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第3話:生き残るにはやるしかない


「まず、ワタクシの部屋はどうなっていまして?」



 アメリは「どうなってますか?」と猫のメルゥに問うと、「それはだにゃぁ」と彼は話してくれた。



『ご主人の部屋はキラキラしたもので溢れているのにゃ。大きな寝床、その傍にぼくの寝床があって、ふわふわしたものがいっぱいで寝心地がいいのにゃ』


「えっと、ご主人のお部屋はキラキラしたもので溢れており、大きなベッドの傍にメルゥ様の寝床があって、クッションのようなふわふわしたものがたくさん、寝心地がとてもいいと……」



 その答えにマリアは驚いた表情を見せる。実のところアメリも驚いていた、何故なら猫と会話ができることを知ったのだ。無理だろうと思いながら聞いてみたらこれである。メルゥはアメリの問いに答えて会話が成立したのだ。


 マリアは「次の質問!」とさらに質問してきた。



「いつもエサはどうしている?」



 マリアの問いにアメリは「いつもの食事はどうですか」と聞いてみれば、メルゥは前足の毛づくろいをしながら答えた。



『お魚がいっぱい入ったものを食べているのにゃ。お肉もたまに食べれるけれど、お魚が一番好きにゃ。変な模様のお皿がぼくのにゃ』


「お魚がいっぱい入ったものをいつも食べているけれど、たまにお肉も食べる。でも、お魚が一番好き。模様のはいったお皿が自分のだと……」



 模様のはいったお皿と聞いてマリアは本当に言葉が分かるのかと目を開く。


 これはメルゥの飼い主か、餌を与えている存在しか知らないことだ。アメリがこの地に訪れたことは今日を除いては無く、ましてや宮殿になど足を踏み入れたことすらない。



「つ、次ね! メルゥが好きな場所はどこ?」



 これは飼い主しか知らない情報なので、アメリは「何処か好きな場所はありますか?」と聞いてみると、その問いにメルゥはうーんと考えながら答えた。



『好きな場所はいっぱいあるのにゃ。ご主人の膝の上も好きだし、お部屋の日の当たる場所も好きなのにゃ。でも、お花がいっぱいあるあの屋根のついた場所が一番かにゃ』


「好きな場所はいっぱいあって。ご主人の膝の上も好きだし、お部屋の日が当たる場所も好き。でも一番はお花がいっぱいあるあの屋根のついた場所と……」



 その回答にマリアは固まっていた、何かまずいことでも言ってしまっただろうかとアメリは不安げに見つめる。



「これで最後の質問ね。お父様のお部屋には何があるのかしら?」



 父の部屋、それは王の寝室がどうなっているのかという問いだった。王の部屋に入れるものは限られており、信頼のおける執事にしか掃除もさせていないらしい。アメリは緊張しながら「どうなっていましたか」と聞くと、メルゥはうーむと首を傾げながらも答えてくれた。



『入ったのは二度くらいにゃ。うろ覚えだけど、大きな寝床になんていうのかにゃ、机? があって、そこに絵が飾ってあるのにゃ。ご主人のお母さんっていう人にゃ。ふわっふわの長い毛が特徴だにゃ』


「えっと、ご主人のお父様のお部屋には二度しか入ったことがないけれど、大きな寝床と机があって、そこには絵が飾られている。マリア様のお母様の肖像画のようで、ふわっふわの長い毛が特徴的だと……」



 それを聞いたマリアは「うっそ、本当なんだ」と口元に手を添える。どうやら、メルゥの言ったことは正しかったようだ。彼女は「本当に分かるのね!」とアメリに詰め寄ってくるのでそうですと頷くしかない。何せ、本当に会話ができてしまっているからだ。



「これは凄いわ! あんちゃん、これは利用できる!」

「り、利用とは……」

「えっと、猫以外にも分かる? 分かるとさらに良いんだけど!」

「それは、やってみないことには……」



 猫以外の言葉が分かるのか、それは知らない。アメリは猫の言葉が分かるのだって今さっき知ったばかりなのだ。流石に元猫だったことを考えても猫以外の言葉は分からないだろうとは思っている。マリアは何かいないかしらときょろきょろ辺りを見渡していた。



「何をやっているのだ、マリア」

「あぁ、お父様!」



 背後からした声に振り返るとそこには四人の男性が立っていた。


 一人は薄緑の短い髪の年老けた、けれど威厳ある顔立ちの男、マリアが父と呼んだ存在。その後ろには短い赤髪を上げている金色の瞳が鋭い青年と、薄緑の長い髪でエメラルドのような瞳をした青年。そして、緑の襟足が長い髪の無邪気そうな顔立ちをした少年が立っていた。


