24 .商談 1
「シャルロット様!! デートですぅ!!」
私がニーナに伝えた内容は、彼女の脳内を通ることによってデートに変換されてしまった。でもニーナが言うには、むしろ彼女の解釈が正しく私が鈍すぎるらしい。いや、そんなことはないはず。だって会いたい人物がいるって言ってたから二人きりではないもの。
またもや、奇術師のように両手にいっぱいのドレスを持って、私にそれらを重ねて行く。
「水色のドレスはこの前着ましたよね?」
「そうだったかしら」
「このデザインは少し子供っぽいでしょうか」
「いいんじゃない?」
「キーランのデザインにするようアルフレッド様から強く言われていますし」
「……それは初耳ね」
コルセットで身体を締め付けられるのは私も好きではないので、それはいいのだけれど……
(どれでもいいよ――)
結局、ニーナは薄いピンクのドレスを選び私にそれを着せ、満足気に何度も頷いた。
部屋まで迎えに来てくれたアルフレッド様は少し目を細め、口角を上げると私の手を取り馬車までエスコートしてくれる。口には出さないけれど、いつもより緊張しているのが指先から伝わってきた。
馬車はドレスを作った店とは反対の西側に向かって進んでいく。東側に高級店や大きな家が多いのは、もともと時計台の辺りが城だったことの名残らしい。
西側には下町のような細い路地と住宅街が広がっている。子供達が路地奥の行き止まりで、ボールを投げたり走り回っているのが見えた。長閑な街並みが続き、小さな教会を通り過ぎると風が変わった。
「アルフレッド様、この匂いは何ですか?」
「匂い? もしかして、潮の香りの事か? そういえばキーランには海がなかったな」
(海!!)
話には聞いていた、物語では読んだことがある、あの海!!
「危ない!!」
思わず馬車から上半身を乗り出した私を、アルフレッド様が慌てて抱き抱えるようにして、椅子に座らせた。そのまま私の隣に腰を下ろすと呆れた顔でこちらを見る。
「そんなに慌てなくてもいい。海に向かっているのだから、いずれ見えてくる」
「いずれじゃなくて、今見たいんですけど……」
思わず膨れた私のほっぺを、アルフレッド様が右手の親指と人差し指で、プシュとつぶす。私の潰れた顔がおかしいようで、くっくっと喉を鳴らすように笑っている。
「ア、アリュフレッドしゃま?」
予想外のことに真っ赤になって動けないでいる私を、紫の瞳が面白そうに見つめてくる。その目があまりに優しくて、頬がどんどん赤くなっていくので、ブンブンと首を振って手を振り解いた。
赤い顔をごまかす様にして、アルフレッド様を一睨みする。
「急に何をなさるんですか?」
「少し緊張を和らげたかっただけだ」
「私は特に緊張しておりません」
「俺の緊張を、だ」
そう言うともう一度私の頬に手を伸ばしてくる。慌てて両手で頬を包み隠し背を窓につけるようにして距離を取った私を見て、またくっくっと笑っている。
馬車が進むにつれ潮の香りが強くなってきて、窓の外を見るとそこはもう港だった。大小様々な船が窓の外に見えてきて、外は喧騒に溢れている。荷夫が大きな荷物を運び、異国の服を着た人々が行きかう。小さな屋台のような物が出ていて、船旅に行く人、帰ってきた人に細々とした物や食べ物を売っている。
「どなたに会うのですか?」
さすがにここまで来たのだから教えてくれてもいいだろう。
「西の大国の商人が来ている。船は港の一番奥に停まっているはずだ」
「商人、ですか……私とアルフレッド様だけで会うのですか?」
「いや、ハンスも一緒だ。あいつが商材を持って、先に港に着いているはずなんだが」
馬車は既に港の端の方まで来ていたので、アルフレッド様は馬車から顔を出し辺りを見回す。ハンスを見つけたのだろう、軽く手を上げるのとほぼ同時に馬車は止まった。
目的の船は、大きいが派手さはなく実用的でいかにも商人が使いそうな船に見えた。
先に来ていたハンスと言葉を交わしていると、船から案内役と思われる男が一人降りてきた。真っ黒な髪と目を持つ異国の男で、よく見れば彼の後ろから十二、三歳程のこれまた黒髪の男の子も付いてきている。
「お待ちしておりました。主人がお待ちですので、ご案内いたします」
流暢な発音で男はそれだけ言うと、私達を中に案内した。その後ろをアルフレッド様、私、大きな箱を抱えたハンスの順に付いていった。
通された部屋には赤地に金の刺繍で異国らしい模様が施された絨毯が敷かれており、大きな窓とこれまた大きな机にはドラゴンによく似た柄が彫られていた。
暫くの後、先程の男と一緒に入ってきたのは、黒い髪と目と日焼けした肌を持つ立派な体躯をした男だった。目つきが鋭く、潮風でパサついている髪は商人というよりは海の男に近く、これで顔に傷でもついていたら海賊に間違われてもおかしくないぐらい猛々しい様相をしている。男はコウユーと名乗り席に着き、その横に先程の少年が座る。
「文を頂きありがとうございます。是非、書かれていた品を拝見させて頂きたく船を走らせました。隣にいるのは、私の甥のハオです。見聞を広める為に連れてきたので同席させましたが、気になさらないでください」
見た目とは異なり丁寧な言い方と、上品な物腰だった。
「遥々遠くからありがとうございます。こんなに早くお会いできるとは思いませんでした」
アルフレッドが名乗り、私やハンスを紹介する。
キーランの外交に深く関わっていたのはお兄様で、私がその場に行くことはなかった。でも、兄から異国の話を聞くことは何度もあったから、商人の要望や船についてはそれなりに知識はある。
もしかしてだけれども、この勘が当たっていたなら、私は今すごい場面に立ち会っているのかも知れない。
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