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二人で一人の部屋

作者: 創造主

 そこは、薄暗く薄汚れた狭い部屋。六畳ほどだろうか。

 そしてそこには、二人の少女の姿があった。一人はショートカットで気の強そうな目つきをしており、もう一方は対照的に長い黒髪でおっとりとした顔つき。どちらも中学生くらいに見える。


 そんな二人が、それぞれの首輪から伸びた3メートルほどの鎖で繋がれていた。



「さて…じゃあ一旦落ち着いて、さっきまでの話を整理しよっか。」


 しばしの静寂の後、ショートカットの方が話し始めた。


「アタシは『新菜ニイナ』、アンタは『沙羅サラ』、二人とも十四歳。中二。お互い面識は無い…のかどうか、わかんない状況。なんでわかんないかっていうと、なんだか二人とも、とっても大事な何かを忘れてる気がするから。って感じでオーケー?」

「…え?あ、ごめんなさい聞いてなかったです。もう一回言ってもらえますか?」

「ハァ!?ったく…いつからよ?」

「あ、えっと…じゃあ三年ほど前から?」

「って長いわ!なんで無駄に三年分の自分語りしなきゃなんないの!?てかそんなん聞いてどうすんの!?」


 どうやら新菜は見た目通りのハキハキとした性格で、沙羅の方はかなりマイペースなタイプのようだ。


「んー、で?どう思う?えっと…沙羅さん?」

「是非『サッチ』と。私は『ニッチ』と呼ぶので。」

「いや、そんな“ニッチもサッチもいかない”みたいな。まさに今の状況がそうだから縁起悪いんだけど!」

「で、どう思う…とは、“なぜこうなったのか”という話ですか?それとも“これからどうすればいいのか”…?先にニッチの見解を聞いても?」

「ニッチは確定なんだね…まぁいいけど。んー、まぁどっちもだよね。とりあえず前者は心当たり無いよ。アンタは?」

「………」

「…ん?聞こえてない?アンタは今こうなってる原因に心当たり無いかって聞いたんだけど?」

「………」

「ねぇ、聞いてんのアンタ!?」


 どう考えても聞こえていないはずは無い状況だが、沙羅は何も答えず部屋の隅の一点を見つめている。


「ちょ、いや、だからアン…」


 途中まで言いかけて、新菜はある可能性に気付いた。


「…サッチ?」

「私も心当たりは無いですね。」

「ってポイントそこかよ!結構面倒臭いタイプだねアンタ!わかったよもうサッチって呼ぶよ!それこそニッチもサッチもいかなくなるし!」


 話がなかなか前に進まない。


「じゃあさ、これからどうすればいいかって話は…何か案はある?やっぱ助けは来ないよねぇ?」

「何もわからないだけに来るも来ないも断定はできませんが、当てにすべきではないでしょうね。」

「だよね…」


 しばしの静寂。次に言葉を発したのは、ふと何かを思いついた様子の沙羅だった。


「もしかして…これって、よくある“脱出系”のゲームなのでは?」

「えっ、脱出ゲーム?あの漫画とかラノベとかでよくある…?」


 確かに、現在の状況は一昔前に流行った脱出系の物語と展開が似ている。今では現実世界でも民間企業がイベントを開催したりしているため、その手の施設が近場にあっても不思議ではない。


「まず、二人ほぼ同時に目覚めたことから、私達は同じ仕組みで眠らされ、同じ仕組みで起こされた可能性があります。」

「えー?いやいや、起きたタイミングがたまたま同じだったってだけで、そこまで…」

「それにこの部屋、トイレはありますが寝具が無いです。外から食事を差し入れるような小窓も見当たりません。食糧は棚にある分だけで、どれもそれほど日持ちのするものでもないですね。長期間の監禁を想定していないように思います。」

