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東方 朧雪華  作者: めーりん
春雪異変
16/44

第十三章 合流×無月対妖夢×負傷と意地×決着は意外な形

‡‡‡‡


「……長い…」


ひたすら伸びる石造りの階段を走りつづける無月。"飛べない"事がここまで不利だとは予想もしていなかったのか、少し落ち込み気味である。


「……っ」


不意に聞こえてきた何かが破壊される音。それを聞き取った無月は即座に石造りの階段からルートを外れ、木々を縫うように姿を隠しながら慎重に進む。


「……あれは…」


気配をしっかりと消してから木陰からそっと音のする方を窺うと、そこには弾幕を張り、前進しようとする霊夢、魔理沙、咲夜の姿があり、その先ではその猛攻を回避して的確に弾幕を撃ち返し、前進を阻止している少女の姿が。更にその少女後方から霊夢達に向けて矢の形をした弾幕を大量に放ち、特に火力のある魔理沙の邪魔をしている和服を身に纏った男性が居る。


「………」


素早く銀筒や武器を確認した無月は周囲を警戒しながらも男性に向けて素早く接近してゆく。


「ッ…!?」


少女や男性はまだ気付いていないと判断し、男性を強襲しようとした時、無月の背後からいきなり“霊夢達と弾幕戦をしている筈”の少女が背負っている刀で斬りかかってくる。


とっさに鞘に収まったままのスルトルで少女の刀を受け止める無月。


しかし強襲しようとしていた所をタイミング悪く襲われたため、また、タイミングが外された為に体勢を崩しており少女の勢いを受けきれず、仕方なく霊夢達の方にバックステップで後退する無月。少女も深追いするつもりはないらしく、素直に“もう一人”の少女の隣に移動する


「無月…!?」


「おわっ…!?いきなり現れんなよな!」


「何故見つかった…?それにあれは一体…」


無月の突然の出現に驚く咲夜と魔理沙。霊夢ですら目を白黒させている事から、無月の気配の消し方が上手いことが分かる。


その無月は何故自分が見つかったのか考えながらも、やや離れた位置に立つ少女に目を向ける。


「確かに見事な気配の消し方でした。私も桜花に教えてもらわなければ分からなかったでしょうね…」


「…妖夢。あまり情報を与えない方が良いかもしれない。正直あの執事さん…底が見えないんだよ」


無月の視線に応えるかの様に刀を持つ少女、魂魄(コンパク) 妖夢(ヨウム)は口を開く。いつの間にか二人居た筈の妖夢は一人になっており、その代わりに巨大な和弓を携えた青年が隣に立つ。


巨大な和弓を携えた和服姿の青年、魂魄(コンパク) 桜花(オウカ)はそんな妖夢を軽く諫めながらも、視線を無月に向け、警戒している。


「…奴が(カナメ)だな…」


「ええ…でも有効射程に近付けないのよ…魔理沙も邪魔されていて上手く有効打を与えられない…。かなりの強敵ね。」


「あの剣士に有効打撃とうとすればあの男が、あの男に有効打を撃とうとすれば剣士が邪魔してくるんだ。かなり厄介だぜ…。」


「なんとかして突破しないといけないのに…。」


無月の呟きに咲夜、魔理沙が状況を素早く説明する。霊夢もやや苛立ちを隠せないかのように呟き、なんとか妖夢と桜花の隙を探そうとする。


「幽々子様の邪魔はさせません…。」


「ま…もう少しで桜は満開になる…。あんたらの持つその花弁…あまり趣味じゃないが、力ずくで奪わせてもらうぜ」


妖夢が攻め倦ねている4人に刀を向け、斬り込もうと構える。桜花も皮肉っぽい笑みを浮かべるとその巨大な和弓を構える。


「……魔理沙。隙を見つけたら俺ごとで構わん、強烈な一撃を撃て…。例え直撃したとしても俺が足止めをする。その間に幽々子って人を倒せ」


「ちょ…正気かよ…!」


「無月…!?」


「くっ…!?」


「早…!?」


魔理沙達三人に小さく伝えると同時に無月は唐突にスルトルを前に軽く放り、同時に全力で前に突撃、投擲したスルトルに追いつくと同時に鞘に収まったままのスルトルを桜花目掛けて上段から袈裟懸けに斬り下ろす。


