第十二章 宵闇と無月×別行動と新たな出会い×通りすがりの男?
今章からいよいよ春雪異変ですよ~
オリジナルの流れになるのでご注意です
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2004年5月上旬早朝
「ではフラン様…行って参りますわ。」
「フラン、行ってくる。大人しく待っていてくれ。」
「うん。咲夜もお兄様も気をつけてね?」
まだ朝霧の晴れない紅魔館の正面玄関にて咲夜と無月はフランに出発の旨を伝える。
4月下旬に、お茶会時に異変解決に乗り出す事を決めた二人は翌日、各々の主に許可を得に向かった。
フランは行くことを即許可し、更には自分も行きたいと言い出したが、美鈴と無月の必死の説得で渋々待つことを承諾。
一方のレミリアは5月に行くなら良いと許可を出す。その為無月もパチュリーの元に行ったりと準備を万全に整える事が出来た。(その時パチュリーが物凄く心配そうな表情をしていた。)
そして来る5月
朝早くから出発しようとした時、第二の自室(無月がレミリアから許可を得てフランが利用中)から出てきたフラン(可愛らしい寝間着姿。これは魔理沙がプレゼントした物)に送り出される二人。
まだ完全に目が覚めていないフランを部屋に抱きかかえて運んだ無月と、そんなフランの一面を見れた事に驚いた咲夜は門へと進む。
「あ、無月、咲夜さん。今から出発ですか?」
「ああ。」
「ええ。留守を頼むわよ、美鈴。」
門扉の横に立っていた美鈴が二人に気付き、門を開く。紅霧異変後無月という補佐役が付いた事や、門番妖精の増員などで美鈴の待遇も良くなっており、美鈴にも余裕が出来てきていた。(それでも無月の訓練に付き合うなどするため、時折寝てしまうが)
「さて…行きましょうか」
「ああ。」
ふわりと浮かんだ咲夜が無月に微笑みかける。対する無月も、右腰のスルトルを確かめるように掴むと頷く。
無月の執事服姿(これも紅霧異変後レミリアが無月に送り、パチュリーが魔改造した物)がだんだん様になっていると感じた咲夜は移動を開始。無月も走り出す。
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「…桜の花弁…?咲夜…」
「ええ…私も見つけたわ。」
妙に攻撃的になった妖精達(ザコ妖精)を問答無用で叩き潰した二人は、倒した(妖精からすれば一回休みらしい)妖精から本来ならこの季節舞い散る桜の花弁が漂ってくる事を確認する二人。
「これで殆ど確定だな。……この異変は人為的に起きたモノだ。」
「みたいね…。」
「よお!」
「あら…?」
桜の花弁を回収した二人の元に上空から声が掛かる。見上げた二人の元に(特に片方は)見慣れた少女が二人降りてくる。
「魔理沙…霊夢。」
「お前たちも動いていたんだな。」
「……まあな。」
「(紅魔館の二人が動いた。私の勘はまた当たったのね。)」
笑みを浮かべる魔理沙が咲夜と無月に話しかける。それに受け答えする二人を少し空中に浮き、やや離れた位置から霊夢は観察していた。
「お?また桜の花弁か…。やっぱりこりゃ異変か?」
「"また"?」
「魔理沙も見つけたのか?」
咲夜と無月が持つ桜の花弁を見た魔理沙が少し自信なさげに呟く。
その呟きに咲夜と無月が反応。魔理沙が自分が回収した桜の花弁を見せる。
「俺達と同じ花弁だな…一体……ん?」
「無月?どうしたの?」
「どうした?」
花弁を見ながら考え込んでいた無月がふと背後の茂みに目を向ける。
咲夜と魔理沙、そして離れた位置にいた霊夢もそちらを向き、念の為何時でも動けるように身構える。
「………あれは…ッ!?…あがっ!?」
「無月!?」
