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第36話:シリル様の想いを聞く

 四季の移り変わりが見える中庭の花々たちは明るく咲いていたものが、落ち着いたけれど目を惹く色へと変わっていた。植えられた木々は剪定されて、小鳥たちがちゅんちゅんと鳴いている。葉がさざめく音は心を落ち着かさせくれた。


 テラスに腰を掛けて襟足の長い緑の髪を弄るシリルの姿があった。召使いが用意したお菓子を食べながらぼんやりとしている。何かを考えているような、黄昏ているようにに中庭の景色を眺めていた。



「シリルお兄様は元気なところがいいわ。明るくて、言うことははっきり言うし。でも、悪戯をするところは悪いわね」



 シリルは明るく元気だ、暗い顔をすることもなくて素直で言うことははっきりと言う。そこが良い所で、悪戯がすぎることが悪い面だ。その悪戯で婚約者候補を泣かせたことは多々あって父にきつく言われてからは、大それたことはしなくなったけれどそれでも驚かすことをやめなかった。



「構ってほしいのよね、シリルお兄様。まぁ、子供っぽいって思われちゃうかもだけど。でも、仕事はちゃんとやるのよ?」


「悪さって程でないですからね、悪戯は。でも、あれびっくりするんですよ」

「ごめんなさい。苛めてるとかではないのよ?」

「それは伝わってるので大丈夫ですよ」



 シリルの悪戯は驚くけれど、嫌がらせだとは思ったことはない。人によってはそう思うかもしれないが、アメリはそうではなかった。何となくだが、構ってほしいのだなとそう感じていたのだ。



「面白いかそうでないかで決めちゃうところも悪いところよねぇ。ある意味、質が悪いと思うわ」

「ずばっと言いますね」

「嘘はつかないわよ。お兄様であろうと容赦なくいくわ」



 誰かを贔屓して言うことはないとマリアは兄たちの悪い所良い所を言っていく、それが公平ということなのだろう。



「誰を選ぶも選ばないも、アメリが決めることだもの。その判断材料に贔屓や嘘は混ぜないわ」



 きっぱりと言ってマリアはテラスのほうへと歩き出したのでアメリも着いていけば、気配に気づいたのかシリルが振り向いた。



「アメリ!」



 アメリの存在に気づいたシリルは慌てて立ち上がったかと思うと走ってくる、転がる椅子など気にすることなく駆け寄って手を握った。



「ごめんよ、アメリ! 勝手なことして!」

「え、あぁ、だいじょ……」

「本当にごめん! 君のことを考えて行動しなきゃいけなかった。ずっと謝りたかったんだ」



 勢いある謝罪にアメリは言葉を挟めない。シリルはずっと謝りたかった、やっとその機会ができたこともあってか言葉が止まらない様子だ。返事をかえしたくとも、口を挟めるタイミングがなくて、でも申し訳ないという気持ちは伝わってくる。



「シリルお兄様! アメリが困っているでしょう!」

「あ、ごめん。ずっと我慢してたから……」

「大丈夫ですよ。わたしは平気ですから」



 眉を下げてシリルは手を離して距離をとると名残惜しそうな手は静かに下げられた。アメリはもう気にしていないこと大丈夫であることを伝えるけれど、それでもまだ気にしているのかシリルは眉を下げたままだ。



「今日はね、見極めにきたのよ」



 そんな彼にマリアは話す、兄たちに説明ように言えば納得したようだ。シリルはそうだよねと呟いてアメリを見つめる。



「アメリには決める権利がある。当然だね」

「でも、見極めるってなんか上から目線みたいで……」


「それは仕方ないよ。僕らが勝手に決めるのは間違っているし、アメリにだって選ぶ権利はあるさ」



 気にすることじゃないよと当然だといったふうにシリルは答える。上から目線のような気がしなくもなかったが、彼ら兄弟は気にしている様子はなかった。むしろ、それは当然であると受け入れている。



「それで、僕に何か聞きたいこととかある?」

「あ、えっと。わたしの何処がいいのかなぁって……」


「そこかぁ……確かにそうだよね。僕はね、君の反応、言動かな。あと、僕のちょっかいを叱らずに受け入れてくれたところ」



 驚いた時、悲しかった時、楽しそうな時、いろんな時に見せた反応が心に残っていた。相手のことを想ってくれて一緒に考えてくれる。ちょっと悪戯した時も、叱るでもなく受け入れてくれた。


 嫌がるのではなく、温かく受け止めてくれたそんな人間に会ったのは竜人ですらいない。嬉しかった、兄妹以外にそんな相手ができたことが。



「僕の行動をさ、受け入れてくれてさ。悩みだって一緒に考えてくれた。そんなところに惹かれたんだよ」



 君には突然、告白されたと思われたかもしれないけれどねとシリルは笑う、惹かれていっていく感覚があったのだと。



「でも、テオ兄さんとバージル兄さんが同じ感情を抱いていることにも気づいた」



 兄たちも同じなのかと気づいてこの気持ちを隠した、見つかれば争いになるそう思って。でも、諦めるつもりもなかった、譲る気も。いつか、想いを伝えるつもりだったのだとシリルは話す。



「あの時、バージル兄さんが言い出した時は焦った。先に行動されて、このままそっちの方向にいったらって。でも、テオ兄さんが声出して、だから僕も伝えることにした」


「そうだったんですか……」


「本当はさ、二人っきりの時に伝えたかったよ。バージル兄さんはもう少し様子をみてくると思っていたからさ。まさか、父上の前でとは思ってもみなかったよ」



 シリルもバージルの行動は予測していなかったようで、考える余裕すらなかったらしい。その結果、アメリの気持ちを失念していたと目を伏せた。



「それはもう気にしてないので……」


「テオ兄さんやバージル兄さんには会ったんだろう? なら、言われてると思うけどさ。兄弟で争ってさ、選択を迫られるって酷な事じゃん。相手のことを考えたりしたら、辛かったりもするしさ」



 無理を無茶を迷惑をかけていると思った。酷なことをさせているのに平然としてられるわけもないけれど、自分から何か言うことは許されない。それはもどかしくて、申し訳なくて、でも愛している感情に嘘はなくて。



「兄さんたちはさ、きっと結果を受け入れるって言ったんだろうな。僕もそのつもりだけど、でもやっぱり僕以外が選ばれたらきっと悔しいって思う」



 答えを受け入れる覚悟はできている、でも自分以外が選ばれたら悔しくも思う。心からの祝福はできないかもしれないけれど受け入れる、一番はアメリの幸せだから。潔く身を引くし、兄弟を貶したりもしない。悔しいけれど、悔しいけれど。笑って見送ることはできないかもしれない、それでも幸せを願っているのは本当だとシリルは自分の想いを吐き出した。



「アメリ、遠慮はしないでくれ。こんなこと言ってはなんだけどさ。気にされて答えを出せないのは嫌なんだ。自分の心に正直であって。お願いだ」



 そう言って微笑むシリルだけれど、いつもの日向のような笑みではない彼の精一杯の笑顔だった。

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