第十六章 一時帰還×魔法使いたちの考察×庭師との再戦
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二日目 2:30 霧の湖湖畔
「・・・ん?」
「あら」
紅魔館を出発し、方々を散策していたが、ろくな手がかりも手に入らなかったため、今後の行動方針を考えながら霧の湖の湖畔を歩いていた無月。普段より濃い霧が立ち込める中、彼の視界に一人の女性が姿を現す。無月はどこかで見かけたその女性に不思議な感覚を感じ取り、無月を視界に納めた女性もまた、彼から奇妙な感覚を感じ取る。
「・・・確か貴方は・・・」
「・・・とりあえず自己紹介しても?」
話しかける女性に対し、少し困ったような表情で提案する無月。すると女性"アリス・マーガトロイド"は少しだけ笑みを浮かべる。
「紅魔館、フランドール・スカーレット専属執事兼門番補佐役、赤羽無月だ。確か貴女は最近の宴会に顔を出していなかったか?」
「失念していたわね・・・私はアリス・マーガトロイドよ。確かに私も前回の宴会には参加していたわ。貴方はそのときに見たわね。顔の半分が包帯で覆われていたから印象に残っていたのよ」
お互いに自己紹介を済ませる両者。その時無月が視界の隅に動く影を捕らえる。その影がアリスの方に勢い良く突っ込んでくることに気づくと、急いでアリスの前に移動する。
「ぶっ!?」
「えっ?ちょっと!?」
突然の行動にキョトンとしたアリスだが、無月が横っ飛びに吹き飛んだ事で驚きの表情になる。慌てて無月に近寄ると、そこには地面に仰向けに倒れ、やや苦しそうにしている無月と、彼の腹の上で仁王立ちしているチルノの姿があった。
「・・・大丈夫?」
「・・・平気だ」
「へっへーん!!あたいのつよさ思い知ったか!!やっぱりあたいはさいきょーね!!」
少しだけ心配そうに問いかけるアリス。それに答える無月を完全に無視してチルノは笑みを浮かべて上空に叫んでいる。やや困ったような表情に無月がなると、アリスが小さく合図を出す。すると霧の中から数体の人形が勢い良く姿を現し、チルノに跳び蹴りをくらわせる。
「ぎゃーーー!?」
「大丈夫そうね」
「・・・すまない」
小柄なチルノは人形数体の蹴りで無月の上から強制的に排除され、そのまま霧の中に転がってゆく。その光景に唖然としていた無月に心配そうに手を差し出すアリス。手を借りずに慌て気味に無月が立ち上がると、その姿が面白かったのか、再びくすりと笑みを浮かべるアリス。その姿に困惑したような表情になる無月。
「ごめんなさい。あなたの姿が私が思っていた男の人のイメージと違ったから・・・つい、ね」
「・・・?」
困惑した無月に説明するアリス。そんな彼女の説明にコテンと首をかしげる無月。そんな彼にアリスは説明を開始する。
‡‡‡人形師説明中‡‡‡
「・・・そうなのか」
「そうよ。私の夢は自分の意志で行動する完全自立型の人形を作ることなのよ」
説明が終わり、談笑しながら湖畔を歩く両名。アリスもまた、今回の宴会のときに発生していた霧に疑問を抱き、行動を開始した一人だという。しかし調査に行き詰っていたため、誰か別の人物の意見を聞きたいとの要望で、無月が紅魔館への案内を買って出たのだった。
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二日目 2:45 紅魔館 図書館前
「広いわね・・・」
「もう俺は慣れたがね・・・っと・・・。パチュリー様、無月です。お客様が見えられました」
「・・・お客?まあいいわ。入って頂戴」
紅魔館に到着し、図書館まで案内した無月。その内部の広さに唖然としているアリスに苦笑気味に答えると"紅魔館の執事"としての口調に切り替えてパチュリーに報告を入れる。すると一拍おいてパチュリーから答えが返ってきたため、無月はドアを開け、アリスを中に招き入れる。図書館の中は出立時よりやや荒れており、無月は少し疑問に思う。
「無月、彼女は?」
「彼女はアリス・マーガトロイドさん。ここ最近の宴会に疑問を持って独自に調査していたそうです」
「・・・よろしく」
本を閉じ、無月に問いかけるパチュリー。無月が説明すると、アリスも軽くとはいえ会釈する。パチュリーも会釈を返すと無月に向き直り、視線で続きを促す。
「自分の行ける範囲で調査を行いましたが霧の発生源は発見できませんでした。しかし何というか・・・霧から視線を感じた気がします」
「視線?それは気のせいじゃないの?」
「私は妖気しか感じなかったけど・・・」
