しろからしろに
「今日はパパとお出かけに来ました。ですがパパはいつの間にか迷子になっていて、私はひたすらにパパを探していました。そしたら、パパは見つかりませんでしたが可愛らしい『猫さん』を見つけました。」
猫さんは私に気付いていません。ただでさえ人通りの多い所なのに猫は堂々と佇んで居ます。そおっと近づいて、抱き上げてみました。
「猫さん!ここに居たら踏まれちゃうよ?」
猫さんは暴れます。落ちないように耐えていましたが、負けてしまい華麗に着地を決められました。
「…」
「猫さん!どこ行くの!」
なんとなく、着いてこいと言われた気がしたのです。本当は探さないと行けないパパのことを、一旦忘れて猫さんと冒険してみる事にしました。
知らない森の中。カラスが飛び出したり蛇を踏んだりして、少し泣きながらも猫さんに着いて行きました。もうとんでもなく後悔しています。
「あれ?猫さん?」
大きい木を曲がったら、猫さんの姿を見失ってしまいました。こんな森に一人ぼっち…顔が青くなっていくのを感じ、恐怖でしゃがみ込んでしまいます。
静かになってしまい細かい音が耳に届きます。葉っぱの揺れる音、動物の鳴き声、人の寝息。…人?
「…ぐぅ」
大きな木の向こう側に、男の人が寝ていました。それはもう堂々と、深い眠りに着いています。
不安や寂しさを紛らわしたい、その一心で男の人の近くに寄り添ってみます。そして、お腹を枕にして私も目を瞑りました。ごめんなさい知らない人、私もちょっとだけ寝むりたいんだ…。
「うわっ!誰これ何コレ!?」
大きい叫び声で私は驚きながら体を起こします。何分経ってしまったのでしょうか…そういえば知らない人のお腹で寝ていたような、変な夢だったなぁ。
「に 人間!?なんでこの森に…」
夢…じゃなさそう。ボサボサの手入れしてない長くて黒い髪の人は、私を見つめて色々考察しています。
「…おはようございます」
「しゃべった!?」
迷ったけどまずは挨拶。パパにも挨拶は大事だと教わりましたから。
「おはよう…君は何者?」
「猫さんを追いかけていたら…ここに来ちゃって」
男の人は顎に手を添え、また考え始めます。
「『ニタマ』の仕業か…?」
「にたま?」
「俺の使い魔…じゃなくてペットだ その猫って『茶色』じゃなかった?」
「うん…黒かった」
「茶色」では無いかな、猫違いなのかも。しかも「使い魔」って言いかけた。その見た目と喋り方からしてなんかこう、「恥ずかしい人」っていう印象を受けていました。でも悪い人じゃなさそうで少し安心します。
「俺が『クロ』なのに猫も黒かったら紛らわしいだろ…」
「あなたクロって言うの?」
「…そうだ 忘れかけていた『嫌い』な名前だ」
自分の名前を嫌いになる事なんてあるんだ。親から貰った大切な名前の筈なのに、きっと親との仲が悪いのでしょう。私にも素敵な名前が付けられているのですが、この人に名乗ると可哀想なのかもしれない。私は、生まれて初めて「嘘」をつきました。
「その名前を嫌うなら 私は反対に『シロ』って名乗るから!」
私は「シロ」。色んな人の「不幸」を白く塗り替えてみせる。そんな、ちょっと恥ずかしい意気込みを考えながら驚く「クロ」に指を指しました。




