第39話:明かされる事実、遠目からでも見える暴走している彼の竜の姿に頭を抱える
馬が地を蹴る、馬車の窓から見える森の景色は早々と流れていき、もうすぐエグマリヌ国王都に着く頃だ。朝、エムロード国を出たのもあってかそう日数もかからずに到着しそうで、これはエムロード国とエグマリヌ国が近いことが幸いしたようだ。
父は大丈夫だろうかと不安げに外を見つめるアメリにリリアーナは大丈夫と声をかけた。
「もうすぐ到着するわ。お父様はきっと大丈夫だから」
「リリアーナさん……」
手を握ってくれる彼女の温もりが優しくて、不安だった心が少しだけ和らぐ。
ふっと景色が変わった、平原へと出たのだ。遠くにかすかに王城が見えた。
(お父様、待っていて)
アメリは願うように目を細めた。
*
リリアーナが案内したのはアメリの実家であった。噴水のある広い庭園の向こうに屋敷がある光景は懐かしい。馬車が門をくぐり抜けて、玄関から少し離れた場所に止まり、目に入った光景に言葉を失う。
父と母が玄関の前にいたのだ。杖を突き足を擦る父を介抱する母の姿、その傍にはグラントと妹のマリーがいて彼らは二人に何度も頭を下げていた。状況が理解できずに困惑していればリリアーナに手を引かれてしまう。引っ張られながら両親の元へと近寄ると二人はアメリに気づき驚いたふうに目を開いた。
「アメリ!」
「お、お父様、ご病気は……」
「病気? あぁ、過労で倒れてしまってね。その拍子に足を酷くぶつけてしまっただけで少し寝ていたが大丈夫だ。それで、どうしてお前が……」
父から聞かされたことにアメリはますます困惑する、リリアーナは父が目覚めないと言っていたのだ。彼女を見遣れば申し訳なさそうにしながら頭を下げた。
「ごめんなさい、アメリさん」
「ど、どういうことですか?」
「それは俺から説明しよう」
傍に居たグラントがそう言って近寄ってきた。
「アメリさん。貴女の疑いが晴れたのです」
「疑い?」
「私に酷い嫌がらせをした犯人は別にいたの」
ちらりとリリアーナがマリーを見るとばつが悪そうにしながら彼女は「ごめんなさい」と頭を下げた。
エルヴィスとマリーの密談の現場を見かけて全てを知ったのだとグラントは説明する。酷い嫌がらせをしてたのはマリーで、それを利用し邪魔者だとアメリを島流しにしたのはエルヴィスの仕業だったことを。
「私、知らなくて……。ずっと貴女だと思っていた。でも、そうじゃなくて。島流しにするほどの行いじゃないのに強行したのがエルヴィスだって知って……。本当にごめんなさい」
「その、それは分かりましたけど、どうして嘘を?」
「貴女を救い出すためにはこうするしかないと考えたのです」
リリアーナはアメリを故郷に返すのが当然だとエルヴィスに言った。彼女は行きたくもない国へと一人で行ったのだ、悲しみと辛さと恐怖があっただろう。そんな想いをさせるべきではないと思ったのだ。
怪しまれずに連れだすならば両親が病気であるほうがいい、相手の同情心を誘うこともできるし、出ていく理由にもなるとグラントは考えた。
「エルヴィスが貢物は手違いで別人を送ってしまったことにして、エムロード国王に交渉する手はずになってます」
「交渉……」
「もう大丈夫よ。怖かったでしょう?」
リリアーナはそう言ってアメリの手を握りしめる。そこで理解する、彼らは自分がずっと恐怖を味わっていたと思っていることに。
竜の国へ貢物に出された人間は長生きをしない。自ら死を選ぶか、逃げ出して魔物に殺されるかの二というのはこの国では有名な話だ。竜人は怖いと思っている人間は多くて、相手から何かをされたわけではないけれど恐怖の対象である。そんな彼らだからアメリがあの国で酷い仕打ちを受けていると思うのは当然だろう、知る人もいない寂しい場所で一人泣いていると。
(あ、これはいけない)
アメリは否定しなければと思った、酷い仕打ちを受けたことはないのだから。最初は確かに恐怖もあってどうやって生きていこうと考えたことだってあるけれど、今は違う、自分は彼らに受け入れられている。それは伝えなければいけないとアメリは「大丈夫なんですよ!」と言った。
「あの、わたしは大丈夫で……。酷い仕打ちとかはされてなくて……」
「我慢しなくていいのよ、アメリ」
母は涙ぐみながら娘を抱きしめる、信じてあげられなくてごめんなさいと。父もすまなかったと謝っていて娘が我慢していると勘違いしている。
(違う、違うのだ)
我慢などしていない、そう言うのだが信じてもらえずこれは困ったとアメリは頭を抱えそうになる。
「もう大丈夫なのですよ、アメリさん」
「グラント様、そのわたしは……」
「オレは貴女に伝えなければならないことがあるのです」
澄んだ瞳がアメリを離さなくて何が起こるのか、身構えた瞬間だった。
「カーーーーっ!」
カラスが空から降ってきたかと思うと、グラントとアメリの間に割って入った。突然のことに周囲はアメリから距離をとる。アメリは何事だと自身の肩に乗るカラスを見て気づく。
「あれ、君はあの時の……」
このカラスはそうだ、ユーリィの指輪を盗んだあの時のカラスじゃないか。それに気づいてどうしてと首を傾げれば彼は翼をはためかす。
『伝言、頼まれた』
「伝言?」
『マリアから伝言。嘘がバレた。きっとお兄様がそっちへ飛んでいくって』
それはマリアからの伝言で。
「え、ちょっと待って……飛んでくる?」
嘘がバレた、それはきっと父が目を覚まさないというものことだ。では、こっちに飛んでいるということは。
「あーーーー! テオ様だぁぁぁあぁ!」
「アメリさん?」
突然、叫び頭を抱えた出すアメリにグラントは声をかける。リリアーナも両親にも心配げに見つめてマリーは不思議そうにしていた。
テオが向かってきている、彼が来るならバージルもシリルも来る。馬車などではなくきっと竜の姿だ、そのほうが早いからだ。
アメリは焦っていた。こんな場所に竜の姿をした竜人がやってきたならば、人間はどうするのかと。奇襲を受けたと攻撃をしてくるかもしれない、警戒し兵士たちがやってくるかもしれない。
「大変です! 竜がこちらに向かってきているという知らせが……」
一人の兵士が走ってやってきた。ぜえぜえと息を荒げながら、指をさす空を見遣れば、遠目に姿が見えた――燃えるように赤い竜が。




