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幕間:エルヴィスの計画はこうして見つかってしまう

 執務室へと戻る最中、グラントは手紙を読んでいた。シンプルな便せんには綺麗な文字が並んでいて、アメリからの手紙の返信に彼は安堵していた。本当に生きていたのだと、彼女は竜人の国で。貢物に出された人間は早死にする、そう言われていたため心配していたが彼女は生きていた。


 よかった、心底そう思ったグラントは手紙を封筒に仕舞いながら廊下の角を曲がって誰かにぶつかった。



「あぁ、すまない」

「こちらこそ、ごめんなさい……。あ、グラント様」

「リリアーナ嬢じゃないですか」



 ぶつかってきたのはエルヴィス王子の婚約者、リリアーナだった。綺麗な長い金髪を揺らしながら彼女はきょろきょろと周囲を見渡している。



「リリアーナ嬢、エルヴィス様に城には来てはいけないと言われていませんでしたか?」



 エルヴィス様は仕事に私情を持ち込みたくないと、リリアーナに城には来ないようにときつく言っていたのを聞いている。そうグラントが指摘すれば彼女はそれはと眉を下げた。



「次のお休みの日に出かける約束をしていたの。行きたい場所を聞かれていたから、答えようと思って……。その……楽しみだったから……」



 頬を赤らめ恥ずかしげに口にしているのでよほど、楽しみなのだろう。エルヴィスは王を継承するわけではないけれど、仕事量というのは多かった。それをこなすがゆえに時間がなかなか取れないというのはよくあることだ。やっと休みがとれて一緒にいられるというのは、ずっと待っていた彼女からしたら嬉しいことなのは誰にでもわかる。


 グラントは傍で見てきたために責めることはできず、仕方ないですねと息をついた。



「あら、手紙?」

「あぁ、これは竜人の国に行かれたアメリ嬢からきたもので」

「アメリさんが? 彼女は無事なの?」



 リリアーナは口元に手を添え驚いたふうに問う。竜人の国へ貢物に出された女性がどうなったのか、彼女も噂には聞いていたからだ。無事であることを告げるとリリアーナは安堵したふうに胸元に手を当てた。



「エルヴィス様から聞いていたわ。でも、島流しをしなくてもって思っていたの」



 アメリから陰で悪口を言われて高圧的な態度をとられていた。でも、それはエルヴィスを盗られたくないという想いからなるものだというのに気づいている。


 自分は横取りしたようなものなのだから、彼女からされた行いというのは罰だと思っている。そう告げてもエルヴィスはそれは違うと言って聞き入れてはくれかった、アメリには罰が必要だと、そう言って。



「酷い苛めにあっていたと聞きましたが……」

「確かに嫌がらせはされました。でも、横取りしたのは私ですから」



 彼女を恨むことも怒ることもしないとリリアーナはそう言って微笑んだ。



「アメリさんは元気なのかしら?」

「どうでしょうか。手紙からは分かりませんが、無事であることは確かです」

「それならいいのだけれど……。あれ、エルヴィス様?」



 心配そうにしながら窓をさりげなく見たリリアーナはえっと声を上げる。外に綺麗なコートを羽織ったエルヴィスの姿があった。襟を立てて顔を隠すように周囲を警戒しながらひっそりと出ていく姿、あの白金の髪は彼で間違いない。


 リリアーナに言われてグラントも窓から覗く、僅かに見えた後ろ姿はエルヴィスであった。彼はこの時間は執務室に籠っているはずなので何かあったのか、不安げに見遣るリリアーナにグラントは今ならまだ追いかけることができると駆けだした。



「待って、私も行くわ!」

「しかし、リリアーナ嬢……」

「彼が心配ですもの!」



 追いかけてくる彼女の瞳は不安と心配に満ちていてグラントは断ることができなかった。


          ***


 城下の郊外、雑木林がある人里離れた場所にエルヴィスはいた。白金の短い髪を掻き上げて彼は悪い笑みをみせている。少女が一人、傍に居た。控えめな黄色いドレスにショールを羽織った少女はカールされた肩にかかる栗毛を弄っている。



「おかげでリリアーナを妻にできそうだよ。マリー」


「いいのですよ、エルヴィス様。貴方様のおかげでお兄様が目を覚ましてくださったのですから」



 くすくすと笑いながらマリーは口元を覆う、愉快そうに目を細めて今にも腹を抱えて笑いそうであった。



「あの女がリリアーナ嬢の悪口や高圧的な態度をとっていたのは本当ですもの。でもよかったわぁ。わたくしがしていた嫌がらせの罪まで背負ってくださるなんて。あぁ、お兄様には言わないでくださいね?」