無月の放ったスルトルに一瞬だけ注意を向けてしまった妖夢は慌てて桜花を狙った一撃を受け止める。桜花も無月の予想外の速力に驚き、構えを解き、慌てて距離を取る。


その告げられた内容に流石の魔理沙も驚き、咲夜も止めようとするが、霊夢が素早く何か伝えたらしく、一瞬悔しそうな表情で突破の準備をする。


「……ッ!」


「くっ……!」


「ちっ…!(…こいつ妖夢を俺の射線に割り込ませる様に位置取りやがる…!これじゃ迂闊に撃てねぇ…!)」


無月が抜き放った左手の刀と右手の鞘による変則的かつ苛烈な技を必死に避ける妖夢。一方距離を取った桜花は即座に弓を引き絞るが、無月の立ち回りによって妖夢を盾にされ、迂闊に攻撃を放つことができずにいる。


「しまっ…!」


「今だ…魔理沙!撃て!」


「上手く避けろよ!?恋符「マスタースパーク」!!」


「マジかよ…!?」


無月が鞘と刀で妖夢を押さえ込むように斬り結んだ状態から、刀と鞘、それぞれ持つ腕の力を少しだけ緩める。その為、突然力の均衡が突如崩れ、押し返そうとしていた妖夢が体勢を崩し、無月の声がやや躊躇っていた魔理沙を後押しする。


魔理沙の右手のミニ八卦炉から放たれた魔力の一撃に桜花は思わず弓を投げ捨て、妖夢の方に全力で飛ぶ。


「妖夢……!うぎゃーー!!??」


「ぐっ…!?」


「なっ…桜花…!?」




放たれた魔理沙の十八番「マスタースパーク」を見て慌てて射線から離れようとする妖夢。しかしそれを阻むかの様に無月が鞘から離した右手で妖夢の腕を掴む為、妖夢は動けない。


迫り来るマスタースパークが直撃する寸前、飛び込んできた桜花が無月ごと妖夢を突き飛ばし、均衡を崩す。


突き飛ばされた無月と妖夢はマスタースパークに巻き込まれなかったが、当然桜花は避ける事は叶わず、あっと言う間に魔力の奔流に飲み込まれる


「しまっ…!」


「…。」


倒れた妖夢の目に移ったのは今まで桜花と二人で守っていた階段を通り抜けてゆく霊夢、魔理沙、咲夜の三人の姿。


慌てて追いかけようとする妖夢の前に同じように倒れていた筈の無月が無言で立ちふさがる。


「邪魔です…!」


右手の長刀を振って密度の濃い牽制用の弾幕を放ち、その隙に突破しようと急ぐ妖夢。


緋色突撃槍(ブラッディーランス)…」


「っ…!?」


しかし牽制用に放った弾幕を砕きながら迫り来る真紅の大型槍に慌てて足を止め、やむを得ずバックステップで回避する妖夢。


「行かせない…。」


「…ッ…邪魔です!」


立ち塞がった無月に向かってゆき必死に障害を排除しようとする妖夢。


しかし焦りが攻撃を単調にし、無月は余裕を以て対処している。


「くっ……(この人…戦い慣れている…。私の方が長い時を生きているはずなのに…!そうだ・・・まずは落ち着かないと…。)」


「……霊夢や魔理沙、咲夜の実力は俺も良く理解している。あの三人なら(多分だが)その異変を起こした人物を倒せるだろうな。」


一度仕切り直し、心を落ち着かせようとする妖夢。しかしそんな妖夢を焦らせるように無月が口を開く。


「・・・ッ(そうだ・・・いくら幽々子様が強いといっても相手は三人・・・不利すぎる・・・!!)」


「・・・。(技術は俺より優れているが、精神面ではまだ未熟か・・・ならば内面から崩すか)」


無月の言葉に無言で(しかし本人は冷静のつもりだが、実際には焦っていると分かる)斬りかかる妖夢。それを避けながら無月は相手を観察し、そこから戦術を決定する。


「つまり俺はお前に無理をして勝たなくてもいい・・・霊夢達が異変を起こした人物に負けを認めさせるまで時間を稼げば良いんだからな・・・それなら俺でも可能だ。」


「そう上手く・・・ッ!!」

 

