悪いんでしょ?」
「ええ。・・・・・良く分かりましたね?」
半分とはいえ妖怪の血を持つ無月の微妙な調子の変化を見抜くフラン。自室に到着し、仕度する為に中に入ろうとしたときに主から発せられた確認するような問いかけに、やや驚いた様子で閉じる寸前の扉から聞き返す無月。
「お兄様の事は良く分かるもん。・・・・だって私は無月の主なんだから・・・・」
扉が完全に閉じた無月の部屋の前でフランは少し得意げに呟くと、忌々しげに偽りの月を睨み付けるのだった。
‡‡‡
2004年9月27日 幻想郷の月は偽りの月に替わり、あらゆる妖怪はその事実に驚愕した。人間には影響を与えないが、妖怪たちにとっては死活問題となった。
そこで妖怪の賢者"八雲紫"は自らの術式で時間の進行を止め、夜が進まないことを異変だと判断した博麗の巫女"博麗霊夢"に同行する形で、本来の異変の解決に乗り出した。
魔法の森に居を構える普通の魔法使い"霧雨魔理沙"は夜が明けないことに興味を持ち出立。暫くして独自に調査を行っていた七色の魔法使い"アリス・マーガトロイド"に協力を依頼され、共に行動を開始する。
レミリア・スカーレットはこの事態にいち早く気づき行動を開始。十六夜咲夜もそんな主のお守りとして共に行動することになった。
白玉楼の庭師"魂魄妖夢"はフラフラしていればいずれ偽りの月の犯人に当たると言い、出発した主"西行寺幽々子"に付き従う形で出発。
こうして四組の人妖は、目的は異なるものの、明けない夜と偽りの月の事態究明の為に行動を開始した。そして紅魔館からまた一組の人妖がこの異変の解決の為に出発する。
‡‡‡
2004年9月27日 21:30頃
紅魔館門前
「お嬢様と咲夜は先に出発したんだな?」
「ええ・・・・18:35頃だったと思います。では妹様、気をつけてくださいね」
「うん!!」
紅魔館門前に立つ三つの影。門番"紅美鈴"は、予想外の出来事に内心驚愕しつつもフランと無月を笑顔で送り出す。普段の執事服の上から漆黒のコートを羽織り、ソール、マーニと名づけられた弾幕ごっこの補助用の武器をベルトで吊るして背負うなど、ある意味完全武装をした無月は緋色の翼を広げることなく浮かび上がると、フランと共に紅魔館を後にする。
「お兄様、重くないの?」
「鍛えているので平気ですよ。それよりも弾幕"ごっこ"なのでちゃんと手加減するように。後、出来る限り私の言うことは聞いてくださいね?」
無月の隣を飛ぶフランが問いかける。ソール、マーニの二つだけで約9kgにもなるのだが、それを苦にも感じさせずに無月が紅魔館の執事としての口調でフランにお願いする。笑顔で頷くフランはそのまま無月の背中にしがみ付く。
「とりあえず陣形としてフランは後衛をお願いしても良いですか?私は広範囲に弾幕を綺麗に撃つことが苦手なので」
「分かった」
冷静に自分の弱点をカバーしてもらう様にフランに頼む無月。フランも無月が魅せることができる距離を知っているため、その距離まで相手を追い詰めるから、無月の弾幕を見たいと笑顔になる。
「このまま直進しますよ」
「はーい」
相変わらず攻撃的になった妖精たちの攻撃を縫うように避けつつマーニで魔力弾をばら撒いてゆく無月。撃ちそびれた妖精もフランが広範囲にばら撒く虹色の弾幕が片っ端から落としてゆく。その弾幕は無月に言われたとおり加減ができており、主の成長に無月は少し笑みを浮かべる。
「このぉぉぉぉ!!蛍符「地上の彗星」!!」
「邪魔しないで!!禁忌「レーヴァテイン」!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
無月の右横から一つの影が弾幕を放ちながら突っ込んでくる。それと同時に真正面から無数の弾幕が展開されるが、無月はマーニで冷静に正面の弾幕の中から自分たちに直撃するコースの弾幕のみ相殺するように弾幕を形成。一方のフランは即座にスペルを宣言し、突っ込んできた影を弾幕ごと文字通り吹き飛ばす。