「え…つまりアタシらは、一定の時間内に自力でこの部屋を脱出しなきゃってこと?」

「恐らく。」

「んで、出た先で何かが待ってると…?」

「チェーンソーを持った殺人鬼とか?」

「じゃあ出ないよ!死ぬまで引きこもるしかないよ!」

「ま、冗談ですけどね。」

「冗談ってのは笑えてこそだけどね!?何もわかんなくて不安な状況で、よくそんなふざけられるねアン…サッチ!怒りを通り越してなんか感心しちゃったよ!」


 沙羅は表情の変化があまり無いため、どこまでが本気なのか新菜にはわからなかった。


「考えられる可能性は大きく三つ。ニッチの言う通りか、あるいはこの部屋での私達の言動…それそのものに意味があるのか。もしくは、そもそも逃がすつもりがないのか。」

「な、なるほど…。確かにただ逃げればいいって話じゃないかもね…。で、でもさ!固まってても仕方ないから、やっぱとりあえずここから出る方法考えない?」

「そうですね…。ちなみにニッチ、逃げるというのは…二人で一緒に?」

「へ…?そりゃそうでしょ。協力した方が確率も上がりそうだし、同じ境遇の人を見捨ててくのも忍びないっしょ?てか、こんな鎖で繋がれてんだから、どのみち…」

「私達を繋ぐ、この首輪から伸びた鎖…これが意味することもまた、別の意味があると私は考えます。」

「え?別の意味…?」

「“二人で逃げることを強いられるパターン”とは逆の…“片方を殺すことを強いられるパターン”です。」

「こ、殺す…!?ハァ!?」


 沙羅は物騒なことを言い出した。


「ありがちでは?脱出できるのは一人…でも鎖で繋がれている…鎖は切れない…だったら殺して首を切るしか…みたいな?あぁ、首輪を外そうとすると爆発するとかもありがちですね。」

「いやいや、飛躍しすぎじゃない!?発想が怖っ…」

「そうでしょうか?もし誰かが、よくある脱出ゲームを真似てこの状況を仕組んだのなら、そういうセオリー的なものを考慮するのは重要なのでは?」

「あーー…なるほど、確かにそうかも。ごめんねなんか批判っぽいこと言って。」

「いえいえ、半分はただの趣味なので。」

「だったらアンタこそ謝れよ!まずはそっからだよ!」


 殺し合う未来が現実味を帯びてきた。


「あ…でもさ、アタシらが気にすべきは脱出の話だけじゃないよね。」

「気にすべきこと?築年数とか…駅からの距離とか?」

「物件探してるならね!今はどっちかっていうと入居より退去の話だから!この部屋から出たいって話だから!」

「ちなみにニッチはルームシェアとか平気ですか?」

「んー、そうだなぁ…平気だと思うよ?相手とか環境に合わせて折り合いつけるのは得意な方だと思うし…って話が本筋から逸れてる!いま関係ないよねそれ!?」

「いえ、もしかしたらこのまま長い付き合いになるかも…」

「縁起でもない!てか仮にそうなってもこの状況をルームシェアとは言わないからね!」

「役割分担はハッキリしたいですよね。私は料理ができないので、作るのはニッチが。食べ尽くすのは私が。」

「その分担はおかしくない!?せめてアタシの分は残せよ!」


 こんな感じで時として大きく話を脱線させながらも、二人は徐々に親交(?)を深めていった。


「ところで何の話でしたっけ?」

「あっ、そうだよ記憶のこと!なんか大事なことを忘れてるってとこが、その失われた記憶こそが、この状況を説明するカギになると思わない?」

「確かにそうかもしれません。でも、思い出すことが必ずしも正解かと言われると…そうとも言えないでしょう。」

「え?それってどういうこと?」

「忘れている方が、私達にとって都合がいい…という線は?例えば何か、精神に異常をきたすほどショックなことがあって、防衛本能が働いて忘れているのかも。」

「んー、考えすぎな気がするけど…万が一そうだったら怖いし、じゃあ一旦置いとこうか。そうなるとやるべきことは…」

「まずは部屋の中をくまなく探しましょう。この状況がもし誰かが企てたものだとしたら、きっと何かしらの指示書があるはずです。狭い部屋ですが、棚など多いですし…手分けしましょうか。」

