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覚醒編: 目覚め②

「昨日のアレ……やっぱ夢だよな……?」


朝の通学路。港を見下ろす坂道で、俺はまた一人でつぶやいた。制服のシャツは島の湿気でじっとりと肌に張りつく。スマホの天気アプリは晴れの予報を出していたけど、俺の頭の中はずっと曇ったままだ。


昨夜、夢の中で会った女――閻魔大王えんまだいおう


「陸上 爽。お前に、使命を授ける」


「お前の血には、特別な力が流れている」


あの声、あの気配、あの金色の瞳。あんなリアルな夢、見たことがない。まるで、記憶そのものに刻み込まれたみたいな感覚だ。


けど、結局はただの夢だろ? そう自分に言い聞かせても、心の奥では引っかかっている。


(……俺は何者なんだ?)



教室の時計は、1時間目の中盤を指していた。教科は古典。前の黒板では、女性教師――**神咲かんざき 紫苑しおん**先生が淡々と文法を説明している。


……はずなのに、俺の脳内は完全に“閻魔大王”で占領されていた。


(あれが本当だとしたら……俺、何をすればいいんだ? “霊を導く”って、どうやって?)


「――陸上!」


「えっ……?」


ビクッと肩を跳ねさせた瞬間、教室中の視線が俺に集まった。神咲しざく先生の視線が鋭い。


「授業中にボーッとしない。質問、聞こえてた?」


「……すみません」


「あとで職員室に来ること。いい?」


「……はい」


静まり返る教室。俺は身を縮めるようにして、教科書を開いた。神咲先生、見た目は美人で優しそうなのに、キレると超こわいんだよな……


(くそ、全部あの夢のせいだ……)



昼休み。弁当のタッパーを開けながら、再び考えごとに沈む。


(もしアレが本当なら、俺がこの島に転校してきたのも、偶然じゃなくて――)


「はいはい、なーに難しい顔してんの?」


「もしかして、恋?」


突然、背後から声をかけられて、びくっとした。声の主は――例の双子ギャル、天音姉妹だった。


「白ギャルの天音ミナでーす☆ で、こっちが黒ギャルの天音カナ!」


「ってか、まだ自己紹介してなかったよね?」


「ていうかさー、ひとりでぼっち飯してると目立つんだよ? わかってる?」


「いや……その、放っといてくれると……」


「ダメ~。新入りはうちらのエサ♪」


「は? 何言って……」


「なーんてね。ってか、顔赤くなってない?」


「え、やっぱ夢で誰かとキスでもしたんじゃないの? うける~!」


「な、なっ……ちがっ……!」


「図星かも☆」


俺が狼狽えるのを面白がって、双子はキャッキャと笑って去っていった。俺は弁当のウインナーを噛みながら、小さくつぶやく。


「……こっちは真剣に悩んでんだよ……」


昼休みはそのまま終わり、午後の授業もぼんやりと過ぎていった。



放課後。


俺は寄り道もせず、最短ルートで**秘密基地(自宅)**に帰った。誰もいない家。静まり返った空間に、心地よい疲労とともに、眠気が押し寄せる。


(もう一度、夢で会えるだろうか……閻魔大王……)


ベッドに横たわり、目を閉じる。


静寂。意識が徐々に沈んでいく。



――次の瞬間、目の前にはあの闇が広がっていた。


重力も温度も、すべてが存在しない空間。その中央に、やはり彼女はいた。


「待っていたぞ、陸上 爽」


「やっぱり……本当に会えるんだな……」


俺の言葉に、閻魔大王は微笑んだ。


「貴様の中にある“力”が、覚醒し始めている。ゆえに、夢と現が繋がるのだ」


「俺は……何者なんだ?」


「それを知るには、過去と向き合うことだ。この島に秘められし“七つの因縁”――そして、お前自身が“八つ目の存在”だということを、忘れるな」


「……八つ目の……?」


その言葉を反芻した瞬間、空間が揺れるように揺らいだ。


「目覚めの時は近い。真実を知る覚悟があるなら、受け入れよ」


「……覚悟なら、ある。俺は……知りたい。全部を」


閻魔大王の目が、金色に輝く。


「ならば、次に“扉”が開かれる時――お前の“本質”を見せてやろう」


視界が、光に包まれていく。



――再び目を覚ましたとき、俺は汗だくで布団の上にいた。


時計は夜の12時ちょうど。


「……俺は、一体……」


夢と現実。その境が、徐々に曖昧になっていくのを、俺は確かに感じていた。


◆次回へ続く◆

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