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14.いざ城外へ 4


 店に入ると、アルフレッド様は奥の壁側にあるテーブルに進まれた。ここでも椅子を引いてエスコートしてくれる。決してそんな畏まった場所ではないけれど、もうそれが身についていらっしゃるのでしょう。


 座ったあとは、片手をあげ店員を呼ぶと慣れた様子で注文をしていく。

 何か食べたい物は? と聞かれたけれどお任せしますとだけ答えた。


「あの、もしかして、こちらにはよく来られるのですか?」

「よくではないが、時々お忍びでザイルと一緒に来ている。ここでは鋳物職人で通しているので、話を合わせてくれ」

「よくバレませんね」

「王族を近くで見る機会は少ないからな。何か言われても堂々としていれば大丈夫だ」


 そう言って屈託なく笑う。

 そういうものなのだろうかと、周りを見渡すと、確かにこちらを気にする人は少ないようだ。帽子を落としてしまって金色の髪が露わになっているけれど、宿屋が近いので旅行客と思われているのかも知れない。


 ふと思った。それならば……


「私がアル、と呼ぶ必要はなかったのではありませんか?」


 その問いかけにアルフレド様は急にせき込み始めた。


「そ、それは。ちょっとそう呼ばれてみるのも悪くはないかと」

「はぁ……」

「何ならずっとそう呼んでくれてもいいぞ」

「いえ、そういう訳にはいきません。きちんとアルフレッド様とお呼びいたします」

「……そうか」


 前回ではずっと「アルフレッド様」だった。今さら「アル」と呼ぶのはなんだか気恥ずかしい。

 

「はい、お待たせ」


 頭上から元気な店員の声がした。


「今日は珍しく美人を連れているからおまけしといたよっ……て、お前なんで落ち込んでるんだ?」


 料理を持ってきた恰幅のいい男性が不思議そうにアルフレッド様を見る。


「何でもない」

「? そうか。それにしても、本当に綺麗な子だな。どこぞのお姫様みたいな子じゃないかっ……て、睨むな睨むな」

「料理を置いたなら行けよ。忙しいんだろ?」

「はいはい、じゃぁな、色男」


 男は豪快に笑って手のひらを振りながら立ち去って言った。確かに堂々としていれば大丈夫のようだ。


 目の前に置かれた料理を見ると、少しの野菜と沢山の骨つき肉やソーセージが皿に載っている。そして白い泡がふわりと乗った麦酒がふたつ。こちらは先程の店員が奢りだ、と言っておいて行った。


「麦酒が飲めないのなら別のものを頼むが、どうする?」

「これだけの量は飲めないかも知れませが、せっかくですので頂きます」


 麦酒を入れたグラスには幾つもの水滴がついていてよく冷えているのが分かる。先程走ったしちょうど喉もかわいている。私達はお城では絶対に出てこない大きさのグラスを手に持ち、乾杯と言ってグラスを合わせた。


 アルフレッド様はお皿に載った骨つき肉を手で摘まむと、がぶりと勢いよくかじりついた。私よりもお腹が空いていたんじゃないの、と言う勢いであっと言う間に一本食べて指についたソースをペロリと舌で舐めとった。


「どうした? 腹が空いているんだろ、食べないのか?」


 周りを見ると、皆骨つき肉を手で持ちかぶりついている。どのテーブルにもあるから、この店の看板メニューなのかも知れない。


 手で食べることに抵抗はあったけれど、思い切って素手で摘まみ上げ、カプリと噛み付く。

 中から肉汁がジュワッと出てくる上に、骨の周りの肉は甘みがあってとてもおいしい。思わず二口目は大きな口でガブリとかぶりつき、三口目を開けた時にアルフレッドと目が合った。

 気まずくて、大きく開けた口を閉じようとした時、アルフレッドが手に持っていたソーセージを私の口に入れてきた。


「こっちもうまいぞ」


 完全にからかっている目で面白そうに見てくるから、思わず睨み返すと苦笑いをしながらビールを口にした。


「その目は怖い。謝るからやめてくれ」

「アルはよく謝りますね」

「シャルロットに嫌われたくないからな」

「嫌われる事をしなければいいのです」

「嫌われようと思ってした事はひとつもないぞ」


 そうだったけと、思い出して見ると確かに以前よりはずっと気遣ってくれている。冷遇され殺されるはずなのにどうしてそんなに優しい目で見てくるのだろう。そう考えると、ちょっと胸がチクチクと痛む。