弾幕を囮に無月に一撃食らわせてやろうとしていた少女"リグル・ナイトバグ"は甲高い悲鳴と共に吹っ飛ばされていった。
「・・・・なんだったんでしょうか・・・・今の」
「パチュリーに聞いたことあるよ?"外"の世界にはああやってわざとぶつかって相手に"因縁"ってのを付ける人が居るって。多分それじゃないかな」
少し呆然と吹き飛んでいったリグルを見送った無月が呟く。それに対してフランは最近興味を持った外の世界についてパチュリーが語っていた内容を話す。
「それにしてもあまり妖精が居ませんね・・・・(恐らくお嬢様だけじゃなく霊夢や魔理沙も動いているのか・・・)」
「あいつが蹴散らしたんじゃないの?」
「フラン。気持ちは分かりますが、お嬢様を"あいつ"呼ばわりしないように」
「・・・・・はーい」
周囲を見渡しながら会話する無月とフラン。そんな時、二人は視界の隅に小さな明かりがあることに気づく。、それと同時にどこか空腹を誘うような香りが漂う。
「あ、光が見える。それに良い匂い・・・・これなんだろう」
「・・・・気になるなら見に行ってみますか?ついでに情報を集めましょう」
頬を膨らませていたフランが興味を持つ。無月も少し興味が沸いたのか、二人は明かりの方へ向かう。近づくにつれて匂いは強くなり、明かりははっきりしてくる。匂いと仄かな明かりの正体は、一台の屋台とそこに吊るされていた堤燈だった。
「・・・・屋台ですね」
「・・・・うん」
基本的に幻想郷の夜は人ではなく妖怪が活動しているとパチュリーから聞いている二人は、このような場所に屋台があることに疑問を抱く。すると気配を察知したのか、屋台の影から一人の少女が姿を現す。
「あら、いらっしゃい」
「・・・・・屋台の人?」
「・・・・仕込みの最中でしたか」
気配を察知して出てきた少女"ミスティア・ローレライ"は手ぬぐいで手を拭きながら二人を見上げる。フランも無月もまさか妖怪が屋台を経営しているとは思いもしなかったのか、目を丸くしている。
「もしかしておにーさん・・・であってるよね?この夜の異変を解決しようとしてる?」
「おねーさんの名前は?私、フランドール・スカーレット!フランって呼んでね。おねーさんは何してるの?」
「そうですが・・・・。私は赤羽無月、フランドール・スカーレット嬢の専属執事を務めている者です」
ミスティアは手ぬぐいを片手に二人に問いかける。攻撃の気配がないため、フランと無月は相手とコミュニケーションをとろうとまずは自己紹介をする。するとミスティアはきょとんと目を丸くすると、笑みを浮かべる。
「さっきの連中にボコボコにされたから屋台の仕込みをしてたんだけどね。私はミスティア・ローレライ。この屋台を経営・・・・だっけかな?してるんだ。」
「さっきの連中?」
「詳しく教えていただけますか?できればどこに向かったのかも教えていただけたらありがたいのですが」
少し苦笑いをするミスティア。フランも無月も情報が欲しいため、ミスティアから情報を得ようとする。
「ん?今は偽りの月が出てるでしょ?で、少し苛ついててねー・・・・手当たり次第に丁度よさそうな人間を襲ったのよ。私が襲った順番に挙げたほうがいい?・・・・えーとね・・・メイドでしょ・・・白黒と・・・あ、血気盛んな女侍も襲ったわねぇ・・・・で、最後に紅白。でも全員強くて強くて」
「(最初に咲夜、続いて魔理沙、妖夢、最後に通過したのが霊夢か・・・・咲夜が居たということはお嬢様も一緒だな)」
「(霊夢に魔理沙、咲夜は判るけど血気盛んな高い女侍って誰なんだろう)」
あはは、と笑みを浮かべながら自分が襲った人物を挙げるミスティア。挙げられた特徴に一致する人物を思い浮かべた二人だったが、ミスティアがふと思い出したように情報を追加する。
「あ、今だから言えるけどそいつ等全員同行者が一緒だったわね・・・」
「・・・?咲夜はともかく、霊夢や魔理沙、妖夢にも同行者が居たのか?」