「霊夢、今のって…」
「どっかで見たわね…。」
茂みから飛び出した黒い靄(しかも結構大きい)にどこか見覚えのあった無月は反応が遅れ、顔面に直撃する。
突然の出来事に驚く咲夜と、見覚えのある魔理沙、霊夢を余所に無月は顔面に引っ付いた黒い靄を両手で引っ剥がす。
「………これは…(あの時の子か。)」
「無月…この子って…。(何で無月に…?)」
「やっぱしあの時の妖怪か…。」
「あの要領の得なかった妖怪ね。」
「お兄ちゃん見つけた~」
「「「お兄ちゃん!?」」」
無月の両手に掴まれた靄は次第に薄れてゆき、中から一人の少女が姿を現す。
見覚えのある少女に無月はため息をつき、咲夜は無月に説明を求めようとする。
魔理沙と霊夢は一度会っていた為、そこまで気にする様子はなかったが、無月に掴まれた少女"ルーミア"の何気ない一言に咲夜を加えた三人は目を見開き、思わずその一言を繰り返して唖然とする。
「どうしたの?」
「無月…説明して頂戴。」
「……お前…」
「…………」
「待て誤解だ。…ちゃんと説明する」
無垢な笑みを浮かべながら無月の前から背中に移動したルーミアが首を傾げながら無月に問いかける。
咲夜、魔理沙、霊夢の三人から少し軽蔑の眼差しを向けられた無月が珍しく焦った表情になる。
‡‡~青年説明中~‡‡
「なる程…。紅魔館に向かう途中で…。」
「お前運が良いなぁ…。そこで貯めてた運使い切ったから咲夜に滅多刺しにされたんじゃないのか?」
「その時はお互いに何も知らない状態だったしな…。」
無月の説明に漸く納得したように咲夜と魔理沙が頷く。その前に大妖精やチルノと知り合う切っ掛けとなったアクシデントも話した時は霊夢も驚いていた。
魔理沙が笑いながら無月の背中を叩きながら(肩に少し無理をしないと手が届かない)咲夜をからかう。
咲夜もあの時の自分の状態を思い出すと、自嘲気味に笑みを浮かべる。
「とりあえずこの子に何か食い物あげないとな…一度紅魔館に戻るか…。このままだと腹減らせて他の人を襲いかねん。咲夜達は先に行っていてくれないか?方角さえ分かれば多分合流できるはずだ。」
背中にしがみついたままのルーミアをそのままに立ち上がる無月。
無月の言葉に魔理沙や霊夢は納得した様に頷くと、ふわりと浮き上がり、先に進む。
異変の元凶がいると予想される場所(霊夢の勘)の方角を霊夢から教えてもらった無月はルーミアを背中にぶら下げたまま、立ちこめだした霧の中歩き出す。
‡‡‡‡
「とりあえず簡単な食料で良いか?」
「名前教えてほしいの。お腹は空いてないよ?」
咲夜達と別行動を開始してしばらく時間が経過したところで思い出したように発した無月の問いかけに、背中にぶら下がった少女ことルーミアは少し頬を膨らませながら無月に反論する。
「ああ…赤羽 無月だ。君は?」
「無月お兄ちゃんなのか~。私ルーミア。」
軽く笑みを浮かべる無月の背中でルーミアはしがみついたまま笑みを浮かべる。
「じゃあ先に進むか…。」
「どこか行くのか~?」
空腹ではないなら異変解決に向かわないと、と霧の湖の湖畔を歩き出す無月。
ふわりと無月の背中から離れたルーミアが隣で浮かびながら問いかける。
「ああ…。この寒さは異常……誰…あがっ!?」
「あの時のお兄さんだ!」
「あら……。」
ルーミアに説明しようとした無月だったが、背後からの気配に振り返る。
振り返った無月は文字通りの空中キックを顔面に受け、顔を押さえてしゃがみ込み、そんな無月の背中に一人の少女が引っ付き、更にそれに続くように一人の女性が現れる。
「チルノ…だったか?」
「うん!」
「お兄ちゃん大丈夫か~?」