「オッケー、わかったよ。じゃあ何か見つけたら声かけるってことで。」



 二人は均等に担当分けして、室内の探索を始めた。

 そして小一時間後―――


「あ…あった!あったよサッチ!」

「え、本当ですか?この状況から入れる保険が…?」

「無いよそんなもん!もしあるならアタシも入りたいけども!じゃなくて、なんか変なメモが!」


 新菜が見つけたメモには、次のように書かれていた。


『ただ死を待つか、一縷の望みに賭けて踏み出すか。選べ。』


「ちょっ、これ…どういうことー!?この二択に見せかけた一択は何!?」

「そういえばさっき、壁に鍵穴を見つけました。密室のようでちゃんと出口はあったようです。そしてそのメモに同封されていた鍵…なるほど。ここに残って餓死するか、死を恐れず外へと踏み出すか…ということですかね。」

「“一縷の望み”って書いてるし…思いっきり危険だよね…。でも、それでも後者しかないよね…!」


 不安そうながらも即決の新菜。

 だが沙羅は慎重だった。


「…果たしてそうでしょうか?何の情報も、備えも無いこの状況で、外に出ることが本当に正解だと?」

「え…いや、でもこのままここにいたって…」

「そもそも、こんな異様な状況で見つけたメモを信じるに足る根拠は?動いた方が危険という可能性は?」

「そ、それは…それでも、だよ!動かなきゃ何も変わらないじゃん!“やらないでする後悔”より、“やってする後悔”の方がマシだよ絶対!」

「…そうですか。では行きましょう。」



 こうして二人は、慎重に部屋から抜け出した。

 途中、二人は色々な話をした。先ほどまでのような脱線と復帰を繰り返しつつ、色々な話を。

 まだ出会って間もないにも関わらず、この特殊な危機的状況ゆえか、二人の仲は急速に深まっていった。まるで旧来の親友であるかのように…



「…中学の修学旅行?あれ…どうしたっけ?行ってるはずなんだけどなぁ…」

「いいんですよ、忘れましょう。無理に思い出したら心が…」

「絶対なんか失礼な誤解してるよね!?違うからボッチじゃないから!多分…だけども!」


 そしてなんと、気付けば目が覚めてから三日が過ぎていた。


「にしても、もう三日は経つよね?これってもう“脱出ゲーム”じゃなくて“大冒険”のレベルに達してきてない?もはや“ダンジョン”だよねここ?」


 所々に食糧が用意されているため、人の手が入った施設ということに間違いは無さそうだが、三日も歩き回って出られないというのは確かに異常だと言える。

 しかし、なんの当てもないというわけでもなかった。最初の部屋と同様に、行く先々に隠された謎のメモにより、断片的なヒントのようなものはそれなりに集まりつつあったのだ。


