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ネトコン14参加作品

ポンカンぽかーんと猫

作者: 白夜いくと
掲載日:2026/02/23





 僕は茶トラ猫。この世に生まれて3カ月と少し。チャットという名前があるよ。お喋りって意味があるらしい。でも、お喋りなのは飼い主のショウだ。事あるごとに僕に話しかけてくるからね。


(話の意味はよくわかんないけど、構ってくれるのは嬉しいよ?)


 僕は飼い主の帰宅を待っていた。キャットタワーの3段目に登るのが難しい。不満を爪研ぎして紛らわす。


 規則正しい足音が家の前で止まり、玄関がゆっくり開いた。


 猫にだって、時計は読めるんだ。


 午後7時に買い物袋の擦れる音がするってことは、学校から帰ったショウだな?

 

(む?)


 疲れてるのかな。僕と目が合わない。帰ってきたら真っ先に僕を撫でてくれるのに、無視した。


(どうして? こんなに愛想振りまいてるのに)


 まだ僕は1歳だぞ。可愛いんだぞ。撫でてよ。と言ってやりたいけど、人間の言葉を話せるほど器用じゃないから、ショウの後ろを着いて歩く。


「にゃあ(こっち見ろぉ)」


 ショウは鞄を机に置くと、一呼吸置いてから僕を抱きしめた。


(なんだ、見えてるじゃないか)


 ふふん。古から猫は人間の相棒だって、テレビで言ってた。


(悩み事があるんだろ、ショウ。言ってみろ。僕が聴いてやろう)


 ショウの話を聴こうと耳をピンと立てる。頭を撫でる手が心地良い。しばらく触れ合いタイムを設けたあと、ショウは僕に悩み事を話した。


「好きな人からポンカン貰った……」


 ……、

 …………。


 ぽんかーん。

 

「なーん(だからなに)」


 ……心配したのに。

 僕が呆れた顔をしたのを知ってか知らずか、ショウは鞄から丸くてツヤツヤのポンカンを出して頬を染めた。


「帰り道携帯で花言葉調べたら『花嫁の喜び』と『親愛』とがあってさ。どっちの意味だろ?」


 ……そこまで考えてないと思うよ。

 

 急に僕を両手で持ち上げるショウ。キャットタワーの3段目に届きそうな位置に僕が来る。ドン引きの僕は、逃げる様にキャットタワーに飛び乗ろうとした。


(3段目、行けるかな?)


 ──距離が少しだけ足りない。床に華麗に着地して、失敗をなかったことにする。猫は人間とは違って、泥臭い事は嫌いなんだ。練習とか努力とか、しないよ。


(もっと大きくなったら自然とできるようになるもんね)


 ショウは、呆れ返った僕の背中を追いかけて頭にポンカンを乗せた。やめろよぅ。


「何を返したらいいと思う、チャット」


 それくらい自分で考えたら良いのに。僕はAIじゃないんだぞ。嘘も何も言わない。いや、言えないんだ。


(ポンカンどけて!)


 重い。きっと果汁たっぷり含んでるんだろな。八百屋で買ったやつなのかな。僕も食べたいな。


「手紙……は重いし、食べ物はアレルギーとかあるかもしれないし、うう……困ったぞ」


 はやく考えてポンカンを頭から退けて欲しい。僕の願いはそれだけ。きっとポンカンもそう願ってる。


(あー、もう限界だ!)


 頭を振った。

 転がるポンカンを大事そうに抱きしめながら、ショウが怒った。


「衝撃与えたら、痛むだろ!」


 僕に乗せたのが悪い。

 ふふ、ショウの場合は振られて衝撃ショックを感じて、もう少し大人として熟れた方が良いかも。


(なんてね)


 ……そもそも、ポンカン食べられることに、悩むなんておかしいよ『貰った。食べる』それだけのことさ。


 恋なんてもの、一口も齧れないのに『甘い』も『酸い』も無いよ。失敗したらぽっかり穴が空いて涙が止まらなくなるって……。


 全部、テレビドラマで言ってた。


 恋なんて絶対に食べちゃダメだな。アニサキスより痛くて危ないだろうからね。


 そんなことより。


「なぁーん(ポンカンちょーだい)」


「……いつか食べなきゃなんだよなぁ……」


 今食べようよ。新鮮な匂いがするよ。どうして今食べないんだ。おかしいぞ、ショウ!


(恋は胡椒や塩と違って物を腐らせちゃうの?)


 バカげてる。


 ポンカン。今なら最高に美味しく食べれるのに。食べない。変なの。


「にゃー!(変なのー!)」


 ポンカン、今、美味しく、食べれるのに!



 結局、腐らせちゃったんだ。でも、なんか毎日嬉しそうに話しかけてくる。ポンカンくれた『彼女』ってものをショウが家に連れてきた。


 おもてなしとして、キャットタワーの3段目に飛び乗ってみたら、成功したんだよ。凄くない?


 あれ、見てなかったの?

 ま。良いけどね。




 おしまい

最後まで読んでくれてありがとうございます!

猫の日に用意する短編が何もなくて、今日になりました。楽しんでいただけたら幸いです。

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