無月の報告に怪訝そうに聞き返すパチュリー。アリスも首をかしげながら意見を述べる。
「出立時より荒れてませんか?それに魔理沙は・・・?」
「ああ、そうだった。魔理沙は今こぁが看病しているわ。荒れている理由もそれが原因」
気になったのか無月がパチュリーに問いかける。するとパチュリーはやや疲れたように答える。
「そして無月、貴方への伝言もあるわ」
「・・・伝言・・・ですか?」
事情が把握できないアリスを置き去りに話しを進めるパチュリー。伝言と聞き、自分に一体誰が・・・と疑問に思う無月。
「銀髪の娘が貴方が出発してから乗り込んできてね。魔理沙と一戦やらかしたのよ・・・で、魔理沙は完敗。貴方が戻ったらこう伝えて欲しいと彼女は言っていたわ。"あの時の決着を今度こそ。博麗神社にて待つ"・・・とね」
「・・・そう・・・ですか」
パチュリーの説明に小さく頷く無月。パチュリーと未だ事情が呑み込めていないアリスに会釈をすると、図書館を後にし、自室に一度戻る。そこで調査の邪魔になると判断していたスルトルを持つと、意を決したように博麗神社を目指すのだった。
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紅魔館 図書館内
「・・・そういえばアリス・・・だったかしら?貴女無月から何か感じ取った?」
「・・・ええ。彼、魔法使いの素養があるのね」
無月が出発した後、こぁから魔理沙の容態の報告を受けたパチュリーは唐突にアリスに話しかける。なんとなく質問されると思っていたアリスは、頷くとパチュリーの視線を受け、パチュリーの正面の椅子に座る。
「・・・アノ魔力の感覚は明らかに生粋の魔法使いに近い。今なら分かる・・・貴女と極めて近い感覚・・・改めて聞くわ。彼は何者?」
「それを説明するにはアレを見せたほうが早いわね。こぁ・・・持ってきて頂戴」
テーブルの上で手を組んで言葉を選びながら話すアリス。その問いかけに、パチュリーは小悪魔にとあるものを持ってくるように指示を出す。
「・・・・これは?」
「無月の"血"よ。彼の能力の補助ついでに確保しておいたの・・・」
しばらくして小悪魔が一つのフラスコと試験管数本を持ってくる。それを見たアリスが問いかけると、パチュリーは簡潔に説明することにした。
‡‡‡パチュリー説明中‡‡‡
「・・・それって・・・明らかに吸血鬼の力じゃない・・・!!」
「でも彼の血の構成は"人間"と"妖怪"の二種類だった。ただ・・・ただ、彼はあの八雲紫が幻想郷に自ら連れてきた人物なのよ。だからこそ私は真実を知るためにこうして研究を行ってみた・・・彼には悪いけどね」
説明を受けたアリスは椅子を蹴倒し立ち上がると、驚きの表情になる。
「私の仮説はこうよ。今まで彼の怪我の治療に私は魔法薬・・・しかも私の魔力を使って生成した物を用いてきた。そしてその魔法薬に微量に含まれていた私の魔力を彼の血が取り込み、昇華した・・・だから今まで魔法とは縁のない生活を送っていたはずの彼に魔法使いとしての素質が生まれた・・・ま、仮説の域を出ないのだけれどね」
「・・・自分の血を武器に出来る・・・しかも血の特性を組み込める・・・吸血鬼じゃないのね?」
「レミィが無月が気絶してるときに確認したからまず間違いないわ。本人は日の光も、流水も、銀も平気よ。おそらくは彼の能力だと思うわね・・・しかも完全には覚醒していないはず。私でも構成が分からない封印の術式が施されていたから・・・」
深刻な表情で話し合うパチュリーとアリス。そこへややふらついた魔理沙がやってくる。
「無月は無月だろう?それはどんな事情があろうとも変わることのないことのはずだぜ?」
「・・・ま、それもそうね」
「・・・ここで出もしない論議に意味はないわね・・・そうだ、彼に魔法教えるつもりなら私も一緒に教えさせてくれないかしら・・・教えがいがありそうだし」
あまり事情が分からないが、彼を友人だと思っている魔理沙の言葉にやや脱力しながら同意する両名。その後アリスがやや興味津々といった様子で提案する。パチュリーもそれには賛成なようで、二人はクスクスと笑みを浮かべるのだった。
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二日目 3:10 博麗神社
満月の淡い光が幻想的な博麗神社の境内。無月が長い長い階段を登りきる。階段を登る最中、無月はピリピリとした空気を肌で感じ取っていた。それは例えるならば研ぎ澄まされた刀を想起させる様な鋭さを持つ。
