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覚醒編: 覚悟④


「双子ギャルと昼飯、行くぞ」


休み時間、斎――祖父の知り合いである、俺と同い年の転校生――が当たり前のように言ってきた。


「……は? いや、無理……」


口に出す前に、斎が言葉を重ねた。


「さっき言っただろ? 今のお前じゃ、誰も守れないって」


その一言に、言い返す言葉が喉の奥に詰まる。


(ああ、クソ……分かってるんだよ……)


自分が何もできないことくらい、一番分かってる。

だから――俺は小さく頷いた。


「……分かった。行くよ」



昼休み。学校の食堂。


全校生徒の憩いの場だったその空間は、俺たちが入った瞬間に静まり返った。


「え……陸上?」「あの陰キャが……?」「ミナ様と、斎くんと……!?」


怒り、嫉妬、疑念――

目に見えないドス黒い感情が、空気を濁していくのが分かる。


(ああ……これ、地獄だ)


俺、**陸上くがみ そう**は、教室でも目立たない陰キャ。

その俺が、双子ギャルと一緒に飯なんて……ただの罰ゲームだ。


「爽くん、こっちこっち~!」


白ギャル――天音ミナが笑顔で手を振ってくる。


その隣には妹の黒ギャル――天音カナと、斎が座っていた。


まぶしい。目も合わせられない。


案の定、全校の視線が俺に突き刺さる。

背筋が凍るとは、まさにこのことだった。


「ミナはさ、先週の事件のこと、どう思う?」


「うーん、まあヤバかったよね~。警察も来るし」


「先生たちもピリピリしてたな。特に担任」


斎とミナとカナは、まるで昔からの友人のように会話を弾ませる。


……俺は、箸の先で白米をつつくだけ。


(……なに話してんのか、分からん……テンポ早すぎ……)


そのうち、頭がガンガンしてきた。


「あれ、爽くん? 顔色悪くない?」


「うっ……」


頭がクラクラして、手の震えが止まらない。


「あっ、泡……吹いてるっ!!?」


最後に聞こえたのは、カナの叫び声だった。



気がつけば、保健室だった。


白い天井。カーテン越しのやわらかな光。

ベッドの上に寝かされている俺は、状況が理解できなかった。


(あれ……俺、また……やっちまった?)


ふと視線を動かすと、誰かの気配があった。


そこにいたのは――黒ギャルのカナだった。


「……あ」


声を出すと、カナはこちらを見た。

その顔は、いつものギャルっぽい笑顔じゃない。

どこか、悲しげな表情をしていた。


「……なんで、ここに?」


「先生、呼びに行ってる。……あたしは……ちょっと、気になって」


沈黙が落ちる。


普段なら、軽口でも叩く彼女が、今日は違った。


「ごめん。無理させたよね。」


意外すぎて、言葉が出なかった。


(……この子、俺のこと……心配してる?)


「……気にすんな。俺が勝手にテンパっただけだし」


そう言うと、カナは少しだけ笑った。


「ほんま、あんたって、損な性格やな」


その優しさが、少しだけ胸に染みた。



だがその頃、校舎裏の旧倉庫では、別の“悪意”が動き出していた。


「……これが、悪魔召喚の儀式……!」


呪文のような言葉を呟きながら、モブBと呼ばれる男子生徒は、黒い円陣を描いていた。


机には古びた本。床には蝋燭。

目の奥は血走り、欲望に濁っていた。


「カナ様……お前に笑ってほしいんだ……! だから、力を……欲しい……!」


その願いに応えるように、部屋の空気が震えた。


ズズズズ……


地面が揺れ、黒い霧が発生し、異形の手が現れる。


「え、うそ、な、なにこれ……!?」


霊が、モブBの身体に入り込む。


ズギャァァァァァァン――!


背中から黒い羽根が生え、肌が青白く変色し、瞳が赤く光る。


「……あは、あはははははは!! 力だ、これが……オレの力ァ!!」


変貌したその姿は、もはや人間ではなかった。


悪魔のような怪物――それが、新たな災厄の始まりだった。



そのころ、俺はまだ保健室のベッドで、カナの笑顔を見ていた。


何も知らないまま、怪物が生まれたことも――

それがまた、“双子ギャル”を狙っていることも。


「爽くん、ちょっとは無理すんな。」


「……うん」


小さく答えた俺の心に、少しずつ、変化が芽生え始めていた。


けれど、それが本当の地獄の幕開けだなんて、知るはずもなかった――


◆次回へ続く◆ 


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