「言わないさ。君のやったことをあいつがしたことにしたおかげで、婚約は解消できたのだから。リリアーナは優しいから、あいつがいたら手心を加えてしまう。竜人の国に生贄に出して正解さ」



 邪魔者はいなくなってくれたほうがいい、彼女の身にも悪影響だ。軽蔑すうように吐かれた言葉は嫌悪を感じさせた。島流しにすることなどなかったのに、そう言ってまたくすくすとマリーは笑う。



「よく御父上を説得できましたわねぇ」

「簡単だよ。愛した人に悪影響を与える存在が近くにいてはよくないと言っただけさ」



 父は甘い、すぐに納得したさというエルヴィスの言葉にマリーは我慢ができず、大笑する。



「あー、おかしい。それで、次はわたくしに何をしてほしいのです?」

「それはだね……」

「エルヴィス!」



 大声に二人は驚き振り返る。そこには眉間に皺を寄せて怒りを露わにするグラントと悲しさと怒りを混ぜたような顔をしたリリアーナがいた。どうして二人が此処に、そう言いたげなエルヴィスにグラントは胸倉を掴む。



「貴様は、自身が何をしたのか分かっているのかっ!」

「な、別に関係ないだろう! あいつがリリアーナにしたことは本当だ!」


「悪口を言い、高圧的な態度だっただけだろう! それは島流しするほどの罪なのか! 彼女の命を懸けるほどの罪か!」



 グラントの形相にエルヴィスは言葉を噤む。今までに見たこともない怒った姿だったので、兄の様子にマリーは恐怖に固まってしまう。


 リリアーナはグラントを止める、暴力で解決しようとするのはよくないと。彼女の言葉に怒りが治まっていないがゆっくりと胸倉を掴んでいた手をほどいた。



「エルヴィス様。私は貴方がそんな方だとは思いませんでした」

「リリアーナ、違うんだ。あいつは……」


「確かにアメリさんは私の悪口を言い、高圧的な態度でした。でも、数々の嫌がらせは彼女ではなくて、マリーさんだったのですね」



 冷めた瞳でリリアーナはマリーを見る。彼女は目を合わせることができずに気まずそうに逸らした。



「話は聞きました。そして、また何かしようとしていたのですね」

「いや、そんなことは……」

「マリー、お前がそんな子だとは思わなかった」

「お、お兄様っ、ちがっ」

「何が違うというのだっ!」



 怒鳴りあげるグラントにマリーはびくりと肩を跳ねさせる。兄に怒られたことなど一度もなかった彼女にとって、それは恐怖でしたなかった。言い訳も、嘘も通用しない。何もかも終わったのだ、理解した時には遅くてマリーを見下ろす瞳は軽蔑する色をしていた。



「エルヴィス様。婚約の件、なかったことにしていただけますか?」

「そ、そんなっ」

「誠実な方でないのなら、私は嫌です」

「悪かった、もうこんなことはしないから」

「私ではなく、アメリさんに謝るのが普通でしょう?」



 氷のように放たれる言葉にエルヴィスっは顔色を悪くする、彼女が本気であるのだとそれだけで伝わってきた。それでも、彼女との婚約を破棄にはしたくないのだとエルヴィスはリリアーナの肩を掴み縋る。



「もう、こんなことはしない。だから、傍から離れないでくれ!」

「その言葉に偽りはないと誓えますか?」

「誓うとも!」

「ならば、私のお願いを聞いてください」

「なんだい! なんだって聞くさ!」

「アメリさんを親御さんの元に返してあげてください」



 リリアーナの言葉にエルヴィスは固まる。


 親御さんに訳を話し謝罪し、竜人の国に島流しにされたアメリを故郷に返してください。彼女は何も知らない土地へ、人間のほとんどいない竜人の住まう世界へと流された。不安と恐怖を、悲しみと辛さを日々感じているだろう。


 このままでは親の死に目にも会うことは許されない、そんな悲しいことがあっていいのか。知らぬ罪まで背負わされて辛くないわけがない。彼女がしたことは確かに悪いことではあるけれど、酷い嫌がらせをしていたのは違ったのだ。ならば、罪というほど重いものでも、島流しにするほどのことではないのだ。


 涙を溜めて言うリリアーナにエルヴィスは何も言えない、彼女は疑っていたことを後悔していた。ぎゅっと胸元を握り、瞼を閉じる姿にわかったとエルヴィスはそう頷くしかなかった。

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