第十一章 新技の完成×フランの意外な弱点?×異変の予兆
春雪異変の少し前です
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2004年4月下旬
「……完成…。」
「ですね。おめでとう、無月。」
「おめでとー♪」
寒風吹く紅魔館の庭。そこで息も絶え絶えに執事服を身に纏った青年、無月が呟く。
その呟きに律儀に賞賛の言葉を返すのはやや息を乱した中華風の冬仕様の服を身に纏った女性、紅 美鈴。
そんな二人を見ており、笑顔で白い息を吐きながら賞賛の言葉を送る少女、フラン。
「ありがと…フラン…ちょっと待、ぐふっ…。」
「このやりとりも最早見慣れましたねぇ…。そうですよね?魔理沙さん?」
「…そうだな。私の扱いも変わらないがな」
相変わらずぎこちない微笑を返すも、定番となりつつあるフランの突撃(と云う名のスキンシップ)でぶっ飛ぶ無月を眺めながら美鈴は門の脇にある木に吊されている魔理沙に話しかける。
魔理沙も妹の様に可愛がっているフランの変化は喜ばしいと思っている、が自分の扱いの酷さに最近少し凹み気味である。
「フ…フラン…。最近やけに密着してくるな…。」
「……お兄様は暖かいもん。」
「まだ寒いですからねぇ…」
「その格好なら仕方ない」
「めーりんの格好は寒そう…。」
「その格好じゃあなぁ…。」
やや頬を赤くしながら無月は抱きついているフランに話しかける。対するフランは無邪気な笑顔で無月に笑みを向ける。
その様子を見ながら腕を組んだ美鈴が同意するが、即座に無月達三人からツッコミを入れられ、呆然とする。
「とりあえずお茶にしますか?それにどことなく雪が降りそうですし…。」
「うん!めーりんの淹れる紅茶美味しいもん!」
「私も一緒に…。」
「どうやって抜け出した。」
しょんぼりとしていた美鈴が曇り空を見上げながら提案すると、即座にフランが無月から離れて美鈴に突撃する。
流石の美鈴もフランの突撃に驚いた表情のまま無月同様ぶっ飛んでゆく。その様子を見ながら魔理沙は倒れたままの無月に手を差し出す。
魔理沙の手を借りながら立ち上がった無月は、寂しく風に揺れる縄を見ながら小さく呟くのだった。
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「最近はまだまだ冬の寒さが続きますね。」
「確かに…。雪も時折降るしな。」
「フラン、寒いのは苦手だな…。」
「私はあの霊夢ならこの寒さが嫌になってそろそろ動くって予想してるけどな。」
無月や美鈴が門番として駐留する時に利用する小屋の中で、美鈴が自分が淹れた紅茶を飲みながら小さく呟く。
無月がその呟きに反応し頷くとフランが暗い表情になり、無月の服の裾を握る。
主が何故、その様な行動をするかを察した無月は、フランの頭を優しく撫でてやる。その様子を見ながら魔理沙は紅茶を飲みながら霊夢が動き出すんじゃないかと予想する。
「霊夢さんが…ですか?」
「異常事態には即座に反応するのか…。」
「霊夢は平穏な毎日ってのを楽しみたいみたいだからな。」
「でも何も起きないのも嫌なんでしょ?矛盾してる気がするよ?」
美鈴がまた何か起きてるのかと眉を寄せ、無月がまるでハイエナみたいだと小さく呟く。
魔理沙は椅子の背もたれに寄りかかると、自分とはまるで正反対の性格をしている気がしてならない巫女を思い浮かべながら呟く。フランは魔理沙が云う内容が少し矛盾している気がして反論する。
「気まぐれなんだろ」
「気まぐれなんでしょうね」
「気まぐれなのかなぁ…?」
半ば投げやり気味に無月と美鈴が呟くと、フランも自信なさげに首を傾げる。
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「しかしこのまま寒い日が続くと俺や咲夜さんは特に厳しいな…。」
「暖の燃料…ですね?」
「フランも寒いのは苦手だもん。」
暫く誰も口を開くことはなかった静寂を破るように風の音が響き、それに反応するように無月が呟き、美鈴が同意するように頷く。
