第十九章 紅魔の日常×無月の新武器
今回はパチュリーの過去が若干含まれています
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2004年9月1日 紅魔館中庭 AM9:00
朝方、基本的に静寂に包まれている紅魔館の中庭は今宵だけは少々賑やかであった。理由は二人の従者にあり、その理由に珍しく外に出てきた紅魔館の頭脳と揶揄される魔女"パチュリー・ノーレッジ"は思わずため息をつくのだった。
「・・・・本当にヒヤヒヤさせるわね」
「・・・・お互いに刃を持つ武器を使いますからね」
ため息混じりに呟くパチュリーをなだめる様に紅魔館の門番"紅 美鈴"は苦笑する。そんな両者の視線の先では二人の従者が縦横無尽に動き回りながら特徴的な弾幕を撃ち合っていた。
「これで最後にしましょう?」
「・・・・そうだな」
地面から数メートル程の高さに浮いた紅魔館のメイド"十六夜咲夜"が左手に一枚のカードを持ちながら提案する。それに答えるのは同じく地面から数メートルの高さに浮かぶ真紅の翼を有する執事"赤羽無月"。彼もまた左手に一枚のカードを持ちつつ周囲に翼と同じ色の2個の球体を従える。
「幻符「殺人ドール」!!」
「刃符「飛翔刃」!!」
宣言とともに咲夜が操り人形の様な挙動でナイフを配置、一斉に射出する。対する無月も、宣言と同時に周囲に浮かぶ球体が変化し、無数の刃となると飛翔、咲夜のナイフと激突して相殺してゆく。
「・・・・引き分けだな」
「そうね」
音が収まった場には何もなく、至近距離で武器を突きつけあった無月と咲夜のみが残った。お互いに実力が拮抗しているという事実を認識した両名は、どちらからともなく武器を引き、地上に降りる。
「良い勝負でしたよ」
「お互いに得意とする距離が同じだとこんな面白い勝負になるのね・・・・興味深いわ」
「・・・・その前に私を降ろせ!!」
地上に降りた両名に声をかける美鈴とパチュリー。談話もそこそこに紅魔館の中に引き上げる4人だったが、それを引き止める声が聞こえてくる。4人が思い出したように振り向くと門の傍らに植わっている木からぶら下がっている一人の女性が喚いていた。
「忘れてたわ・・・・美鈴、降ろしてあげなさい」
「はい」
「今回は助かった・・・・もう少し武器にする速度を速くするべきか?」
「速度よりも丈夫さを上げるべきじゃない?」
失念していた、といわんばかりにパチュリーが美鈴に指示を出す。頷いた美鈴は女性に近寄り、縄を解いてゆく。そんな様子を傍目に、無月と咲夜は無月自身の魔法について話し合っていた。先ほどまでの弾幕勝負は、無月の新たな魔法"変化魔法"の試験戦であり、両名は改善点を話し合っていた。
「ちくしょー・・・・パチュリーが居るのは予想外だったぜ・・・」
「で?課した課題はクリアしたの?」
縄を解かれた女性、白黒魔法使いこと"霧雨魔理沙"に話し掛けるパチュリー。パチュリーの質問に対し、魔理沙は満面の笑みで答える。
「少し展開に時間がかかっちまう気がするけど完璧だぜ?」
「そう・・・・ま、いい傾向なんじゃない?」
笑みを浮かべる魔理沙につられる様にパチュリーも小さく笑みを浮かべる。そんな会話をしながら美鈴以外の4人は紅魔館に入ってゆく。ここ最近の紅魔館は平和そのものであり、無月は新しい魔法の訓練を通常業務の合間を縫って行い、咲夜はその訓練に協力しつつレミリアの言った決断が何なのかを探っている。魔理沙はパチュリー、アリスという先輩魔法使いの下、改めて魔法を学びなおしており、少しずつではあるが魔法の精度や威力が上がっている。
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紅魔館 地下大図書館
「無月の最大の弱点は遠距離戦・・・・それは変わらないのよね・・・・」
「仕方ないことだと割り切るしかないか・・・・」
珍しいことに吸血鬼らしくレミリアやフランが熟睡中という状況のため、図書館に自然と集まる形となった昼過ぎ。咲夜が苦笑交じりに無月に話し掛ける。対する無月もため息をつきながら肩をすくめるしかない。変化魔法の習得やアリス、パチュリーの指導もあり、ある程度の射撃戦ができるようになった無月だったが、相変わらず遠距離戦や広範囲に弾幕を放つことは苦手であり、強力な遠距離攻撃を持つ魔理沙と正面切って弾幕戦を行うと善戦こそできるが、勝つことはできない。