ミスティアの話す内容に、怪訝そうな顔になる無月。春雪異変の時、霊夢達3人を先に行かせるとき、真っ先にその案を受け入れたのが霊夢であったように、彼女は利用できるモノは利用するが、基本的に異変には単独で挑むようにしている。紅霧異変時の魔理沙や春雪異変時の無月や咲夜の様に、"邪魔さえしなければ目的が同じ人物と一緒に移動はする"が、自分の邪魔をするモノはたとえ顔見知りであろうとも問答無用で叩き潰す。良くも悪くも霊夢は博麗の巫女としての価値観を基準に行動している。そんな霊夢にも同行者が居ることに疑問を持つ無月。
「うん。一言で言うなら"胡散臭い"っていう感じの女性だったわ。白黒とは人形みたいな人が一緒だったし、メイドの前にはふざけた言動のチビがいたね。血気盛んな女侍はどことなくほわほわした感じの人を守るようにしてたかな」
「・・・・」
ミスティアの挙げていく人物に心当たりのある無月は情報を整理する。特に霊夢と行動を共にしている女性"八雲紫"の行動が読めないため、何度も推考を繰り返す。
「どっちに行ったか判るか?」
「人里の方に行ったわね。でも私が後からこっそり見に行ったらそこ、何もなかったわよ?そこに居た女の人に紅白と胡散臭い人が話ししてたんだけどさ、あっちに原因作った奴居るって言ってたわ」
無月の問いかけにミスティアは人里のある方角を指差し、その後に人里の北側を指差して説明する。そもそも人里を訪れたことのない無月だったが、ミスティアの目から嘘はついていないと判断する。
「ありがとう。感謝する」
「いいって。お礼といっちゃ何だけどさ、今度屋台に食べに来てよ」
軽く笑みを浮かべながら礼を述べる無月。ミスティアもカラカラと笑みを浮かべながらもちゃっかりと自分の屋台の宣伝をする。その事に無月は小さく頷くと、ミスティアに手を振るフランと共にミスティアが示した方向に向かうのだった。
‡‡‡
幻想郷 迷いの竹林 22:10頃
「竹が多いですね・・・・しかも霧が立ち込めていて若干視界が通らない。私が風の流れを読めるのは不幸中の幸いというやつですか。その分私は視界を断っているんですがね」
「そうだね・・・・それに地面から少し浮かんで移動して正解だったかも。お兄様の代わりに私ががんばるもん。お兄様は迷わないようにがんばってね」
霧の立ち込める迷いの竹林に迷いなく突入した無月とフラン。風が微弱ながら発生しているのにも関わらず、霧が立ち込めていることに疑問を持ちつつも、目を閉じることで視界をあえて断った無月が微弱な風の流れを読み、それを頼りに慎重にゆっくりと先に進む。道中には小柄な妖怪兎が妖力弾を撃ち、妨害しようとしてきたが、無月がいち早く察知し、フランが無月の指示した方向を基点に広範囲に弾幕を張ることで妖怪兎を気絶させ、進んでいる。
気絶した妖怪兎の一体が地面に深く掘られていた落とし穴(しかも穴の中にはご丁寧に鳥もちが仕掛けられていた)に落下したのをフランが確認。自分たちが地面からやや浮いて移動していたことに安心する。霧の中から時折何かを撃つような音がすることから、レミリアを筆頭にした他の人妖もこの竹林内にいると判断した二人は先を急ぐ。
「・・・・もう少しで竹が開けますね。気をつけてください」
「わかった。・・・・霧も晴れてればいいね」
無月が小さいがやや緊張した声音で警告を発する。無月の声を聞き取ったフランも、両手を前に突き出した状態で警戒。二人は慎重に前進する。
「霧、不自然な感じに晴れましたね」
「だね。・・・・術とかで人工的に発生させたみたい」
目を開け、地上に着地した無月がポツリと呟く。魔法の心得があるフランも可能性をあげつつ、若干緊張した表情で周囲に目をやる。謎の霧を抜けた二人の前に現れたのは、純和風の屋敷と、ガッチリと閉じられている門だんった。
「・・・・・まだ霊夢や魔理沙は来てないみたいですね」
「うん。・・・・・入ってみる?」
屋敷から感じられる不気味な雰囲気を前に、緊張した表情で話し合う両名。フランにとっては初めての遠出でもあるため、判断材料の少なさからフランもやや慎重になっている。