 その結果―――


「で、ここにきて…結局怖れてた事態に…ってわけかぁ…」


 うなだれる新菜が手にしたメモには、こう書かれていた。


『絆をとるか、命をとるか。選べ。』


「これってさぁサッチ、最初の方に言ってた“片方を殺すパターン”…っぽくない?」

「ですね。今の状況で絆と言ったら我々の関係と見るしかないでしょう。それが命と天秤に…となると、まぁそういうことですかね。」

「死…かぁ…。死にたくは…無いよね…」

「え…?奇遇ですね、私もです。」

「だろうね!そりゃみんなそうだろうよ!奇遇でもなんでもないよ!」

「では、私を殺してでも生き残りたいと…?」

「そ、そうじゃないよ!もちろんそっちも嫌だけど!でも…んー、でも絆かぁー。確かに仲良くはなったけど、まだ三日だよ?」

「なるほど。つまりニッチは、まだそこまで仲良くはないから殺し合い上等だと。いいですね、わかりやすくて好きですよ。」

「だから違うけども!でもさ、命と引き換えにするほどの絆ってなると…やっぱもう少し深いやつ想像しない?」

「…例えば?仮に私達のような、家族ではない間柄で考えるなら、どういったケースが考えられますか?」

「えっ、んー…そうだなぁ…例えば、生まれたくらいの頃からずっと一緒とか、過去に辛いイジメから救ってもらったとか…?」

「もしそうだったら、アナタは自ら死を選ぶこともありえると?」


 沙羅は新菜の目を見つめ、問いかけた。

 これまでのどこかチャカしたような空気とは違うことに気付いた新菜は、しばらく考えて真剣に答えた。


「んーー…ごめん、無いかな。それでもやっぱり、アタシは…死にたくない。」

「アナタの命を助けるために、親友が命を失うとしても?」

「そ、それは状況によるけども…でも、相手が大事だからって自分が死ぬってのも違うと思う!だって残された方が責任感じるじゃん絶対?親友ならなおのことさぁ!」

「では仮に…そうですね、例えばこんな状況だったらどうです?」


 そう言って沙羅が話した設定は、こうだ。


「今は拉致の際に使われた薬の副作用で記憶を失っていますが、私達は幼い頃から苦楽を共にした親友です。互いを家族のように思い合っていました。そして今、私の首輪の起爆装置が起動。制限時間は五分。この距離で爆発したら二人とも死にます。鎖で繋がれてはいますが、この分厚い扉の向こう側に回り込めばアナタは助かります。では質問です。アナタは私を残して行きますか?それとも、私と共に死にますか?」

「え、えー…うーん…」


 あくまで例え話なのだが、沙羅が真剣な目をしているように見えた新菜は、即答することができなかった。


「では質問を変えます。逆の立場の場合、逃げる私をアナタは恨みますか?また、残る私に感謝しますか?」

「んー…実際はその時になってみないとわかんないから綺麗事かもだけど…やっぱ残らないでほしいかな。どのみち自分が助からないんなら、親友には生きて…アタシの分まで生きてほしい。」

「つまりニッチは、私が“自分の分まで生きて”と言ったら、逃げてくれるわけですね?」

「うー、そうなるかー…。う、うん!そうだね、そうすべきだよね!」

「…そうですか。」


 無表情ながら、どこか安心した様子の沙羅。

 すると彼女は、自らの首輪を指さしてこう言った。


「さぁ、行ってくださいニッチ。制限時間は五分です。」


 なんと、沙羅の首輪にはデジタル時計のようなものが表示されており、カウントダウンが開始されている。まさに先ほどの例え話と同じ状況だ。


「えっ……?」


 突然のことに状況を飲み込めていない様子の新菜。

 だが沙羅は、こんな危機的状況にも関わらず、相変わらず冷静だった。


「さ、急いで。その扉の向こうへ…」

「…ず、ずるいよ!知ってたんでしょアンタ!?こうなること知ってて、だからあんな質問…!」

「勘違いしないでほしいのは、別に選んでアナタの身代わりになったわけじゃないです。たまたま先に、私のタイマーが起動することが決まっていた…それは避けられないことだった…それだけです。」

