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不幸な青年は異世界に行くと幸せになれるのか  作者: りーとちぇ
人間は簡単に悪魔になれる
4/10

男と演説

彼らは階段を登り2階についた。


「ついたな。部屋は見たところ3部屋か...ここの部屋は空はもう見たんだったか?」


彼は彼女に部屋のことを尋ねた。


「えぇ。でもどの部屋も特に何もないわよ。1つは私が使ってるし。」


「なるほどな。じゃあ、とりあえず全部探索するか。」


「え?私の部屋も?」


彼女は少し目を細めた。


当然である。年頃の女の子なのだから。自分が寝泊まり使ってる部屋を見られるのは嫌なものだろう。


「わかったよ。お前が使ってる部屋以外を探索しよう。」


彼は彼女の提案をやれやれといった感じで受け入れた。


「部屋にあるものはべッドだけか...」


部屋にあったのはベッド1つだけだった。あまりにもなにもない。


彼は何度も見回したが、なにもない。


「空、他の部屋もベッドしかないのか?」


彼はあたりを見ながら彼女に聞いた。彼はこの部屋が少し異様に見えたのだ。


彼はこの部屋について、考えることをやめなかった。


「えぇ。ベッドしかないわ。あとは服かしら...服だけはなぜかベッドの下の引き出しにあるわ。男用も女用もどちらも全て揃ってるわ。」


(なるほどな...)彼は彼女の言葉を聞いて、彼女はたいしてこの部屋について知らないんだなと思った。


とりあえず、彼はベッドの引き出しを確認した。服だ。本当に服があった。


「次だ、次の部屋に行こう。」


「左の部屋もこれとなにも変わらないわよ。」


「まぁ、だとしても探す必要がある。行くぞ。」


彼らは左の部屋に向かった。彼は彼女に案内してもらうという形で。


左の部屋のドアの前に着いた彼らは、部屋に入ることを決め、彼がドアを開けた。


(同じだな。空の言う通り、さっきの部屋と全く同じだな。)


彼は左の部屋も見回したが、さっきの部屋同様なにもない異様な部屋を見て少しばかり驚いていた。


左の部屋も先ほどの右の部屋同様、ベッドしかなく、引き出しには服しかなかったのだ。


「2階にはもうなにもなさそうだな。あとは浴槽、トイレぐらいか....」


彼は家の構造を思い出し、浴槽とトイレを次は手がかりを求めて探すことになるのかと、めんどくさそうにそうつぶやいた。


「浴槽もトイレもなにもないわよ。浴槽やトイレこそ、もし、なにかあったとしてもすぐにわかるわよ。」


確かにそうだ。と彼は思った。探さないでいいことがなによりもうれしかった。目には安心したような感じがうかがわれた。


(とりあえず今は何時だ...)


彼はスマホで時間を確認しようと思い、スマホを取り出した。


バァッンンン


(え...)


スマホを取り出した瞬間、スマホは爆発した。


(一体、なにが...)


彼はいきなりスマホが爆発したという、衝撃があまりにも非現実的すぎて頭が追い付かなかった。


「あぁ、言い忘れてたわ。この世界でスマホを取り出したらダメよ。さっきみたいに爆発するから。私のも爆発したしね。ま、もう爆発しちゃったから遅いんだけど。」


彼は彼女の言葉を聞いて、驚いた。


「まじかよ,,,」


彼は破損したスマホを見ながら落胆した。


そういう大事なことはもっと最初に言ってほしかったと、彼は思ったが自分が聞かなかったのが悪いし、取り出したら爆発するなら、どのみち意味がない。

今はスマホのことなど考えたって仕方がない。と


「空、腕時計は持っているか?」


「ないわよ。」


彼女はため息混じりに言った。


「だとしたら、どうやって時間を確認するんだ?」


「時間を確認する方法なんてないわよ。」


彼女はハッキリそう言った。


彼は頭を抱えた。


「だとしたら、感覚で時間を決めるしかないな....どうせ、この世界だと学校なんてものはないだろうしな。決まった時間になにかをするとかもないだろう。とにかく、人だ。俺達以外の人を探そう。あまりにも情報が少なすぎる。そして、なにより俺は人と話したい。とにかく、暗くなったらこの部屋に戻って寝るとしよう。俺は右の部屋を使うことにするよ。どうだ、空?俺と一緒に人でも探してみないか?」


彼は彼女に提案した。


「えぇ、わかったわ。私も一人だと心細いし。」


決まりだなと彼は思った。


彼らは外に出た。


「とりあえず、どこに行くかだが...。他の家の探索はひとまずいいだろう。だとすると、広場だな。この家から北の方向に広場があるのが見えるか?あそこに行こう。空、お前は広場に行ったことがあるのか?」


「いや、ないわ。この家に引きこもってたから外に出たことはないわ。」


(おいおい...)


彼は彼女が引きこもっていたということを老婆心ながら心配した。


なら、なおさら外に出ることは大事だなと彼は思った。


30分ぐらい外を歩いて彼女と一緒に街の広場に到着した。


「さて、どうしたものか...」


広場に来ても、人もいないし、なにもないと返って拍子抜けだな...と彼は思っていたのである。

と、その時だった。近くから声が聞こえたのだ。


(あれは...?)


声が聞こえた方向を見てみると、ここからまっすぐに行った通りだった。しかも、あれは人の声だった。彼らは急いでそこに向かったのだ。


「空、行くぞ」


こくり、と彼女は頷いた。


声が聞こえていた場所に彼らは到着した。


あれはなんだろうか、一人の男が複数人の人に向かって演説していたのである。


「僕たちが不幸なのは、今、この瞬間にも自分が不幸だということを知らないからだ!」


ガヤガヤ...