立ち上がる無月から離れたチルノは無邪気な笑みを浮かべる。そんな無月に心配そうにルーミアが問いかけるが、無月は手だけで大丈夫だと示す。
「えーと…貴女は?」
「私?私はレティ・ホワイトロック。自然に生きる冬の妖怪よ。貴方も名前を教えてほしいわ。」
右肩にルーミア、左肩にチルノがしがみついた状態で無月は最後の一人に質問し、女性は朗らかな笑みを浮かべて名前を名乗る。
「赤羽無月。紅魔館フランドール・スカーレット専属執事兼門番補佐をやっている。」
「紅魔館の…。貴方も異変を解決に?」
名乗る無月にレティは少し驚きながらも問いかける。その問いかけに、チルノやルーミアに髪を引っ張られながらも無月は頷く。
「そう…。」
「?」
「誰だ…?」
俯くレティ首を傾げるチルノ。その時不意に無月が静かに、しかし何時でも動けるように体勢を整え、草陰に問いかける。その表情から、緊張した様にチルノやルーミアもスペルカードを取り出す。
「そう構えないでほしいですね。」
「…誰だ?(この感じ…あの時の女性に似ている…?)」
茂みから現われたのは黒いコートを羽織り、顔をフードで隠した人物だった。コートの人物の性別は分からないが、どことなく以前あった女性に似ていると感じる無月。
「もう一度言いますがそう構えないでください…私は敵ではありませんよ。」
「なら顔くらいは見せてもらいたいな…あいにく誰かも分からない相手の言葉を信じるほど間抜けじゃない。」
「紫さんの言った通りの人物ですね…。」
コートの人物は両手を前にして敵でないことを示すが、兵士だった頃の癖から、構えを解こうとしない無月。
そんな無月の言葉を聞き、コートの人物は小さく呟く。
「…これで良いですか?ついでですから自己紹介も先にしちゃいますか。私は水式 黙。通りすがりの男ですよ。」
「…赤羽無月だ。紅魔館で執事兼門番補佐をやっている。」
軽く笑みを浮かべながらフードを取った青年 水式黙。本人は気付いていると思うが、その微妙に合っていない格好は胡散臭さを増強している。
無月も名乗りはしたが、何時でも動けるように意識をしている。
「とりあえず話し、聞いてくれると嬉しいんですが。この寒さに深く関わるんですよ。」
「………内容にもよるな。」
胡散臭さを感じさせる笑みを浮かべたまま、黙は話しかける。
無月も情報は必要だと感じたため、話しを聞くことにする。
‡‡~水式 黙説明後移動中~‡‡
「なる程…つまり水式さんはこの異変を是が非でも解決してほしい…と?」
「ええ。友人が深く関わるので是が非でも。ついでに冥界まで案内しますよ。多分博麗の巫女辺りは着いていると思いますけどね。」
説明が終わり、水式黙の先導で冥界に向かう無月。ルーミアやチルノはどこか寂しそうな表情のレティに連れられ、現在は無月と黙の二人だけである。
「ここですよ。(結界が薄れていた…。また面倒な事にならないといいですが…。)」
「……ここか。(こいつ…確実に素人じゃない。…敵じゃなくて本当によかったと思ったのは何時以来か…。)」
かなりのペースで向かっていた為、あっという間に冥界に到着する二人。(途中黙が怪訝そうな顔をしていたが無月はスルーした。)
二人の前にはどうみても蹴破られた様に破損した木製の門扉があり、その傍らには三人の女の子が目を回していた。
「この三人は私が介抱しますよ。貴方は先行ってください。」
「分かった…。」
無月が心配そうにしていたのに気が付いたのか、黙が三人の介抱を引き受ける。
それを聞いて安心したのか、無月は頷き、先に進む。
「お願いしますよ…。あの桜が満開になってしまったら…あの人は消えてしまうんですから…。」
その場に残った黙は既に見えなくなった無月に向かい、珍しく目を伏せながら呟くのだった