あらゆる手段で無月を突破しようとする妖夢。しかし地上での戦闘技術に大きく差があるためか、逆に無月に圧され気味で、焦りだけが妖夢に蓄積してゆき、それが更に無月を有利にしている。


無月は魔理沙の様にパワーのあるタイプではないし、霊夢のようにバランスや小回りの利くタイプでもない。咲夜のように能力に秀でているわけでもない。そんな無月が三人に唯一勝っている点、それは立ち回りと相手との心理戦、そこからの戦略構成である。


元居た世界では基本的に単独で大多数と戦闘しなければならなかった為、生き残るために無月が導き出した答えとは相手を"内側"から瓦解させる事であった。そのために身に付けた相手との心理戦能力とそこから導き出される戦術構成力。これだけは幼い頃から戦場に立ち、生き残るために身に付けた無月最大の武器といっても過言ではない。


「(隙あり・・・)がはっ・・・!?」


「捉えた・・・」


細かな連撃すら回避され、妖夢にとっては苛立ちしか感じなかった攻防。そこにできた判りやすい隙、それは無月が“わざと”作った隙だと、焦る妖夢は気付かずに大振りの攻撃を行う。


斬撃の軌道を必要最小限の動きで左に避けた無月は、回避した時の動きで生じたエネルギーをそのまま右足に移動させ、隙だらけの妖夢の胴体に叩き込む。


大振りの攻撃を避けられたため、隙だらけの妖夢は半霊で防御することも叶わずに水月に無月の右足が直撃、後ろに吹き飛ぶ。


「妖夢…!」


「……ッ!?」


吹き飛ぶ妖夢を受け止める一つの影。追撃しようとしていた無月が、その影に気づく前に間髪入れずに疾る一筋の光。


光の正体を見極める前に反射的に左に回避しようとした無月だったが、光は無情にも無月の右目に突き刺さる。


「……ぐッ!?」


「やべ…スペルカードルール忘れてた…。」


「桜…花……?」


痛む右目を押さえる無月。その姿を見て自分が妖夢を助ける為に、スペルカードルールに則っていない、殺傷力が高い矢を撃ってしまったと気が付く桜花。そんな桜花の腕の中、やや苦しそうに彼の名前を呼ぶ妖夢。


「無事か?妖夢」


「・・・うん」


優しく問いかけつつ妖夢に治癒術を掛ける桜花。そんな桜花に微笑みながら答える妖夢。そんな彼女を見てホッとした桜花は隣に妖夢を降ろすと、階段を守るように位置取っており、矢を受けてから一言も喋らない無月に向き直る。


「スペルカードルールに則らなかった矢を撃ったのは済まなかったな・・・だが、その傷じゃもう戦えないだろ?手当てしてやっから妖夢を先に行かせてくれないかい?」


「断る・・・。」


「まだ・・・立てるなんて・・・」


桜花の謝罪と提案を聞き、ふらりと立ち上がる無月。その姿に、絶句するしかない妖夢。


「怪我したから大人しく引け・・・?俺は・・・まだ・・・戦える!!」


「いっ!?」


「・・・ッ!?」


血を吐くような気迫で右目に刺さっていた矢を無理やり引き抜く無月。当然ながら夥しいまでの血が吹き出るが当人は気にすることなく左手にスルトルを持ち、構える。その執念としか言いようのない行動と、躊躇いもなく矢を引き抜いた姿に言葉を失う桜花と妖夢。


「さあ・・・第二ラウンドの開始・・・!!」


「マジかよ・・・!?」


「ひ・・・ッ・・・!」


右目から夥しい量の血を噴出しながら突貫する無月。その鬼気迫る表情と気迫を前に、桜花と妖夢が本能的にとった行動は回避だった。特に妖夢はただの遊びでしかないと思っていた弾幕勝負で初めて経験した恐怖から、近距離戦が苦手な桜花から必要以上に離れてしまう。