「だからって二重三重に策張られると厄介だぜ?」
「遠距離戦能力が皆無に等しいんだから仕方ないだろう」
「こぁ、リトルと一緒に"あれ"持ってきてちょうだい」
苦笑する無月にやや不満顔の魔理沙が口を挟む。その言葉に無月はやや呆れた様子で答える。一方パチュリーはこぁに何かを持ってくるように指示を出す。
「最近は咲夜が愚痴る事が少なくなった・・・・無月も頑張っている。あとはレミィとフランが仲直りすれば万事解決なのにね」
パチュリーが紅茶を飲みながら呟く。その内容に無月と咲夜は少し考え込む。
「お互いに妙に意地を張ってるというか・・・」
「素直じゃないというか・・・・」
やや言いづらそうに口を開く従者二人。その意見には賛成なのか、パチュリーも魔理沙もしきりに頷く。そこにこぁが二本の長細い箱を、そしてリトルが大きめの箱をそれぞれ両手で運んでくる。
「パチュリー様?」
「これは・・・」
こぁとリトルがテーブルに持ってきた物を慎重に置く。それを見て咲夜と無月がパチュリーに説明を求める。
「開けてみれば判るわ・・・・爆発物とか危険物じゃないから大丈夫よ」
パチュリーが少し疑うような表情だった魔理沙をジト目で見ながら促す。少しばかり不安そうな無月だったが、意を決したようにまずは細長い箱の方を開ける。
「・・・・これって」
「すげー・・・・」
「・・・・・」
どこかで見たデザインに咲夜が説明を求めるようにパチュリーに目をむけ、魔理沙はその見た目に驚き、無月は見覚えがありすぎるその中身の微妙な変化に複雑な表情になる。箱の中には無月が幻想郷に来る以前から愛用していたアサルトライフル"AK-47Ⅲ型"とそれによく似たアサルトライフルが一丁、そしてバナナ型の弾倉が各4本と、専用らしきポーチが収められていた。
「片方は無月がここに来たときに持っていた武器ね。これは私がレミィの元を訪れる前に研究していた内の一つである魔力貯蔵の技術を無月の持っていた武器に応用したの。強いて言うならば外付式魔力カートリッジ型銃・・・・というところかしら」
「無月の遠距離戦能力補助用に・・・・ですか?」
少し誇らしげに説明するパチュリー。咲夜は"いつの間に・・・・"と呟きながらも可能性を口にする。二丁のライフル、しかも片方は自分の相棒とも言える銃を手に持ち、確認する無月。
「ええ。一応私も"外"の事はある程度知識として持っているし、実際に暮らしていたわ。・・・・・どうかしら」
「・・・・・前の状態とさほど変化はないですね。重量が増した程度でしょうか」
頷きながらも確認していた無月に問いかけるパチュリー。弾装などを確認していた無月は一度頷くと確認するように問いかける。
「ええ・・・・銃身や随所のパーツを魔力に適合した材料に変えたから重量が増えたわ。でも耐久性や精度は以前より上がっているはずよ。・・・・まさかその銃を再び見るだなんて思わなかったけれどね」
「そういえばお嬢様もパチュリー様も元は"外"出身でしたね」
「そうだったのか・・・・今度"外"の話してくれよ」
「・・・・今度試射してみます」
無月の問いかけに答えるパチュリー。そんなパチュリーの呟きに反応する咲夜と"外"の話に興味を持つ魔理沙。無月はAK-47Ⅲ型ともう一丁のアサルトライフル(こちらもどことなくAK-47に似ている)のセーフティを掛けると小さく呟く。
「一応名称も銃身に彫ってみたわ・・・・あくまでも私が考えた名称だから気に入らなければ言って頂戴」
「・・・・"ソール"・・・・そして"マーニ"・・・ですか」
「確か"外"にも伝わってる神話だっけ?」
パチュリーの言葉を受け、銃身を確認する無月。そこには銃本来の名称のほかに、もう一つの単語がそれぞれ彫られていた。無月の横からその単語を見た魔理沙が記憶を探るように問いかける。
「ええ。無月が持つ漆黒の刀にレミィがスルトルと名づけた。スルトルとは"外"にも伝わる神話・・・・北欧神話の巨人の名前よ。そしてフランが宣言するスペル"レーヴァテイン"の持ち主ともされている。せっかくだから同じ神話から名を取らせてもらったわ」
「へー・・・・レミリアの奴そこまで考えて名前付けたのか?」
パチュリーの説明に再び感心したように魔理沙が問いかける。するとパチュリーは少し面白そうに笑みを浮かべると、首を横に振る。
