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7.シャンデリア 2


「あの、アルフレッド様、お仕事でお疲れではないのですか?」

「気にするな。今日は珍しく日が沈む前に仕事を終えたからな。それより、ついて早々試すような真似をしてすまなかった」

「……いえ、」


 テストは国王の指示だったのも予想外だけれど、アルフレッド様が反対をした上に、今自分に謝っている事にびっくりする。絶対的な権力を持つ父親に反抗した事はなかったはずだし、謝られた記憶もなかった。




 アルフレッド様は、城の部屋を一つずつ案内していってくれた。昨日パーティーが行われた広間、広間の近くには控室が数個。厨房は城の西側で、その裏口の向こうは兵舎に繋がる。二階中央には財務や外務を担う部屋がありアルフレッド様の執務室もそこにある。それから、東側には王族のプライベートな部屋、西側には来賓客用の部屋が配置されているらしい。


 先程、ザイルが言っていた言葉を思い出す。

 前回は部屋に引きこもっていたせいで、私はこの城のことを何もしらない。五角形のシャンデリアを探すことも大事だけれど、「逃げ道」は見つけなくてはいけない。


 教えられた部屋、歩いた廊下を頼りに頭の中で、城の地図を作っていく。でもこれが意外と難しい。想像していたより広いうえ、入り組んでいる。


 廊下にあるシャンデリアは全て円形で統一されていた。食堂や来賓客の客間を案内されたあと、東側に向かって進むとアルフレッド様の執務室に辿り着いた。


 アルフレッド様はポケットから鍵を出すと、カチャリと音を鳴らしあけて、また鍵をポケットに仕舞った。


「この部屋はいつも鍵がかかっているのですか?」

「あぁ、色々な書類を置いているからな。鍵を預けるのはザイルぐらいだ」


 他の部屋に比べて、かなりセキュリティは高めのようだ。確かに前回はこの部屋に入ったことは一度もなかった。


 鍵を開けて入ったその部屋は、机の上には書類がうず高く積もり、壁には剣や地図が飾らている。天井にあるシャンデリアは金色の六角形のものだった。


 アルフレッド様は忙しい。一日の大半の時間をここで過ごしているのは、今の人生でも同じなのかもしれない。


 最後に案内されたのは、アルフレッドの部屋。こちらも記憶では一度も足を踏み入れた事がない。なんなら、場所すら知らない部屋だった。


 アルフレッド様はドアノブに手をかけしばし逡巡すると、少し躊躇いがちに振り返り私を見る。

「中に入るか?」

「はい!」


迷わず頷いた。

 アルフレッド様は顳顬を掻きながら、ゆっくりと扉を開けて私を部屋に招いてくれた。そして扉を開けたままにして、部屋の中央付近へと進んでいく。


 部屋の中の装飾品は数こそ少ないけれど、一目で高価と分かった。ダークブラウンを基調とした家具が置かれ、壁には剣が飾られている。高い天井に飾られたシャンデリアは、こちらも金でできた六角形のもので、ところどころに宝石まで施されている。


 シャンデリアに灯りが既に灯されているのに気づき、窓の外を見ると、夕闇が迫ってきていた。


「これで全ての部屋ですか?」

「後は国王の部屋と、謁見の間、礼拝堂だな。それらは国王の許可なく入る事はできない」


 奥に扉がひとつ。できればそこも見ておきたい。私はその扉を指差しながらアルフレッド様を見上げる。


「アルフレッド様の寝室も見たいのですが?」

「……はっ? いや……それは。もう暗いし……どうしてだ?」

「興味があるからです」


 言い切った私をアルフレッドが驚愕の表情で見つめる。そして、その頬が赤く染まっていった。


 どうしたのでしょう。

 一歩近づき首を傾げながら見上げると、右手で口元を隠すようにして、顔を背けてしまった。


 これは、さすがににプライベートに踏み込みすぎたかも。

 でも、次いつこの部屋に来るか分からない。いや、多分二度と来ないでしょう。それならこのチャンスは絶対に逃したくない。


「駄目ですか?」

「……もう外も暗い」

「大丈夫です! ちょっと入るだけですから!! 怪しい気持ちはありませんから!!!」

「……自分が何を言っているのか分かってるか?」


 アルフレッド様が赤い顔のまま眉間に皺を寄せている。

 でもそれを見ないふりして扉の前まで歩いて行く。勢いでこのまま開けてやろうと、ドアノブに手をかけた時。


「いいんだな?」


 一回り以上大きな手にとめられた。


「? 何がですか」


 意味がわからず小首を傾げる私に、はぁ、とため息をつく。

 そして意を決するかの表情で扉を開けてくれた。


 雲が出ていて月明かりが入ってこない部屋の中は暗かった。寝台の横にある机の上に置かれた燭台にだけ灯りがついている。私はそのまま燭台に近づく。アルフレッド様はなぜか扉の前から動こうとしない。


