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第6話:なんとかやっていくぞい


 アメリはベッドから降りて溜息をついた。


 竜人の国――エムロードに来てから数日が経った。あれからマリアと話をすることができて、「ワタクシのお友達として行動すればいいわ!」と指示を受けてなんとかやっていけている。


 すでにアメリが動物と会話ができるという話は宮殿に仕える者すべてが知っている。宮殿内を歩けば召使いたちが兵士がひそひそと話すのだ、動物と会話ができる変な人間だと。


 カーテンから零れる朝の陽ざしに外を眺めて、空を飛ぶ鳥が何か会話をしている声を耳にしながら身支度をアメリは始めた。用意されたのは白いワンピースで、これは動きやすいので気に入っている。


 アメリの部屋は宮殿の奥の端の端、隅にあった古い部屋になる。そこは昔、使われていたようだったが今はもう放置されて長年仕えていた召使いでさえも忘れていたらしい。言わずもなが、部屋は蜘蛛の巣だらけ埃まみれであったのをアメリは一人で掃除して住めるようにしたのだ。


 面倒を見ると言っただけはあってテオは必要なものを召使いに伝えてくれていて日用品などを用意してくれた。


 食事は部屋に持ってくるようになっており、決められた用事とトイレや入浴以外では宮殿内を歩き回るのは禁止されている。余計なことをしないためということらしい。



「今日はご主人……じゃなかった、マリア様とペットの動物たちの通訳という名目の作戦会議だっけ」



 マリアは大の動物好きで、それは前世のことからだった。姫として生まれ変わった彼女はどうせならばと夢であったいろんな動物を飼うというのを実現させたのだ。マリア専用の動物が飼育されている場所があり、そこに動物たちが暮らしていた。誕生日プレゼントとして贈られてきた動物を合わせて十数匹は飼育されている。


 昨日はサルと犬の通訳をしながら王宮での暮らし方を教わったので、今日はなんだろうかと考えながらアメリは髪を整えていく。綺麗な長い白髪を花々の髪飾りで一つに結うと頬をぱんっと叩く。



「よし、いくぞ」



 せっかく元飼い主であるマリアがいろいろと考えてくれているのだ、気持ちで負けては駄目だと気合を入れて部屋を出た。


 部屋を出てマリアのペットが飼育されている場所へと向かうために廊下を足早に歩く。走っては召使いに叱られてしまうのでそれには注意して。



「あ、アメリだ」

「っ!」



 突然の声にびくりと肩を跳ねさせて、アメリが声がしたほうを見遣れば襟足の長い緑髪が印象的な彼、シリルがそこに立っていた。欠伸を一つついて彼は歩いてくる。



「また、マリアかい? 飽きないねぇ、あいつも」

「お、おはようございます、シリル様」



 挨拶をしながら頭を下げるも彼は少し長い髪を弄っているだけで返事はなく、じっとアメリを見つめるだけである。その視線は何を思っているのか感じ取れないため少し怖かった。



「まー、動物と会話ができるんだ。動物好きなマリアが好むよねぇ。テオ兄さんは珍しいのとか好きだし気にいるわけだ」

「は、はあ……」



 シリルの話に相槌を打つしかない、どう返事を返せばいいのか言葉が思いつかないのだ。すると、彼の何を考えているのか分からない瞳がにっと笑う。



「あっ」

「え?」



 シリルが指をさしたのでそれにつられるようにアメリは振り向く――何かが肩に飛んできた。



「ふにゃぁっ!」



 驚き、声を上げれば大きい蛙がアメリの肩に乗っかっていた。げこげこと鳴いているそれに目を瞬かせる彼女の様子にシリルは笑う。



「良い反応~っ、ふにゃぁって、おっかしいぃ」



 どうやら、魔法を使い蛙を出したのは彼のようで腹を抱えて笑っている。アメリの反応が彼のツボをついたのだろう。



「いやぁ、きみってからかい甲斐がありそうだね!」

「そ、そんなこと言われましても……」

「次は何してからかおうか」



 アメリの言葉など聞こえていないのか、どうやって遊ぼうかとシリルは楽しそうに考えている。


(玩具にされてるのでは……)


 彼から見ればアメリは新しい玩具でしかないのかもしれない。これ以上、何をされるのかと待っていればこらと叱る声がした。



「シリル、何をやっているのですか」

「うげ、バージル兄さん」



 薄緑の長髪を靡かせてバージルは二人へと近づく。シリルが面倒なのに見つかったと言いたげな表情をみせれば「悪戯も程々にしなさい」とバージルは叱る。



「アメリはテオが世話をしている。彼に怒られることはしてはいけない」

「ちょっとぐらい遊ぶなら平気だってー。兄さんだって実は気になっているくせにー」

「それは……」



 シリルに「マリアが毎日楽しそうに話をしているのを見て気になっていたじゃないか」と言われて、バージルはちらりとアメリを見遣る。彼は「気にはなるが」と小さく呟いたので興味はあるらしい。


 そんなに興味を持たれても動物と会話ができるぐらいしかないのだがとアメリは内心焦っていた、これ以上の何かを求められては困るのだ。



「おい、なにやってんだよ」

「げ、テオ兄さん」



 いつものように赤髪を上げているテオがぬっと現れる。何処からやってくるのだ、この王子たちはとアメリは心の中で突っ込んだ。シリルの反応にテオは察したのだろう、お前と眉を寄せる。



「下手に扱うんじゃねぇぞ、この悪戯野郎が」

「いいじゃないか、別に壊すわけでもないのに」

「そう言って、婚約者候補を泣かせたのは誰だ?」

「あれはさー、ちょっと虫を出して驚かせただけじゃん」



 あれぐらいで泣くとか弱いだけだよとシリルはぶーっと口を尖らせる。そんなことするからだろうというバージルの言葉など聞いてはいない。流石に虫は駄目じゃないかとアメリも思わなくもない、いきなり出されたらびっくりするだろう。


(まぁ、わたし、虫平気なんだよなぁ)


 元猫ということだけあり、虫に抵抗感はない。蜘蛛の巣だらけ、埃だらけの部屋を掃除した時にも虫は出たが平気であった。むしろ猫時代を思い出して追いかけたくなってしまったほどだった。蛙だっていきなり出されて驚いただけで今は平気だ。何処までが動物なのかは分からないが、蛙の言葉は分からない。


 三人はアメリを放って言い合っているのでこのままではマリアを待たせてしまうことになるなと困っていると「皆さま」と声がした。



「そろそろ、執務の時間でございます」



 いつの間にか現れた老執事がそう言ってゆっくりと頭を下げた。三人はまだ何か言いたげであったが、執務の時間に遅れるわけにはいかないので仕方なくといったふうに話を止める。


 これはチャンスだとアメリは「マリア様が待っているので」と一礼し、その場から足早に離れた。



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