私には演説をしていた男は20前半の男に見えた。


民衆の反応は様々だった。意味がわからないという顔をする者、共感している者。


「生は苦痛です、生は恐怖です。だから人間は不幸なんです。人間が生を愛するのは、苦痛と恐怖を同時に愛するからなんです。

いいですか、皆さん。神があるとすれば、全ての意志は神のもので、僕はその意志から抜け出せない。もし神がいないとすれば、全ての意志はぼくのもので、僕は我意を主張する義務があるんです!生きていても、生きていなくても、どうでもいい人間、それが新しい人間なんです。苦痛と恐怖に打ち勝つものが、自ら神になるんです。恐怖というものは、人間が生まれた時に付与される呪いみたいなものだ。人間はそういう風に作られている。だからこそ、恐怖を乗り越える必要があるんです。

今の人間を見てください。今の人間は見えないなにかに従って生きている。世の中は自然の命じるところの様々な義務で満ち溢れているじゃないですかっ!しなければいけない、という恐怖に苛まれて生きているんだ!我々は!だが、本当はそんなものはない。それらは全て欺瞞だ。それらに気が付き、生きていても、生きなくていい人間が本当の人間なんです。すべての人間は美しく、素晴らしいんです。」


彼の演説を聞き、質問をする者がいた。


「じゃあ、あんたはどんな犯罪を犯した人でも美しく、素晴らしいって言えるのか?」


彼に質問をしたのは、これまた若い男だった。


「えぇ、そうです。そうですとも。どんな人間でも素晴らしい。」


質問をしてきた男に対して、演説をしていた男は言った。


「ははっ、くだらねぇ。じゃあ自殺はどうだ?自殺をする人間は神様にとってもっとも悪い仕打ちじゃねぇか?どうなんだよ!?」


質問をしていた男は怒り混じりに演説をしていた男に投げかけた。


「自殺も決して悪いことではないんです。我々人間には感情の限界というものがあるんです。それを超えてしまうと、人間はたちまちそれしか考えられなくなるんです。自殺というのは、狂気に駆られて自殺するのではない。その狂気から逃げ出したい、それしかない。と思って自殺するんです。今の人間はね。」


「くだらねぇな。」


このくだらないという反応をした彼に向かって、演説をしていた男はこう言った。


「じゃあ、あなたは熱病で死ぬ人間にも同じことが言えますか?体力が回復して精がつき、血の混乱が収まるのを待っていれば生きられただろう。と言うもんじゃないですか。それと自殺がどう違うというんです?自殺をする者に対して、気持ちが収まるのを待ってなさい。など本当に言えますか?

それで万事上手くいくのだろうか。

人間は恐怖なしでは生きられないんです。でも、その恐怖はいつ、我々の臨界点を超えてくるのか。わからない。だからこそ、我々は恐怖を乗り越える必要があるんですよ。見えないなにかに怯えるのは、もうやめだ。今こそ、今こそ。新しい人間になるのです。」


演説をしていた男はきっぱり言った。


「お前は悪戯に犯罪を擁護しているペテン野郎にすぎない。」


ペテン野郎と彼は演説をしている男に向かって言った。


「ペテン?本当にそうだろうか。どんな人間でも生きる意味はあるものだよ。」


「それはお前が決めることじゃない。それを決めるのは神様だ。法だ。」


ははっ。演説をしていた男はいきなり笑い出したのだ。


「なら、その神様がいないんだ。神は死んだ。いいですか、みなさん。神がいないから全てが許されんですよ。この世に神なんてものはいない。いないのであれば、僕が神になりましょう。

神が人間の意志を決定するなら、それは本当は欺瞞だということを僕はみなさんに説きます。僕の意志を決めるのは、僕の我意だ。神じゃない。僕の我意こそが全てです。僕が神です。」


演説をしていた男はハッキリそう言った。男は何者にも臆することはないだろうと私はなぜか確信したのである。


質問をしていた男は呆気に取られていた。


「お前の言ってることは理解できない。」


当たり前だ。このような思想は到底万人受けはしないだろう。


「わからなくてもいいです。いいんですよ。いつかきっとわかります。」


演説をしていた男は質問をしてきた男に対して、安心させるように言った。


無木島は彼らのやり取りをずっと聞いていた。


無木島は男二人の間に割って入った。


「なぁ、あんた。あんたの演説は色々思うところがあるが、まずは神がいないから全てが許されるってのは、誰かに教えてもらったのか? 俺はあんたの演説を聞く前にある家でそれと全く同じセリフが書いてあるメモを見つけたんだ。」


無木島は演説していた男に向かってメモを見せながら言った。


演説をしていた男はというと、なにやら少し驚いたような顔をしていた。


「いや、その言葉は誰かに教えてもらったとかではないよ。そして、メモだって?そんなものを私は書いた覚えはないな...。」


演説をしていた男は頭を悩ませていた。


「そうか。なら、メモのことはもういい。だったらこの世界のことを教えてくれないか?」


無木島は演説していた男にこの世界のことを訊ねた。


「この世界か。君は少し変わった言い方をするね。まぁいい。私が教えられることならなんでも教えるよ。」


演説をしていた男は心よく質問を受け入れてくれた。


素直に嬉しかった。無木島は心からそう思ったのである。

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