「・・・・では変に行動して面倒なことになってもあれですし、正面から突破しましょうか」
「うん・・・!!」
無月は慎重に門に接近し、罠の有無を確認。その後両腕の魔導ガントレット"テュール"の片方に格納していた銀筒を数本取り出すとそれを門に円形に貼り付けてゆく。そんな無月の様子を見ながら緊張した表情と期待が混ざった表情でフランがコクリと頷く。
「恐らく門の向こう側に門番のような役割を担った人物がいるはずです。その人物を屈服させ、本物の月を取り返しに行きましょう」
「うん・・・・!!」
門の右側に寄り、最終確認という形で微笑みかける無月。フランが声音を落としつつも嬉しそうに頷いたのを確認した無月は、腰のポーチから一枚のカードを取り出す。
「では行きます・・・・。血符「緋色拡散突撃槍」!!」
「なにこの赤い槍・・・・分裂し・・・ちょっと・・・・!?」
無月がスペルを宣言すると同時に貼り付けた銀筒が炸裂し一本の槍を形成、無月がその槍を蹴り飛ばすと、槍は門を破壊して内部に向かって途中で拡散しながら飛翔する。そして僅かだが誰かの声も聞こえた。
「こんなに速く来るなんて・・・・!!」
「中にやはり防衛役がいましたね」
「・・・兎さん?」
破壊された門を通過した二人が目にしたのは慌てて避けたのか、尻餅をつき、若干涙目になっていたブレザー姿の少女(ウサ耳がある)が二人を睨んでいる(涙目のせいでまったく怖くない)。無月は油断なくソール、マーニの消費した弾倉を取替えるが、その様子を見たウサ耳少女の表情が若干変化する。
「・・・・銃・・・ですって・・・・!?」
「・・・・ほう・・・"これ"を見てその単語が出てくる。・・・・何者だ?」
「お兄様、この兎さん倒したほうがいいの?」
目を見開いて震えるような声で呟くウサ耳少女。その様子を見て無月は警戒しつつも少女の様子を観察する。フランは無月の隣にフワフワと浮きながら楽しそうに問いかける。
「・・・・ッ・・・・。・・・・・・・師匠は術式を組んでいるから動けない。なら・・・・なら、私があなた達を排除する!!」
「ッ!!」
無月の問いかけにやや長い時間、無言を貫いていたウサ耳少女"鈴仙・優曇華院・イナバ"は、決意を固めた表情で無月とフランを見据えると同時に右手の人差し指を突きつける。無月はその突きつけ方を確認したと同時にマーニを鈴仙に向け、魔力弾をばら撒く。それと同時に鈴仙の人差し指からも"無月と同じ銃弾型"の弾幕が放たれ、両者の間でぶつかり合い、相殺しあう。
「・・・・軍人か」
「・・・・元、ですよ」
静寂の中確認するように無月が問いかける。鈴仙は覚悟を決めたような表情で答えると、フワリと宙に浮く。
「フラン・・・・申し訳ないですが、彼女とは一対一で戦わせてください・・・・。どうやら似たような心構えの持ち主みたいなので」
「・・・・お兄様嬉しそうだね。分かった!!でも負けたちゃダメだよ?」
「・・・・(この男・・・・私と同じで弾幕勝負を実戦の延長として考えている?それでいて弾幕勝負に求められる"美しさ"を持たせようとしている?)」
若干嬉しそうな声音で無月が傍らのフランに話しかける。フランは無月の申し出を許可し、離れて門の傍に腰を下ろす。無月を見据えていた鈴仙は、内心で今得た情報を元に結論を出し、無月は地上から鈴仙を見据える。
「・・・・」
「・・・・」
双方にらみ合ったまま自分の周囲に弾幕を配置してゆく両名。無月は霊力、妖力、魔力を組み合わせた色とりどりの弾丸型の弾幕を、鈴仙は妖力で作った弾丸型の弾幕を背後に配置する。そして十分に弾幕を配置し終えた二人が、ポーチとブレザーから取り出したスペルを同時に宣言する。
「制圧「軽支援火器」!!」
「幻波「赤眼催眠」!!」
両者の背後に控えていた弾幕が、同時に撃ちだされる。それらはお互いに相殺しあい、見る者に幻想的な光景を見せる。その弾幕の中、その場から動くことなく無月と鈴仙はお互いに相手の"隙"を探そうとしていた。
「「(スペルの消滅と共に一気に遠距離攻撃を仕掛け、拮抗状態を作り出して一気に接近戦に持ち込むしかない・・・・!!)」」
