第37話:答えはそこにあったんだと気づく
「じゃあね、アメリ。まだ時間はあるからゆっくり考えて」
「今日はありがとうございます、マリア様」
「いいのよ。ねぇアメリ」
「はい」
「酷なことだろうけれど、自分の想いに素直でいて」
三人の内から選ばなくてもいい、自分の気持ちに素直に答えて、アナタが決めたことなら誰も責めはしない。真剣に告げるマリアにアメリは彼女の優しさを感じる。
「はい」
「それじゃあ、おやすみ」
にこりと笑ってマリアは手を振りながら扉を閉めた。しんと静まる室内、アメリは小さく息を吐いてベッドに転がった。うがーっと枕に顔を埋めながら今日あったことを整理する。
三人から話を聞いた、何処に惹かれたのか好きなのかを。彼らはちゃんとそれに答えてくれた。
話を聞いて自分はそんなできた人間ではないと思ってしまう。悪役令嬢アメリであった時にやってしまった行いというのは消えない。陰口を言い、高圧的な態度を取って嫌がらせはしていないにしろ、精神的にリリアーナを追いつめたのは事実なのだ。
前世の記憶が蘇って、事の重大さを理解したからこそ、自分を変えることができただけだった。性格などそうそう変えられるものではなくて、優しいというけれど自分ではそうは思わない。生きるために必死だっただけだと、そう思った。
「自分の気持ちに素直になる、かぁ……」
ぽつりと呟いてアメリはゆっくりと起き上がると窓の外に目を遣ると、日が傾き始めて空は茜色に染まっている。空から視線を下に移すと、誰かが歩いている姿が見えたのでよく見てみるとテオ達兄弟であった。
遠目からでよくは見えないが何か話しているようで普段通りの様子だった。
(険悪っぽくなくてよかった)
アメリは少しだけ安心した。兄妹仲が良かったのを知っていたので悪くなっていたらどうしようかと不安だった。でも、それは見た目だけかもしれない。三人とも思うところがあり、それを表に出していないだけの可能性もある。見た目だけでは分からないので少し不安は残っていた。
少しだけと、アメリは窓に手を当て三人を観察する。テオがシリルに何か言われているようで、いたずらっぽく指をさされていた。
(テオ様きっとシリル様にからかわれてるんだろうなぁ)
テオが何か言って、シリルの頭をぐしゃぐしゃっと撫でているのを見てふふふと笑みが零れた。
(テオ様ってあぁやって撫でるんだよね。なんだが、ご主人に撫でられていた時のことを思い出す)
前世の猫時代、飼い主はぐしゃぐしゃっと撫でて、抱きしめてくれた。今のマリアもよく抱き着いていくるので変わらないなと思い出して自然と笑みが零れる。
(あ、バージル様が間に入った。仲裁役はいつもバージル様なんだよね。で、シリル様が何か言うの。あぁ、やっぱり言ってるっぽい)
傍で見てきていたから分かる。仲が良い兄妹だ、羨ましいぐらいに。
(わたしがいなければ、仲良く話していたのかな)
此処にいなければ、兄弟で争うことはなかったのではないかとアメリは胸に手を当てて拳を握る。外ではまたテオがシリルの頭をぐしゃぐしゃっと撫でていた。
「撫でられたいな」
ぽつりと呟く。彼は撫でる時、必ず笑みを見せてくれる。太陽のようなその笑顔はよく似合っていて好きだった。誰も選ばなかったらどうなるのだろう、またいつものように会話をしてくれるかな、笑みを見せてくれるのかな。
元のように戻れるとは思えなかった、そんな願望が叶うことはない。誰も選らばない選択が一番、残酷であるような気がした。
「あれ……」
頬を伝う涙。ぽろぽろと溢れだす涙を拭いながら困惑する。何故、泣いているのか分からない。
「どうして……止まらない……」
どんどんと溢れてくる涙を堪えようとするも無理だった。何度も何度も涙を拭うけれど止まることがない。
(泣いている、悲しいから? 辛いから?)
アメリは自身の心に問いかける。
「あ、そうか……」
アメリは気づいた、自分は悲しいのだ。もう二度と彼の笑顔が見れないかもしれないことが。
「なんだ、そうだったんだ……」
答えはすぐそこにあって、変に悩んで回り道をしてただけだったのだとアメリは溢れる涙に身を任せるように瞼を閉じた。




