覚醒編: 覚悟⑤
「放課後さ、ゲーセン行こうぜ」
斎――俺の祖父の知り合いである転校生であり謎の多い同級生が、昼休みにそう言ってきた。
「ゲーセン? 超ひさびさなんだけど〜!」
「いいじゃん、行こ行こ〜!」
双子ギャル、姉のミナ(白ギャル)と妹のカナ(黒ギャル)はノリノリだ。
そして、なぜか俺・爽もそのメンツに組み込まれていた。
(な、なんで俺まで……?)
◆
島のショッピングモールにあるゲームセンター。
音と光が溢れる空間に足を踏み入れた瞬間、俺の神経は崩壊寸前。
「さて、なにやる〜? レース? 格ゲー? 音ゲー?」
ミナが笑いながら、キラキラした瞳で話し出す。斎もテンション高めに応じている。
(ヤバい、会話が陽キャすぎる……!)
体温が上がる。視界がゆがむ。
脳内警報が鳴り響き、もう少しで泡を吹いてぶっ倒れそうになった――その時。
「……ほら、水」
横から差し出された冷たいペットボトル。
「カナ……?」
黒ギャル・カナが無言で水を渡してくれていた。
「……大丈夫、っしょ」
そう小さく呟くと、彼女はすぐにミナたちの方へ戻っていった。
ペットボトルの冷たさが、現実に引き戻してくれる。
何故だか、心まで少しだけ落ち着いた。
◆
レースゲームでは即クラッシュ、格ゲーでは連打で自滅、音ゲーは難易度“EASY”でもコンボ0。
(うわ……ついていけねぇ)
だが、笑い声は絶えず、俺がヘタでも誰もバカにしない。
そして最後、クレーンゲーム。景品のぬいぐるみをどうしても取りたいらしい。
「え〜全然落ちないんだけど〜!」
「ここのアーム、絶対弱いわ」
ミナと斎が何度も挑戦しては外していた。
「ちょっと、俺やってみていい?」
気づけば、俺が100円玉を投入していた。
集中。アームの動き、ぬいぐるみの重心。
数回のトライで――
「おおっ! 取れたーー!」
ミナが目を丸くする。
「ゲーセン、よく行くの?」
「あ……いや、転校する前までは……週1で一人で来てた」
「へぇ〜……意外!」
ミナは嬉しそうにぬいぐるみを抱えて微笑んだ。
不思議だ。
こんなに居心地が悪くて、不安だらけだったのに。
少しだけ、輪の中にいられた気がした。
◆
時計の針が夜の7時を指した頃。
「じゃ、今日はここまでだな。また明日」
斎がまとめ役のように言い、自然に解散ムードになる。
家路に就く途中、斎と二人きりになった。
「……さっきの、お前の姿。いつもより輝いていたぞ」
「は?」
「その姿、大事にしろ」
意味深な言葉を残して、斎は足を止める。
「ちょ……おい! 待てって!」
斎を追って駆け出した瞬間――
「きゃああああっ!!」
悲鳴が夜の街に響いた。
◆
声の方へ走っていく。ショッピングモール裏の路地――そこには、あの“異形”がいた。
モブBの欲に取り憑いた霊が、悪魔のような姿へと変貌した怪物。
「おいおい、マジかよ……!」
その近くには――双子ギャル、ミナとカナがいた。
怪物は唸り声を上げ、獲物を狩るかのようにゆっくりと2人に歩み寄る。
「動いてミナっ!」
「うう……足が、動かない……!」
恐怖に凍りついた姉妹は、逃げられない。
「やめろ……!」
俺の足が、勝手に動いた。
霊装の力が、俺の意志に応じて反応する。
白とグレーを基調とした、不完全な霊装が身体を包み込んでいく。
「俺が……守る……っ!」
走りながら叫び、拳を握る。
霊力が手に集まり、拳が淡く光を放つ。
ドガッ――!
怪物の顔面に拳を叩き込む。
「彼女たちには、指一本、出させねぇ!!」
叫びと共に、俺の一撃が怪物を後退させた。
荒く息を吐きながら、俺はミナとカナの前に立ち塞がる。
(守る……絶対に)
まだ、この戦いの意味も、真の力もわからない。
だけど――俺は、逃げない。
◆次回へ続く◆