「くッ・・・!!・・・がはっ!?」


「まず・・・一人・・・!」


「・・・桜花!?」


妖夢の失策を見逃すことなく、一瞬で桜花との距離を詰めた無月の左からの水平斬りを屈んで回避する桜花。


しかし直後その屈んだ顔面を、無月が能力で創り出した緋色のハンマーが下から跳ね上げるように襲い、桜花の顎を捉え、意識を刈り取る。


「スペル…緋符「空中城壁(エアキャッスルウォール)」…!!」


「スペル・・・!?」


桜花が崩れ落ちた瞬間、妖夢は今まであった甘さを自身の意志で断ち切り、迷いなく彼女は空中に身を躍らせ、無月を倒すために空中から強襲しようとする。しかしそれを阻むように無月がスペルを宣言。無月の声に応えるかの様に妖夢と無月の周囲に緋色の城壁のような足場が出現する。


「(読まれていた・・・!?今までの戦いでこの人は空中戦をしようとしなかったけれど・・・まさかこれが目的!?)」


「逃がさない・・・。(やっと発動に必要なだけの量の血を仕込むことができた・・・。右目の血も利用したからかなり自由度が高く設定できた。これで勝負を決めないと、俺の意識がトぶな・・・。)」


周囲を動く緋色の城壁を見て歯噛みする妖夢。無月は城壁を足場に空中に身を置き、内心の安堵と懸念を気取られないようにスルトルを突きつける。対する妖夢も意を決したように背中に背負う長刀を改めて構える。


「・・・疾ッ」


「でやぁぁぁ!!」



先手を取ったのは無月。鋭い踏み込みから左手に握るスルトルを下から跳ね上げる様に振り上げる。


対する妖夢は右手に持つ鍔のない長刀"楼観剣"で迎撃する。自身の能力である"剣術を扱う程度の能力"と、自身の鍛錬により、完璧に無月のスルトルをその刀身が捉える。


「(斬った…)なっ…!?」


「ッ…」


無月のスルトルと拮抗する妖夢の楼観剣。その事実に妖夢は驚きを隠しきれない。


妖夢が持つ楼観剣は妖怪が鍛えた名刀であり、妖夢自身、この剣が斬れないものを殆ど見たことがなかった。


「その刀…何なんですか…!」


「ッ…!」


苛立ちを隠すことなく、妖夢は左手で自分の持つもう一振りの刀"白楼剣"を横凪ぎに振るう。

無月は右手の鞘で防ぎつつ後方に跳び、威力を殺す。


「はぁっ!!」


「くっ…!」


休む間もなく妖夢が繰り出す白楼剣、楼観剣による縦横無尽の連撃を、文字通り薄皮一枚で回避し、時折妖夢にスルトルで反撃する無月。

もはやスペルカードルールなど関係なしになりつつある二人の空中戦は、いよいよ終結に向かってゆく。


「……次で決めます…!」


「……。」


一度大きく距離を置き、宣言する妖夢。無月もまた、スルトルを鞘に一度納めると、静かに腰を落とす。


「はぁぁぁぁ!!!!!」


「……ッ!」


凄まじい勢いで突貫してゆく妖夢。その勢いはこれまでの攻防の中で最も勢いがあり、ただ相手を"斬る"と言う気迫が感じられる。


対して無月が取ったのは迎撃。腰を落とし、右の瞳からは血を流しつつも、左目は触れれば斬れそうなほどの眼光のまま、妖夢から目を全く離さない。


「「くっ…!」」


一撃必殺の意志を込めた互いの一撃は、お互いの体に届くことなく拮抗、両者は最早弾幕ごっこであることや、本来の目的すら忘れ、ただただ剣士として立ち会う。


「…!」


「く…!」


鍔迫り合いの状態から離れた両者は、即座に前へ。お互い持てる技を全て出すかの如く斬り合う。


お互いに繰り出す刃は、両者の薄皮を斬ることはあれど、決定打には程遠い。


「そこまでですわ…この大馬鹿者」


「「!?」」


そんな二人の戦いに終止符を打ったのは、第三者の放った回避不可能な巨大さを持った鉄塊だった。


不意打ちに等しい一撃は二人の意識を軽々と奪い去り、二人は仲良く吹き飛ばされたのだった。

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