(えーっと、、エメラルドのような瞳の青年は、たしかバージルって名前だったはず……次期、エムロード国の王だ)


 バージルはルートによっては登場する攻略キャラクターだったはずだ。他、二人は攻略キャラクターではないサブキャラクターで彼の兄弟だったはずというのがアメリの知識の一つだった。


 主人公がバージルのルートに行くとマリアたち兄妹に会えるのだが、彼のルートというのは条件が複雑すぎて初見では辿り着けないという評判というのも頭の中に入っている。今回、リリアーナはエルヴィスルートに行ったので彼があちらの国に行くことはなくなったようだ。


 さて、王たちと会ってしまったがどうしたものかとアメリが固まっているとマリアが「ワタクシに任せて」と小さく囁いて前に出た。




「お父様、聞いてください! この貢物、動物の言葉が分かって会話ができるの!」

「何言ってんだ、マリア」

「テオお兄様、本当なのよ! この子、ワタクシたちしか知らないことを言ってみせたのだから!」



 その言葉にマリアの父、エムロード国王は眉を寄せて睨む。その視線の恐ろしさにアメリはひっと肩を跳ねさせた、ご主人何を言っているのだと見遣るも彼女は目くばせをするだけだ。


 任せてくれということなのだろうけれど、怖いものは怖い。アメリの心臓は痛いほどに鼓動していて破裂するのではというほどに苦しくなっていた。そんなアメリを他所にマリアは今あったことを簡潔に説明してみせると、話を聞いた四人は興味深げにアメリを観察する。



「マリアは面白くない嘘はつかねぇしなぁ」

「そうですね、テオ。マリアは嘘をつきません」



 テオと呼ばれた赤髪の男は「マリアは嘘が下手だからな」とバージルに目を向け笑う。



「でも、動物の言葉が分かる人間とか、聞いたことないよー」

「でも、本当なのよシリルお兄様!」



 緑の少し長めの髪を弄りながらシリルは訝しげに見てきたのでアメリは笑うしかない。疑いたくなる気持ちは分からなくもないのだ、自分でも同じ状況だったら疑うもんと。



「動物の言葉がわかるのですよ! もしかしたら、お父様を暗殺しようとした犯人も見つかるかもしれません!」


「何を世迷言を……」



 娘の言葉に呆れるようにエムロード国王は溜息をつく。そんな彼女の言葉に反応したのはテオだった、それは面白そうじゃんと指を鳴らして。



「いいね、それ。やってみようぜ」

「何を言っているんですか、テオ」

「バージルだって、言ってたじゃねぇか。父を殺そうした犯人は許せないって」

「面白そうではあるね! 僕好みだ!」

「シリルまで……」



 シリルは無邪気そうに笑みを見せながらアメリを指さす、どうせ適当に扱うんだから面白いことに使おうよと。適当に扱うと聞いてやはり自分は酷い扱いを受けて逃げ死ぬ運命であったのだと実感する。


 そんな息子たちの盛り上がりに王は着いていけないようで困ったふうだ。



「なぁ、父上。こいつの処遇に困っていたんだ。ちょっと俺らが遊んだっていいだろう?」

「……お前が暫く面倒をみるというのなら、いいだろう」



 そうするのならば、好きにするといいという父の言葉にテオはよっしゃと声を上げて近寄ってきた。近くで見る彼は端正な顔立ちをしていて女性受けしそうなその顔に、元猫であるアメリでも思わず見惚れてしまう。



「お前、名前は?」

「えっと、アメリです」

「よし、アメリ。お前は今から俺の父、デーヴィド・レヴァンテ・エムロード暗殺を企てた存在を探せ」



 どうしてそうなったとアメリは内心、パニックになっていた。それでも表情に出さなかった、そんなことをすればどういう反応をされるか分かったものではないからだ。


(いやいや、待って! そんなこと、できるわけがない!)


 いくら猫の言葉が分かるとはいえ、そんな大それたことができると決まったわけではないのだ。それに、何の確証があってその考えに至ったのかと突っ込みたい。マリアのほうを向けば口パクで「大丈夫だから」と言っている。何が大丈夫なのですか、ご主人と泣きそうになるのをアメリは堪える。



「あの現場には動物がいたもの! きっとすぐにわかるわ!」



 そうマリアが言ったので、「あぁ、なるほど現場に動物がいたのか。それでわかると考えたのか」と納得する。


 納得はするけれど解決するかはわからないわけで。それでも話はどんどん進み、あの場にいた者と動物を連れてこいとテオは傍に居た兵士に命令していた。これはもうやるしかない、拒否権はないのだとアメリは覚悟を決めた。

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