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32.未来へ

沢山の小説の中から見つけて頂き、最後まで読んでくださりありがとうございます。

最後はアルフレッド視点になります


 目を開けるとそこはいつもの寝台の上だった。


 身体を起こそうとすると、腹に引き攣るような痛みを感じて思わず「うっ」と小さく呻く。その小さな声に反応したのか、ガタッと椅子を立ち上がる音がしてシャルロットが視界に入ってきた。


「アルフレッド様、良かった……」


 ベッドに横たわる俺を上から覗き込む顔には明らかに疲労の色が浮かんでいた。顔色も悪いし、目の下にはクマもできている。それでも、目を開けた俺を見てほっとしたように唇をほころばせた。


「ご気分はいかがですか? お水をご用意いたします」


 シャルロットが水を用意するよりも早くニーナが水差しからグラスに水を注ぎ始めた。


 シャルロットは俺の背に手を回して上体を起こすのを手伝いながら、それを受け取ると俺の口元に持ってきた。

 飲ませて貰いたい気持ちもあったが、なんだか照れ臭くて自分の手でグラスを持つとごくりと一口飲み込んだ。寝ている間に汗をかいたのだろうか。水が身体に染み込んでいく感覚で、喉が渇いていた事に気づき、残りの水を一気に飲み干す。

 少し気持ちが落ち着いたところで、ニーナに視線を移す。


「ニーナ、お前の役目は何だったんだ? ただの侍女ではないのだろう?」

「はい、私は王からキーランとシャルロット様を守るよう命を受けています」


 隠すことも誤魔化すこともしない代わりに、はっきりと明言もしなかった。おそらく密者の類なのだろう。


「俺の執務室に勝手に入って書類を置いて行った者がいるが、心当たりはあるか?」

「申し訳ありませんが、何のことでしょうか? 少なくとも私ではありません」


 嘘をついているか、

 もしくは密者はまだいるか。


 しかし、ニーナを問い詰めてもこれ以上何も言わないだろう。


 あのままクロードの計画が進んでいれば、いや、実際にそれが進んでいた前回の人生では、シャルロットはブグドアに囚われていた。それが何を意味するか。


 あの時ニーナは何を決断し短剣を握ったか。


 ニーナの顔には、ほっとした表情が浮かんでいる。

 昨晩、シャルロットを助けたのは事実だ。

 それに、今、彼女に前回の話を持ち出したところで意味が分からないだろう。


 ニーナがシャルロットを刺した理由はおそらく俺の想像通りだ。それは永遠に胸にしまっておこう。


 シャルロットが俺の隣で穏やかな笑みを見せる。


「ザイルとクロードは衛兵によって捕まえられ、今は地下牢に閉じ込めています。王の解毒は私が済ませましたので、ご安心ください。後の始末をアルフレッド様に任せたいとおっしゃっていました」

「分かった」


「それから、ルーベル様からの伝言です。夏祝祭の時アルフレッド様を襲った人物が見つかり、セオドアとの繋がりを認めたようです。アルフレッド様から預かった書類をもとに取り調べをするので、金の密輸に関しては任せてください、とのことです」

「分かった。その件についてはルーベルに任せよう」


 シャルロットは、「今分かっているのは……」と言ってルーベルから聞いた話を教えてくれた。


 セオドアは金を海の向こうの異国に密輸し、私服を肥やしていたらしい。その際、街の悪党崩れに金を渡し運ぶのを手伝わせていた。

 俺を襲った奴らが持っていた魔具は、セオドアが密輸がバレそうになったら使えと渡していたようだ。


「それにしても、クロードやザイルが国の乗っ取りを策略しているのに対して、セオドアは密輸か。発想が、こう、何というか……」

「小物ですわね」


 シャルロットも同じことを思っているようで、呆れるように呟いた。


「所詮、大きな事はできない男だったという事か」

「ルーベル様は、取り調べはするけれど、処罰はアルフレッド様に任せたいそうです。国王もそのように仰っていました」


「……ちょっと待て。今目覚めたばかりなのに、人使いが荒すぎないか?」

「頼りにされているのではないでしょうか。国王はセオドアの件を聞き何か反省されているようでしたよ。アルフレッド様の意見にもっと耳を貸せば良かったと。異国との貿易の件を話されれば、国王がアルフレッド様を見る目も変わるのではないでしょうか」

「だと、いいが」


 確かにセオドアについては、何度か進言していた。聞き流されてばかりだったが。


 キーランに、金山を隠していたことを明らかにし和解する条件として、国王に隠居を勧めてるのも止むを得ないかもしれない。


 シャルロットは、ため息混じりに愚痴る俺の手から空になったグラスを受け取り、支えるようにしてベッドに寝かせ布団をかけてくれた。


「もう一つあります」

「嫌だ、と言ったら?」


 眉間に皺を寄せる俺を無視して言葉を続けるシャルロットも大概ひどいと思う。


「キーランから金山の協定書を結びたいと使者が来ています」

「やけにタイミングがよいな」

「私もそう思いました」


 誰がキーランに密告したか……シャルロットではないだろう。彼女が俺に黙ってことを起こすとは考えにくい。


 ちらりとベッドの横に立つニーナを見る。


「やはり、他に仲間がいるのか?」

「何の事でしょうか」


 ニコッといつものように愛想よく笑う彼女はこれ以上何も話さないだろう。

 まぁ、よい。事は俺が予定していたよりも順調に運びそうだ。



「……あぁ、もう少し寝てれば良かった」 


 心底そう思いながらも、ベッドの端に腰掛けるシャルロットの髪に手を伸ばす。絹糸のような髪が指に絡まり滑り落ちていく。


「もうひと眠りする時間はありますよ」


 柔らかく微笑むその頬にも手を伸ばし触れる。いつもの薔薇色の頬はそこにはなく、そのまま指を唇に動かすと、乾いてかさっとした感触が伝わってきた。


 俺に付きっきりで、ろくに寝ていないのだろう。

 唇に触れられ戸惑っている姿を愛しいと思った。守る事が出来たという充足感が心の底から湧いてきた。


「シャルロットも寝た方がいい」


 手を白く細い首に回し、力をこめると「キャッ」という可愛い声と一緒に俺の身体にシャルロットが倒れ込んできた。その衝撃が少々腹に響いたが、もう片方の手を背に回し彼女を抱きしめた。