両者がほぼ同時に出した結論は全く同じであり、その結論を出したと時を同じくして両者のスペルが時間切れで消滅する。一瞬だけ音が途切れ、その瞬間、両者は後方に跳びつつスペルを取り出して自分の前方に投擲し、無月はソール、マーニを後方に居るフランに軽く投げる。フランがしっかりとキャッチしたことを気配で理解した無月は右手に持ち替えたハティ、左手にスコルを構え、鈴仙は銃の形をとった両手を突きつけると、閉じていた深い深紅の瞳を開き、スペルを宣言する。
「拮抗「無数散弾乱射撃」!!」
「懶惰「精神停止」!!」
両者が超高速で展開した妖力弾がお互いにぶつかり合い、再び幻想的な光景を作り出す。その結果を見ることなく両者は全力で接近してゆく。
「・・・・ッ」
「くッ・・・・」
無月が突き出した左手のスコルから.357マグナム弾型の高威力の魔力弾を放つと同時に鈴仙が右手の人差し指から凝縮した妖力弾を放つ。お互いに軽く頭を振ってその弾丸を避けつつ次の一手としてとった行動は、接近時の勢いを生かした体当たりだった。もう、お互いに性別などを気にすることもなく、相手を敵兵士として認識し、全力で肩からぶつかって行く。
無月の左肩と鈴仙の右肩が激突し、お互いに若干苦悶の表情を浮かべる。しかし痛みを堪えつつ鈴仙は無月の左腕を右手で掴むと同時に左足で無月の軸脚を払う。無月は倒れこむ勢いそのままにショルダータックル時にハティをホルスターに収めていたことでフリーとなった右手で鈴仙の右足首を掴み、風を起こして勢いをつけると鈴仙を押し倒す。
「ぐっ・・・・」
「・・・・チェックメイトだ」
一瞬息が詰まった鈴仙の額に、組み伏せたまま(ただし鈴仙も無月の左腕を掴んだまま)改めて右手で抜き放ったハティを突きつける無月。鈴仙は脳内で幾通りもこの状況を覆すための方法をシュミレートするが見つからなかったため、目を閉じる。
「無月にフランドール・・・・?」
「あらあら・・・・」
「どういう状況なんだこれ」
「・・・・どういうことなの」
「あらら~」
「幽々子様・・・・楽しんでらっしゃいませんか?」
そんな中続々と異変解決に乗り出していたメンバーが乗り込んでくる。霊夢は無月はともかくフランが居ることに若干驚き、紫は無月と鈴仙(傍から悪い見かたをすれば無月が鈴仙を押し倒しているようにも見える)を見て少し楽しそうな笑みを浮かべ、魔理沙は純粋に状況が飲み込めない。その隣でアリスは額に手を当てて困った表情になり、幽々子は純粋に楽しそうな笑みを浮かべる。妖夢はそんな主を若干ジト目で見つつも警戒を疎かにしないでいる。
「・・・・・フラン・・・!?」
「お姉さま・・・・」
「妹様・・・・?それに無月まで・・・・!?」
そしてレミリアはフランが館の外に居ることに驚愕し、咲夜は無月の状況に驚きつつも状況を把握しようと努める。
「ウドンゲ、荒事と狂気は・・・・邪魔だったかしら?」
「違います!!」
「まあいいわ。ここは任せるわね」
「ちょ・・・この状況でどうしろって・・・・師匠!?」
「(あ、何か私と似てる気がする)」
レミリアとフランの間で発生している雰囲気を感じ取ったのか、建物から一人の女性がひょっこりと顔を出し状況を判断。鈴仙に問いかける。否定する鈴仙を半ば無視して女性は鈴仙に指示を出すと再び建物の中に引っ込んでゆく。鈴仙は無月に組み倒され、多数のメンバーが居る状況でどうしてそんな判断になったと言わんばかりに(涙目で)叫ぶ。そんな鈴仙を見て妖夢は内心鈴仙に自分と同じ感覚を抱いていた。
「今度は何なのよ!!」
「おいおいこの魔力って・・・・!!」
「今度はなによ!!」
「お嬢様!?」
なんともいえない雰囲気の中突如として膨大な魔力が練られ、霊夢、魔理沙、アリスの三人は発生源を見やり、咲夜は隣の主に向き直る。突如として膨大な魔力を練った人物、レミリア・スカーレットは無月を睨みつけると怒りの形相で問いかける。
