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4.8月21日

 山田刑事が事故現場に到着したのは午前9時のことである。


 カーディーラーにダンプカーが突っ込み、建物内に陳列されていたと思われる新車が数台、駐車場に吹っ飛ばされていた。

 現場は片側2車線の大きな国道である。交通量が多く、しかもトラックが目立つ。産業道路なのだろう。


「出勤早々行ってくれと言われて来たけどこれはまたひどいことになっとるなぁ」


 山田はアフロの頭をぼりぼりと掻いた。周りにはたくさんの警官や鑑識が写真を撮っている。その後ろにはカーディーラーの関係者らしき人間が、マスコミの取材を受けている。騒然とした現場である。


「この店は北九州市内に7店舗を持つ全国展開のディーラーです。事件が起こったのは午前7時ごろ。犬の散歩をしていた老人が、突然ダンプカーが店舗に衝突する姿を目撃していました」


 山田の横で話すのは佐川刑事である。2時間前に現地入りしたらしい。ペアを組んで何年も経つ。後輩だが、情報収集能力に長けている有能な刑事である。


「それって一部始終?」

「そのようです。池田輝夫さん73歳は毎朝犬のサブロウ7歳とこの辺りを散歩するのが日課なんですが、ダンプカーが店舗の駐車場に入り、そのまま衝突する姿を目撃しています」

「サブロウってことは3匹いるの?」

「池田家の犬は代々サブロウなんだそうです」

「あ、そう。それにしてもここ、車通りの多いところだね。よく見てたなぁ」

「池田さんの自宅はあそこですから」


 佐川は国道から少し入ったところにある大きな邸宅を指さした。


「大きなお屋敷だこと」

「池田さんはサブロウを連れて国道に出たところ、ちょうどディーラーの駐車場に入ってくるダンプカーを目撃しています」

「そのダンプカーに不審な動きはあったの?飲酒運転とか」

「いえ、ダンプカーなんてこの道は何台も走ってますから、全く気にならなかったようです。いつもの風景ですから。そのうちの1台が、減速してディーラーの駐車場に入ったそうなんですが、それも大して気にならなかったそうです。あまりに自然なことだったので。ただ、大きな問題があって……」

「ん?」


 佐川の声が小さくなった。


「まだオフレコなんですが、そのダンプカーは無人だったそうです」

「無人?それって自動運転?」


 山田は驚いた。もうそんな時代が来ているのか。


「そういうことになります。また、今日は店舗の休業日だったそうで、被害にあった人はいないそうです」

「それはよかった」


 人的被害がないのは不幸中の幸いである。


「で、このダンプカー、どこから来たの?」

「調べてみました。どうやら大阪からのようです」


 佐川はペラペラとメモを見ながら答える。


「しかも、このダンプカー、盗難車のようです」

「盗難車?大阪でダンプカーを盗んで北九州で店舗を壊すのか」


 もはやテロリストの所業である。


「これは大阪の砕石会社にあったダンプカーなんですが、盗まれたのは昨日のようです。昨日の業務終了時、午後5時過ぎに会社から盗難届が出されています。深夜に山陽自動車道を走るこのダンプカーが監視カメラに写っていました」


 佐川はスマートフォンに映った画像を山田に見せた。


「これは正面を拡大した画像なんですが、確かに人は乗ってませんね」

「ちょっと気になるんだけど、この変な箱は何?」


 山田がスマートフォンを覗き込んだ。無人の運転席に箱のようなものが置いてある。


「これはちょっとわかりませんね…。他の道路の監視カメラに移った写真も当たっていますが、まだこれ一枚しか届いてないものですから」

「鑑識は何か言ってるかい?」

「流石に捜査が始まったばかりですから連絡はないです。しかもおかしなことはまだありまして…」

「ちょっと整理がつかないんだが」


 山田は頭を抱えた。


「ここまでお話しさせてください」

「仕方ないなぁ。仕事だしなぁ」

「このディーラー、昨日廃業してまして、今日から店内荷物の撤去を始める予定だったそうです」

「廃業って、取り壊す予定だったの?だったら一石二鳥…」

「それは不謹慎ですよ。新車が壊されたり被害は出ているのですから」


 佐川は無表情だった。山田はアフロ頭を掻いた。


「失礼。廃業してどこかに売却する予定だったのかな?」

「それがですね、売却先がバス協同組合とかいうところらしいとディーラーの方がお話しされてまして」

「バス会社に売ったの?」

「いえ、日本商業バス振興協同組合という名前の株式会社でして」

「名前が長いなぁ。そんなとこが買ってどうするつもりだったのかな?」

「ディーラーの方に聞くと、廃業してからの跡地利用は特に明言されていなかったようです。言葉を濁されたそうでして」

「バスの駐車場になるとかいう話もなかったの?」

「そうです。普通はそう考えますよね。でも何もなかったようでして……。しかもその公益財団法人は他の店舗も買っているみたいでして」

「無人のバスが暴走して無人の店舗に衝突、しかもその店舗は無人ってなんだか出来すぎてるように思うんだが」


 山田のスマートフォンが鳴った。


「はい山田です。ええ、ええ、そうですか……。やっぱり無人?」

「何かありましたか?」

「他県でも同じような事件が起きているみたいなんだ」

「無人のトラックが店に突っ込む事件ですか?」

「どうもそうらしい。トラックが道路沿いのコンビニやお菓子屋さんに突っ込む事件が昨日今日で5件起きている。けがをした人もいるらしい。こりゃテロだな」

「しかしなんでこんな時期に……」


 佐川は首を傾げた。


「何か理由があるんだろうなぁ」


 山田はアフロ頭を掻きながら、ひっきりなしに国道を走るトラックを眺めた。

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