表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねえねえこのこ  作者: らゐをふ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

ねえねえこのこ

 一体どこに行ったのでしょう。もう私の事なんて忘れているかも。もしくはもう死んでいて…。


 あれからかなりの月日が流れました。宛もなく歩き続けてボロボロな私を、偶に優しい人間が家に連れ帰ろうとした時もありました。顔を引っ掻きなんとか逃げ延びて来ましたがそろそろそんな体力もありません。

 なんとなくだけど分かるんです。私の寿命はそんなに残されていない。なら、せめてご主人の安否を知ってから眠りたい。何年間も探して来たんです、意地でも最後に顔が見たい。

 宛は無いと言いましたが唯一今まで近づかなかった場所はあります。「シロ」の家です。

 まさか母親にあんな事されたのに、和解してズケズケと居候していたなら笑って逝けるものです。一回は引っ掻きますが。終わりの見えてきた猫生に今更怖いものなどありません。ちょっと怖いですが深呼吸して、覚悟を決めて、ふらふらな足で僅かなご主人の希望に向かうのでした。


 駄目だ、やっぱり怖い。家の近くまで着いたのにあの時の事が鮮明に思い出してきます。

 痛そうだったな、苦しそうだったな。ご主人は私の所為であんな事になったんだ。視界が涙で揺れ始めます。涙を拭っても視界は揺らぎを止めません。

 疲れてしまったのでしょうか。しかし今目を閉じてしまうともう起きれなくなるかもしれない。いつ死んだってもうおかしくないのに。そんなのは嫌だ、嫌なのに…。

 震えていた足が、遂に体を支えられなくなり転ぶように倒れます。顔を床にぶつけて衝撃で目を閉じてしまいました。どうか奇跡があるのなら、もう一度だけ目が覚めないかな。ご主人に…撫でられたかったな。


 …柔らかくて、あったかい。膝の上にいるのかな。最後の奇跡が叶ったのかも。目を開ければご主人が居て…

「うわ目開いた怖」

 …誰だこいつ。知らない男の子が興味津々に私の顔を覗き見ている。

「おじさんがもし起きたらミルクを飲ませてあげてって…どうやって飲ませんだろ」

 男の子は手を皿の様にしてそこ少量のミルクを注ぎます。そして飲めと言わんばかりに私の口に近づけて来ました。なんでこんな辱めを幼い子供にされなきゃいけないんだろ、奇跡の代償でしょうか。ですが抵抗する元気も無いので渋々舐めました。恥ずかしいし悔しいけど美味しい。言葉や態度でそんなつもりはないんだろうけど、少しだけ「愛情」を感じてしまいました。これが最後だとしてももう良いかなって。ミルクを飲み干すと今まで忘れていたあくびが出てしまいました。男の子にもあくびが移り、電気を消して同じ布団に入ります。

「えっと…おやすみ 猫」

 頭を撫でられます、男の子はすぐに寝息を立て始めました。私も安心して安らかに目を閉じました。たとえこれで終わってしまっても、誰かと一緒に居れるなら幸せなのかもしれない。その時に気づきました、私って寂しかったんだ。ご主人じゃなくても誰かと一緒に過ごせば幸せを感じられたんだ。間違えちゃったのかなって軽い後悔からか涙を一粒流し、暗闇に体を預けました。


 朝になり、もう一度目を覚まします。何回覚悟すれば眠れるのでしょうか、意外と人の体って頑丈なんですね。まぁ私猫ですけど。面白い冗談を鼻で笑いながら体を起こします。それにしても今までの疲れが嘘みたいに無くなったような、まるで猫から解放されたような。

 手を見ると慣れない肌色。頬を触ると柔らかすぎます。何か自分を確かめられるものを探し、艶やかな家具でなんとか私の状態を確認することが出来ました。

「…あーお」

 笑えない冗談でした、人間になっています。ちんちくりんな赤ん坊に。

「あー…だっ…」

 意識ははっきりしているのですが上手く喋れません。まだ喋るように体が出来ていないのでしょう、ならば感情を表現するには。あくまで私はとても冷静に考えて、考えた上で泣き叫ぶ事にしました。

 おぎゃぁおぎゃぁと情けなく泣いてみます。どちらかと言えば嬉しくて泣いてます。まだ私は生きることが出来るんだって事に。今までの行いに疲れて悲しかった事も、結局ご主人はどうなったんだよの怒りも込めて泣き喚きました。

 やがて昨日の男の子が来ました。目をまんまるに口をあんぐりと開けて私を見ています。そりゃ驚きますよね私もです。その腑抜けた顔のまま近づいてきて、何かを考えてまたどこかへ行ってしまいました。そして冷えたミルクを持ってきて、昨日と同じように手にミルクを注ぎ口元に近づけます。お腹が空いていたというわけでは無いのですが出されてしまった以上は飲まないと。ぐちゃぐちゃな顔で舐め回すように飲み干しました。

「やっぱ猫だよね 赤ちゃんになっちゃったけど多分そうだよね」

 返事の代わりに首を縦に振ります。するとなぜか怪訝そうな顔をする男の子。

「あー…これから面倒臭くなりそう…」

 なんとも失礼な、猫だったら引っ掻いていたところです。手を見返しても爪なんて…伸び切ってはいないけどありました。精一杯の一生懸命に男の子の顔に爪を立てて勢いよく弾きます。少しだけ血が出ると同時に男の子が悲鳴を上げて逃げ出します。私が勝ちました、上下関係ははっきりさせないといきませんからね。

 やっと泣き喚いてた気持ちも落ち着いてきた所で、とても低い視点から窓越しに空を見上げます。ご主人探しも延長戦が始まるのです。近いうちに、絶対あの面拝んで見せます!

「ねえこのこ」の前日譚でした。ねえこも健人も捻くれ具合が似ていますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