「…来ましたね」
「…」
境内の中程に佇む一人の少女、否、一人の剣士゛魂魄妖夢゛は閉じていた瞳を開き、無月を見据える。対する無月は無言で見据え、目を細める。妖夢が纏う雰囲気が以前と異なるためである。
「異変解決なんてどうでもいい…様々な人を斬ってきた。全ては貴方との決着をつけるためです…辻斬りと言われようとも決着をつけないと私は進めない…!」
「…そうか」
叫ぶように自身の思いを吐き出す妖夢。対する無月はその思いを組んだのか、言葉少なくも雰囲気が鋭くなる。
「…」
「…」
無月の武器は左手に持たれる漆黒の刀"スルトル"。対する妖夢が主に武器として使うのは妖怪が鍛えた長刀"楼観剣"。お互いに武器に手を掛けてすらいないのに張り詰める殺気。それを感じ取ったのか、鳥たちが一斉に音を立てて飛び立つ。
「疾ッ」
「はぁっ!!」
その瞬間お互いに一気に前に出、無月は左手一本で下段から斬り上げるように、妖夢は右手一本で上段から斬り下ろすように抜き打ちざまに獲物を振るい、刃に混じり気のない殺意を乗せてお互いの首を狙う。抜き放たれた刃は丁度両者の中間点でぶつかり合い、火花を散らして軌道を狂わせるとお互いの前髪を僅かに斬り飛ばす。
「ッ・・・!!」
「くッ・・・!!」
妖夢が振り下ろした状態から、開いている左手一本で横薙ぎに振るった短刀"白楼剣"。その刃に"嫌な予感"を感じた無月は、左手の"武器"を展開し、白楼剣を受け止める。
「・・・新しい武器ですか」
「・・・強くなろうとしているのが自分だけだと思わないことだ」
お互いの武器が武器だけに迂闊に距離をとれば妖夢はスルトルに、無月は楼観剣に斬られてしまう事が理解ため、拮抗している状態で睨み合う。白楼剣と拮抗している無月の武器、それは出立前にパチュリーが送ったグローブと腕輪が変化した、腕全体を覆うようなガントレットだった。
「ちょっと・・・何なのよこの殺気・・・!!」
「「ッ・・・!!」」
乱入する新たな声。睨み合っていた両者はほとんど同じタイミングで跳び下がり、距離をとると一度武器を収める。新たなる乱入者"博麗霊夢"は、そんな両名を見据えると、睨みつける。
「何なの?今の殺気は。しかもお互いに殺す気満々で攻撃して・・・。これは完全なルール・・・」
「すまないね・・・これは紫も黙認してくれるてるんだ・・・君が立ち入っていい問題じゃあないんだよ」
ずかずかと両名を睨みながら歩み寄る霊夢。そんな霊夢の背後に突如現れ、首筋に手刀を入れると気絶させる一人の男性。白と紺の和服を身にまとう男性"魂魄桜花"は気絶した霊夢を抱えると両者から離れる。
「ま、紫が黙認してくれてるって言うよりは、俺が半ば無理やり黙認"させた"んだけどね」
「全く・・・まさか貴方がここまでするなんて予想外だったわ」
神社の縁側に霊夢を寝かせるとニヤリと笑みを浮かべると彼の隣にスキマが開き、若干ボロボロの紫が誰かを抱えて姿を現す。紫に抱えられているのは、九尾の狐であり紫の式である藍だった。
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「どうにも妖夢もあの無月って奴もお互いにライバル意識を持ってる感じだったからな。だからこそ全力で闘わせてやろうと思ったんだよ」
「それでどちらかが死ぬ可能性は?」
「ある訳ねーよ。言っただろ?"お互いに"ライバル意識を持ってるって。切磋琢磨しあえる奴殺すなんざありえねーよ」
縁側に腰を下ろすと、彼はどこからか酒の入った大きめの徳利を取り出すと、それを傍らに置き、月を見上げて話し出す。紫はそんな桜花の話しを聞いて不思議そうに問いかける。その問いかけに、やや馬鹿にしたように返す桜花と、少しムッとしながらも納得する紫。二人の間には妙な信頼関係の様なモノが確かに存在していた。
「で?何を企んでいるのかしら・・・貴方が何の考えもなしにこんなことをするとは思えないわ」
「ん?まあ一つ目の目的はさっき話したとおり、闘わせてやりたいって事かな。もう一つの目的は彼の封印を解いてやろうかな・・・っていう所謂お節介だよ。ま、半妖ってのは結構な確立で強大な力を持つ。だから力の制御が出来なかったり、人からも妖怪からも疎まれたりする・・・俺はそれを防ぎたいのさ・・・元人間だからこそ・・・ね。それにあの時俺は彼女を助けることが出来なかった・・・その二の舞を防ぎたいだけなのかもしれないがね」
