第38話:突然の訪問と理由に驚いて動揺する
アメリの目覚めはよかった、晴れわたったように心は軽くて落ち着いている。窓から零れる陽ざしを浴びながらゆっくりと身体を起こした。窓辺には小鳥が二羽、止まっている。彼らはアメリの様子に「元気そう」と鳴く。
『今日は元気そう』
『元気そう』
小鳥はちゅんちゅん鳴く、アメリに何かを感じたようだ。
『決まったんだね』
「うん。ありがとう」
『よかった、よかった』
『頑張って』
ぼくらは応援することしかできないからとちゅんちゅん鳴き、翼を広げる。小さな応援だけれどとても力になるほど心強かった。アメリはうんと笑みをみせてベッドから降りるとドレッサーの前で座って髪の毛を梳きながら整える。花柄の髪留めで結い、白のワンピースドレスへと着替えると気合を入れて立ち上がった。
アメリの心は決まっていた。この想いを伝えてどうなるのかは分からないが、自分に嘘をつくことはできない。身支度を整えて部屋を出たアメリはマリアを探す、彼女なら兄たちがどこで何をしているのか知っているからだ。
(今なら、朝の日課があるから、飼育場かな?)
アメリはいそうな場所を上げながら廊下を歩く。
「アメリ様」
「ふぇ?」
突然、呼ばれ振り返るとメイドが一人、一礼して近寄ってきた。
「アメリ様のご友人という方が会いたいと申し出ています」
「え、ご友人? 誰です?」
自分にはこの国で友人と呼べるのはマリアたち兄妹以外にはいないのだが、かといって故郷の国にいたかと言われると微妙だ。全く思いつかずにアメリが首をひねれば、メイドは言う。
「リリアーナという伯爵令嬢様です」
「え! リリアーナさん!」
リリアーナの名を聞き、思わず声を上げるとメイドは少し驚いたふうに目を向けていた。
(えぇぇ! どういうこと!)
何故、彼女が此処にいるのだと困惑しているアメリを不思議そうに見つめながらメイドはいかがなさますかと問う。
「今、リリアーナ様は城のエントランスに居りますが。ご友人でないのでしたら、お断りもできます」
「い、いえ! 会います! 案内してください!」
リリアーナがこの国を訪れている訳を知りたいと思ったアメリは彼女を会うことにした。
*
城にはいつもよりも多くの兵がいて、中にはエグマリヌ国の騎士の姿も見える。物々しいといえば伝わるだろうか、何処か警戒したようなそんな雰囲気だ。城の豪奢な飾りつけのされたエントランスに彼女はいた、綺麗な金髪を流して赤いドレスを着飾っている。
透き通るような白肌によく映える青い瞳がアメリを捉えた。
「アメリさん!」
「え、えと、リリアーナさん?」
リリアーナは駆け寄るとアメリの手を取った。
「ごめんなさい、アメリさん」
「あの、どうしてリリアーナさんは此処へ?」
「あぁ、そうだったわ。実は、貴女に伝えなきゃならないことがあって。心して聞いてね。貴女のお父様が倒れたの」
父が倒れた。それを聞いてアメリは動揺した。父と最後に別れたのは国を出る時で、渋い表情を見せながら何も言わずに見送ってくれた。見れば分かるほどのアメリの不安げな態度にリリアーナは話す、仕事中に倒れて意識を失っていることを。
「もう目を覚まさないかもしれないの。貴女が生きているって知って、会わせてあげなきゃって思って……」
「で、でも、わたしは追い出されてた身で……」
「そんなものは関係ないわ!」
両親を見舞うことぐらい許されるとリリアーナははっきりと口にする。
「貴女が呼びかけることで目を覚ますかもしれないのよ?」
「父は……」
「貴女が生きていると知って、喜んでいたわ」
倒れる前にアメリが生きていることを伝えたその時の表情はとても嬉しそうで安堵していたとリリアーナは答える。信じられなかった、父は自分を責めて口すらきいてくれなかったというのに。そう言えば、リリアーナはお父様も後悔していましたと答える。強く言い過ぎた、もっと他に声をかければよかったとそんな後悔があったのだと。
「お父様……」
「さぁ、急ぎましょう?」
「でも、わたしは此処に……」
「何をやっているの?」
びくりと肩を跳ねさせてアメリは振り返るとそこには訝しげにリリアーナを見つめるマリアの姿があった。マリアはアメリの隣に立つと、「どうして主人公がいるの!」と小声で問う。アメリは「どうやらわたしの父が」と訳を話すと、彼女は「え!」と声を上げた。
「それは大変じゃないの!」
「それで、リリアーナさんはわたしを父に会わせたいって……」
「アメリさんが声をかければ、もしかしら目を覚ますかもしれない。それに……考えたくないですが、亡くなったら……死に目に会えない、看取れないのは悲しいと思いましたの」
アメリが島流しにあったのは理解しているけれど、だからといって両親に会えないというのはおかしいのではないかというリリアーナの言葉にマリアもそれはそうよねと頷く。親に何かあったのであれば、心配にもなるし会いたいと、そう願うのは間違ったことではない。それは転生しても同じことだ、産んでくれてここまで育ててくれたのだから。
「アメリは会いに行きたいの?」
「それは、会えるならば……」
父と不仲のまま会わずに別れるのは嫌だ、そう思った。きっかけは自分のやってしまった行いのせいではあるけれど、その前までは仲が良かったのだ。自分はもう大丈夫だと、心配かけてごめんなさいと、そう伝えたいと言うアメリにマリアは少し考えてよしっと手を叩く。
「いいわ、行ってきなさい」
「え、でも……」
「大丈夫よ、お兄様だって訳を話せば許してくださるわ。それに急いだほうがいいもの!」
「マリア様……」
「転生がどうのとか関係ないの。アナタを産んでくれた育ててくれた両親なんだからちゃんと会ってきて」
そう言ってにっと笑むマリアにアメリは「はい」と返事をした。