 金色の燭台には三本の蝋燭が灯っていた。それを持ち上げ、頭上にかざす。でも、天井が高いのかシャンデリアがよく見えない。


 シャンデリアは部屋の中央にある大きなベッドの真上にある。燭台を持ちながら寝台の周りをぐるぐると歩いてみるけれど、どの角度からもシャンデリアまで灯りが届かない。


 もう少し燭台を近づけたら見えるかも


「何をしているんだ?」

「あのシャンデリアは灯りが付かないのですか?」

「あぁ、この部屋は寝るだけだからな。燭台にだけ灯すように言っている……っていうか、何をしたいんだ?」

「寝台に上がってもいいですか?」


 その問いかけにアルフレッド様が、一瞬息を止めたのが分かった。ごくりと喉を鳴らす音が少し遅れて聞こえてくる。


 どうしたのかしら?

 アルフレッド様の方に灯りを向ける。

 でも、たよりない燭台の灯りだけでは扉の前に立つアルフレッド様の表情は分からない。


「……いや、駄目だ。婚姻の儀もまだ……」


 何か呟いている。

 

 呟きながらもアルフレッド様が私に近づいてきた。

 その時、雲間から月明かりがもれてきた。



――思わず燭台を落としそうになり、無理矢理手に力を入れる。両手でしっかりと燭台を握り直した。




「……もう帰ります」


 それだけ言うと、燭台を元の位置にもどし、慌てて寝室を後にした。


 アルフレッド様も慌ててあとを追ってくる。


「シャルロット、誤解だ」

「何が誤解なのですか」


 先程見た五角形のシャンデリアを思い出し、アルフレッド様を睨みながら一歩退く。


「いや、だから……と言うか、そもそも寝室に行くと言い出したのはシャルロットで……」

「そうだったのですか?」


 前回、私はそんなことを言ったのだろうか?


「そうなのも何も、先程……」


 そこまで言いかけた時、開いた扉からザイルが部屋に入ってきた。険悪な表情で向かい合う私達を見て、おずおずと言う感じで間に立つ。


「あの、どうしたのですか?」


 私達の表情に目をやったあと、開いている寝室の扉を確認するとアルフレッド様を疑わしげに見る。


「お気持ちは分からなくはないですが……」

「いや、ちょっと待て。誤解だ」

「やはり、体裁とか、順番とか、色々あるかと」

「だから、話を聞け! 俺から言い出してはいないし、やましい事は何もない」


 珍しく、焦りながら話すアルフレッド様にザイルが詰め寄る。


 渋い顔で何か小声で話すザイル。

 頭をブンブンと振って否定するアルフレッド様。


 でも、私にはそんなことどうでも良かった。


 先程見た光景を反芻する様に思い出す。両手でかつて剣が刺さった左胸をぎゅっと押さえた。そこに剣はないはずなのに、ズキリと胸が痛んだ。



 アルフレッド様の寝室にあったシャンデリアは五角形をしていた。



 何やらまだ言っているアルフレッド様に、暗くなってきたのでと今更な言い訳をして部屋を出た。

 震える手を隠して、道順を確認するように長い廊下を進み、部屋に戻るとニーナが出迎えてくれた。


 興味津々な顔でいろいろ聞きたがっているニーナに夕食の準備だけを頼むと、そのまま隣の部屋にいき、寝台にパタンと倒れ込む。


(はぁ……)


 顔を布団に埋めながら、思い出すのはシャンデリアのことばかりで、これではいけないと思いくるりと寝返りを打つ。


 城の中の見取り図を頭で整理しようとした時、それは私の目に入ってきた。


 思わず飛び起きて見上げた視線の先にあったのは、アルフレッド様の部屋と同じ五角形をしたシャンデリアだった。

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