第33話:まずは彼らのことをよく見てみよう
ぼんやりと窓の外をアメリは眺める。今日も晴れわたった空は雲一つなくて、窓辺にはいつものように小鳥が二羽いた。この子たちとはよく話す仲なので、今日も小鳥は外であったことを話す。城下町は今日も賑わっている、こんなことをされたなどちゅんちゅん鳴きながら。
それを片耳にアメリは考えていた、自分は誰かを愛しているのだろうか。デーヴィドは言った、息子たちがあそこまで真剣に誰かを想う姿を見たのは初めてだと。その想いを無碍にすることはできないのでどうか、考えてくれないかと頼んだ。
あれからずっと考えている。テオもバージルもシリルも嫌いではない、彼らには良いところがある。テオは不器用ながらに優しいし、バージルは兄妹想いで、シリルは無邪気で元気なところが良い。好きなのかと問われれば好きなのだけれど、それが恋愛感情からくるものなのかは分からない。
分からないな、どうしたらいいのかな。ぐるぐる考えるだけで答えは見つからない。これは乙女ゲームには記されていない悪役令嬢アメリのエンディングのその後、物語で語られる部分ではないのだ。うぅとアメリは頭を抱えた。
『どうした、どうした?』
『何かあった? 何か?』
小鳥が心配そうに声をかけてくる。アメリは大丈夫だと笑みをみせるも、彼らはそんなはずはないと鳴く。確かにそうなのだが、彼らに話したところで分かるのだろうかとアメリは少し考えてから簡潔に話した。
『求婚されてる?』
『誰かと番になる?』
「そうだね、でもわからないの」
自分の気持ちが分からないとはっと吐かれた言葉に小鳥たちは顔を見合わせた。
『ぼくらは人間の気持ちはわからない』
『でも、ぼくらは番になる時、こいつだけだってなる』
こいつだけ、こいつと一緒にいたい、そうやって番を決めるのだと小鳥たちは言う。
『誰とずっと一緒にいたい?』
「誰と?」
『一緒にいたいっていうやつが一番なんだよ』
小鳥の言葉にアメリは目を瞬かせる。ずっと誰が好きなのか愛しているのか考えていた、誰だろう誰だろうと。一緒にいたいとそんな感情は思いつかなかったがよく考えみれば、妻になるということは傍に寄りそうことになる。一緒にいたい存在でなければ辛いことだ。
『ぼくらはずっと一緒』
『死ぬまで一緒』
『難しく考えなくていいんだよ』
ただ傍にいるだけでいい、そう思える存在が一番だと小鳥は言う。
『見てみたらどうだい?』
「見てみる?」
『一度、しっかりと見てみるんだよ、そいつらを』
『ぼくらはそうやって見極めるよ』
一度、彼らを見てみるというのはいいことかもしれない。一人一人と向き合ってみて、自分の感情を整理するというのは。
「ありがとう、そうしてみる」
よしと気合を入れるように息を吐いたアメリの様子に小鳥は頑張れと応援した。
***
「その、ごめんなさいね。あんちゃん、実はワタクシは気づいていたの」
そう言ってマリアは謝った。飼育場でマリアに相談しようとしていたアメリは彼女に真っ先に謝罪されてしまったのだ。どうして謝られているのか分からずに困惑していると、「お兄様たちがね、あんちゃんのこと好きなの気づいてて」と訳を話す。
最初は確信がなかったのだけれど、兄たちの姿を見てきっとアメリに惹かれているのだろうと気づいた。もし、アメリがお兄様の誰かと婚約するのならば、死亡エンドは完全に回避できると思った。だから、お兄様たちとアメリを引き合わせるように動き回っていたこと、けれどそれは自分勝手なことであってアメリ自身の気持ちを考えていなかったとマリアは反省したようだ。
謝られた理由を知ってマリアの今までの反応や、この前の「お兄様のことをよく考えてね」という言葉の意味をやっと理解した。アメリは彼女が自分の死亡エンドを回避するために動いてくれていたことだというのは伝わってきていたので、「大丈夫ですよ」と返す。
「全く気付かなかったわたしも悪かったんです。マリア様はそれを分かっていたから頑張ってくれていたんですよね」
「まさか、ここまであんちゃんが鈍感だとは思ってなかったから……でも、やりすぎたわ、ごめんなさい」
「いいですよ。それにですね、自分の気持ちに向き合う時間ができてよかったと思ってるんです」
今までしっかりと自分の気持ちに向き合っていなかったとアメリは言う、これは丁度いい機会なのだと。だから、その相談をしたいとアメリはマリアに頼んだ。
「わたしは前世が猫だから、人間の気持ちがまだ受け止められないみたいで……」
「そ、そうよね! ワタクシでよければ力になるわ!」
「それでですね、わたしはみんな好きな気持ちはあるのですが、誰を愛しているのかいないのかの判断ができなくて……。だから、一人一人と向き合ってみようかなぁって」
小鳥たちに言われたことを話すとマリアはなるほどと手を叩く。
「確かにそうよね。一人ずつ見てみるっていうのは大事よ。いいわ、今日は三人ともお休みだから一人ずつ見て回りましょう!」
お兄様が何処にいるか知っているからと自信満々に胸を張るマリアにアメリはほっとする。あの後だったこともあり、二人っきりで会うというのは不安であった。
「でも、ワタクシは会話には入らないわ。様子を眺めているだけよ、少し離れて」
「えっ」
「だってワタクシが入ったら意味ないでしょう?」
決めるのはアメリ自身だ、周囲が口出す必要はないし、それに妹が肩入れするのは公平ではない。マリアの言葉にその通りだとアメリは頷く、マリアは彼らの妹なのだ。誰かに肩入れするというのは不公平であり、彼女自身も何か言われかねないなと納得する。
「ちゃんと見守ってあげるわ。放っておいたりしないから安心して」
「わかりました」
「ワタクシはね、元飼い主とか関係なく、あんちゃんのことが大好きで、親友だと思ってる」
転生してきてみれば攻略キャラクターの妹という脇役で、姫ということもあって周囲は一歩下がって見守ってくる。不自由はなかったけれど、友達らしい友達はいなくていつも寂しかった。動物たちと触れ合っている間は忘れることができたけれど、でもやっぱり友達はほしかった。こうやって再びあんこと出逢えて、しかもお友達になれたことが嬉しかったのだとマリアは話す。
「だからね、ワタクシは大切な親友のあんちゃんの味方で助けになりたいの」
「マリア様……」
「だからね、遠慮せずに決めて。あんちゃんが誰も選ばないって言っても、ワタクシは怒らないから」
誰を選ぶかはアメリの気持ちで決めることで、口出しすることはない。そんなことで友達を止めることも、見捨てることもしないとマリアは笑む。アメリは彼女の言葉に泣きそうになるのを堪える。
嬉しかったのだ、自分のことをここまで想ってくれたことが。
「わたしも、マリア様が好きですよ。友達で親友でいさせてください」
初めてできた親友、マリアは花が咲いたように笑みながら頷いてアメリに抱き着いた。
「もちろんよ! ずっと親友だわ!」
「ありがとうございます!」
「よーし! 親友のためにワタクシは頑張る! お兄様たちのもとへ行きましょう!」
マリアは「ワタクシがお兄様のことをいろいろ教えるわ!」と抱きしめるのをやめて、気合を入れるように拳を握り振り上げた。早速行きましょうと手を取って走り出したので、やると言ったらすぐに行動する彼女に苦笑しながらもアメリは嬉しそうだった。