ジト目で見てくる紫に降参とばかりに答える桜花。途中から彼はどこか遠い目をして自嘲気味に答える。その理由がなんとなく察することができた紫は、小さく笑みを浮かべるのだった。
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「ッ・・・(強い・・・以前より技にキレが出ている・・・!!)」
「くッ・・・(本当に隻眼になったばかりなんですか・・・!?隙が全くない・・・!!)」
再び刃を鞘から抜き放ったなった両名は、持てる技術を出し惜しみなく繰り出し己の得物を振るう。その様は他者から見たらまさに舞の如き。しかし疾る光には濃厚なまでの殺意とは別に"相手に勝ちたい"とい意志が込められていた。
「「((そろそろ仕掛ける・・・!!))」」
十数合にもなる近距離での近接戦に埒が明かないと判断した両者はほぼ同じタイミングで後ろに跳び、距離をとる。両者ともに鞘に素早く刃を収め、宣言する
「剣伎「桜花閃々」!!」
「刀伎「紅葉迅牙」・・・!」
お互いの姿が見えたのは一瞬。直後両者の丁度中間点にて無数の火花が咲く。両者が繰り出した技はお互いの位置が入れ替わった後に両者の頬に僅かに傷がつくという結果として現れていた。
「・・・強いですね」
「・・・そちらこそ」
僅かな沈黙の後口を開く両者。たった一度の技の応酬で実力が拮抗していると判断した無月、妖夢の両者は、自分の必殺と呼べる技で決着を付けることを決意する。妖夢はもう一度楼観剣を鞘に収め、目を瞑り、精神を集中させる。対する無月もまた、スルトルを鞘に収めると目を瞑る。
「これで決着が付くのね・・・」
「ああ・・・居合い対居合い・・・勝負の明暗は相手より速く刀を抜けるか・・・だな」
緊迫した雰囲気から決着が付くと理解した紫と桜花もまた息を呑んで見守る。風すら止み、博麗神社から一切の音が消える。
「人符「現世斬」!!」
「闇符「朧月斬」・・・!!」
先ほどと同じように姿が掻き消え、お互いの位置を入れ替えた状態で現れる両者。楼観剣、スルトル共に振り切られた状態で静止している。見守る桜花と紫も決着が付いたことを悟る。
「・・・ッ」
「・・・」
"先"に動きが現れたのは無月。頬に一文字に赤い線が現れると、そこから続々と血が流れる。そして"後"に動きが現れたのが妖夢。傷はないが、糸が切れたように横に倒れる。
「勝負あり、ね」
「まさに刹那の差で勝負が決まったんだな」
無月と妖夢の両名に近寄る紫と桜花。特に無月は出血が酷いため、すぐに治療が必要だと桜花は判断する。
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「…君は戦士なのに…優しいんだな。あの一瞬で峰打ちに替えるんだから…」
「…できるだけ女の子に傷を残したくないからな」
博麗神社の縁側にて無月の頬の傷を治療しながら桜花は軽く笑みを浮かべる。対する無月は偽善かもしれないと自嘲する。
「なあ紫…そろそろ良いんじゃないか?萃香も闘いたそうだしな」
「…そうね」
治療を終えた桜花が不意に隣にいる紫に話しかける。対する紫も無月の顔を見ると、小さく頷く。
「君はこの三日おきの宴会を止めに来たんだろう?その首謀者に会わせてやるよ」
「彼女が満足したら、この異変は解決できるわ…」
徐々に集まる妖気に無月が唖然としていると、桜花と紫が話しかける。無月はスルトルを右手に持つと、博麗神社の広場中心に向き直る。
紅魔館のとある部屋から一人の人物がややふらつきながらも姿を消していた事を、この時は誰も、あの八雲紫すら気づかなかった…。
「…無月…ッ…!」
どうも作者のめーりんです
今回は戦闘よりもパチュリー様の考察がメインの回となりました。
さて、ここでアンケートを取ろうと思います。今後の本作に大きく関係する内容なのでぜひお答えください
Q1.桜花が話していた半人半妖を河城みとりにしても良いか
1.おk
2.ダメに決まってんだろうjk
Q2.本作のメインヒロイン的な人物(ヒントは今までの紅魔館の住人にあります)について
1.メインヒロインなんだから告白まで行っちゃいなYO!!
2.ざけんな!!あくまで相方ポジに決まってんだろjk。嫁はやらん!!
3.私にいい考えがある
Q3.メインヒロインにした場合、その人物に変化が訪れる(ヒントその2。無月は半人半妖である)
1.いいんじゃないかな?
2.ダメに決まってんだろう常識的に考えて・・・
萃夢想終了時まで受け付けます。たくさんの方の意見お待ちしております。感想やレビューもお願いします