「よくわかんないよ!もっとわかるように、もっと前から説明してよ!」

「じゃあ…三年前から?」

「だから長いんだよいちいち!沙羅ちは昔から…!え…昔から…?」

「…ハァ。ここにきて“沙羅ち”ですか。ニッチは頑なに、サッチとは呼んでくれなかったものね。恥ずかしがって。」

「ど、どういうこと…?アンタ前からアタシを知って…ううん、アタシら知り合いだったの…?じゃあ、親友…だったの?」

「だった?フフ、現在進行系ですよ。永遠に…ね。」

「だったら!だったら…行けないよ!そんな子を残してなんて…」

「なるほど、さっきの“実際はその時になってみないとわからない”の伏線回収ですか。お見事です。」

「そんなんじゃなくて!えっ、ボケる余裕ある状況なの違うのどっち!?」

「アナタが残ったところで、私の死は揺らぎません。一人で死ぬか、無駄にもう一人死ぬか…二つに一つしか、道は無いのです。」


 冷たく言い放つ沙羅。

 刻々と過ぎていく時間。

 狼狽していた新菜も、ようやく少し冷静さを取り戻し、そして…答えを出した。


「…決めた。アタシ、どっちも選ばない!」

「え…?」

「二人で死ぬのも、沙羅ち一人で死なすのも、アタシは嫌だ!二人で、生きるんだ!」

「ハァ…。まだそんな聞き分けのない…」

「だって!しょうがないじゃん!無理だよ見捨てるなんて…!」

「…では、二人で生きる方法があったとしたら…手段は選びませんか?」

「へ…?う、うん!選ばないよ!もしそんな手があるんなら!」

「後悔しない?」

「しないよ!どんな手を使ってでも、二人で生き延びよう!!」


 その言葉を聞いて、これまで無表情を貫いてきた沙羅が―――



「ありがとう。そう言ってくれると信じてました。」



 初めて微笑んだ。




「…次のニュースです。」


 どこからか、テレビの音声らしきものが聞こえる。


「チェーンソーを持った男が修学旅行中のバスをジャックした、あの忌まわしい事件から三年。バスごと崖から転落し、長らく意識不明だった二人の少女のうち…『長谷川沙羅』さんの脳死が確認されました。一方、心臓に疾患のあった『進藤新菜』さんの病状も思わしくなく―――」



 そこは、とても暗くどこまでも広い空間。

 そこには二人の少女の姿があった。一人はショートカットで気の強そうな目つきをしており、もう一方は対照的に長い黒髪でおっとりとした顔つき。どちらも高校生くらいに見える。


「まったくさぁ、最近コンプラコンプラうるさ過ぎるよね?まさか意識不明の人間に、わざわざ移植の承諾取りに来るとかさぁ…。そこまでしなきゃなの?」

「難しい話ですね。今回と似たようなケースで生き延びた方が、友人の命を奪ってまで生きたくなかったと病院を訴えたことかあったらしくて。」


 沙羅の話によると、かつて社会的に問題となった訴訟を期に法律が改正されたのだという。

 移植のために必要なのは、“何をしてでも生きたい”という本人の意思を確認すること。確認は電脳機器を介して行われ、ログがその証明となる。

 新菜から沙羅の記憶が抜け落ちていたのは僥倖だった。“三年前”や“チェーンソー”、互いの愛称など、特徴的なキーワードを出しても新菜が何も思い出す様子がないことから、沙羅はこれを好機と判断。自分の命が犠牲になると知ったら新菜は拒絶する…そう考えた彼女は、全てを伏せて説得にあたったのだという。

 ちなみに、新菜の両親の意向もあり、どのように説得するかはすべて沙羅に一任されていた。つまり、脱出ゲームっぽい各種演出は、沙羅にとって都合がいいように彼女自身によって自由に生み出されていたのだ。


「にしても、途中何度か危なかったですね。記憶が戻ったりしないかハラハラしましたよ。」

「嘘つけ!だったら普通あんなきわどいワードをバンバンぶち込んでこないよ!」

「いえいえ、あまりに伏せすぎて“承諾”と見なされなくなると意味がないので。決してスリルを楽しんでいたわけでは…まぁ、ねぇ?」

「否定するならしきってくんない!?」


 スリルを楽しんでたとしか思えなかった。


「でもさ、サッチも意識不明だったんだよね?どうやって医者とやりとりできたの?」

「私の治療の一環で、脳に電極を刺してパソコンと繋いで…色々やっていた時にね。外部と意思の疎通ができるところまでいったのですよ。」

「マジでー?凄いねー!技術の進歩マジ凄い!」

「でもやはりそう簡単にはいかなくて、致命的な損傷があって…。結局もう無理かなってことになって、だったら一人だけでも…というわけです。」

「ハァ?違うっしょ?」

「え…?」


「二人で助かるために、来たんでしょ?」




 そこは、海に面した公園。とてもよく晴れていて、太陽の照り返しが眩しい暖かな日。

 そこには一人の少女と、それを遠目に見る母子の姿があった。


「ねぇママ、あの人なんで一人でしゃべってるの?」

「ん?あ〜、今どきはスマホでもハンズフリーで話せるんだよ。パパもやってるでしょ?」

「しってる。でもあの人…イヤホンしてなかったよ?」



 左胸に手を当て、そして新菜は歩き出した。


「行こっか、相棒!」



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