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8.庭 1

アルフレッド目線です


 重たい身体を寝台の上に起こすと、軽く頭を振った。目覚めたばかりだけれど、やっと眠りにつけたのは朝方だったので、疲れはとれていない。


 頭が冴えないのは寝不足のためだけではない。ループした挙句に、一度目の時とあまりに違うシャルロットの冷たい視線に心が折れそうになる。


 昨日、国王に呼び出され、戦争が始まったらシャルロットとの婚約を破棄し、クローディアと婚約することをほのめかされた。聖女である彼女との婚約話が出るのはこれが初めてではなく、今までのらりくらりと躱してきたけれども、そろそろ限界かもしれない。


 それなのに、クローディアに偽りの恋人役を頼んだのは、他に適役がいなかったとはいえ浅はかだったと今更ながら反省する。


 晩餐会の時、その事をすっかり忘れていたのは、間違いなく俺の失敗だ。

 こちらをチラチラ見る視線でやっと思い出し、慌てて人気のない場所に連れて行き、恋人役をしなくてもいいと言ったところ、なぜか泣いて抱きつかれてしまった。あの感情の起伏の激しさにはいつもうんざりさせられる。

 

 やっとの思いでその腕をほどき、今回こそはと心に決めていたシャルロットとのダンスを終えたのはよいが、その後も何かと付き纏ってくる。


 しかも、あろうことか、シャルロットの前でダンスを誘ってくるではないか。


 いや、ダンスといえば……


 思わず眉間に皺を寄せ、軽く舌打ちする。


 どうして、ザイルと踊るなんて言い出したんだ?


 仕方なくクローディアと踊りながら、二人の姿を何度も盗み見したが、実に楽しそうに踊っていた。今回の人生では、いまだかつて自分には一度たりとも見せていない笑顔で、他の男にリードされ踊る姿は、不快極まりなかった。

 どうしていつも、自分には警戒心の強い、冷たい目線ばかりが向けられるのかと思う。


 どうもシャルロットは俺よりザイルに心を開いているように見える。

 小型犬のような男を思い出す。数年前にこの城に来た男は、頭の回転が速く、語学に長けた上、機転が利く人懐こい男だった。ふわふわの茶色の髪で、男にしては小柄な身長で優男にみえるが、それでいて剣もなかなかの腕前だ。



 そして、今一番の問題は昨夜の失態だ。いや、失態と言えるのだろうか。あれは俺に非はないと思う。


 寝室に入りたいと言ったのも、寝台に横になりたい………いや上がってもいいだったか……と言い出したのもシャルロットだ。

 俺は全く何も言ってないし、してもいない。無実だ! ……そう叫びたい。


 しかし、何もなくてもこういう時は男が謝るものとザイルに言われるし、悲しい事に、下心がなかったとは……言えない。いやぁ、だってあの状況だ、仕方ないじゃないか。


 はあぁ


 これまた、何度目になるか分からない大きなため息をついて、重い身体を引き剥がすように寝台から起き上がった。




 シャルロットの部屋に行き、昨日と同じように一緒に朝食を摂ったのだが、空気がなんだか重々しい。昨日のことをそんなに怒っているのかとチラチラと見るが、その鉄仮面のような表情からは何も窺い知れない。


 ここはどうにかして挽回しないと、と思うが今まで女を口説いた事なんかないし何と言えばいいか思いつかない。


(こんな事ならザイルに相談すれば……いや、やっぱりそれはなんか癪に障る)


 お互い黙っているので、あっという間に食べ終えてしまい、シャルロットの目が早く帰れといっている……気がする。


「……シャルロット、よければ少し庭を散歩しないか」


 それは明らかに苦し紛れにいったセリフだったけれど、その言葉にシャルロットの表情が変わった。


「よろしいんですか?」


 顔から不機嫌が消え笑顔に、とまではいかないが、目がキラキラし始めた。


「もちろんだ。まだ少し時間があるので、案内させてくれないか?」

「ありがとうございます。お仕事の邪魔にならない範囲でお願いいたします」


 こんな事で機嫌が直ってくれるのであれば、毎朝散歩したって構わない。うん、これからは毎日誘ってみよう。


 城の入口を出てぐるっと時計周りに歩いていくことにした。噴水や季節の花、低木がバランスよく配置されている小道を歩いて行くが、どうもシャルロットの目線がもっと遠くにあるように思うのは気のせいだろうか。


「衛兵達は場内をいつも見回っているのですか?」

「この城に外に出られる門は幾つありますか?」

「門番はいつもいますか?」

「交代時間は?」


 なんだか質問の内容がおかしい。


「塀の高さは?」

「塀が壊れた所はありませんか?」


 いったい何をするつもりなのだろう。


 四分の一ほど歩いたところで、一度ベンチに座って一息をつく。


 さて、昨晩のことをどうやって弁解しようかと頭をひねっていると、向こうから赤い塊が突進してくるのが見えた。隣のシャルロットが身構えるのが見なくても分かる。


「アルフレッド様、こちらにいらしたんですね。王様がお探しです」


 そう言ってまた腕にしがみつこうとする。そこまであざとらしくされると、逆に引いてしまうということがこの女は分かっていない。


「お仕事のようですので、私の事は気にしないでください。一人で見て回りますから」


 先程の穏やかな空気が変わるのを感じ隣を見ると、笑顔のシャルロットがいる。しかしその目は笑っていない。


「いや、それならまた時間を改めないか? 俺が案内したい」

「お忙しいアルフレッド様にそこまでご迷惑をかけれません。どうかお気になさらないでください」


 それだけ言うとシャルロットはくるりと背を向けて立ち去っていった。


 ……結局何も挽回できなかった。忌々し気に腕にしがみつく赤い塊を睨むとなぜか頬を赤らめる。俺が冷たくすればするほど、扇情的な表情を浮かべうっとりと見返してくるのだからきりがない。


 とりあえず腕だけは振りほどき、渋々仕事に戻ることにした。昼には詫びの花と甘い菓子を贈ろう。

 

読んで頂きありがとうございます

続きが気になった方、是非ブックマークお願いします

次話からシャルロットのお庭散策が始まります。

逃げ道を見つけようと暫く頑張ってもらいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] これってスパイ行為を疑われませんかね?
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