第十四章 決着×後始末?
今回は短いです。
あれ?紅霧異変より短い気が・・・。
そして弾幕ごっこは行方不明になってる気が・・・
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「参ったわ…・・・私の負けよ」
巨大な桜の元、目を少しだけ伏せながら負けを認める一人の女性。
桜色の髪の毛と水色のゆったりとした服装。端から見たら亡霊だとは見えなだろう容姿を持つ彼女こそ、今回の異変の首謀者、西行寺 幽々子である。
そんな彼女の前には疲弊しきった様子の霊夢、魔理沙、咲夜の三人が浮いている。
「…ところで…妖夢と桜花に勝ったのよね」
「あ…」
「そうだ無月…!」
「ッ…!」
ふと思い出したように幽々子が三人に問いかける。その問いかけに、三人は慌てて元の道を戻ってゆく。
その慌てっぷりに興味を抱いたのか、幽々子も三人の後を追いかけてゆく。
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「「「……」」」
元来た道を戻ってゆくと、無月の姿は程なく見つけることができた霊夢達三人だったが、即座に足を止め、唖然としてしまう。
空中に無数に浮遊し、ランダム運動を行っている真紅の足場。そこを縦横無尽に利用しながら、妖夢との攻防を演じる無月。
弾幕ごっこではないその超高速戦に、魔理沙、咲夜だけでなく、霊夢までも凄いと感じていた。
「あの子…片目でよく妖夢と互角に戦えるわねぇ…」
「片目…!?」
「あいつ…怪我してんのか!?」
「無月…!」
そんな三人の後ろからマイペースな幽々子が一人の男性の足を引きずりながら現れる。
その言葉にギョッとした三人は慌てて無月の方に目を向け、そして即座に目を逸らす。
既に無月の右半面は朱に染まり、死なないのが不思議な量の血を流している。
「事情は(気絶していた)桜花(を無理やり目覚めさせ脅迫して)から聞いたわ・・・アレは桜花の不手際。ごめんなさいね」
のほほんとした雰囲気はどこへやら、真面目な表情で三人に向き直る幽々子。咲夜や魔理沙は軽く驚き、霊夢は腕を組む。
「それはアイツに言うのね。…で?アレはどうするの?癪だし認めたくないけど、あの攻防に割り込める自信、私にはないわよ?」
「…そうね。どうしようかしら」
「私も割り込める自信はない。マスタースパークすら避けちまいそうだ」
「私もないわ…。無月の近接戦闘能力はお嬢様が認めるレベルだもの…」
霊夢の問いかけに、考え込む面々。すると不意に幽々子が周囲を見回す。
「どうしたの?」
「珍しいお客が来たみたいね。どうやら割り込むみたいよ?」
咲夜の問いかけに、少しだけ笑みを浮かべながら答える幽々子。その後、突如聞こえてきた声と同時に、決着を付けようとしていた無月と妖夢が謎の鉄塊に跳ね飛ばされ、霊夢達三人だけでなく、多少は事情を知っているであろう幽々子が大慌てで無月と妖夢の元に向かったのは、ココだけの話し。
‡‡‡
異変解決から10日後。白玉楼 客間
「・・・・・・ッ・・・」
「・・・目が覚めましたか?」
薄らと目を開く無月。直後襲い来る激痛に歯を食いしばるように耐える。そんな彼が目を覚ましたことに気が付くのは、看病していた少女、魂魄妖夢。無月の全身は包帯が巻かれており、その顔の半分も、真っ白な包帯に覆われていた。
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「・・・」
「・・・」