「無月・・・・貴方がフランを連れ出したのね?」
「お姉さま!?私が・・・」
「フランは黙ってなさい!!」
「嫌!!」
睨みつけるレミリアに弁明しようとするフラン。それを一喝して黙らせようとしたレミリアだったが、門の傍らで己を見上げていた妹が珍しく叫んだことによってレミリアは目を見開く。
「偽りの月のせいでお兄様も調子が悪いから・・・・だから私がお兄様の主として行動したの!!」
「・・・・ッ」
「・・・・(見た目は女性っぽい。波長は安定している波長とやや長い波長が混在している。でも何だろう・・・背中の辺りに奇妙な波長が存在している・・・・?)」
フランの弁明に唇をかみ締めるレミリア。一方組み伏せられていた鈴仙は呆然と自分を組み伏せている無月の様子を観察していた。無月はというと己の主とその姉のやり取り、さらにはニヤニヤと笑みを浮かべている八雲紫の視線に内心ハラハラしていた。
「とりあえず無月。あんたそこから退いたら?」
「そうだな。もうそいつも襲ってこないだろうしな。そんで事情を説明してくれると助かるぜ」
若干呆れ混じりに霊夢が無月に進言し、茶化すような笑みを浮かべて魔理沙が無月に説明を求める。一瞬だけ鈴仙と目が合った無月は、彼女に戦う意思がないと判断し、鈴仙から離れる。そんな中スカーレット姉妹の言い合いはいつの間にか口喧嘩へと発展しており、咲夜も流石に巻き込まれたくはないのか、無月のソール、マーニを手にこちらに歩いてくる。
「兎に角、そこの兎。あんた事情知ってるっぽいし、説明しなさい」
「・・・・拒否権はないんですね・・・・」
「あいつ、性格変わった?」
「上手くは説明できないが、一種のスイッチみたいなモノだ。俺も時折あるが、戦いと平時で口調や態度などが変わる人物は偶にいるものさ」
腰に手を当てながら鈴仙に説明させようとする霊夢。鈴仙は戦いのときとは打って変わった様なややビビリ気味の態度でうなだれつつも説明を始める。魔理沙はそんな鈴仙の態度に疑問を抱き、無月は少し自信なさげに魔理沙に説明する。
‡‡少女説明中‡‡
「それ心配しなくて良いんじゃない?」
「え?」
鈴仙の説明を聞いて霊夢がバッサリと言い切る。キョトンとする鈴仙だったが、霊夢が簡略的にとはいえ博麗大結界の説明をすると、ポカンとしたあと、へたり込む。
「さて、後はこの現象を起こしてる奴を叩かないとね・・・・。紫!!いくわよ」
「はいはい・・・・」
腰に手を当てて霊夢が紫を呼ぶ。やや面倒くさそうに紫が霊夢の隣に並ぶと、霊夢は自分の勘に従って建物の中に入ってゆく。それを見た魔理沙はニヤリと笑みを浮かべると、箒に腰掛けてアリスの隣に移動する。
「私たちも行くぜ!!」
「ちょ・・・・魔理沙!?」
アリスの手を掴むと、霊夢とは違う扉を使って建物に突撃してゆく魔理沙。アリスの講義するような叫び声を残し、魔理沙達が見えなくなると、幽々子と妖夢は無月の隣に移動する。
「えーと・・・・ところでどうするの?あの姉妹喧嘩」
「・・・・・咲夜」
「・・・・どうしましょうかね・・・・本当に」
幽々子の若干引き気味の声音につられて無月と咲夜は夜空を見上げる。そこにはいつの間にか深紅の槍を持つレミリアと、燃え盛る歪な杖のような武器を持つフランの姿があった。
どうも作者のめーりんです
今回の補足
・鈴仙の強さについて
綿月姉妹が戦闘センスの高さを評価していたこと、そして抜きん出た才能と戦闘力を持つエースだったとあるためにかなり強力な実力者になっております。
・無月の迷いの竹林突破について
迷いの竹林自体は濃い霧と竹のせいで迷いやすいとされているが、風の流れ自体は狂わないと解釈。天狗は風に関する内容が多いため、風に関しては天狗固有の能力だとしています。そもそも幻想郷縁起にある能力は自己申請ですし、射命丸文の能力も、本人がもっとも得意としているものを能力として申請したのではと考えています
今回の補足はこの程度でしょうか。何か疑問があれば感想などで受け付け、次回の更新時に後書きで答えようと思います
ではでは