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覚醒編: 目覚め①


「えっ、マジで? 今さら転校って……夏休み、もう終わるんだけど」


段ボールだらけの部屋で俺は呆然とつぶやいた。スマホの充電ケーブルを探しながら、現実逃避するようにSNSを開く。けど、通知もDMもない。いつも通りの“ぼっち”っぷりだ。


両親の急な転勤で、俺――**陸上くがみ そうは、本土を離れ、離島の九遠島くえんじま**へ引っ越すことになった。人口約3,000人。観光地ってほどじゃないけど、港の周りにショッピングモールやゲーセン、コンビニもスーパーもあって、最低限の文明は保たれてる。電車は通ってないが、バスはある。


そして、俺の新しい学校は――三坂高校みざかこうこう。地元では「三坂学みざかがく」と略して呼ばれている、ちょっと変わった学校らしい。学力はそこそこ。校舎は古くて、海沿いに建っている。



転校初日。天気は快晴。だが、俺の心は曇天だった。


校門をくぐると、海風が制服を揺らす。少し潮の匂いがした。教室に入ると、ざわめきが止まる。


「はーい! 転校生くんだー!」「陰キャっぽくない?」


そんな声がして、目の前に二人のギャルが現れた。ぱっと見、まったく同じ顔。片方は色白金髪の白ギャル、もう片方は日焼け肌の黒ギャル。しかも双子らしい。


「うちら、天音あまね姉妹っていうんだ~。名前は覚えなくていーから、顔だけ覚えて☆」 「てかさ、転校初日で挨拶もないとか、陰キャの極みじゃね?」


笑いながら腕を組んでくる双子ギャルたち。俺はため息をつきながら無言で席に座った。無視だ、無視。関わるとロクなことがない。


「うわー、無視されたー!」「これ、ガチのやつじゃん!」


教室の空気がざわつく中、俺はカバンから教科書を取り出して、何も聞こえなかったフリをする。



放課後。島の景色はどこか懐かしい。都会の喧騒とは違い、蝉の鳴き声と波の音が混ざり合っている。


「……はあ、めんどくせえ」


帰り道、俺は誰に聞かせるでもなく、独り言をつぶやく。誰かに話しかける癖なんてない。ただ、昔からひとりごとだけは多かった。


「初日でギャルに絡まれるとか、運命バグってんだろ……」


そう呟きながら、森の奥の細道を抜ける。そこに、俺の新しい家がある。


――**秘密基地シークレットベース**のような家だ。


平屋建てで、外からは倉庫にしか見えない。でも中に入れば、Wi-Fiも完備。水道も電気も通ってるし、TVも観れる。エアコンもあるし、風呂だってちゃんとしてる。いわば「俺だけの城」だ。


祖父の遺言で受け継いだこの家。両親は島の官舎に住んでいるが、俺にはこの基地の方が性に合っていた。


「……ただいま」


誰もいない部屋にそう言って、冷蔵庫の中のペットボトルを開ける。晩飯はレトルトカレーだ。十分だ。



夜。


ベッドに入って、スマホを見ていると、急に眠気が襲ってきた。


「……あれ、なんだこれ……目が……」


急激な眠気。画面が滲んで、手からスマホが滑り落ちる。



――気がつくと、俺は真っ暗な空間にいた。


「ここ……どこだ……?」


辺りには、星も月もない。ただ、真っ黒な闇が広がっている。その中央に――ひときわ強い“存在感”を放つ、巨大な玉座。その上に、脚を組んで座っている一人の女がいた。


漆黒の髪に、深紅の着物。瞳は金色で、どこか神々しい。美しくも、底知れない恐ろしさを感じさせるオーラを放っている。


「……陸上 爽。お前に、使命を授ける」


女は、ゆっくりと立ち上がった。


「我は閻魔えんま大王。地獄と現世の境を司る者。お前の血には、特別な力が流れている」


「……は?」


「お前の家系は、“罪を背負いし霊”を死後の世界へと導く者の末裔。そろそろ、目覚めの時だ」


雷鳴のような声が、俺の意識を貫いた。


「九遠島には、長きにわたり隠された“災い”がある。そして、その鍵を握るのは――お前と、あの八人の少女たちだ」


「ちょ、待っ――」


俺が何かを叫ぼうとした瞬間、視界が白く染まり――



「っ……!」


目が覚めた。


天井。見慣れた、秘密基地の天井だった。


時計を見ると、午前3時ちょうど。


「夢……だったのか……?」


冷や汗をぬぐいながら、俺は深く息を吐いた。


その瞬間、部屋の隅で、何かが揺れた気がした。


――俺の、運命が動き出した。

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