覚醒編: 覚悟⑥
「くっ……やっぱ、飛んでる相手には攻撃が届かない……!」
夜空を舞う黒翼の怪物に向かって、霊装を纏った俺は拳を振るうが、風を裂くだけで当たらない。
怪物――モブBが欲に取り憑かれ、霊と融合した“悪魔のような怪物”は、悠々と空を舞いながら、俺たちを見下ろしていた。
その狙いは――双子ギャルの妹、カナ。
彼女が逃げようとしても、恐怖で足がすくみ、ミナも庇うように立ちすくむ。斎が庇おうとするが、怪物の凶気は圧倒的だった。
「逃がさないぞ、人間ども……!」
低く唸るような声を残して、怪物が俺に向かって急降下してきた。
「うっ……!」
ドンッ!!
鋭い爪が俺の肩を掠め、霊装ごと抉っていく。空中からの一撃――避けきれなかった。地面に転がり、視界が揺れる。
「ぐっ……はぁ……やっぱり……今の力じゃ……アイツには勝てない……!」
血が滲む肩を押さえながら立ち上がろうとしたその瞬間、再び奴が襲いかかってくる。
だが――何故か、俺に当たらなかった。
「……あれ?」
「爽っ!!」
斎の声が響いた。
「アイツ……光に弱い! 今の回避は、後ろの街灯が一瞬当たったからだ!」
「光……!」
その言葉に、俺は閃いた。
島の北端にある――灯台。
「爽! あいつを引きつけろ!」
「任せろ!」
俺は全力で走り出した。
まだ霊装が残っている今なら、灯台まで一気に辿り着ける。
背後で響く咆哮。
怪物は、俺を狙って追ってくる。
「飛んでるなら……当たらない位置から来るってわけか……!」
俺は瓦礫を避けながら走り続ける。
ヒュッ――
風を裂く音がした瞬間、俺は左に跳ねた。
怪物の爪が地面を裂く。ギリギリで避けた。
「灯台まであと少し……!」
夜の闇を照らす巨大な灯台。
その光が怪物に当たった――その瞬間。
「ギャアアアアア!!」
怪物は咆哮しながら、空から落ちた。
「やっぱり……!」
すかさず、俺は崖の端で構える。
「これで……終わりにする!!」
霊力を拳に込めて、落ちてくる怪物を渾身の一撃で迎え撃つ。
「――ッ!!」
ゴッ!!
拳が命中し、怪物の体は吹き飛んでいった。
黒い翼が崩れ落ち、そのまま崖の下へと沈んでいく。
「はぁ……はぁ……」
全身から力が抜け、膝をつく俺。
(終わった……?)
その瞬間、意識の中に火が揺れる光景が現れた。
『――我が子孫よ』
(火の……神……?)
炎の中で、誰かの姿がぼんやりと立っていた。だが、はっきりとは見えず、すぐに意識は闇に落ちていった。
◆
「爽っ!!」
「おい、大丈夫か!?」
「大丈夫」
再び意識が戻ったとき、俺の霊装は消えていた。制服に戻った俺の前に、ミナとカナ、それに斎が駆け寄ってくる。
「さっきの怪物、どうなったの……?」
「……崖から落としたよ。多分、もう……」
「それは甘いな」
斎が厳しい目をして口を開く。
「あいつは死んでない。霊と融合した存在は、普通じゃ死なない。特に強い“欲”に突き動かされた個体は、何度でも蘇る」
「マジかよ……」
「それに……あいつの狙いはミナだ。次に来る時は、もっと狡猾かもしれない」
「……だったら」
俺は意を決して口を開いた。
「うちに泊まれ。今夜だけでも、俺の家に」
「えっ……でも……」
ミナが戸惑いを見せる。
「霊装を与えられた家系だ。結界もある。少しは安心できるだろ」
「そ、そういうことなら……」
カナが頷き、ミナも渋々承諾した。
「……変なこと、しないでよ?」
「しないよ!!」
「そーそー、爽くんはヘタレ陰キャだし~」
「う、うるせぇ……」
斎はそれを聞いてニヤリと笑った。
「今夜が、本当の始まりかもな」
俺は知らなかった。
あの火の神が、次の夜にもう一度“啓示”を与えることになるなんて。
◆次回へ続く◆