掠れるような声で外の空気が吸いたいという無月に手を貸し、白玉楼の中庭までやってきた両名。たどり着いた素晴らしい枯山水の中庭で両名は絶句し、そこで行われている事に思わず目を逸らした。
「私の家の執事を傷物にした罪は重いわよ?」
「・・・一生もののトラウマになるまで行われると思いなさい」
「私の友人に大怪我させたんだ・・・覚悟しやがれ」
「一生ものの実害を出したんだもの・・・罰は受けてもらうわよ」
「うふふ~。二人ともそんな所で突っ立ってないでここに座りなさいな」
上空を彩る様々な弾幕。それはたった一人の男性目掛けて放たれたモノ。放たれている男性、魂魄桜花は涙を浮かべながら必死に避けているが、当然ながら全て避けきることなどできるはずもなく半ばリンチ状態である。
そんな彼を縁側に座りながら見上げる女性、西行寺幽々子は無月と妖夢を隣に呼ぶ。妖夢は無月に負担を掛けないように縁側に座らせると、幽々子の視線を受け、無月の隣に腰掛ける。
「まずは自己紹介からね。あ、貴方のことは紫から聞いているから、自己紹介はしなくていいわよ。私は西行寺幽々子。この白玉楼の主です。今回の事は本当にごめんなさいね」
「気にしなくても・・・」
「貴方が気にしなくても、私が気にしちゃうのよ~。だから謝らせてくださいな」
「本当に・・・申し訳ありませんでした」
無月が"気にしなくてもいい"と言おうとする前に少しマイペースな口調で幽々子が割り込む。妖夢も無月の隣で本当に申し訳なさそうに謝罪する。
「終わったわ・・・。無月ッ!!目を覚ましたのね!?」
「無月・・・!よかった・・・!」
「目が覚めたんだな。よかったぜ」
「・・・大丈夫そうみたいね。安心したわ」
そんな無月の元に空中で桜花相手に弾幕を放っていた四人が下りてくる。レミリアは安心した様子で、咲夜は"無意識の内に"であろうが軽く涙目になりながら、魔理沙と霊夢は微笑みながら無月の元にやってくる。
「・・・」
「やはり誰かに心配とかされるのは慣れてないのね・・・」
どう反応すればいいか判らない様子の無月を見て呟く幽々子。その言葉に無月はふと疑問を抱く。
「その反応は彼女達に私が貴方の過去を少し見せたからですわ」
「・・・・・・ッ」
「・・・・痛い」
「「「「「自業自得だな(ですわ)(よ)(だぜ)(ね~)」」」」」
無月の疑問を見透かしたように無月の前にいきなり逆さまの状態でスキマから上半身を出す紫。反射的に無月が繰り出した左ストレートは、してやったり顔だった紫の顔面に見事直撃し、彼女は涙目になる。
それを見たレミリア、咲夜、霊夢、魔理沙、幽々子の五人は異口同音に呟き、ため息をつくのだった。
‡‡‡
白玉楼 中庭縁側
「さて…紫の珍しい顔も見れたし、宴会にしましょう?」
「分かりました。では失礼します」
「…意地が悪いわね」
「あんたは休んでなさい」
「怪我人は休んでろって」
縁側で朗らかに笑みを浮かべる幽々子。そんな彼女に律儀にお辞儀をしてから離れてゆく妖夢。
そんな友人を恨めしげに見ながらも、隣に控える己の式から受け取った氷嚢(どこから持ってきたかは不明)を額に当てながらため息をつく。
怪我人であるのにも関わらず宴会の準備に行こうと腰を浮かせた無月を笑顔で押しとどめ、妖夢の後を追いかける霊夢と魔理沙。無言で何故かその後に続くレミリア。
残ったのはバツが悪そうな無月と、主から何かを耳打ちされた咲夜。朗らかな笑みを浮かべる幽々子と氷嚢をスキマに放り込んだ紫、ズタボロの状態で枯山水の庭に倒れている桜花だけであった。
‡‡‡
「そういえば貴方は宣言された事、結果的には達成されたな」