「多分そこまで考えて名づけた訳ではないと思うわ。"スルトル"とは"黒"という意味を持つの。単純に色から考えたと見るのが一般的ね。それが偶然フランのスペルと関係していただけと私は推測している。そしてついでだから小箱の方の銃にも同じように北欧神話に関係する名前を付けさせてもらったの」
やや苦笑気味に己の友人の事を考えて結論を出すパチュリー。パチュリーの言葉を受け、無月がリトルが持ってきた小箱の蓋を開ける。そこにはコルト・キングコブラともう一丁、無月が見たことのないリボルバー、そしてそれぞれの弾丸が複数個と回転弾倉が三つ収められていた。
「その銃はソール、マーニの改造のために材料を購入してもらうために、森近さんのお店にリトルを行かせたときに、リトルが勝手に買ってきたの。本当の名前は"マテバ6ウニカ"というらしいわ。一緒に説明書ももらってきたみたいで読んでみたのだけれどなかなか面白かったわ」
「・・・・珍しい銃ですね。シリンダー最下部の弾丸を撃つのか・・・・」
パチュリーが説明すると無月がその銃を手に取り、詳しく調べる。本体には銃本来の名の他にもう一つ名前が彫られていた。無月の隣で元々無月の持ち物であったコルト・キングコブラを見ていた咲夜も、そのもう一つの名前に気づく。
「マテバに付けられた新たな名はハティ・・・・これは一体・・・・」
「こちらにはスコルと彫られているわね・・・・申し訳ありませんが説明をお願いできますか?」
無月と咲夜から説明を求められたパチュリーは、どこか得意げに頷く。
「ハティ、そしてスコルもまた北欧神話に出てくる名前よ。北欧神話では太陽の女神とされるソール、月の女神とされるマーニをそれぞれ追いかけているとされてるの。リトルがハティ・・・・つまりマテバを勝手に購入してこなければこの名を付けようだなんて思わなかったわね」
「・・・・一つ聞きたいんだが、もしリトルの奴が勝手に購入してこなかった場合の名前は?」
パチュリーがリトルを横目で見ながら説明する。そんなパチュリーに気になった魔理沙が問いかける。するとパチュリーは魔理沙に一枚の羊皮紙を手渡す。気になった無月、咲夜もその羊皮紙を覗き込む。
「・・・・なんというか・・・・」
「これはこれで面白い気も・・・・」
「単純明快・・・・というやつですわね」
羊皮紙に書かれていた名前を見て各々感想を述べる三人。そこに書かれていた内容はシンプルだが、流石は魔法使いというべきか、様々アナグラム(ある単語を並び替えて別の単語に変形させた文字)だった。
「とりあえずソール、マーニ。そしてハティとスコル。上手く使いなさい。私の勘だけど無月は今後色々と厄介ごとに巻き込まれる気がするからね」
「・・・・ありがとうございます」
「今度霊夢にでも頼んで厄払いでもしてもらえばどうだ?」
「そもそもあの紅白巫女、そういうことできるのかしら」
「「((平和だな~))」」
パチュリーの言葉になんとも複雑な表情で礼を述べる無月。そんな無月にからかい半分で魔理沙が提案し、咲夜は少し疑問を持つ。紅魔館はここ最近平和であると再認識したこぁとリトルだった。
ちなみにこの後、魔理沙が無月が操る銃の試射に付き合い、初見ということもあったのか、はたまた無月の腕が良すぎたのか弾幕ごっこ中、無月から一方的に撃たれたことを余談として記しておく
どうも作者のめーりんです
補足
本編前にあったとされている吸血鬼異変の犯人がレミリアと考えた結果、紅魔館組みは元は"外"の住人だと考えて描写しています。
パチュリー様は約百歳ほどとされていることや、お嬢様との出会いが具体的に書かれていないために、魔女狩りから逃れてレミリアの元に転がり込んだのでは?と解釈して描写させていただきました。
そして銃ですが、無月が新たに得たAK-74が開発されたのは1974年。
ここからは作者独自の解釈ですが、パチュリー様が生まれたと考察されているのは1900年より少し前だとしている&外出身で魔女狩りから逃げているとき喘息もちのパチュリー様を守っていたのは誰?→小悪魔では?→ではどうやって守っていた?→普及している銃のほうが確実
という流れで登場させました。
そしてもう一つのリボルバー"マテバ6ウニカ"ですが、こちらは永夜異変前にはまだ生産されています。しかし扱いにくさやコストのことを考えたら幻想入りした奴があったとしても不思議ではないと解釈して登場
今回の補足はここまでとさせていただきます。
ではでは