第5話「姉弟の誓い」
こんばんは。
世界を支える三兄妹が、さっそくピリピリしてます。
光と闇と嵐のバランスどころか、
バラエティ番組の口ゲンカになりつつある姉弟バトル。
果たして勝つのはモデル系女神か、マッチョ量産型の暴れん坊か。
そしてツクヨミは今日も「おにぎり係」。
夏の夕暮れ。
川辺の空は茜色に染まり、湿った風がゆるやかに吹いていた。水面には西日に照らされた金の波が揺れ、遠くではツバメが最後の一巡を描いて巣へ帰っていく。
その岸辺に、三人の神——アマテラス、ツクヨミ、スサノオが並んで立っていた。
父イザナギから「それぞれ役割よろしく」と丸投げされてから、まだ数日。
だが姉弟の間には、もうピリついた空気がただよっていた。
世界を支える三本柱のはずなのに、その基礎から早くもぐらついている。
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「本当に、光で世界を照らせるの?」
スサノオが口を開いた。声がデカすぎて、近くの鳥がいっせいに飛び立ち、枝葉がざわめく。
「口ばっかじゃなく、証明してみろよ」
アマテラスは髪をかき上げ、夕陽を背に受けて言い返す。
「じゃあ勝負する? どっちがより“尊い存在”を生み出せるか」
「お、いいね!」
スサノオは子どものように笑い、拳を突き上げる。
「俺が勝ったら、海も空もぜんぶ俺のもんだ!」
「またそれ? 欲張りすぎ」
アマテラスはため息をついたが、口元にはわずかに火花のような笑みがのぞいた。
横でツクヨミが、コンビニおにぎりを食べながらつぶやく。
「くだらない……けどやるなら、僕が証人。あと、これ食べ終わってから」
淡々とした声に、かえって妙な説得力があった。
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こうして、誓いの儀式という名の姉弟バトルが始まった。
まずはアマテラス。
彼女はスサノオの剣を受け取り、きらきらした水でジャブジャブ洗い、両手ですくって口に含む。
「ふーっ」
息を吹き出すと、そこから三柱の女神が生まれた。
まぶしいオーラをまとい、まるでファッション誌の撮影会。ランウェイを歩くモデルのように優雅にポーズを決める。髪は風に揺れ、ドレスは水滴のきらめきをまとっていた。
「ほらね」
アマテラスはドヤ顔。
「私の子たちは世界をやわらかく照らすの」
見物していた村の人々は思わず拍手した。光は確かに人の心を温めるものだった。
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次はスサノオの番。
彼はアマテラスの首飾りを引ったくると、バキッと砕いて口に放り込み、全身を震わせて「ふんぬっ!」と吐き出した。
そこから現れたのは、五柱のゴリゴリマッチョ男神。
肩をいからせ、「オラオラ!」と叫びながらスクワットを始める。
ドスンドスンと地面は揺れ、川の魚が跳ね上がり、見物していた人々は悲鳴と笑い声を同時に上げた。
「見ろよ! 俺の方が数でも迫力でも圧勝だ!」
スサノオは勝ち誇ったように叫ぶ。
だがアマテラスはすぐに切り返した。
「いいえ。あなたの子は、私の首飾りから生まれた。つまり勝ったのは私」
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「ふざけんな! 屁理屈じゃねーか!」
スサノオは顔を真っ赤にして怒鳴る。
アマテラスも負けずに声を張った。
「屁理屈でも理屈は理屈!」
二人の口げんかはどんどんヒートアップしていく。
「お前、勝負前にルール説明しろよ!」
「ルールは読まずに同意するものよ!」
「アプリ利用規約かよ!」
川辺はまるでバラエティ番組の大乱闘企画。
司会はもちろんツクヨミ。
「はいはい! 両者落ち着いてー。……あー、やっぱ無理か」
彼は冷めた目でおにぎりのフィルムを丸めて投げ捨てた。
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その時、川辺にいた子どもたちがヒソヒソ話した。
「ねえ、あの神様たち、ほんとに世界支える人?」
「なんかテレビの漫才師みたい」
笑いと不安の入り混じった声が広がる。大人たちも顔を見合わせ、神々の未来に小さな疑念を覚えた。
ツクヨミは肩をすくめる。
「やれやれ……この勝負、火種になるな」
——そう、その予感は正しかった。
姉弟げんかという小さなきっかけが、やがて世界をゆるがす大事件に発展していく。
夕暮れの川は、ただ静かにその音を運び続けていた。
お読みいただきありがとうございます!
第5話は、歴史的にはとても大事な「誓約」の場面なのに、どうしてもノリが「利用規約」や「大乱闘バラエティ」になってしまいました。
神話って荘厳なはずなのに、どうしてこんなにカオスなんでしょうね。
次回はいよいよ、スサノオの暴走が本格化……!?
お楽しみに!