 甘い匂いと少し汗の匂いがする髪に顔を埋めると心の底から安堵が込み上げてくる。


「ア、アルフレッド様? 私は昨日湯に浸かっておりません。臭いかもしれませんので、離して頂けませんか?」

「嫌だ」

「匂い、嗅いでましたよね?」

「気のせいだ」


 もう一度、髪に顔を埋める。


「えっ、今、すんって、嗅ぎましたよね」


 髪から顔を離して、両手でシャルロットの頬を挟み、持ち上げるようにしてこちらを向かせる。


「『私はまだ何も伝えられていない』、貴女は何を言うつもりだったんだ?」


 青い瞳が戸惑ったように、左右に動く。いつも堂々としている彼女が動揺するのは珍しくて、嗜虐的な趣味はないけれど、赤い顔で困っている彼女はなかなか魅力的に見えた。


「……離してください」

「言ったら離す」


 暫くの沈黙のうち、ニーナが部屋に居ないことを確認すると


「…………アルフレッド様を愛しています。……ずっと側にいたいです」


 頬を赤らめ、小声で伝えてくる姿があまりにも意地らしくて思わず彼女を強く抱きしめた。身体にかかる重みと共に愛おしさが増して、全身に広がっていく。


「俺もだ」


 彼女の耳元で囁くと、小さくビクッと肩を震わせたあと、何度もおれの胸の中で頷いた。

 どうやら俺の妻は恥ずかしがり屋だったらしい。そう言えば海でも顔を赤らめてずっと俯いていた。

 これは新しい発見だ。先程芽生えた小さな嗜虐趣味が疼いてきた。


「そろそろ離してください。傷口に響きます」

「確かに腹は痛い」

「魔具による毒はほとんど抜いたのですが、傷口が完全に塞がるまでは痛むと思います。申し訳ありません、私のせいで」


 両腕で寝具を押し、身体を離そうするシャルロットを先程よりも強い力で抱き締める。俺の腕の中で小さくもがく様子が何とも言えず愛らしい。


「貴女のせいだと言うなら、ひとつ頼み事を聞いてくれないか?」


 俺の問いかけに動きがピタッと止まり、上げた顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「何なりとおっしゃってください。……ただ離して頂けないと何も出来ません」

「分かった」


 背中から手を離し、両手をひらひらさせ見せると、シャルロットはほっとした顔をして上体を起こそうと手に力をこめた


「……アルフレッド様?」


 そんなに簡単に離すわけがないだろうと、離した手で細い腰を掴む。数十センチ先に眉を顰め困った顔でこちらを睨むシャルロットの顔があった。


「離してください」

「キスをしたい」

「なっ!?」

「だが動けない」


 俺の言葉の意味が分かったのか、真っ赤な顔をさらに赤くする。あぁ、やばいな、これは癖になる。


 暫く考えた後、覚悟を決めたように深呼吸をすると、ゆっくりと顔が近づいてきた。少し乾いた柔らかな感触が唇に一瞬触れ、すぐに離れた。


「これでよろしいですか?」

「だめだ、足りない」


 足りるわけがないだろう。


 その頭を抱え引き寄せると、今度は深く唇を重ねた。


朝日が降り注ぐ寝台の上で甘い時はゆっくりと流れていく。









――――

 アルフレッドの手がシャルロットの髪に触れるのを合図にニーナは二人に背を向け部屋を後にした。


 廊下に出てゆっくりと両腕を持ち上げ伸びをする。

 前回のような失敗はもう懲り懲りだった。


「もう二度と(・・・)シャルロット様を刺したくない」


 その願いが叶った事に安堵し、小さく微笑むニーナの横を爽やかな朝の風が吹き抜けていった。

拙い文章を読んで頂きありがとうございました。

誤字報告、☆、いいね、ブックマークありがとうございます。励まされて書き上げる事ができました!


この話を書く時にまず浮かんだのが、最後の数行でした。どこまでそれを匂わせるか悩んだ結果、分かりにくいぐらい薄っすらと書いてみました。本編は終わりましたが、その後を少し書こうかなとも思っています(未定)アルフレッドもいろいろ目覚めましたし。


少しでも興味を持って頂けましたら、☆、ブックマークお願いします!次作への糧とします!!


▲沢山の方に読んで頂きました。ありがとうございます▲

ループしたら回復魔法〜(3/5 日間異世界恋愛18位)

婚約破棄の結末、〜(3/4 日間異世界恋愛2位)

愛読家、日々〜(3/4 日間推理1位) こちら、第二章の投稿を初めました。二章の初めに一章のあらすじをつけましたので、そこからでもなんとか大丈夫かと。多分。

気が向いたらフワッと立ち寄って頂けたら嬉しいです。ジャンルは推理ですが、恋愛要素も充分入れています!

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― 新着の感想 ―
[一言] シャルロットが前回の死に際を思い出したところ、ニーナはどんな気持ちでシャルロットを刺したんだろうと泣けてしまいました。素敵なお話をありがとうございました!
[一言] 面白かったです。良い物語をありがとうございました。
[良い点] 刺した人 [一言] 刺した人の物語も見たい
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