 そんな痛みは気のせいだと思い込むように、私は再び肉にかぶりついた。


 店はかなり賑わっていた。その分酔っ払いも増えてきたので、そろそろ帰ろうかと思っていたら、ちょうど店に入って来た三人組がこちらに気づき、手を上げ近づいてくる。


「知り合い?」

「靴職人の連中で、ここの常連だ。話を合わせてくれ」


 彼らは隣のテーブルに座ってきて、手慣れた様子で注文を始めた。

 そして注文を終えると私達に話しかけてきた。


「アル、久しぶりだな。お前が彼女を連れているのをみてほっとしたよ」

「あぁ、その面してあまりにも女の影がないから心配していたんだよ」

「お嬢さん、お名前を聞いてもいいかい?」


「おい、お前たち。今日は邪魔をしないでくれないか?」

「シャルと言います。初めまして」


 私が少し頭を下げると、三人の男達は口々に「シャルだって」「綺麗な髪の色だな」「どこかの令嬢じゃないのか」とか、口々に話始めた。アルフレッド様は、もういいだろう、と少し突き放したように話すも、靴職人達は料理がくるまでアルフレッド様をからかっていた。


 料理が到着すると今度は街の職人達の話に話題は変わっていく。どこの職人が腕を上げたとか、異国のあの商材は素晴らしいとか。この国は外交が盛んだ。アルフレッド様は今度は熱心に靴職人達の話に耳を傾け始めた。


 国を作るのは国民だ、父がよく言っていた言葉と目の前にいるアルフレッド様の姿が少し重なって見えた。

 

 話はどんどん盛り上がって行きまだ帰る気配はない。私は化粧室に行くふりをしてそっと席を立った。店の裏は馬屋に繋がっていたはずだから、出来れば一度見ておきたいと思ったからだ。


 いざとなったらここで馬を調達して川沿いを走ることもできる、と考えながら歩いていると、どうやら通路を間違えたようで調理場にたどり着いてしまった。大きな鍋や食器が山積みになっているけれど料理人の姿は見えない。


 店内にもどろうか、それとも裏口を探そうかとキョロキョロしていると、調理場の隣の扉から話し声が聞こえてきた。少し隙間が開いていたので、近づいてみると、今度は男達の会話がはっきりと聞こえてくる。


「船は手配してあるが、肝心の物はいつ届くんだ?」

「今は街はずれに置いてある。早朝には港に運びこむさ」

「でも、よくバレなかったな」

「金山から直接、裏ルートで運び込んでるからな。しかも手引きして……」


(金山?)


 その言葉に思わず扉に耳をつける。声の主はどうやら二人で、金の闇ルートやレートの話をしているようだ。


 もし、会話が本当なら闇ルートよりも金山の存在そのものが問題になる。アルフレッド様は先程、ガンダリアでは金は採れないと言っていたのだから。


 会話に気を取られていると、頭皮に引き攣れるような痛みが走り、痛いと叫ぶ間もなく開いた扉の向こう側につきとばされた。

 床に転がされたまま見上げると、目の前にでっぷりとした腹の男と小柄な中年男がいる。

 髭面の男が私の前に回り込んでくると、汚れがこびりついたような手で前髪を掴み無理矢理上を向かせてきた。扉がパタンと閉まる音がしたあと、髭の男は黄色いヤニのついた歯でニヤリといやらしく笑った。


「あんた、だれだ? どこから聞いてた?」

「……この国では金が採れるの?」


 震える手を握りしめて、その濁った目を見返す。どんな状況であっても王族として恥ずかしくない姿でいるように――幼い時から何度も言われた言葉を思い出す。


「教えなさい。金山はどこにあるの?」

「あんたには関係ないだろう?」


 男はさらに強く髪を掴み上げる。ぶちぶちと抜ける音がしたけれど、表情を変えずに相手の目を見据えてやる。髭面は一瞬驚いたように目を見開いたが、次には下衆な笑いを浮かべ、品定めするように全身を舐め回すように見てくる。


「おい、裏口に馬を用意しろ。こいつを連れて行く」

「それはいい。まだまだ夜は長いしな」


 男達の顔がいやらしく歪んだ。

 

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