宴会が開始され、各々が思い思いに酒を呑む中、やや離れた位置で桜を見ている無月の元に一人の女性が訪れる。
見る者を惹きつける容姿、手入れの行き届いた見事な九尾。八雲 紫の式、八雲 藍は無月に空のお猪口を手渡しながら微笑みかける。
「…何故それを…?」
「あの時、橙に聞いたのだ。そして貴方は結果的にその言葉の通り紫様を泣き顔にさせた」
お猪口をやや戸惑いながら受け取った無月は不思議そうに問いかける。
そんな無月のお猪口に反対側の手に持っていた徳利からお酒を注ぎながら藍は軽く微笑みかけ、問いに応える。
「橙、とは?」
「私の式でね…紫様の事だ、何か戯れをなされるだろうと予想して向かわせたのさ。まさか落下させるとは予想外だったよ」
藍の言葉に思い当たる節がある無月は藍に感謝の言葉を言おうとする。
しかしそれをやんわりと遮り、藍は再び笑みを向ける。
「紫様を結果的にとはいえ泣かせた人間は数少ない…っと、今は宴の席、楽しまないと損だぞ?」
ではな、と無月の傍らに徳利を置くと、藍は離れてゆく。無月は彼女の言葉を思い返し、宴を眺める。
「あの・・・」
「・・・」
置き去りにされた徳利をどうしようか悩んでいた無月。そこに料理が盛られた小皿と徳利とお猪口二つが乗ったお盆を持った妖夢がやってくる。そちらを向いた無月の顔を見た瞬間、妖夢は申し訳なさそうに眉を下げる。
「お隣・・・良いですか?その・・・お話したいこと、ありましゅ・・・あう・・・」
「・・・かまわない・・・ククッ・・・」
無月に問いかける妖夢。しかしその途中で噛んでしまい、恥ずかしそうに無月を伺う。話し相手がほしかったのか、快く承諾し、お猪口に注がれていたお酒を飲む無月。そして恥ずかしそうな妖夢を見ると、思わず笑ってしまう。それを見てますます恥ずかしそうにする妖夢。
「目の方は大丈夫・・・じゃないですよね。わかっているんです。桜花が撃ったのはかつて彼が得意としていた対妖怪用の矢。幽々子様や紫様から聞きました。あなたが半人半妖だということも・・・"あなたが目を失っていなかった"という妄想に縋りたk・・・みょん!?」
「武人たる者常に怪我を覚悟すべし・・・俺に武術の基礎を叩き込んだ男がよく口にしていた言葉だ。・・・そこまで気にする必要はない」
無月の左隣に腰を下ろし語りだす妖夢。語るうちにだんだんと涙目になってゆく妖夢の首筋に、十分に冷えていた徳利をくっ付ける無月。驚いた表情で無月の方を向いた妖夢と目を合わせた無月はやや硬い(しかし当初と比べれば柔らかくなった)笑みを浮かべる。
「大丈夫か?顔が赤いが・・・。酔いが回ったのか?」
「・・・大丈夫です!そ・・・そうだ、また今度試合をしてくださいッ。で・・・ではッ」
「ぐえッ」
みるみるうちに顔が赤くなってゆく妖夢。そんな彼女を心配し、頬に手を当てる無月。慌てた様子の妖夢は早口で無月に再戦のお願いをすると、かなりの速度で宴会の中心に向かうのだった。
・・・その途中にズタボロで未だに倒れていたままの桜花が凄まじい勢いで踏まれたのは内緒。桜花哀れなり。
その後様々な人物が入れ替わり立ち代り無月の元を訪れ、怪我の様子などを尋ねたり、純粋に酒を飲みに来たりするが、その全員が去り際に桜花を踏みつけていったのはここだけの話。
宴会が終わり、レミリア、咲夜、無月の三人が紅魔館に戻り、無月の顔を見たフランドールが大泣きし抱きつき、パチュリーが無月を一週間あまり自身の図書館にあらゆる魔法を使って閉じ込め、徹底的に無月を治療(という名の実験)を行ったことを余談としてここに記しておくことにする。