フランも精神的に辛いと感じるのか、無意識の内に無月の服の裾をギュッと掴む。
「とりあえず咲夜さんに相談してみよう…考えがあれば良いが…。」
「私は一度帰るぜ。無月、多分次会うのは暖かくなった時だと思うぜ」
「…だと良いがな。」
湯気の上る紅茶のカップを持つと誰に話すでもなく呟く無月。そんな無月に一足先に紅茶を飲みきった魔理沙が立ち上がりつつ宣言する。
無月の小さな呟きが聞こえなかったのか、魔理沙はそのまま箒を片手に小屋を出て行く。
一瞬だけ見えた外では、4月なのにも関わらず雪が舞っていたのが見えた。
「これは本格的に異変ですね。」
「お兄様…フラン、寒いのは嫌…。」
「……フラン…。(最悪俺一人でも原因を探ってみるか…。博麗霊夢を追えばあるいは…。)」
困ったように美鈴が呟き、少し暗い表情でフランは無月の背中に移動すると、背中にしがみつくように抱きつく。そんな主の行動に無月は心の中で決意を固め、動くなら新技の練習中に訪れてきた紅白巫女こと、博麗 霊夢を追うことを決める。
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「困ったわね…。」
「……咲夜さん?」
その日の深夜、やっとフランが眠った為(吸血鬼としては珍しく、フランはレミリアより夜早くに眠り、朝方に目を覚ます事が多い)咲夜に相談しようと探していた所、玄関ホールにて困ったようにメモを見ていた咲夜とばったり出くわした無月。
声を掛けると、咲夜も無月に気が付いたのか、歩み寄ってくる。
「咲夜、困り事か…?」
「無月…丁度いいわ。少しお茶でも飲みながら話し、聞いてくれる?」
軽く笑みを浮かべた咲夜に問われ、頷く無月。紅霧異変後、無月と咲夜は同じ従者同士として、ちょくちょくお茶を飲みながらお互いに様々な相談や愚痴、話しをするようになっていた為、かなり親しくなっていた。
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「貴方も気付いてるみたいだけど、一応コレを見てみてくれる?一応、意見が聞きたいのよ。」
「……ん。分かった。」
咲夜の部屋(ちなみに無月の部屋は何の偶然か隣に最近移動させられた)で紅茶を一口飲んだ咲夜が、無月に一枚のメモを差し出す。
何となく予想ができた無月は、小さく頷くとソレに目を通す。
「率直に尋ねるわ…。どれくらい保ちそう?」
「多分だが…。このまま寒い日が続くなら近い内に燃料が尽きると思う。」
不安そうな咲夜の問いかけ。その滅多に見れない咲夜の表情に驚きつつも自分の予想を話す無月。
「……そう…。」
「やはり咲夜もこの寒さが何らかの異変だと思うのか?」
少し俯いた咲夜に問いかける無月。咲夜はその問いかけに小さく頷くと、無月に向き直る。
「ええ。お嬢様に許可を得て、霊夢じゃないけど異変を解決に行くつもり。」
「(丁度良いタイミングだな…。)……俺も行こう。フランは寒いのが苦手みたいだし、俺も嫌な思い出があるからな…。」
頷くと自分の考えを話す咲夜。タイミングが良いと思った無月も、咲夜に同行する旨を伝える。
「そうね…。(無月の地上での近接戦闘能力だけは正直紅魔館では自分を抜き去るレベルだとお嬢様が仰っていたし、最近空中戦にも対応できるよう特訓もしていた…。)良いわ。明日にでもお互いに主から許可を得ましょう。」
「分かった。俺はパチュリーさんにも話してくる。そういえば最近妙に血を抜かれるんだよな…。キングコブラも持って行かれたし…。」
「(パチュリー様は無月が心配なのね…。単に心配なのか、それとも別の感情があるのかしら…。)」
無月の頼みに、以前お嬢様ことレミリアが言っていた内容や、最近無月が夜中に行っていた特訓を思い出し、頷く咲夜。
無月も咲夜の提案に頷くと、最近妙にパチュリーが血を抜いたり自分の武器を預かったりと、構ってくる(理由は気付いていない)事を愚痴る。
そんな無月の愚痴を咲夜はクスクスと柔らかい笑み(本人も無意識)を浮かべ、パチュリーの過保護っぷりの理由を考える。
そんな二人の従者のお茶会は普段より早くお開きとなるのだった。